第255話 もう1人の女狐
エルシスとの戦いを終え、選手控室の個室に戻るとリリアンが俺の部屋の前で待っていた。
「大丈夫? マルス君? こっちに来て、ヒールをかけるから」
リリアンは俺の背中に手を当てヒールを唱えると
「ねぇ? 私が【黎明】に入ってあげるよ。私みたいな神聖魔法使いがいると便利でしょ?」
「ありがとう。でも大丈夫だよ。もう【黎明】は6人目のメンバーが入ったから枠が空いてないんだ」
リリアンを【黎明】に入れたら間違いなくエリーが怒るし、どう考えても和が乱れるからな。
リリアンは何かを言いかけたが俺は何も聞かずに部屋に入ると、部屋の前から立ち去る悲しげな足音だけが聞こえた。
ウィナーズ側のAブロックのトーナメントは4試合だけなので個室に戻ってもすぐに解放された。
すぐに選手控室から出て勝利の報告をみんなにしようとすると
「「「「マルス!」」」」
「先輩!」
とすでに俺をみんなが出迎えてくれていた。
「マルス、大丈夫!?」
クラリスの顔には涙が渇いた跡が残っていた。
さっきの試合がとても不安で心配で泣いてくれたのだろう。
「取り敢えずここから離れよう。エルシスも出てくると思うから」
まぁ今エルシスが出てきても格付けはきっちり済んでいるから襲われることはないと思うのだが……
「よし! じゃあ宿に戻るぞ! 警戒だけは怠るなよ!」
スザクがみんなに号令をかけて宿に戻る。
コロシアムを出る途中で厳重に警備されたカストロ公爵が王冠の様な物を被った初老の男性と話しているのを見かけた。
カストロ公爵はとても怒っているように 見えたが、俺を見かけると一瞬だけ表情を緩めてくれたような気がしたので会釈をしたのだが、それは完全に無視をされてしまった。
10時に宿に着き、早速俺は風呂に入った。
風呂に入った後に【黎明】女性陣全員からマッサージをしてくれるというのだが、女性陣も風呂に入るという。
俺が風呂に入るのであれば女性陣も絶対に入るとの事だ。
リリアンにヒールをかけてもらったが、まだ体中が痛い。
本当はもっとヒールをかけてくれる予定だったのかもしれないが俺が部屋に戻ってしまったからな。
せっかくクラリスとアリスがヒールをかけてくれるのだから自分で治すのは野暮だよな。
そう思って俺はまだ自分にヒールをかけていない。
当然コロシアムや宿に戻る途中でヒールをかける訳にもいかないからな。
クラリスとエリーの部屋に行くとエリーだけが風呂から上がっており、早速俺をベッドに誘ってくれたのだがいつものように秒で寝てしまった。
まぁ部屋に入った途端にエリーが俺のワイシャツを着ていたから絶対に寝る気マンマンだったのだろう。
いつもと違うのはエリーは少し暑いらしく、胸元がいつもりより空いている……眼福だ。
「あー! もうエリリン寝てるよ。しかも制服じゃないし」
「まぁ予想通りね。」
「先輩!マッサージします!」
部屋の扉が開き、3人の声が部屋に響くと驚くことにクラリスも浴室から出てきた。
こんなに早くクラリスが風呂から上がるのは初めてだろう。
もしかしたら俺の体の事を心配してくれて早く出てきてくれたのかもしれない。
「さぁマルス、マッサージを始めるわよ」
特にダメージが残る首、肩、背中、腰をクラリスが重点的にマッサージを行い、その他の上半身をアリス、下半身はカレンとミーシャの担当となった。
「マルスの下半身、いつにも増してガッチガチだね」
「そうね、これはマッサージのやりごたえがありそうね」
当然ミーシャとカレンは下半身と言ってもみんなが想像しているようなマッサージをしてくれているわけではないぞ?
