第469話 黎明と一角獣
2032年9月14日12時
「な……なに……これ……どうして……」
今日もいつものメンバーで幻獣の泉まで来ると、泉を前にしたカストロ公爵の目からは驚きのあまり、涙が溢れ落ちた。
「もしてかて……あなたたち……」
声を震わせながら俺たちを見る。
「いえ……僕たちは何も……」
目を逸らし惚けるが、双子から鋭いツッコミが入る。
「昨日の夕食後、マルス様たちは部屋から抜けられたようで」
「どうやら幻獣の森の方に向かわれたと、第1騎士団の者から報告がありました」
う……やはり見られているよな。
「か、かくれんぼを少々……」
「随分長いかくれんぼだったのですね」
「戻ってきたときには日付を跨いでいたと聞きましたが」
ご、ごまかしきれない……が、認めるわけにはいかない。
もう分かるかもしれないが、昨日の夕食後、俺たちだけでここに来たのだ。
目的は当然泉の浄化。
クラリスにホーリーを唱えてもらい、MP枯渇したらラブエールで回復。さすがに1ターンでは浄化しきれなかったので、3時間寝てから再度クラリスにラブ注入。
その甲斐あって、泉は水晶のように透明で、日光が水面を反射され眩い輝きを生み出していた。悪臭もなくなり、泉からはどこかクラリスの匂いが漂う。
まぁこの香りのおかげで完全に3人にはバレたようだ。もう言い逃れできないと思ったところに双子から助け舟がでる。
「しかしカストロ公爵、これ以上追及はしない方が得策かと……」
「報酬をいくら払っても払いきれません」
「た、確かに……言われてみればそうね……この匂いはどう考えても……今回だけはあなた達の口車に乗りましょう」
流し目で微笑むカストロ公爵。
ふぅ……なんとかなった……と、思ったのも束の間、ミーシャが森の方を指さす。
「あー! ユニマルだ! やっぱり呼んでもないのに来ちゃったよ」
呆れながら笑うと、クラリスが身構える。
実は昨日の夜もクラリスの匂いに誘われたのか、俺たちがここに着くと、スカートを靡かせてもないのにユニマルが現れたのだ。
「昨日別れた時よりもさらに立派になったわね……」
カストロ公爵が、力強いストライドで森を駆け抜けてくるユニマルを見ながら声を漏らす。
そりゃそうだ。昨日の夜、こいつはお宝の代わりにクラリスのハンカチをあるだけ全部食べたからな。
食べれば食べるだけ筋肉が隆起し、角も立派となった。
風を切りながら俺たちのところまで来ると、ユニマルがクラリスの前で伏せる。
おい、お前!? 覗こうとしていないよな? クラリスもそう思ったのかスカートを抑え、
「ユニマル!? 今日はもう何もないからね!」
下から見上げるユニマルに対して注意をする。
なんか幻獣ってもっと神秘的な存在じゃなかったのか? 変態駄馬にしか見えないのだが……まぁそれもこれもすべて俺の名前を与えたせいなのかもしれないが。
だがユニマルは覗きだけを目的に伏せた訳ではないのかもしれない。尻尾の蛇が、先程からユニマルの背中をベチベチと叩いているのだ。
「ねぇ? もしかしたらユニマルは乗れって言っているのかもしれないよ?」
どうやらミーシャも俺と同じように受け取ったようだ。
「え? 背中に?」
困惑するクラリス。
「じゃあ試しに私が先に乗ってみてもいい?」
ミーシャの問いにクラリスが頷くと、ユニマルも美しい声で鳴く。
ユニマルのOKも貰ったミーシャが早速ユニマルの背に跨ると、ユニマルが立ち上がり、泉の周りを駆ける。
「うわぁぁぁあああ! 疾い! 風が気持ちいい! めっちゃ楽しいよ!」
当然、鞍も鐙も手綱もない。普通に考えれば相当股が痛いはずなのだが、それを感じさせないほどのミーシャの底抜けない明るい声が森に響く。
「ミーシャ先輩! 私も乗ってみたいです! ユニマル! 次は私もお願いします!」
ミーシャの次はアリス。アリスもミーシャ同様にとても楽しそう。
そして誰よりユニマルが一番幸せそうだ。
アリスの次はカレンと姫が続くと、
「カレン! 次は私にも乗らせて! フラン、フレン。あなたたちもどう? ユニマルとなった今ならもう怖くないでしょう?」
カストロ公爵が双子に問いかける。
「はい。以前のままであれば近寄りがたかったですが」
「ユニマルであれば身を委ねることができます」
聞くとこの2人。今までは一角獣が怖くてなかなか近づけなかったらしい。そういえばユニマルと命名する前はかなり距離を取っていたな。
しかし、ユニマルの上に跨った2人は微塵もそんな恐怖心を感じさせなかった。少しはユニマルという名前が役に立ったようだ。
「私も乗ってみようかな? いい? マルス?」
フランとフレンが楽しそうに騎乗しているのを見ながら問いかけてくるクラリス。
きっとクラリスは俺が嫉妬すると思って遠慮していたのだろう。クラリスの言葉にエリーも続く。
「私も! 私も一緒!」
どうやらエリーも気を使ってくれていたようだが、クラリスが乗るのであればということだろう。
「ああ。当然だ」
双子も満足し、次はクラリスとエリーの番。
伏せるユニマルにゆっくりと跨るクラリス。そしてエリーもクラリスの後ろに腰を下ろすと、クラリスのお腹に手を回す。この2人、やはり絵になるな。
クラリスとエリーを背中に乗せたユニマルは至福の表情。背中に乗ったクラリスがユニマルの首を抱くように優しく包むと、音楽の一節のような鳴き声を上げ、喜ぶユニマル。
気持ちよさそうにユニマルに騎乗すること数分、クラリスが自身の下半身を気にし始める。
「え!? 何!? 何かが……お尻と太腿に当たって……」
後ろを振り返るクラリス。するとエリーがクラリスのスカートを捲り確認する。残念ながらここからでは色々見えない。
「……羽……? 翼……? 生えてきた……」
なんと!? こいつ最終形態は空も飛べるようになるのか!?
「そ、そんなはずは……一角獣は空を飛べないはずだけど……」
カストロ公爵がそれを否定するが、クラリスとエリーの2人がユニマルの背中から下りて確認すると、そこには確かに小さい翼が生えていた。
「もしかしたら興奮しすぎて生えてきたのかもしれないね。もっと興奮させれば大きくなるんじゃない?」
興奮すると大きくなる……うん、嫌な響きだ。当然ミーシャに他意はない。それに大きくさせるとある懸念も生じる。
こいつ、空を飛べるようになったらきっとクラリスの下に駆けてくるだろう。カストロ公爵も困るだろうし、俺も常に気を張っていないといけないからな。
「クラリス、エリー。悪いがもうユニマルには……」
どうやら俺の意図が伝わったらしく、2人が頷く。
「いいのか? もしかしたらこれから一生……」
乗れなくなる可能性があるぞ? と言おうとしたところに、クラリスの人差し指が俺の口元に止まる。
「……うん。分かってる」
耳まで赤くし再度頷くクラリス。
どうして乗れないのかって? それはだな……その一角獣の背中に乗る資格がなくなっているかもしれないだろう? 賢者様がいなくなった今、俺の理性も時間の問題だろう。
しかし、これは杞憂に終わることとなった。
クラリスとエリー。2人がユニマルに乗って空を駆ける姿が、5年後、10年後……数十年後にも。多くの民に目撃されることとなる。
活動報告更新しました。
是非読んでくださいm(__)m










