狩り
「運がいいなぁ。一日目で会えるなんて、中々ないぞ」
見渡す限りの荒野をコンパス片手に歩き回ってから、休憩するために岩盤が積み重なる丘に来ていたんだけれど。岩に登って全方位を見渡していたレヴィが、嬉しそうな声をあげた。
荷物を置いて彼の立つ岩の上へ登り、同じ方角に目を凝らす。
遠くに巨大な一頭を中心に、それよりも小型の影が周囲に散らばっているのが見える。
コモドオオトカゲのような形だけど、真理で得た知識によれば、外皮は岩のように硬く俊敏であるはずだった。
五メートルはある巨大な一頭がメスで、周囲にいるその半分のサイズの地蜥蜴が雄。十五頭で形成されている群れだ。
地蜥蜴は一頭でも殺されれば、しばらくの間その土地に近づかなくなる習性がある。
今回はあの群れを街道から遠ざけてしまえばいいので、あの中の一頭を狩ればいい。
地蜥蜴自体は土地を耕す習性のある生き物なので、益獣ではあるから、殺し尽くしたりはしないで、なるべく共生するようにしているとのことだ。
だから、今回の依頼も、地蜥蜴を一匹狩るというものだったし。
「どうやって、一頭だけを群れから離すんですか? 近づけば、標的になりますよね」
「あんたならどうする?」
逆に問われ、顎に手をやってすこし考える。
視線の先の群れは、のんびりと地べたに寝そべっている。外皮が硬いし、甲羅干しなのかもしれない。のどかだ。
荒れ地の王者であるから、あんな風にのんびり寝てるんだろうな。
多少の獣が近づいたところで、どっしりと構えていそうだ。
「知りたいことがあるんですが。地蜥蜴は、人間を警戒しますか?」
「基本的には、意にも介さないな」
なるほど、人間なんて彼らにとってはたいした存在ではないのかな。
「でしたら、至近距離まで近づき、一頭を一撃で屠ります」
「言うねぇ」
ニヤッと笑った彼は、剣を手に岩を降りた。
わたしも散歩するように歩く彼に続き、一直線に地蜥蜴の群れに向かう。
近づけば、その威容がわかる。
圧倒するその存在感、地というよりは岩と冠した方が似合うその風貌。
小型である雄ですら体長は二メートル、わたしと同じくらいだが、破壊力のありそうな太い尾と、地を掻くための爪を持つ四肢、頭は小さめだが、チラリと見える牙はいかにも固そうだ。
わたしが隣に立つのを待って、彼が視線を向け『行けるか?』とハンドサインを送ってきた。
冒険者になってからはほとんど魔獣を狩ってこなかったけれど、第三層から第二層に上がる時に嫌というほど経験を積んできた。
今更、この程度の魔獣に臆することはない。
親指を上に立てて小さく頷き、一番離れた場所にいる一匹に目をつけ、持ってきた剣を抜いておく。
そして、静かにその個体に歩いて近づく。
凶暴な種族だと、とっくに警戒されているし、なんなら攻撃されているのに、本当に地蜥蜴というのはのんきだ。
至近距離まで近づき、個体の横に立つ。
ここでやっと、地蜥蜴はおっくうそうに目を開けて、仁王立ちするわたしを見た。
わたしは持った剣を振り上げると、地蜥蜴の固い首の隙間をめがけて全力を込めて剣を叩き下ろした。
「ケェェェェェェェ――……」
落とした首から断末魔の声が上がった瞬間、地面を揺るがせ、一斉に地蜥蜴たちが地面に潜ってしまった。
もうもうとした砂煙が静まると、後にはもう、一頭の死骸と更地しか残されていない。
あれだけの巨体だったのに、地面に穴すら空いていない。代わりに、土はフカフカになっている。
さすが益獣だけある、それに俊敏性も確かに凄かった。
「あんた、やるねぇ。もう、諦めてBに上がっちまえよ」
「反撃のない獲物を狩ったくらいで、調子にはのれませんよ」
血を拭った剣を鞘に戻しながら、近づいてきた彼に首を横に振る。
「反撃させる時間を与えなかった奴がよく言うよ。普通のCランクは、一撃で首なんか落とせねぇんだよ。まぁ、判断はギルドだな」
彼が肩を竦める。
確かに、この体ほどのパワーを持った人間は滅多にいないかもしれないけど。狩りを主体に活動するなら、できなくはないと思う。
「さて、それじゃぁ、持って帰るか」
やっぱり持ち帰りですよね、これだって大事な素材ですし。
「血抜きと解体ですね……」
苦手分野だ。
わざわざスプラッターにするのが嫌だ。できることなら、異空間に入れて鮮度を保ったまま持ち帰って、有料でいいから専門職に捌いて欲しい。
とはいえ、これもお仕事だ、やらなきゃ終わらない。
渋々、腰の後ろに下げていた、解体用のナイフを手にする。
「ん? なに言――……ありゃぁ、なんだ」
彼の視線を追えば、遠くに土煙が上がっているのが見えた。
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