第435話 指名クエスト
「リーガン公爵。マルスです。ただいま戻りました」
校長室をノックするとドアが開かれる。部屋の中にはリーガン公爵とアイク、そして扉を開けてくれたサーシャの姿があった。ちなみに今部屋に入ったのは【黎明】と姫の合わせて7人だ。
「マルス! よくやってくれました! メサリウス伯爵とサーシャからだいたいのことは聞きました! まさか悪魔族が生き残っていたとは……ガルのことは残念でした……」
ディクソン辺境伯のことをリーガン公爵に伝えるかどうかは、最後まで悩んだ。しかし伝えれば暗黒魔法のことをもっと詳細に教えてもらえるかもしれないし、【剣神】の援護も貰えるかもしれない、さらに後で発覚したときアイクとサーシャの立場が悪くなる可能性が非常に高いのでリーガン公爵にだけは伝えるということで一致していた。
「このことは他の誰にも……」
「分かっております。ビラキシル侯爵とポロン、そしてビートル騎士団副団長が力を合わせて討ったと口裏を合わせるというのも心得ておりますよ。この件はまた後日ゆっくりと聞かせてください。今日のところは疲れていると思うので休みなさい……と言いたいところなのですが、先にこれだけは教えてください。レオナに絡まれたとアイクから報告を受けましたが何を言われたのですか?」
やはりカストロ公爵のことが気になるのか。
「はい。ですがまずは紹介させてください。こちらビラキシル侯爵家のヒメリ・クラマです。姫、自己紹介を」
俺の呼びかけにクラリスに連れられ一緒に前に出てくる姫。
「お初にお目にかかるのですじゃ! 妾はヒメリ・クラマですじゃ! あのオレンジは……」
「こら! 姫! そうじゃないでしょ!?」
口を開くなりクラリスに叱られる姫。
「クラリス。構いません。それにメサリウス伯爵からも報告を受けております。ヒメリがどうかしたのですか?」
「それがですね……」
カストロ公爵と姫の一連の罵り合い? を報告すると、大笑いをするリーガン公爵に、青ざめるアイクとサーシャ。
まぁ12公爵家当主に喧嘩を売ったなんて聞いたら、生きた心地がしないよな。俺としてもビラキシル侯爵に姫を頼むと言われている以上ヒヤヒヤだったからな。
「それは痛快ですね。ヒメリ、よくぞ言ってくれました。それにあなたの言ったことは間違いではありません。まぁそれでも言葉遣いは如何なものかとも思いますがいいでしょう。レオナには釘を刺しておきます。しかしレオナが【黎明】に直接指名クエストを……だとしたらレプリカにマルスも入れる? とちらにせよあの噂は本当のようですね……」
レプリカ? あの噂? 何かリーガン公爵は情報を掴んでいるのか?
「あとビラキシル侯爵からの手紙を受け取っております。特別にヒメリとコディの入学を許可しましょう。どの学年に編入させるかはこちらで決めさせてもらいます。いいですね?」
「もちろんなのじゃ! よろしく頼むのじゃ!」
物おじしない姫に対し、隣で何度も頭を下げるクラリス。
「では今日のところはもう休んでください。後日また話しましょう」
「リーガン公爵。僕から1つお願いがあるのですが……」
危ない危ない。どうしてもリーガン公爵にお願いをしなければならないことがあった。
「なんでしょう?」
「アイク兄を1日でも早く義姉さんのところに帰してあげたいのですが……義姉さんもアイク兄がいれば心強いかと思いますし、アイク兄も義姉さんのことが心配だろうし……」
「ま、マルス……!?」
突然の俺の言葉に驚くアイクに、頷くリーガン公爵。
「そうですね……ヒメリがここにいるということは間違いなく和平がなったということですし、サーシャもおおよそのことは把握しているみたいですから許可しましょう。メサリウス伯爵、今日のところはリーガンで休み、明日にでも発ちなさい。護衛はこちらでつけますから」
「――――ご配慮いただきありがとうございます!」
頭を下げたアイクの表情がようやく晴れた気がした。
「あのー……私からもお願いがあるのですが……」
申し訳なさそうに手を挙げるミーシャ。
「どうぞ」
「お義兄さんが明日ここを出発するのであれば、お疲れさまでした会をやりたいのですが、リーガンの街にはカストロ公爵がいて……どこか会場を用意してくれませんか?」