その証拠に相棒はなんで俺だけマッサージしてくれないんだと嘆いている。
「珍しく手の方も硬くなっていますね。いつもは剣を振り続けても硬くならないのに」
エルシス戦は相当苦戦したから余計な力が入ってしまったのだろう。
アリスは「ヒール」と唱えながら手を中心にもみほぐしてくれる。
「どう? マルス、どこかまだ痛むところはある?」
ダメージが残っていた箇所をクラリスが全てヒールを唱えながらマッサージをしてくれたおかげでもう痛いところはなかった。
「みんなありがとう。もう大丈夫だよ」
俺の言葉にクラリス以外の女子がマッサージをやめるがなぜかクラリスだけはまだマッサージを続けている。
「マルス、もうちょっとだけマッサージさせて。ヒールを唱えながらマッサージをしていると何か掴めそうで……」
嬉しい申し出で俺としても断る理由はない。クラリスの言葉にアリスが
「クラリス先輩の隣でマッサージをしていると、なんだか私までヒールを受けている感じでしたよ?」
「そうね、私もなんかあったかい感覚はあったけれども、もしかしたらあれはクラリスのヒールの効果なのかもしれないわね」
カレンもアリスの言葉に同意した。
「もしかしてクラリスは範囲治癒を掴みそうなんじゃない? マルスの全身にヒールをかけようとしたら、その周りまでヒールがかかっちゃった的な? 名前は私が今勝手につけただけなんだけど」
確かにアリスやカレンの言葉が本当であれば今のミーシャの言葉も頷ける。
リムルガルドに行く前にエリアヒール? をクラリスが覚えてくれれば、生存率は大幅に上がるだろうな。
その後もずっとクラリスがマッサージをしてくれるが掴めそうでなかなか掴めないらしい。
「ふぅ。もうお昼近いからまた今度マッサージするね。スザク様も12時に食堂に来いと仰っていたからみんなは先に食堂に行って。私はエリーを起こして着替えを手伝ってから行くわ」
クラリスの言葉に従い俺たちは先に食堂に戻るとそこには【暁】とスザク、ビャッコだけではなく、3人の公爵もおり、なんとヒュージとビッチ先輩までも招待されていた。
3人というのはリーガン、フレスバルド、セレアンスの3名だ。
遅れてクラリスとエリーもやってくると
「マルス、今日の試合よく頑張りました。おめでとうございます。それでは食べましょう」
リーガン公爵の音頭で昼食会が始まった。
「マルス、よくやったな!」
「もう体大丈夫か?」
「壁に弾き飛ばされた時気持ちよかったか?」
みんなが俺の事を労ってくる。
1人だけ変な事を聞いてきた奴がいたが、無視することにしよう。
「マルス、よくやりましたね。少しヒヤッとしましたが、手の内を見せずに勝てたのですから上出来です。このままウィナーズの決勝まで手の内を見せずに勝てれば、来年の入れ替え戦でも有利だと思うのでこの調子で頑張ってください」
改めてリーガン公爵が俺の事を褒めてくれたので
「ありがとうございます。今回はカストロ公爵に助けられました。どうしてカストロ公爵は僕に有利になるようなことをしたのでしょうか?」
気になったことを聞いてみた。
「恐らくカストロ公爵……レオナはクラウン公爵を嵌めるつもりなのだと思います」
嵌める? どういうことだ?
「これは推測の域を出ませんが、1回戦を終えた後にクラウン公爵に推薦人になってくれとレオナは頼まれたのだと思います。
そしてレオナはこのような事を言ったのだと思います。推薦人になるのは構わないが、もしも負けた時は名前に傷がついた分それなりの代償を支払えと。
もちろんクラウン公爵は負けると思っておりませんから2つ返事で承諾したのでしょう。誰だって竜骨棒を装備したエルシスに勝てるB級冒険者なんていないと思いますからね。私だってマルスがいなければエルシスを優勝候補筆頭に挙げていたでしょう。エルシスの人間性を考えて絶対に推薦することはありませんが」
俺の事を何も知らないカストロ公爵がそんな簡単に俺にベット出来るか?
俺の疑問に意外な人物が答えた。
「すまない、マルス。リーガン公爵にはその日のうちにすぐに言ったのだが、初日にA級冒険者で集まってな。そこにカストロ公爵がいらっしゃったんだ。そしてマルスの事をしつこく聞いてきてな。
サザーランド伯爵家もリスター連合国の北西にあるからどうしてもカストロ公爵の言葉に逆らえなくて、ここにいるA級冒険者でもマルスに勝てる者は少ないだろうとだけ言ってしまったんだ」
ヒュージの言葉をカストロ公爵が信じたという事か……
もしも俺が負けていたらヒュージがカストロ公爵に責められる立場だったのかもしれないな。
「でも2人は結婚すると聞きましたが?」
「だからこそマルスに勝ってほしかったのでしょう。どう考えてもエルシスがカストロ公爵の夫には相応しくないですからね」
そこまでするのか……でもまだルーザーズがある。もしもエルシスがルーザーズで優勝したらどうするんだ? まぁそんな事俺が知ったこっちゃないが……
「クラウン公爵はどうなるのですか?」
「どうもこうもなりませんよ。ただお金で払うか、人で払うか、領地で払うかだと思います。恐らく領地を要求すると思いますが、その時は円卓会議で審議にかけます。私たちに反対されないようにレオナは何かの策を講じている事でしょう」
カストロ公爵も怖いが、ここまで考えられるリーガン公爵も怖いな。
この2人は似た者同士で同族嫌悪なのかもしれないな。
食事も済ませ、もうそろそろいい時間になってきたところで
「リーガン公爵、今日のコロシアムでの試合が終わったら少し貸し切りにすることは出来ませんか? コディに少し見せたいものがあるので」
今日の試合は各ブロックのウィナーズの4試合とルーザーズの4試合の予定の計32試合だからもうそろそろコロシアムが空くころだろう。
「分かりました。恐らくもう終わっていると思うのでコロシアムを立ち入り禁止にしましょう。他の者も最近動けていないだろうからコロシアムで体を動かしたほうがいいでしょう。スザク、ビャッコ、ヒュージ、マルスたちを頼みましたよ」
俺達は昼食会を終えると、本日2度目のコロシアムに向かうのであった。
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