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異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
三章 私が全部背負うから
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追い剥ぎ

「はい、今日のお給金」


 いつものバイトが終わり、彼女から手渡しで十数枚の銀貨を受け取る。

 日本円換算すると約1万円分。

 日雇いのバイトなら丸1日働いてこれなら妥当な報酬だと思う。


「ありがとうございます、メアさん」

「お前、そのお金何に使ってるの? 」


 いつもなら手渡ししたあとは無言なのに、今日は珍しく話しかけてきたメアさん。


「毎日泣きながら働いてるけど、そんなに生活苦しいの」

「あいや、そういう訳じゃないんですけど」

「じゃあ何に」

「えっと、まだ使ってないんですけど、これから魔導講義会っていう、魔法の勉強会のために使おうと……」

「べ、勉強? うげぇ、お前キモイね」


 あまりにもストレートな悪口……。


「この世界にもあるんですか、そういうガリ勉差別みたいなの」

「この世界ってどの世界さ。別に差別とかじゃないよ、私はキモイものにキモイって言ってるだけだから」

「それを差別っていうんじゃ……」

「は? 私をゴミ貴族共と一緒にすんなよ。せっかく心配してやったてのに……っほら、あっち行け。シッシッ」


 虫でも払うかのような手振りで待機列から追い出され、そのまま僕は銀貨片手に帰路についた。


 

 勉強にお金を使うなんて日本にいた頃じゃ考えもしなかった。

 参考書とか塾とか自分から手を伸ばしたことは一度もない、まあ、よく居るそういう人間だったんだ。

 だから、メアさんの気持ちも分かるというか……いや、キモイって思ってた訳じゃないよ? 自分から勉強できる人のことを変わってるというか凄いなと思ってたというか。

 そういえばこっちに来たばっかりの頃、僕も自発的に勉強しようとしたこともあったっけ。

 あの時はそりゃあ上手くいかなかった。

 何を書いてあるのかチンプンカンプンで、暁音さんの手助けがあるまでなんにも分からなかった。

 自学自習で物事身につけられる人がすごいと改めて痛感させられたな。


 さて、いよいよ明日からは本格的に魔法の学習が始まるんだ。

 少しの不安と、期待が大半。


「うっし、やったるぞ! 」


 寒空の下、星々を眺めて1人呟く。

 明日の月は膨らむか縮むか。

 久々に見あげた空は、今日のところは綺麗に感じられていた。



――――――――――――――――――――――――


「ひとりで大丈夫? 忘れ物は無い? 」

「そんなお母さんぶらなくっていいってば」


 暁音さんの厚かましいまでのいってらっしゃいを受けて、僕は家を出た。

 そりゃ講義は初めてのことだけどさ、場所はいつも行ってる図書館だし、持ち物なんてお金くらいでほぼ無いんだから、そんなに心配する必要も無いんだけど。

 筆記用具とかは、紙もペンもそれなりの値段で買ってる余裕は今は無いから無し。頭の中に叩き込む。

 それこそお金だって十回分まとめて払うからそれなりに持ってるけど、落としたりとか、まさかだと思うけど、


 追い剥ぎとかにでもあったりしなきゃ……。



 

「……よ、よこせぇ!!!」



 

「うぁあ!? 」


 余計なこと想像するからだよ。


 


「頼む、よこせぇ……!!! 」

「頼むのか奪うのかどっちなんだよ……ってエリナさん」


 僕を曲がり角で待ち伏せしていたのは、シャツも髪もボロボロになった青髪の獣人、エリナさんだった。


「お久しぶりです! 元気してましたか」

「これが元気なように見えるか!? なぁ!? 」


 彼女は、またまたほぼ半裸。

 だけど、そこに関してはもう突っ込まない。

 もう彼女ならいつもの事だ。

 僕の肩を両手で揺さぶってくる彼女は、一目見て分かるほどやつれてる。

 恐らく、ここ数日まともに食べてないんじゃないかな。


「この世界でもミュージシャンは食べるのに困るんだなぁ」

「この世界ってどの世界だ!!! わけわかんない話してると脱ぐぞ! 」

「脅しになってないですよ、捕まるのは多分そっちだし」


 と言うかもうほぼ裸みたいな物だし、何なら一回見てるし、脱がれても今更なんだって言う状態なんだよな。


「……!? なにっ、無敵かこいつ!!!」

「そもそも脱衣を攻撃技にするのが、戦法として間違ってるんだって」

「だってぇ……お金もほとんどない今のボクには、こうして脱ぐことしか出来ないから」


 なんだよ、脱ぐことしか出来ないって。

 

「まあ脱いでもいいんで、とりあえず事情だけ聞かせてください」

「別にボクだって毎度毎度脱ぎたくて脱いでる訳じゃないんだけどなぁ…… 」


 はいはい。


「端的に言えば、頼れそうな人をさがしてて。思いつくのなんて君かもう一人しかいなくてさ、とりあえず行動パターンが予測できそうな方である君をこうして待ち伏せしてたって訳」

「はぁ、で、幾らですか 」

「幾らって……あいやぁっそこまでして貰おうなんて。いくら君にでも、そこまでさせようってそんなつもりは無……………………いや、無いんだよっ! 」


 この人、一瞬揺らいだな?


