第225話 決勝
「勝者! マルス・ブライアント!」
俺とバロンのベスト4の試合はある意味予定調和のような試合だった。
バロンが見栄えが良い魔法をどんどん発現させ、俺がその魔法を全て斬り、観客たちを沸かせた。
バロンが全ての魔法を出し切ると接近戦に持ち込み何合か剣戟を交わすとバロンも満足したようだったので、バロンの土精霊の剣を火精霊の剣で弾き飛ばし俺が勝利した。控室に戻るとガルが
「儂もああやって貰えば良かったの。バロンの長所を全て引き出したいい試合じゃったわい」
左手で髭を触りながら右手で俺とグータッチをした。次戦はカレン対ミーシャだがこちらももう台本は決まっているようだ。
闘技場ではカレンが本気で魔法を放つことが出来なく、またミーシャもカレンと本気で争う事はしたくないらしい。
だがせっかく応援に来てくれている観客を喜ばせるために、カレンの火魔法に対してミーシャは水魔法で相殺し続けるというデモンストレーションを行い、観客たちを沸かせた。
ミーシャのMPが枯渇しそうになったところでミーシャが負けを認めてベスト4のもう1試合はカレンの勝利となった。
「いい見せ方するわね。これはみんな満足する試合内容ではないかしら。ここまでレベルの高い魔法戦なんてそんなに見られるものでもないだろうし」
「そうじゃのう……カレンの事はある程度知れ渡っていたと思うのじゃが、これでミーシャの名前も知れ渡る事になるじゃろうて……エルフの女槍使いは水魔法も一流じゃと……」
眼鏡っ子先輩とガルが2人の試合を見て感想を述べた。さて次はいよいよ決勝戦だ。
俺とカレンの試合もある程度は打ち合わせをしていた。本気で戦う訳にはいかないからね。だがカレンとの試合は決着の仕方は打ち合わせ段階でもかなり勇気のいる形だった。
これをやるとまた敵が増えるんだろうな……まぁ今更だから仕方ない。カレンの要望通りにしよう。
「さて! いよいよ決勝トーナメントの1位決定戦! ここで勝てば前年度優勝者のアイク・ブライアントへの挑戦権を得ることが出来ます!
フレスバルド公爵家次女にしてリスター帝国学校2年Sクラス序列4位! 今回の武神祭では第2シードでいつの間にか鞭を操る様になったこの美少女は、これから対戦するマルス・ブライアントの婚約者でもあります! ここで勝てば結婚後の主従関係にも影響を及ぼすかもしれないこの1戦! さぁ出てきてもらいましょう!カレェェェン・リオネルゥゥゥウウウ!」
大歓声と共にカレンが闘技場の中央に歩いて来た。カレンへの声援は男子からも女子からも注がれる。
「そして今回の武神祭の大本命のこの人は! 去年のリスター祭でBランクパーティ10名を剣も抜かずに拳だけで圧倒した衝撃からもうすぐ1年! 対戦相手は婚約者! 自分の婚約者相手にどこまで非情になれるのか!? マルスゥゥゥウウウ・ブライアントォォォオオオ!」
名物アナウンサーの紹介に会場がどよめいた。考えてみればリスター祭での事は全員が知っているわけではない。というか知っている人の方が少ないかもしれない。
俺が闘技場の中央に向かって歩き出すと一気に黄色い声援がこだまする。
「決勝戦はじめ!」
リングアナウンサーの試合開始の合図とともに俺はカレンから距離を取ると、カレンはいつもと違う鞭の構えをした。
なんだ? 初めて見る構えだな。右手で鞭の柄を持ち左手で長い鞭の先端を持つ。そして両手を顔の高さまで持ってくる。
いつもとは逆で右半身が前方に出ている……野球で例えるといつもは右打者のように左半身が前に出ているのだが、今回の構えは左打者のように右半身が前に出ているのだ。
某偉大なヒットメーカーの方の打席に入る時のルーティーンの構えにも似ている。当然カレンの周囲にはファイアボールが飛んでいる。
この試合で決まっている事は、俺はカレンに対して攻撃をしない。そして俺はカレンの攻撃を全てかいくぐって近づき、カレンの要望に応えることだ。それ以外の事は打ち合わせをしていなかったからな。
俺が少しずつ距離を縮めるとカレンはレッドビュートを振ってきた。
え? この距離で届くのか? カレンはレッドビュートを左一文字斬りのように振ると、俺が先ほどまでいた場所まで届いていた。
そしてもう既に先ほどと同じ構えをしている。射程長すぎで鞭の戻りもかなり速い……これが鞭王の実力という事か……これを躱してからファイアボールも躱してなんて風纏衣を使わない限りは絶対に無理だろうな……カレンはステータス以上に強くなっているようだ。
