第421話 絶望の先に
「ヘルファイア」
体の前に掲げたディクソンの両手から放たれた魔法は黒く燃え盛る炎。黒炎が闇に身を隠すように迫る。
「ウィンドインパルス!」
「ウィンドインパルス!」
その黒炎を風魔法で相殺しようとするが、魔力の差からなのか1発のウィンドインパルスでは相殺できず、2発でようやく消え去った……しかし黒炎自体は消えたが、どうやらその黒炎は何かが燃えながら飛んできていたらしく、その小さい何かがまだ俺に向かってくる。その数は優に20、30はあった。
何度も風魔法で払いのけようとするが、その小さい何かは風で飛ばされるも、意志を持つかのように俺に向かってくる。
「ウィンドカッター!」
「ウィンドカッター!」
「ウィンドカッター!」
ウィンドカッターでその小さい何かを切ると、ぼとぼとと音を立て、地面に落ちる。その間にもディクソンは俺から距離を取っていた。
「ほう……ヘルファイアの火を消し、更に風魔法で切るとは。その剣はお飾りで実は魔法使いでしたというパターンも考慮せねばならぬな」
故意犯なのかまだそれが残っているにも関わらず、油断を誘うような言葉を放つ。
最後の1つをウィンドカッターで斬り落とすと、驚いた顔を作り、大きく手を叩く。掌からは黒い血が滴っていた。
黒い血……あれが悪魔族の血……いや、暗黒魔法が使える者の血か。
「見事だ。お前、我に仕える気はないか? 今ここでお前を殺すのは容易いが、お前を操ることは難しそうだ」
なおも答えずディクソンと離れてしまった距離をじりじりと詰めるが、ディクソンも後退しながら何度も問いかけてくる。
その間にウィンドカッターで撃ち落としたものを見ようと、警戒しながらも視線を落とす。
そこには真っ二つになった黒く小さなものが……これは蟲か? 蟲が黒炎を纏って俺を襲ってきていたのか?
「我に仕えれば、お前もこの世を好きにできるぞ? どうだ? 金も女もすべてを手に入れたいとは思わないか?」
なおも俺にしつこく問いかけるディクソン。
「なぜガル先輩を……みんなを殺した?」
ディクソンの質問には答えず、質問を投げかける。その間にもゆっくりと近づこうとするが、俺が近づけば近づいた分だけ下がる。
「ガル先輩? 誰だそれは? もしかしたらあの玩具たちに知り合いでもいたのか? だとしたらそれはすまないことをした。お前が望めばそいつを生き返らせてやってもよいぞ? 死亡遊戯でな!」
真っ暗な天に顔を向け、顔を抑えながら嗤う。この隙に一気に距離を縮めようとしてもやはり同じことを繰り返す。
こいつ、あのステータスのくせによほど接近戦に自信がないのか? それともただ単に慎重なだけか?
いずれにしても、勝機は接近戦! 長引くと未来視や風纏衣を発現している分、俺の方が不利だ。
なにしろ今日はラブエールでクラリスたちにMPを譲渡しすぎてもう半分以下。やるのであれば短期決戦で勝負を決めなくては!
俺の雰囲気の変化に気付いたのか、またもディクソンから魔法が放たれる。
「ヘルファイア」
「ヘルファイア」
無詠唱でウィンドインパルスを唱えて相殺しようか悩んだが、相手は格上。なるべくこちらの手のうちは見せたくない。
走りながらも迫りくる黒炎をウィンドインパルスで吹き飛ばすと、先程の倍以上の蟲たちが方々に吹き飛ぶが、すぐに俺とディクソンの中間くらいのところで壁を作り、視界を塞ぐ。
こういうのは既に何度も経験している! どうせ視界を塞いだところから何かが飛んでくるのだろう!? 未来視で注視していれば……。
警戒しながらもディクソンに突っ込むと、予想していたとおり、視界を塞いでいた蟲を貫きながら黒く長い物が迫ってくるのが視えた。
長さは1m弱、これは剣か!? そんなもの装備していなかったはずだが!?
剣と思われる物を雷鳴剣で弾こうとするも、想像以上の威力に弾くのには成功したが、雷鳴剣も弾かれ足が止まる。
そこからは防戦一方、視界を遮る蟲たちの先から次々と出てくる黒く長い物をなんとか弾くことで精一杯。
氷紋剣で氷の盾を作って突っ込もうともしたが、一発で氷の盾は砕け散り、その威力で押し戻されてしまう。
しかもこの黒い剣のようなもの、速度の調整ができるようで、先に飛んできた剣を後から飛んできた剣が追い越したり、太さも変えられるようで威力も様々。
おかげで2本の剣ではとても捌けなくなり、ウィンドカッターを駆使するも、このままではMPがもたないと判断した俺は大きく後方に跳び、距離を取ろうとするが、ディクソンもそれに合わせて近づいてくる。
この距離で戦ってはダメというのは分かっているのだが、この距離でしか戦えない。逃げるか? いや逃げ切れるのか?
