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薄幸のOLは、異世界でおっさんになることにしました。  作者: こる
第二章 冒険者になりました

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拠点

 さて本日は、荒れ地の手前にある森に来ております。

 街道から外れた所に丁度いい場所があるらしく、途中で乗合馬車を降りて獣道を歩いています。


 なぜ、そんな場所があるのか疑問に思うと、レヴィが呆れをにじませて答えてくれる。


「地蜥蜴は定期的に出るもんだから、討伐依頼も当然あるさ」

 

 年に数回、地蜥蜴の討伐依頼は出ているらしい。

 討伐系の依頼は流し見する程度なので、気にしていなかったけれど。地蜥蜴に限らず、街道を守るための討伐なんかが結構あるとのことだった。


「街道が寸断されるのは、まずいからな」


 薬草の採取も大事な仕事だけど、討伐系もやっぱり大事なんだなと、改めて実感した。

 だけど、やっぱりわたしは採取系の依頼の方が好きで、討伐系は受けないだろうと思う。

 女性の冒険者もいるし、まだ成長期の若い冒険者もいるけれど、基本的にみんな討伐系の依頼が好きみたいなんだよね。

 報酬もいいから、稼ぎたい人は討伐系。

 パーティを組むなら、ある程度稼ぎも必要なので、討伐系を受ける。

 どうしたって採取系の依頼が余りがちになるので、わたしの欲しい仕事がなくなることはない。

 そうすると、わざわざ討伐系の依頼なんて受けないわけだ。


「適材適所。わたしはやっぱり、採取系の依頼を受けるだけでいいですね」


 何日も野宿で待ちぼうけとか、正直に言って勘弁願いたい。

 迷宮や迷いの森に入れるランクになっているので、もうこれ以上ランクを上げる必要もないし。


「正直に言うと。ランクを上げる利点を見つけられません」


 本当に正直に言ったわたしに、彼は苦笑いする。


「だろうな。あんたの考え方を聞いたら、わかるわ。だけどな、ギルドも慈善事業じゃないんだ、使える人材を放置なんかしねぇよ」


 そうなのか、そういうものだったのか……。

 納得できるような、できないような。そもそも冒険者は『一人親方』みたいなものではないの? 個人事業主というか、そういうフリーな職種だと思ってた。


「Bランクぐらいなら、Cとたいして変わらねぇよ。諦めて、ランクアップを目指しときな」


 そうAランクのレヴィは言うけれども、Cランクで終わる冒険者が大半だから、Bに上がるのはちょっと悪目立ちするのではないかな。

 Aランクになると、全世界新聞社の記者が付くことを考えれば、Bなんてどうということもないランクなんだろうか?

