第217話 努力家
「だ、大丈夫なの……?」
リーガン公爵の髪の毛は乱れ、服もクラリスとエリーに抑えつけられていた為に乱れていた。
「はい。僕には雷耐性があるらしいので、雷でダメージを受けることはありません。それよりリーガン公爵……衣服が……」
かなり本気で抑えられていたのか服が伸びており大きく胸元が空いていた。
「申し訳ございません。リーガン公爵。私たちも止めるのに必死だったもので……まさか風魔法を使ってまで私たちを振りほどこうとするとは思っておりませんでしたので……」
クラリスが申し訳なさそうに謝るとエリーもぺこりと頭を下げた。
「いえ、いいのです。よくぞ止めてくれました。あのままでは無駄死にするだけでした。大分私が思っている雷とは違うようでした。もっと青白いと思っておりましたが……」
リーガン公爵が関係者部屋から出てきて俺の方に歩いてくる。そして着衣は乱れたままだ……どうしても目がそこに行ってしまうのは男の性だ。これは賢者様案件だ。早く寮に戻らねば……
「リーガン公爵、着衣が乱れております。よろしければこれを……」
俺が羽織っていたSクラスの制服をリーガン公爵に渡すとリーガン公爵は嬉しそうに受け取ってくれた。
「ありがとう。しっかり洗って返しますから。これで本当のマルスの能力が分かりました。マルスの武神祭でのエキシビジョンマッチはキャンセルします。そのままA級冒険者の試験に挑戦してもらおうかと思います」
リーガン公爵の言葉にクラリスが
「その代わりに私をエキシビジョンマッチで対戦させて頂けないでしょうか?」
真剣な表情でリーガン公爵に訴える。
「ええ……分かりました。サーシャからあなた達2人の実力も聞いております。2人のエキシビジョンマッチの件は考えておきましょう」
クラリスだけではなくエリーもなのか? そう思っていたらエリーも必死にリーガン公爵に目で訴えているようだった。
「最後に1つ。もしも暗黒魔法が使えるようになってしまったら必ず教えてください。マルスは魔法の才能に愛されているようですので」
そう言い残すとリーガン公爵は俺の制服を羽織り、闘技場を後にした。俺がリーガン公爵の後ろ姿を見ていると
「ねぇ……暗黒魔法って何?」
クラリスが俺の隣に来て一緒にリーガン公爵の後ろ姿を見ながら聞いてきた。
「俺もこの前サーシャ先生から初めて聞いた。とても危険な魔法という事しか分からないのだが……」
俺がクラリスの質問に答えているとエリーが急に俺の左腕に巻き付いてきた。いつも通りの事かと思ったのだが少し違う。なんか震えている感じがするのだ。
だが頭を撫でると震えが止まったように思える。気のせいだろうか……?
日もかなり落ちてきたし、まだ荷解きもしていないから今日は寮に戻ってから各自でご飯を食べることにした。まぁ女性陣はみんな同じ部屋だから俺だけぼっちなのだが……
部屋に戻り風呂に入ってから荷解きをしていると部屋の扉がノックされた。
「マルス? いるか?」
声を聞きすぐに扉を開けるとアイクがいた。
「飯を外で食べないか?」
アイクの誘いにのり、俺たちは兄弟2人でリーガンの街に繰り出した。
「なぁ、クラリスとエリーもA級冒険者に挑戦するのか?」
アイクがご飯を食べながら俺に聞いていた。
「どうなんでしょうか? 2人の目的は僕と一緒にリムルガルドに行くことですから、A級冒険者になれなくても一緒に行けるのであれば、A級冒険者になる必要はないと思っていると思うのですが」
「そうか……リムルガルドか……俺もいつかリムルガルドに行けるようにならないとな。マルスは9月まで何かするのか? もしも予定が無いのであれば一緒に訓練しないか? 朝のランニングや筋トレをどのくらいやっているのか見てみたいんだ」
相変わらずアイクの向上心はすごい……
「クラリスをランパード夫妻の所に連れて行ったら特に予定はありません。近日中に出発してすぐに戻ってきますからそれからでもいいですか?」
アイクが頷くと2人で酒を酌み交わした。
2031年8月1日 3時
クラリスをランパード夫妻の下へ送っていき、戻ってきた俺は早速アイクと朝練をしている。アリスも朝練に加わりたいというので3人だ。
エリーは相変わらず寝ているようでカレンはリーガン公爵の許可を得てフレスバルド領に帰った。ミーシャは【剛毅】と一緒に他クラスの遠征クエストの手伝いをしに行った。
バロンとミネルバ、ブラッドの【創成】3人はまだ死の森から帰ってきていない。
まずはマラソンから始める。やはりアリスがついて来られるわけがなく、神聖魔法を使いなんとか疲労を軽減していたのだが開始10分くらいで歩き出してしまった。
その後アイクと一緒にいつものペースで1時間走り切った。同じペースでずっとついてきたのはアイクだけだ。クラリスと走った時はもう少し遅いペースだったからね。
「こ、これを毎日最初にやるのか?」
走り終わったあとアイクが息を切らせながら言うと
「そうですね。1人でやる場合はこれからすぐに筋トレです。基本的には重い物を色々な体勢で持ち上げる筋トレをしております」
土魔法で作ったコップに水を出し、アイクに渡すとアイクはその水を飲みながら
「次はそれを頼む……この疲れている時にやるのがいいんだよな?」
