第218話 アイクの恩返し
2031年8月15日 10時
「ゴン、お前……これはやり過ぎだろ……」
「いやいや、マルス相手だったらこれくらいはやらないと」
俺は今、2年Bクラスの剣術の授業を受けている。東方面に行けなかったBクラスの生徒たち30人ほどとだ。
そしてゴンというのはこの前アイクが声をかけた4人組のうちの1人だ。実戦形式での授業でハンデとして俺は目隠しをしている。
目隠しくらいのハンデが無いと釣り合わないとゴンが必死に先生を説得して今に至る。目隠しをしてどうやって剣戟を結べと言うのか?
「マルス君。頑張ってぇ。もしもマルス君が勝ったらご褒美を上げる」
Bクラスの女生徒たちが黄色い声で応援をしてくれている。俺はアイクと6人で学校に登校した時からずっとBクラスの生徒達と一緒に授業を受けている。
ちなみにクラリスは昨日帰ってきており、エリーと一緒にAクラスで授業を受けている。
アイクが言うには俺は近づきにくい存在らしい。
いつも俺の周りには美女がおり、誰の目から見てもリーガン公爵から贔屓にされている。
他のクラスの人間、2年Aクラスの者とは食堂で顔を合わせたりして一言二言話をしたりするのだが、Bクラス以降の同期生と話をする機会がほとんどない。
この学校にいるのにそれではもったいないし、不幸だとアイクが言うので、少しの間だけ俺と【黎明】女性陣の距離を取る事を提案したのだ。
もちろんエリーは大反対だったが、必要なことだからとアイクに説得されて渋々首を縦に振った。
「始め!」
先生の掛け声と共にゴンが目隠しした俺に襲い掛かってくるのが分かる。もしかしたらサーチを使えばなんとなくゴンの攻撃が分かるかもしれないが俺は敢えてそれをしなかった。
口では無理無理と言いはしたが、もしかしたらエリーだったら躱すことが出来るかもしれない。そう思って俺も挑戦してみることにした。当然俺からは攻撃をするつもりはない。
見えていない俺が攻撃をしてゴンの急所を突いて大けがをさせてしまうのが怖いからだ。
ゴンは容赦なく俺に木剣で斬りかかってくる。訓練用の木剣なので刃は潰しており、斬られるというよりかは叩かれる感覚なのだがまぁまぁ痛い。
俺くらいの耐久値で鍛えていなければ、かなりの怪我になるのだがその辺の事をゴンは考えているのだろうか?
ただこの痛み……慣れてくるとそう悪いもんじゃない。いや、決して変な意味ではないよ? 痛みに慣れる練習としてだよ? カレンに鞭でシバかれたいとか、ミネルバに鎖で縛られたいって事はないからね?
「なんか、マルス見えてきていないか? やればやるほど急所付近は躱したり、木剣で受けていたよな」
ゴンとの剣術の訓練を終えるとゴンが俺に話しかけてきた。
「ああ、なんとなくだがこういう体勢で斬っているのかな? というのは分かるようになってきた。あと急所付近を躱したり、受けられたのはここだけは斬られたくないという防衛本能が働いて優先的にそこを防御しているだけだと思う。その辺りを斬られるといくら手加減をしてもらっても痛いからな」
俺とゴンの会話中にBクラスの女子たちがやってきて
「ゴン! 目隠しをしている相手になんていう事をするの!」
女生徒の1人がゴンに向かって言うと
「大丈夫だって。この何日かで分かったけどマルスは痛い事をされると喜ぶんだ。マルスの親友である俺が言うんだから間違いない」
……心外だ。俺はバロンやドミニクとは違う。だが親友と呼ばれたことに関しては素直に嬉しい。
今までは夜に寮でご飯を食べるときは1人だったが、最近はゴンたちを始め他の生徒達ともだんだん話すようになってきた。これもアイクのおかげだ。
そしてゴンたちにもいい事があったようだ。ゴンたちは俺とよく話をするようになってから女生徒たちから声をかけられることが多くなったとの事だ。
ほとんどは俺の事を聞いてくるのだが、そこから色々話をしているうちに仲良くなっているという。
ゴンの成功例を見た男子生徒たちがどんどん俺に声をかけてきてくれる。
目的があっての行動だが、同性に話しかけられるのは異性から声をかけられるのとは別の意味で嬉しい。
昼食の時間になると食堂の2階でご飯を食べる。今までは3階ではSクラスとAクラスの生徒達だけで食べていたがBクラスは2階だ。今は遠征クエストの最中だから少し席が余っている。
「マルス、本当にいつもマルス定食なのか? 好感度を上げるだけの策略だと俺たちは思っていたのだが? 3階ではとても高級で美味しい物が出るって聞いていたんだが?」
ゴンが俺の右隣に明らかに胃にもたれそうな昼食を置き話しかけてきた。
「ああ。だいたいこれだな。体重を増やしたいときはゴンのようなメニューを食べることもあるが、もう俺は体重を増やさなくてもいいしな」