仕方ない……ここは痛みに慣れる練習も兼ねて何発か鞭を食らうか……どのくらい痛いのだろうか……ちょっとワクワク……いやいや俺はバロンやドミニクとは違う……やはり剣で鞭の攻撃を叩き落したほうがいいに決まっているか。
火精霊の剣を鞘から抜かずそのまま構え、カレンの方に駆ける。
カレンも当然分かっていたらしく、レッドビュートを振ってきた。火精霊の剣で叩き落そうとすると、火精霊の剣にレッドビュートが巻き付いてきた。
ここまでは予定通りだったのだが巻き付いた瞬間とんでもない熱量がレッドビュートから火精霊の剣に伝わってきた。
「アチッ!」
思わず俺が声を上げ、火精霊の剣を放すと、カレンが一瞬心配そうな表情をしたが、俺がそのままカレンの方に突っ込んでいくとカレンも応戦してきた。
カレンは後ろに下がりながら鞭を振ってくるが、今度は雷鳴剣をまた鞘から抜かずに構えてレッドビュートを叩き落す。
またレッドビュートが巻き付いてくるが、今度はしっかりと熱さ対策をしているため先程のように剣を落とす事はなかった。
あとはカレンの周囲を飛び回っているファイアボールを雷鳴剣で斬ると、カレンの背後に回り込みカレンを後ろから優しく抱きしめた。
そう……カレンが試合前に俺に求めたこと。それは決着の時は後ろから抱擁することだった。
「降参よ」
カレンが俺の腕に身を預けながら宣言した。
そして先ほど俺がレッドビュートの熱量で火傷した右手の手のひらを優しく触れてくる。だがなかなか勝利アナウンスが流れない。
「マルスに押さえつけられたら何も出来るわけないじゃない。私の負け、降参よ」
押さえつけているというよりかは優しく包んでいるのだが……もう一度カレンが名物アナウンサーに負けを認めると
「……勝者、マルス・ブライアント」
名物アナウンサーのテンションがやけに低かった。
そして会場の女性からは「素敵」との声が多かったが、男性たちからは「見せつけやがって」とか言われた。だが酷い事は言われなかった。もう認められたのかな?
当然この演出にはフレスバルド公爵だけでなく、ほかの貴族たちに俺たち2人はうまくやっているというメッセージも含まれている。
俺とカレンは2人で手を繋ぎながら選手控室に戻るとそこにはアイクとクラリスが待っていた。
「ごめんなさいね。クラリス。私がマルスに後ろから抱擁してと頼んだのよ」
カレンが開口一番クラリスに謝った。するとクラリスが安心した表情で
「よかった……マルスが鞭で打たれて発情したのかと思っちゃった……カレンの鞭に打たれたがっていたようだったし……」
し、心外な……
「貴賓室は異様な空気が流れていたぞ……フレスバルド公爵、リーガン公爵、セレアンス公爵の3人と、バルクス王でどっちの国がマルスを引き取るかを遠回しに言い争っていてな……
もう俺はあの場には行きたくない……それにバルクス王が話せる者が俺しかいなかったからそこも辛かったところだ……クロムが居てくれたらと何度も思ったよ」
アイクが相当疲れた様子で俺に話しかけてきた。アイクはずっとバルクス王の隣で話し相手を務めていたのか……
「私もお義兄様程ではないけど疲れたわよ……私とマルスの事を知らない貴族の方々から縁談の話をたくさんされたわ……今度は私じゃなくマルスにやってもらうからね」
クラリスも相当気疲れしたようだ。
でも来年以降もクラリスがトーナメントに出ないのであれば、きっとクラリスが接待をすることになるだろうな……
全てはリスター祭でのミスリスターの投票次第だと思うが、クラリスが5年生になるまでずっとクラリスが接待をすることになるだろうな……
「アイク兄、クラリス。お疲れさまでした。これから優勝決定戦ですがどうしますか?」
「ああ。普段通りやろう。前にも言ったが優勝はマルスだ。そこはしっかりと実力通りで頼む。あとマルスはどうせ魔法は使わないのだろう? でも俺はバンバン使うからな。リーガン公爵やクラリス、サーシャ先生にも伝えてあるから観客たちへの被害はないと思う。スザク様もいらっしゃるしな」
「わかりました。では僕はあっちの選手控室に行きますね」
俺が挑戦者側だと思うので反対の選手控室に向かうと、2年Sクラス全員とアリス、ブラッドも反対側の選手控室についてきてくれた。
反対側の選手控室に行く途中でどこか落ち着かない様子のリーガン公爵が俺だけを呼び止めた。
クラリスたちは先に反対側の選手控室に行ってもらうとリーガン公爵が深刻そうな顔をして俺にこう言った。
「マルス……エキシビジョンマッチでエリーが対戦する予定の相手……つまりガスターがまだ来ていないのです……」










