尋問
片手でビレッドを吊り上げ、今にも殴りそうなレヴィの手を押さえる。
「レヴィオスさん、ビレッドは集魔香だと知らずに使っていたようです」
「はぁっ? そんなわけあるか!」
彼の怒号に怯みそうになるが、落ち着いて首を横に振る。
「まずは、話を聞きませんか? しばくのはそれからでもよいかと」
「しば……っ?」
彼が驚いた顔をして、わたしを見た。
あれ? 違うっけ? 折檻する的な言葉だから、使い方は合ってると思うんだけど。
「な……んか、あんたが俗語使うの、ちょっと、印象と違ってて驚いた。あーちょっと、頭が冷えた」
戸惑うわたしを尻目に、勝手にクールダウンした彼は、吊り上げていたビレッドを落とした。余力のないビレッドは、地面に転がる。
「こいつは当分使い物になんねーな。とりあえず、こっちを先に処理するか」
そう言って見た魔獣の死屍累々。
やっぱり放置はできないのか。
素材として、確かに持ち帰った方がお金になるってわかるけど、この量を持ち帰るって……。
げんなりしたわたしを尻目に、レヴィは岩場に置いてあった荷物から、トートバッグサイズの革の鞄を持ってくると、片っ端から魔獣をその中に取り込んでいく。
呆然と立ちすくんでいるわたしに気づいた彼は、まさかという顔をした。
「もしかして、収納袋、持ってねぇのか?」
「しゅ、収納、袋? も、持ってないです。収穫袋とは違います……よね」
おずおずと答えたわたしに、彼は溜め息を吐き出した。
毎日無能とわたしを貶していた職場の上司を思い出し、地味に刺さる。
「違うな。まぁ、高いから、持たない奴もざらだけど――ああそうか、討伐系は受けてないんだったか。なら、必要ねぇもんなぁ。じゃぁ仕方ねぇか」
笑顔で肩を叩かれ、緊張した体から力が抜けた。
「すみません、お役に立てず……」
「気にすんな。でも、Bになる前には、持っておいたほうがいいな」
申し訳なくて謝罪するわたしに、彼は予備で持ってきているという収納袋を渡してきた。
「今日のところは、これを使え」
貸してくれた上に使い方まで教えてくれた。
説明は簡潔でわかりやすかったし、明らかに高価だと思われる魔道具を気軽に貸してくれるなんて太っ腹だろう。
彼の厚意に報いるために、一生懸命に魔獣の死骸を回収した。
「お疲れさん」
最後の一頭を回収し終えて戻ったわたしを労ってくれたレヴィは、一足先に回収を終えてビレッドから経緯を聞いていた。
「思ったより数がいましたが全部入ってしまいました。素晴らしいですね、この収納袋というのは。町に戻ったら是非買おうと思います」
中身の重さがない袋なので平気で持てるが、ゆうに数十頭の魔獣が入っている。
三人で百頭近い魔獣を倒したはずだ、半数はレヴィだけれど。
「あー、あそこじゃ、この容量のは売ってねぇわ。折角買うなら、もうこのサイズの袋にしておいたほうがいいぞ。ちょっと値は張るがな」
「そうなんですね、値段を聞くのが恐ろしいです」
ハードルを上げながら教えてくれたお値段は、予想通りの金額だった。
向こうとこっちの世界を合わせても払ったことのない大金だけど、工面できなくもないな。
その算段は後回しにして、ぐったりとうつ伏せで地面にへたばっているビレッドを見下ろす。
どうやら気絶しているようだ。気絶したのか、させられたのかはわからないけど。
「それで、どういう理由だったかわかりましたか?」
そう尋ねたわたしに、彼はガシガシと頭を掻く。
「まぁ、概ねな。この前会った、あのムカつく新聞記者覚えてるか?」
「ええ、もちろん。カルーダ女史ですね」
よっぽど彼女のことが嫌いなのだろう、口に出すのも嫌だという態度で彼に問われて頷いた。
いや、ここで彼女の名前が出るということは――まさか。
「彼女が、ビレッドに集魔香を渡したのですか?」
わたしの確認に彼は微妙に口元を歪めた。
「こいつの言葉が正しいなら、集魔香と知らせずに、魔獣避けだと偽って渡したらしい」
彼の言葉に、思考を巡らせる。
「魔獣避けと偽って、ということは――なるほど、あなたは我々の依頼を妨害したかった、ということですか」
地べたに伸びているビレッドの側にしゃがんで、その後頭部を小突く。
意識があるのはわかってるんだぞ?
「――――いや……あの……」
地べたに顔を埋めたまま、小声でもごもごと言う彼に、いい加減起きろとレヴィが脇腹を蹴る。
のっそりと起き上がって地べたに座ったビレッドは、静かにわたしたちに向けて土下座した。
お読みいただきありがとうございます!
日に日に文字数が減っていて申し訳ございません(ビレッドと一緒に土下座)
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