第213話 半人半魔
【名前】ヨーゼフ・ヴァーリ?
【種族】人族・デーモン?
【脅威】A?
半人半魔?
完全にパニックになってしまった。
間違いなくあのヨーゼフだよな? 俺だけではなくメンバーもみんな驚いていた。みんな鑑定が出来なくてもヨーゼフと認識したようだ。
しかし驚いたのは俺達だけでは無かった。ヨーゼフの左半身側、つまり人間側の表情が驚いていた。そして人間側の表情はどこか諦めた表情をしていた。
「よ、ヨーゼフだよね?」
ミーシャがぼそりと呟くと
「ヨーゼフよ。間違いないわ。この可愛らしい顔は……でもどうして……」
クラリスが言うとヒュージが
「やはり制服が一緒という事はSクラスの知り合いか?」
「はい。去年に失踪した級友です」
ヒュージの言葉に俺が答える。ヨーゼフを見るとまだ驚いているようだったが、泣きそうな顔になっており何かを呟いていた。
「こ、ろ、し、て、く、れ」
とても小さい声で分からなかったが、口元からそう読み取れた。しかし悪魔側の顔は何やら別の言葉を言ったようで右手を上にかざすとなんとデーモンが2体召喚された。
「みんな! 下がれ! ヨーゼフには手を出すな! まともに戦っても勝てる相手じゃない! 俺よりも魔力が上だしMP回復促進を持っている!」
みんなすぐにヨーゼフから距離を取るが、ここでまた俺たちは驚くこととなる。
なんと今召喚したばかりのデーモンに対してヨーゼフの左手、つまり人間の手からフレアを放ち、たった今召喚したデーモンを消滅させたのだ。
自分で召喚したデーモンを自分で殺しただと? もう1匹はクラリスの魔法の弓矢と俺のホーリーで倒した。もしかしてヨーゼフは……?
「ヨーゼフ! お前は右半身がいう事を聞かなくて左半身しか自分の思う通りに操れないのか?」
俺の言葉に左ヨーゼフの人間側の口元が「うん」と言っているように見えた。
右半身が次々とデーモンを召喚しているが、ヨーゼフの左半身のフレアと俺とクラリスの攻撃で召喚したデーモンが次々と死んでいく。
俺は隙をみてヨーゼフに近づきキュアを唱えた。もしかしたらヨーゼフの【状態】は良好となっていたが、神聖魔法を使えばもとに戻ると思ったのだ。
しかしヨーゼフは元に戻らなく、お返しとばかりに右半身からフレアが俺に飛んでくる。
未来視を使っていなかったため、躱すことが出来ず、ウィンドインパルスで威力を減衰させ、俺に直撃する直前にもう一度ウィンドインパルスを放ちなんとか相殺することが出来た。
魔力148は半端じゃないな……
「ヨーゼフ! どうしてこうなった!? どうしたらもとに戻る!?」
自分で自分の事を殺してくれと言ったくらいだ。本当は人間に戻りたいに決まっている。俺が距離を取るとまた右半身がデーモンを召喚する。
近づくとフレアが飛んできて遠ざかるとデーモンを召喚するらしい。また俺とクラリスでデーモンを倒しているとヨーゼフの口元が動いた。
「ま、せ、き、う、め、こ、ま、れ、た。も、と、に、も、ど、れ、な、い」
『魔石埋め込まれた、元に戻れない』と確かに口元が変化したのを確認した。そしてヨーゼフの口はさらに動いた。
「も、う、げ、ん、か、い、す、ぐ、に、で、も、で、ー、も、ん、に、な、る」
『もう限界、すぐにでもデーモンになる』だと?
もしも元に戻れるのであれば今だけかもしれないのか。魔石を埋め込まれたって……ここで俺は思い出した。
5年前のアルメリア迷宮の迷宮飽和をだ。あの時クイーンアントが名前付きだった。このままヨーゼフがデーモンになるのであればきっとあのクイーンアントのアーリンみたいになるであろう。
という事はあのアーリンはもともとクイーンアントではなく人間だったのか? 確かあのアーリンからは魔石が2つ検出された。
大きな魔石と小さな魔石……小さな魔石は確か人造魔石だったはず……もしかしてこの人造魔石をヨーゼフは埋め込まれたのか?