「ただ……」

「……ただ?」

「そのぉー」

「そのぉー? 」


 柄にもなくムズムズした後、エリナさんはひとつ大きな深呼吸をしてから言った。


 

「ボクに服を選んで欲しくて…………」


 

「え? 」


 まるで話が繋がらない。


「あのさ、ボク楽器引きじゃない? 人目に付く職業なんだよ。でもさ、こんな服装じゃ派手さにかけるって言うか、地味って言うか、みすぼらしいって言うか……」


 白シャツに短パンって服装は、悪い訳じゃあないんだけど確かに人前に出る服装にしては適してないだろうし、何よりエリナさんのは……シワだらけ、どころか穴だらけ。


「いやね、ほらっ、ボクさ素材がいい……でしょ? 」

「………………まあ、はい」

「だから何着ても店員さんがイイデスネェ!って返してきちゃうのさ。これじゃどれがいいとか悪いとか分からなくて困ってて、だから時間をよこして欲しいんだ。今から行けるかい、相棒! 」

「すぅ……あーーー」


 頼ってくれるのは、すっごく嬉しいんだけども……。


「ごめんなさい今からちょっと用があって」

「何っ!? 君って年中暇じゃないの!? 」


 どんな偏見よ。


「あれか、前の女か!!! 前の女なんだろ!!! 」

「そのくだりはもういいですって」

「あーそう? っちぇ、せっかく楽器の時みたいにこの服を変えてもらおうと思ったんだけどなぁ」


 彼女はくちびるとんがらせてブーブーと音を鳴らす。

 聞くだけで不満タラタラなのがよくわかる旋律。

 さすがミュージシャン、奏でることは得意なようだ。

 

「そしたらお金も掛からず済んだのに……」

「あれはあの時だから出来ただけで、今はせいぜいその服の色を変えるくらいしか出来ないんですよ」

「え、そうなの……? じゃあもともと君に頼ってもしょうがなかったって……コト!? 」


 そんなちいさくてかわいい風の喋り方しても、内容は全く可愛くない。

 共通点は青頭の猫ってだけ。あっちは許されても、こっちは許されない裸。


「じゃあさ、代わりに頼み事頼まれてくれない」

「えぇ……まあ分かりました」 

「やった! えっとね、見つかんなかったらいいんだけど、そのさっき言ったもう一人の頼れそうな人、多分この街にいるんだ。だから君にも探して欲しくて」

「特徴は? 」

「えっとね、同郷だから僕と同じようにしっぽが付いてるよ。それなりに長いから隠したりはできないだろうしひと目でわかるはず」

「しっぽ? 耳の形は」

「耳は普通の人たちと同じだよ」

「獣人なのに? 」

「そっか、君あんまり詳しくないんだっけ。えっとね、元々は獣人って毛むくじゃらでもっと野性味溢れる見た目をしていたんだ。だけど代を重ねる毎にそこの部分が薄まっててね、今じゃ僕みたいなのがほとんど。親から耳かしっぽ、もしくはその両方が遺伝するってだけになったの」

「じゃあその人はしっぽだけ受け継いだと」 

「そ! ちなみにしっぽは獣人の弱点だから絶対に踏まないように! 死ぬより痛いんだからうっかりとかやめてよ」

「分かりました……!」


 弱点……ね。

 いやまあ、何するつもりもないんだけどさ。


「ってごめんなさい時間が」

「あっ、そんなギリギリなの? これじゃご飯ねだる時間もないか」


 走りながらエリナさんに別れを告げて、僕は急いで図書館へと向かう。


「伝え忘れた! その子、名前イリーナって言うから! 」


 後ろから聞こえた彼女の声に、「分かりました」とだけ返して、先を急ぐ。

 なんだかんだ結構話し込んでしまった。

 間に合わないってことは無いと思うけど、念には念をで全速力。

 ポケットからジャラジャラなる銀貨の音だけが気がかりだ。

 もしこれのせいで追い剥ぎに嗅ぎ付けられたら……いや、変な想像はやめとくべきだな。


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