もうミーシャの頭には宴会しかないようだ。しかしミーシャの気持ちも分かる。アイクと次いつ会えるか分からないからな。
「ふふふ……ミーシャらしいですね。分かりました。騎士団の護衛つきで用意しておきましょう」
ミーシャの要望に応えてくれると、
「申し訳ございません。うちのミーシャが」
頭を下げるサーシャにガッツポーズを取るミーシャ。
「では私もこれから用がありますので……そうそう、クラリス。あなたに頼まれていたものが届きました。さきほど部屋の前に置かせましたので感想をお願いします」
頼まれていたもの? なんのことだ? 気にはなったが全員部屋に戻り荷解きし夜に備えた。
――――その夜
「「「お疲れ様ぁ!!!」」」
みんなでグラスを合わせ思い思いの席に着く。俺が座った席は6人掛けで、左にエリー、正面にカレン、その左右にアリスとミーシャが椅子に腰をかけている。
ちなみに主役のアイクはサーシャ、ビッチ先輩、ライナー、ブラムの5人で引き継ぎに問題がないか入念に確認していた。
「リーガン公爵に何を頼んでいたんだ?」
定位置に座るクラリスに気になっていたことを聞いてみる。
「うん。今年のリスター祭のことでちょっとね」
もったいぶるクラリス。どうやら秘密らしいが、正面に座っていたアリスが、話に入ってくる。
「マルス先輩! 私のも見てくださいね!」
私のも見る? 何のことだろうか? とりあえず頷くと、次のミーシャの言葉で、アリスの言っていた意味を理解した。
「私も決まった! いつも姫が着ているかわいいやつ着たい!」
姫のを着るってことは……そういうことか。今年はメイド喫茶ではなくコスプレ喫茶ね。
ミーシャの巫女姿も見てみたい……ってことは今年みんなのメイド服姿が見られないのか……それはそれで残念だ。
「なんじゃ!? ミーシャは妾の服が着たいのか? でもお主にはブカブカじゃろう。特にこの胸あたりが……」
「なにぃ!? 今日こそどっちが巨乳か決着をつけてやる!」
姫の煽りに、席を立つミーシャ。
ミーシャが席を立ったところで、クロムがミーシャの座っていた席に着く。
「マルス、相談があるのですがいいですか?」
「ああ。どうした?」
「実はマルスたちがグランザムに行っている間に、父から今年の指名クエストをぜひ受けてほしいと手紙が届きまして……」
クロムが手紙を俺に見せてくる。
「リーガン公爵次第とは返信したのですが、一応マルスにも伝えておいたほうがいいかなと」
カストロ公爵に続きバルクス王までも……ジークの手前、こっちは断りづらいな。それを聞いていたカレンも続く。
「マルスが成人するまではこうやって各国で取り合うのでしょうね。お父様かお兄様もいずれ【黎明】に指名クエストを依頼してくると思うわ。きっとセレアンス公爵も同じことを考えているだろうし、リスター連合国の貴族たちは今まで以上にマルスと関係をと思っているはずだわ」
フレスバルド公爵とセレアンス公爵からもクエストが? さすがに捌ききれないぞ?
「マルス、大変かもしれないが公爵家から指名クエストを受けるなんてとても栄誉なことなんだぞ? 大貴族になればなるほど依頼人を選ぶからな」
別の席に座っていたバロンがそう言ってくれるが、ガスターの件を考えると額面通りには受け取れない。
「……分かった。教えてくれてありがとう。気を使わせてすまないな」
ほっとした表情を見せたクロムは、ミーシャと姫の仁義なき戦いに目を細める。
「なんだかんだあの2人も気が合うわよね」
クラリスも2人の聖戦を見ながら呟くと、椅子を俺に少し近づける。もう肩と肩が触れ合う距離だ。
「あーあ。マルスにはびっくりさせようと思って秘密にしたかったんだけどな。でもバレちゃったらしょうがないわね。今年のリスター祭楽しみにしててね」
「分かった。でもクラリスのメイド姿をもう見られないとなると寂しいな」
ついつい本音が出てしまう。
「じゃあ、今度マルスが【黎明】部屋に来たときに、みんなでお出迎えするわね。マルスだけだったらエリーもメイド服着るだろうし」
そういえば前もそんなこと言ってくれたが……これは是非実現してもらいたい。
「ああ! 楽しみにしてる!」
クラリスの新衣装。これが思わぬ波乱を起こすのであった。