「ヨーゼフ! 埋め込まれた魔石は人造魔石か!?」
俺の言葉に人間部分のヨーゼフが驚いた顔をした。きっとビンゴなのだろう。
「人造魔石を取りだせばもとに戻れるか!?」
俺の言葉にヨーゼフは『分からない』と口元を変化させた。可能性はこれしか見つからない。
「クラリス! エリー! アルメリア迷宮の名前付きを覚えているか!?」
「覚えているわよ!」
「……少しなら……でも……呪われていた……記憶曖昧」
クラリスとエリーがそれぞれ返事をしてくれた。そういえばエリーはあの時はまだ呪われていたから記憶が曖昧なのか。
「ヨーゼフには人造魔石が埋め込まれている可能性が高い! もしも人造魔石を取り出せればもとに戻る可能性がある! 俺はヨーゼフを助けたい! だがどうやって人造魔石を取りだすか方法が分からないし、どこに人造魔石が埋め込まれているか見当もつかない! 何か気づいたことや案があれば教えてくれ!」
俺の言葉に2人は黙ってしまう。流石にすぐに案が出てくることはないよな。するとヨーゼフ本人がある行動を起こした。
人間側の左手を右半身の胸の辺りを指さしたのだ。ヨーゼフはそこにフレアを発現させようとしているらしいが実際には発現しなかった。もしかしたら自傷行為が出来ないのかもしれない。
「マルス! 人造魔石はきっと右半身の胸の辺りよ!」
どうやらクラリスも俺と同じことを思ったらしい。
あとはどうやって人造魔石を取りだすか、埋め込まれたと言っていたから、きっと取り出すことだってできるはずだ。
体表にあればいいのだが……もしも体内であれば取り出す際は、ヒールをかけながらでないとヨーゼフ自身が死んでしまう可能性がある。尤もあのステータスを見れば死なないと思うが。
「その人造魔石を破壊するのはダメなのか!?」
ヒュージが俺に聞いてくる。確かに破壊してしまった方が楽かもしれない。だが人造魔石だけを破壊してヨーゼフの体のダメージを抑える方法なんてあるのだろうか?
「もしも取り出すことが出来なければ破壊しましょう! ですができれば取り出したいです!」
言ったはいいものの、どうすればいいのか全く思い浮かばない。やはり取り出すとなればヨーゼフを押さえつけて人造魔石を取るしかない。
考えている間にもどんどんヨーゼフの右半身はデーモンを召喚する。俺とクラリスで召喚されたデーモンを次々と倒すが、このままではいつか俺たちのMPが枯渇してしまう。
対するヨーゼフはMP回復促進という特殊能力を持っている。実行するなら早いほうが良いな。
まず人造魔石が体表にあるのか体内にあるのかを確認したい。
「ヨーゼフ! 上半身の服を脱ぐことは可能か!?」
ヨーゼフは必死になって服を脱ごうとしているがどうやらできないようだ。もう一回俺が近づくしかないか……今のヨーゼフはステータスの割りには相当弱い。
左半身が戦う意思がないし、右半身のデーモンの部分に対して逆らっているから当然だ。だから今はあっさりと近づくことができるが、完全にデーモンになってしまったらさっきのようにはいかないだろう。
俺は未来視と風纏衣を展開してヨーゼフに突っ込む。
右半身がフレアを放とうとしていたので風魔法で発現を阻害しながら近づく。完全に発現を邪魔することは出来なかったが、放たれたフレアはウィンドでもおつりがくるようなフレアだった。
雷鳴剣を抜きヨーゼフの上半身の制服を斬る。当然ヨーゼフの体には一切雷鳴剣は触れていない。
ヨーゼフの上半身が露わになるとやはり右半身がデーモンで左半身が人間だったが、デーモンの部分がかなり多くなっている。