 上位ランクの余裕がカッコイイな。


「まぁ、今回で上がれると決まったわけじゃないし。何度も審査を受けるのなんてざらだ、だから気負う必要はないさ」


 この先、何度もパーティを組むのかな。


「審査する人は、必ずレヴィオスさん、というわけではないんですよね?」


 そう確認すると、彼は笑う。


「なんだ、俺がいいのか?」


 いいに決まってる。

 赤の他人と野宿なんて嫌だし、Aランクなんて自分よりも明らかに強い男性と一緒に居るなんて、……恐怖を殺せる気がしない。


 この体格と風貌で、出会い頭に侮ってきたり、高圧的な態度を取る人間はいなくなったけれど。それでも、幼い頃からの恐怖心はなくならない。


 ただ、彼だけが。

 第三層でわたしを拾って保護してくれた彼だけが、心を許せるから。


「あなたが、審査に来てくれて、本当によかったと思っています」


 本当は元の姿で感謝を伝えたい、あなたに拾ってもらえてよかったと。

 だけど、いまはできないから、思いを込めて別の感謝を伝える。


「そ、そうか。まぁ、そりゃよかったわ」


 真っ直ぐに伝えたわたしに、彼は頭を掻いて「少し急ぐぞ」と歩く速度を速めた。



 彼の先導でたどり着いたのは荒れ地に近い場所で、石を積んで作った簡易的な小屋まであった。

 屋根と壁があるだけありがたいのに、小屋の外には石で組まれた竈まである。

 だから、テントは要らなかったのか。

 数日かかるという話なのに、テントはなくていいと言われたから不思議だったんだよね。


 とはいえ、年に数回しか使っていない小屋の中は土埃まみれだし、虫の気配もする。

 まずは掃除かな? と思っていたら、レヴィがさっさと『清浄クリーン』の魔法を掛けてくれた。


「本当はあんまり手伝うのは駄目だけどよ、このくらいはな?」

 そう言って共犯者めいた、いたずらっぽい笑顔になる。


「ありがとうございます。魔法が使えないので、本当にありがたいです」

 礼を言うと、彼は驚いたようにわたしを見た。

「魔法が使えないのか? 本当に?」

 念を押され、気圧されながら頷く。


「ギルドもそれを知っているのか?」

「どうでしょうか。聞かれたことはありませんので、知らないのではないかと思いますが」


 もしかして、なにか問題でもあるんだろうか。

 この世界には、魔力を持たない人も何割かはいるので、別に普通のことだと思っていたのだけど……。


「なにか問題があるのですか?」

 緊張して尋ねると、彼は視線を彷徨わせてから頭を掻いた。


「Bランクに上がる奴で、魔法を使えない奴を、俺は見たことがねぇんだよ」

「なるほど! Bランクに上がる条件として、魔法は必須ということですね」


 勢い込んで確認するわたしに、彼は首を横に振る。


「いや、魔法を使えねぇ奴を見たことがねぇってだけで、Bランクになれねぇわけじゃねぇよ、安心しな」

 いや、むしろ安心できませんよ……折角、光明が見えたのに。


「俺だって、たいした魔法を使えるわけじゃねぇからよ」

「慰めはいりませんよ。これについては、多少の不便はあっても、悲観してませんし」

「そう、か?」

 怪訝な表情をする彼に、「そうです」と頷く。

 実際、この世界には『魔道具』という、多種多様な便利道具があるので、魔法ができなくても不便を感じないのは本当だ。

 テレビやインターネットという娯楽はないけれど、生活するのに不便はない。


 こういう野宿の時はちょっとは不便かもしれないけれど、そもそもわたし一人なら、野宿するような仕事は受けないから大丈夫なんだけどな。


「ところで、今回のような討伐の時は、荷物はここに置いておいていいんですか?」

 話を逸らしがてら初歩的なことを確認をするわたしに、彼はひょいと眉を上げたけれど、なにも言及はせずに質問に答えてくれた。


 彼が言わなかったことはわかる、「そんなことも知らないのか」だ。

 だって、こんなことはもっと初期の段階で知っておくことなんだろうけれど、なにせわたしは団体行動をしてこなかったから……。

 物を知らない恥ずかしさよりも、彼に聞く方を選ぶ。


「いや、持って行って、戦闘になったら、その場に置いておくんだ。戦闘中に必要になりそうなものは、携帯するようにするんだぞ」

 呆れもせずに教えてくれる彼は、本当に優しいと思う。


「わかりました、ありがとうございます」

 必要なもの……。

 回復薬と治癒薬を多めにしておこう、地蜥蜴に傷つけられるような肉体ではないけど念のためだ。あとは、地蜥蜴は毒を持ってないけど一応解毒薬も持っておこうかな、他は……結局、心配だから手持ちの薬を全種類、こっそり魔獣避けを粉末にしたものもいれておく。

 どれも粉薬なので嵩張らない、即効性は液状よりも落ちるけれど携帯性が大事だ。


 上着の内側にたくさんつけてある小さなポケットに入れていく。


 準備が終わったレヴィが興味深そうにこっちを見ているのに気がついたけれど、彼を待たせるのが申し訳ないので、急ぐほうを優先させた。

お読みいただきありがとうございます!

背水の陣は継続中です(本当に1話もストックない)。


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中ボス令嬢
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