「詳しいことは分からないのですが疲れすぎた時にやると体にダメージが残ります。だからそこまで疲れない程度の運動の後に僕は筋トレをしているのですが……」
「こ、これが疲れない程度の運動……? さすがマルスだな……俺も早くこれに慣れなきゃな」
アリスの所まで軽くジョギングをしながら戻ると
「全くついていけませんでした……明日も一緒に朝練してもいいですか?」
アリスが悔しそうに聞いてくる。アリスはかなり根性というか負けん気が強い。
「ああ、明日からも一緒にやろう。アリスはこれから部屋に戻るのか?」
「はい。お風呂に入ってからクラリス先輩に教えてもらった水魔法の練習をしようと思います。私も1つくらいは攻撃魔法が使えるようになりたいですから」
3人でゆっくりジョギングをしながら女子寮の前に行き、アリスを送り届けると俺とアイクは俺の部屋に行き筋トレを始める。
「なぁ、マルス、今体から外したものは何だ?」
俺がマラソン中に身に着けていたパワーアンクルを外しているとアイクが聞いてきた。
「これは、重りです。マラソン中に重い物を両手両足に着けているのです。筋トレするときはなるべく狙った所に負荷をかけたいのでこの重りを外しているのです」
アイクは俺が着けていたパワーアンクルを手に持つと
「これ……結構重いな……こんなものまで着けているとは……マルス、今度俺にもこれをくれないか? 今すぐには無理だろうが今月中にはこれを装着してマルスと一緒に走れるようにしたい」
「分かりました。あとで作っておきます。ではこれから筋トレをしましょう。今日は上半身をやろうと思いますがいいですか?」
「ああ……というか上半身だけしかやらないのか? マルスの事だから上半身、下半身両方ともやると思ったのだが?」
「僕は上半身の日、下半身の日、休養日というローテーションを組んでます。休養日というのは筋トレをしないというだけで、剣を振ったりイメージトレーニングをしたりしています」
恐らく俺は神聖魔法の影響で回復が人よりも早い。それでも念のために休養日を設けている。
「へぇ……そういうものなのか……じゃあ俺もそれに倣うとしよう」
ベンチプレスを中心に1時間ほど筋トレに励んだ。ちなみに下半身の時はスクワット中心としている。負荷が足りないなと思った時はデッドリフトも加える。
「も、もう握力が……それにこんなに張るのか……マルス……本当に申し訳ないが……」
もうアイクが何を言うか分かったので
「いいですよ。アイク兄の部屋にも機器? を作りましょう」
俺の言葉にアイクは嬉しそうに笑った。風呂に入ってから寮の食堂に向かう。
遠征クエストで生徒の数は少ないはずだが食堂は学校でも寮でもやっている。俺とアイクがご飯を食べていると、4人組の男子生徒達が食堂にやってきた。
制服の刺繍の色は蒼だ。4人ともBクラスだな。遠征クエストに行かなかったのだろうか? 男子生徒が俺とアイクに気づくとビックリしていた。まぁ2年生の寮に5年生のアイクがいたら驚くよな。
男子生徒がご飯を受け取り、俺達から離れた場所でご飯を食べようとすると
「なぁ、一緒に俺たちとご飯を食べないか?」
アイクが4人組のBクラスの男子生徒に声をかけると、男子生徒たちは何故か嬉しそうに俺達の所にやってきた。
「グレン先輩から声をかけて頂いて光栄です!」
4人が4人ともアイクに心酔しているようだった。これがカリスマというやつか。
「もうグレンではなくアイクで頼む。マルスが居る前でグレンと言われるのが恥ずかしくてな」
アイクの言葉に4人は頷く。6人でゆっくり話をすることにした。4人の男子生徒が気になる事はやはり【黎明】の女性陣の事だ。
まぁこの年齢だったら気になるのも当然だ。俺はしっかり誤解のないように4人の質問に答えていく。
「お前たちはなんで遠征クエストに行っていないんだ? 2年のBクラスだとしたらそれなりのクエストを受けているのではないか?」
俺への質問が一通り終わったのでアイクが4人に質問をした。
「それがどうやら東の方……セレアンス公爵領から東には行くことが中止となりまして……セレアンス公爵領も今は厳戒態勢を取っているとの事で入領は禁止されてしまいました。だから東の方に向かう予定だった生徒はみんな遠征クエストが中止になってしまい退屈しております。せっかくこの制服を着て街に出られるのに……」
セレアンス公爵領が厳戒態勢なのは分かる。
恐らくフレスバルド公爵とスザクが訪問しているだろうし人攫いの件もあるからな。
だがセレアンス公爵領以外には行けると思うのだが……それになんで制服を着て街の外に出たいのだろうか?
「どうして制服を着て街の外に出たいの?」
俺が4人に思ったことを素直に聞くと
「だってこの制服を着て街に出ればモテるだろ? 2年生の女たちはまだ誰かの6人目の座を狙っているから俺達に振り向こうともしない。それに敵はハーレムキングだけではない……不運な事に北の勇者まで同学年なんだ……出会いを外に求めるしかないだろう……? まぁ出会った所で俺達一般生徒はSクラスと違って外に出られるのは遠征クエスト中か年始くらいなんだが……」
名前で呼んでもらえない……それに敵って……男子生徒の言葉にアイクは笑っている。
「じゃあハーレムキングには責任を取ってもらわないとな」
アイクが俺の肩を叩き、ご飯を食べてから6人で学校に向かった。