弱気になった俺に対し、更にディクソンが追撃を仕掛けてくる。
今まで視界を遮っていた蟲たちが一斉に向かってくると、さらに黒い剣まで飛んでくる……視界が開けたその先には、ディクソンの指先から剣が射出されているように見えたが、よく見るとディクソンの指先の爪が伸びては射出を繰り返していたのだ! 右手の5本の指先から放たれる爪は、どの指の爪かで威力も速さも変わるようだ。
ただ分かったところで、どうにかなるというものではない。詠唱していたら間に合わない。無詠唱で風魔法を唱え、蟲たちを撃ち落とし、ディクソンの指先から放たれる剣のようなものをなんとか2本の剣とウィンドカッターで叩き落す。
未来視、風纏衣、二刀流、無詠唱風魔法。すべてを駆使するも防戦一方。そんな俺に次の一手を対策できるはずがなかった。
「スリープ」
――――ヤバい! と思ったときには遅く、一瞬だけ意識が飛んだが、本当に一瞬だけだったので飛んでくる爪も対応ができる……そう思ってしまっていた。
今までどおり雷鳴剣と氷紋剣で爪を弾こうと思った瞬間、異変に気付く。体が重い……いや、重いのではない、先ほどまでとは何かが違う。
そして何が違うのかすぐに気づいた。風纏衣が解けてしまっていたのだ!
一瞬でも意識を失ってしまったせいで、風纏衣だけではなく、未来視も解けていた。
(ウィンドカッター!)
(ウィンドカッター!)
(ウィンドカッター!)
咄嗟にウィンドカッターで急所に飛んできた爪を弾くが、無情にも左肩と右太腿に黒い爪が突き刺さる。なんとか左肩に爪が刺さる瞬間、鳴神の法衣に雷魔法を付与し、ダメージを抑えることはできたが、衝撃で氷紋剣を落としてしまい、右足はまともに動かない。
すぐにハイヒールを! と思ったのだが、絶え間なく爪は飛んでくる。ハイヒールを唱える暇などない。唱えたら最後、未来視を使わずともウィンドカッターでの防御ができなくなり、串刺しになる未来が視える。
この状態で耐えるのは無理だ。
現にもう捌ききれず、直撃こそないが、躱しきれず切傷が増え続けている。
たとえこのまま捌ききれたとしても、いつか俺のMPが切れてしまう。
だとしたら一か八かで纏雷を使い、周囲の蟲ごと飛んでくる爪を落とし、ライトニングをディクソンに向けて放つかしか……迷っている暇はない。右足が動かない以上逃げる事も出来ない。もう俺に手は残されていないのだ。
覚悟を決めたときに、ディクソンの左手からも爪が放たれるのが視えた。
それは今まで右手の指先から放たれていた物とは明らかに違う。
左手の5本指の爪を1つに纏めた大きな爪。ディクソンは動けない俺を完全に仕留めにかかっている。
「名無し君。楽しかったよ。ここまで悪魔の爪を叩き落し、貫かれてもなお動くことができるとは思ってもみなかった。地獄で誇ってもいいよ? 暗黒蟲に喰わせるのも考えたが、君は僕の経験値になってもらうことに決めたよ」
ディクソンは余裕を見せ、先ほどまでとは少し違う口調。もう完全に勝ったと確信している顔をしているが、それでも近づいていこない。
直後、未来視が視せたとおりの軌道で俺の心臓目掛けて放たれた……右手から放たれる爪と同時に。
最初に飛んでくるのは左手から放たれた一際大きな爪。
もう躱すことはできない! やるのであれば雷魔法! 纏雷だと複数の爪に雷が飛び、余計MPを消費してしまう可能性がある! 撃つのであればライトニングだ!
右手に魔力を込め、ライトニングを放とうとした瞬間。未来視が予想もしなかった未来を視せた。
なんだ!? これは!? もしかして……今はこれに賭けるしかない!
まだか……!? 遅すぎる!
もしかしたらこの未来はまやかしか!?
もうこれ以上は待てない!
「ライ……」
迫ってくる爪に対し、ついに雷魔法を放とうとした時だった。
「こんなところで死んでもらっては困るんだよ? マルス君」
未来視が視せたように視界の外から漆黒の鎌が悪魔の爪を斬ったのは。
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