どんどんデーモンに浸食されているのであろう。そして右の胸には人造魔石が目視で分かる位置に埋め込まれていた。
ここならヨーゼフの体内を探さなくて済む。それに人造魔石自体はかなり小さい。これならヨーゼフの体にあまり負担をかけずに取り出せる可能性がある。
ヨーゼフの右半身の攻撃を躱しながら人造魔石を取りだそうと試みるが、手でつかみ取る事は出来ないっぽい。
つるつるの水晶の中の異物を取るような感覚でとっかかりが全くないのだ。これは本当に破壊するか、周辺部分をえぐり取るしかないのかもしれない。
仕方なく俺がヨーゼフから離れるとまた右半身がデーモンを召喚し始めた。今度は左半身がデーモンをフレアで攻撃することは無かった。もしかしたら本当に限界が近いのかもしれない。左半身が攻撃に参加しないというだけでもありがたいのだが……
召喚されたデーモンをまた俺のホーリーとクラリスの魔法の弓矢、アイクとカレンのフレア、ヒュージとミーシャの氷槍で召喚されたデーモンを次々と倒すがヒュージとミーシャの残りMPがかなり怪しい。長期戦は無理だし何よりヨーゼフ自身がデーモンになってしまう。
「手でヨーゼフの人造魔石を取りだすことは不可能っぽい! 誰かいい案があれば言ってください!」
するとライナーから
「もしも剣でえぐり取るなら俺がやる! マルスよりは剣の扱いになれているからヨーゼフに与える負荷が少しは低くなるだろう!」
やはりえぐり取るという事を考えるか。もう残された時間はわずかだ。
「よし! 今からみんなでヨーゼフを取りおさえて人造魔石をえぐり取る! 俺とヒュージ様、エリー、アイク兄でヨーゼフの右半身を抑えるぞ! ライナー先生は慎重に人造魔石をお願いします! 他の者は万が一デーモンが召喚された場合を想定しておいてくれ! クラリスはきつそうなところをカバーしてくれ!」
とてもアバウトな指示になってしまった。だがやるしかないのだ。
俺がまたヨーゼフに近づくとデーモンを召喚するのをやめて右半身がフレアを唱えてきた。先ほどと同じようにフレアの発現を阻害しながらウィンドで相殺する。
右半身のデーモンが後ろに下がろうとするが、左半身のヨーゼフが必死になって後ろに下がるのをこらえている。
右半身のデーモンの注意が俺だけに集まっているのをエリーは見逃さなかった。
エリーが右腕を捕まえるとヨーゼフの右半身が意外そうな顔をした。しかしその後、右半身のデーモンが密着状態のエリーにフレアを唱えようとしていた。
「エリー! 逃げろ!」
俺が叫んでもエリーは逃げる様子がない。
そして俺の未来視が視せる1秒後の世界はエリーは攻撃を食らっていないし、まだフレアすら発現されていない。
どういうことだ? どうやら右半身も驚いているようだ。エリーが右腕を抑えている隙に、俺とヒュージ、アイクも取り押さえた。何度も右半身がフレアを唱えようとしているのだが魔法は発現しなかった。
「……音魔法……効いた……」
そうか! 魔物も何かしらの音を出して魔法を発現させているからその音さえ消してしまえば無詠唱でもない限り阻止できるのか! だが念には念をでアイクとヒュージが右腕を取り押さえた。
「ライナー先生! お願いします!」
ライナーが人造魔石の周辺をえぐり人造魔石がつかめるようになった。右半身が凄い抵抗をするがさすがにアイクとヒュージの2人に押さえつけられて脱出できるわけが無い。
魔法もエリーの音魔法によって唱えることが出来ない。
慎重に人造魔石を取りだそうとすると人造魔石から何百本と言う血管のような管が、ヨーゼフの体内につながっていた。










