プロローグ
その日、わたしは神社に詣でていた。
信心深いわけではないけれど、神様の思し召しをすこしでもいただけたらと。
そう――神頼みに来ていたのだ。
職場の合併に伴っての人員整理によって、わたしは解雇されてしまった。
わたしよりも劣る同年代の独身の男性社員もいたりしたけれど、あやふやな理由をつけてそちらは会社に残り、わたしだけでなく他にも数名の女性社員が切られた。やっぱり会社でも能力ではなく、性別が優先されるのだと身に染みた。
色を付けた退職金はもらったものの再就職は難航しており、どうかいいご縁がありますようにと、縁にまつわるこの神社を詣でたのだ。
二拝二拍手をして「どうか、よい仕事とご縁がありますように。精進いたしますので、お見守りください」と祈願してから一拝をして頭をあげ、清々しい気分で踵を返して、賽銭箱の前を次の人に譲った。
気持ちのよい日だったのですこし散歩でもと思い、神社の周囲に広がる森への散策路へと足を向ける。
この神社には何度も足を運んだものの、散策路に入ったことはなかったので、すこしだけワクワクしながら、木々に囲まれた小道を歩く。
平日の日中だからか、わたしの他に散歩をしている人はいなくて、森を独り占めしているみたいで贅沢な気分になる。
しばらく道なりに歩いていたわたしは、一向に神社に戻る気配がないということに気づいた――その途端に、散策路は様相を変えた。
上下左右には虚無が満ち、両手を広げた程度の幅の道がわたしの前に続いているだけの空間。
踵を返しこの道を戻れば元の世界に戻れる、このまま前へ進めば違う世界へとたどり着くのだと、わたしは自然と理解していた。
その道でわたしは前に進むことを決断した。