ゴンと会話をしながら食べていると左隣にカールが座る。カールもBクラスの4人組のうちの1人だ。俺の近くの席はすぐに埋まる様になった。それも絶対に俺の並びの席は男子生徒なのだ。理由はとても簡単だ。
「マルス、後ろいい?」
「……おはよう……」
「皆さんこんにちは」
クラリスとエリー、アリスの3人が俺の後ろに座る。いつも2階は満席なのだが今は少しだが空きがある。だから3人とも昼食の時くらいはという事で俺の近くで昼食を食べている。尤もアリスは毎日朝練が一緒だし、クラリスも今日から一緒に朝練をしている。
俺の近くに居るのはこの3人を見るという目的もあるらしい。いや、ほとんどがこの理由なのだろう……
カールから聞いたのだが、クラリスやエリーを一般生徒の男子生徒が目にすることはあまりないらしい。そして俺の近くに居ればクラリスたちと会話を楽しむことが可能だ。
ゴンとカールは必死になって昼ご飯を掻き込むと、すぐに振り返りずっとクラリスたちがご飯を食べ終えるのを後ろ姿を見ながら待っている。基本的にクラリスたちもマルス定食なので食べ終わるのが早い。
「今日、剣術の授業でマルスに目隠しをして……」
ゴンが嬉しそうにクラリスに話をしている。
「そんな、マルスを変な方向に調整しないでよね?」
ゴンたちが嬉しそうにクラリスたちと話している。これはゴンやカール達から言われたのだが、もうゴンたちはクラリスたちを本気で俺から奪おうとは思っていないらしい。
だけど美女とは話したいから許してくれと言われた。まぁ話すくらいだったらね。それになんだかんだクラリスたちも楽しそうに話をしている。エリーだけは俺しか見えていないようだが……
13時近くになるとクラリスたちは次の授業の為、俺達よりも先に席を立つ。前にも言ったがSクラス、Aクラスの昼休みは1時間に対し、その他のクラスは2時間だ。
クラリスたちが席を立つと一斉に男子生徒達も移動を始める。俺達も席を立ち適当に校内をぶらつく。
「マルスは本当に羨ましいよな。クラリスってあんなに可愛いのに擦れてなくて。昨日今日で大分クラリスのイメージが変わったよ。良く笑ってくれて冗談も通じて楽しいよな」
もう完全に股間クラッシャーという2つ名を忘れているな。ゴンの言葉に他の3人も頷く。
「エリーもなんか表情が柔らかくなったよな。まぁ近寄りがたいのは変わらないんだけど」
カールの言葉にまた3人が頷く。俺達が話しているところに女子生徒が混じってきて時間を潰し、有意義な昼休みを過ごし午後の授業を受けた。
放課後
俺とクラリス、エリー、アリス、アイク、眼鏡っ子先輩の6人でちょっと夕食の時間には早いが久しぶりにご飯を食べようとリーガンの街に出た。
いつものレストランに着くとみんなで少し酒を飲む。俺の右隣にはクラリス、左隣にはエリー、やはりこれが落ち着く。
「マルス、どうだ?しっかり馴染めているか?」
「はい。アイク兄のおかげでBクラス男子だけでなく、他のクラスの者たちとも少しは交流がもてました」
俺の答えにアイクが満足そうに頷くと
「マルス、お前は特に他のクラスの男子を大切にしたほうが良い」
ん? やっぱりハーレムキングとして妬まれて色々狙われるからか?
「マルスはいずれリムルガルドを治めたいのだろう? すると絶対に騎士団が必要となる。騎士団は魔物退治だけではなく、治安維持のためにも必要だ。そしてこのリスター帝国学校の生徒達は優秀だ。ここから何人引っ張れるかで騎士団の優劣に大きく影響が出るだろう。いい噂を今のうちに流しておけば、それが後輩たちに受け継がれて優秀な生徒がお前の下に志願しにくるかもしれない」
おお! 確かに! 騎士団長だけはライナーに務めてもらおうと思ったのだが、それ以外の事は全く考えていなかった。この言葉にエリーが大きく納得していた。
「……マルス……頑張って……私も我慢する……」
本当はずっと一緒に居たいであろう感情を押し殺して健気に隣で呟いた。
「じゃあもしもアイク兄がメサリウス伯爵となった場合はリスター帝国学校から大量の生徒が流れてきますね。まぁ募集するかしないかは分かりませんが……」
俺の言葉にアイクの隣にいた眼鏡っ子先輩が
「そう、それもあって次期メサリウス伯爵はアイクに決まったのよ。お兄様は人望もないしね。なぜか一部のメサリウス伯爵領の者には人気があるのだけど……」
さらっと爆弾発言をした。次期メサリウス伯爵はアイクに決定?
「アイク兄!? 決定ですか!? おめでとうございます!」
「ああ。マルスに言うのを忘れていた。すまないな」
近いうちにメサリウス伯爵家当主アイク・ブライアントの誕生か。この日は前祝いという名目で思いっきり飲んで騒いだ。










