予想以上
それからも俺達は、アニメの中に出てくるシーンのモデルになった場所を回った。
駅前のエスカレーターに二人が喧嘩したスクランブル交差点、初期は事あるごとに衝突している2人なので喧嘩する場所も数多く、2人でその辺を議論しながら回り笑顔が絶えず。
あすみたんが落ち込んでいた公園のブランコに座って、その時の様子と高崎さんがその場面を演じるのに際して気を付けたことを熱く語ってくれて、俺は聞き役と引き出し役に徹する。
その後、
「あっ、あそこ……」
興奮した高崎さんが俺の手をぐいぐい引っ張って行ったのは、あすみが訪れた時は必ず買うたい焼き屋さんだった。
しっぽまで餡が入っていて、冷めても美味しくて以前来た時には俺も今の彼女と同じようにはしゃいだ記憶がある。
「うまっ……」
「はむっ……お、おいしい……」
幸せそうな顔でしっぽの方からほお張る彼女を見てこっちも幸せな気持ちになる。
「あすみ、甘い物……特に和菓子系好きだよな」
「ふう、ふう……うんっ、しゅう君もスイーツ男子だからよく2人で買い食いとかしてるよね。あすみが甘いもの好きだから演じることになって以来、私もすっかりたい焼きが大好きになっちゃって……」
「ははっ……」
「差し入れにもよく貰うの」
だいぶ周りの目を気にせずあすみの話題やりそヒロについて、自分から話してくれるようになった。
正直、ここまでとは予想以上。
俺が思っている以上に、高崎さんは作品やキャラを愛してやまないんだ。
聖地巡礼は続く。
お次はアニメ内でも二人が立ち寄った大型書店に向かう。
事故前イラストレーターを目指すあすみが参考資料をと主人公と一緒に立ち寄った場所がこの書店だ。
そこはガラス張りの外観、ほんとに大型でなんと地下1階から地上9階建てだ。
探し本があるなら大抵は手に取ることが出来そうな期待感がある。
彼女からは不安そうな表情はほぼ消えて足取りも軽い。
そしてノリノリであすみの台詞を口にする。
心底楽しそうに、そして真剣に……
「い、言っとくけどあんたは荷物持ちだからね」
「……高崎さんって、あすみたんと共通点あるよね……」
「ふぇっ?」
「そんな驚かなくても……頑張り屋なところとか、少なくとも俺から見れば似てると思う」
「……そんなこと言われるなんて……私も、あすみみたいに頑張れるかなと最初に思ったから……」
うんうんと頷く高崎さんは相当魅力的な笑顔で俺の言葉をかみしめていた。
嘘やお世辞でないことがわかってるからこそ、より嬉しいのだろう。
高崎さんは高崎さんであすみに惹かれる理由、対する思いがあるんだろうな。
地下一階のコミックラノベコーナーでの俺たちのそんなやり取りを店員さんがじっと見ていた。
んっ? どこかで見た気が……げっ、この人りそヒロのイベントで会ったことがあるぞ。
騒ぎになったらせっかくリラックスして楽しそうにしている高崎さんに影響が出ると思い、手を強く握って慌てて1階の会計へと向かう。
「あ、あの、もう行くの? ……ちょ、あったかい……」
「ごめん、ここはちょっと急いだほうがいい」
恥ずかしそうに抗議してくる高崎さんには悪いが、これ以上の長居は無用だ。
お昼を食べたあと、今度はアニメ内で実際にモデルになったその神社に赴く。
りそヒロ内の主人公はあすみの手のリハビリを願って毎日神社参りしていた。
この場所がここまでで一番賑わいを見せている。
「ここ、すげえ……俺初めて来たよ」
「わたしは……2度目、かな……あすみも頑張るけど、しゅうくんも頑張るよね。だから2人を応援したくなるんだよね」
「うん!」
そこには巫女服を着たあすみたんのパネルが置かれ、絶賛コラボしているのが一目でわかる。
活気があるのはこのためもあるのだろう。
やはり作品のファンにとってグッズは気になるアイテムだ。
絵馬やお守りなど神社ならではのものが売られていて、思わず2人で顔を見合わせてしまう。
この場にいるだけで、りそヒロのファンの熱が伝わってくる感じがして、俺たちのテンションは自動的にうなぎ上りに。
ここでも高崎さんに袖をつかまれグイグイと引っ張られていく。
境内を周りおみくじを引いて、グッズはもちろん全買い。
この前のイベント等でも消費しまくっていて、お財布の中身が涼しいなと思うと、富田さんの言葉が脳裏に一瞬過った。
「ここ、一度……マネージャーさんと……来たことが」
「へ、へえ……」
タイミングよくでた高崎さんのその言葉にちょこっとだけ動揺させられる。
別にスカウトされたことを内緒にしているわけではないが、まだ考え中なこともあり何だか言いづらい面もあって……言うべきかな?
「別に感謝とかしてないからね」
「……」
「すっごく感謝してるのに……ほんと素直じゃないよね。ありがとう」
「えっ……?」
すっかり周りを見ることなく、高崎さんの目は主人公役を演じる俺をしか見えていないようだ。
まあ、でもそれほど楽しんでいる証拠でもある。
神崎結奈と気づかれるんじゃないかと気が気ではないが、周りは周りで盛り上がり特にこちらには注目はされてはいない。
アニメ内の主人公と同じくお参りする。
願うのはもちろん高崎さんの今後の活躍と聖地巡礼インタビューの成功。
隣に並ぶ彼女をチラ見すると、そこに不安の顔はなく心の底から今を楽しんでいることがうかがえる。
高崎さんは満足顔を浮かべると、自主的にノートを出して境内のベンチであっという間に書き記してしまう。
最初は少しぎこちなかったけど、2人してものすごく盛り上がっていたことに気づく。
そのことに気がついたのか、はっと我に返ったように高崎さんは下を向いてしまう。
「あうう……こんなに楽し……私は……」
「大丈夫だよ。もう何にも心配はいらない……」
「へっ……?」
瞬きを繰り返す彼女に、ノートの内容を読んだ俺は笑顔を作る。
聖地巡礼を記した内容は、ここまでの彼女と同じように輝きを放っていた。




