第206話 運0の末路
「マルス!私たちだけで戦わせて! 脅威度B+と戦ってどのくらい通用するか試してみたいの!」
クラリスの言葉に俺は頷いた。デーモンのステータスは今の俺達から見るとそこまで脅威ではない。まずはクラリス、サーシャの魔法とレッサーデーモンの魔法戦が始まった。
いかにクラリスとサーシャの魔力、レベルが高いとはいえ、2対10では魔法戦で押し負けてしまっている。
しかし少し粘ると2人のMPの高さが生きてくる。レッサーデーモンのMPが尽きるとアイクとエリーがレッサーデーモンたちの所に向かおうとするが、ここで予想しなかった光景が目の前で起きた。
レッサーデーモン達の後ろにいたデーモンがMP0になったレッサーデーモンを、持っている槍で次々と刺し殺した……同族を殺しているのだ。
そしてMP全快のレッサーデーモンを新たに召喚したが、召喚したのは5体までだった。
5体までしか同時に召喚できないのか? 残りの4体は他のデーモンが召喚したのか? それとも余力を残しているのか?
「ど、同族を殺しただと……?」
デーモンの所業に俺たちは凍り付いた。確かに俺達人間も人間同士で殺し合いをする。だがこんな殺し方はしない……これがデーモンか。
次々とデーモンがレッサーデーモンを殺し、新たに召喚したレッサーデーモンがまた魔法を唱えてくる。
これが【運】0のレッサーデーモンの末路か……【運】0に生まれなくて本当に良かった。
「お義兄様! このままでは埒があきません! フレアでデーモンを狙ってください! エリーもデーモンだけを狙って!」
クラリスがアイクとエリーに指示を出すとアイクがフレアをデーモンに放った。するとデーモンは土魔法の土壁でフレアをいなすとレッサーデーモンを置いて後方に下がっていく。もしかして不利だと思って逃げたのか?
エリーと俺でデーモンを追いかける。クラリスたちは敢えてMPが切れているレッサーデーモンを生かしておいてデーモンが新たにレッサーデーモンを召喚することを妨げている。
逃げるデーモンに俺とエリーが追い付くとデーモンが俺達に向かってがむしゃらに魔法を唱えてくる。
こいつMP回復促進という面倒な特殊能力を持っているから短期で一気にけりをつけた方がいいかもしれない。
俺がそう思っているとエリーがデーモンの魔法を躱しながら近づくことに成功した。
デーモンは接近戦でエリーに勝てるわけがなく、羽を使って空に逃げようとしていたのだが、エリーも風のブーツの効果で空を駆ける事が出来る。あっさりとデーモンを捕捉し止めを刺した。
エリーの近くに行くと、エリーはところどころ火傷や擦り傷を負っていた。すぐにハイヒールでエリーの傷を手当てする。
「大丈夫か? エリー? 他にどこか痛むところはないか?」
「ありがとう……大丈夫……早く戻ろう」
俺達がクラリスたちの下に戻るとクラリスたちもレッサーデーモンを全て倒し終わっていた。
「デーモン戦はやっかいね。今回はデーモンが1体だったから良かったけどもしデーモンが2体、3体と来ていたら危なかったわね」
クラリスの言葉にサーシャが
「ええ。確かに……この分だと魔の森では激しい戦いが始まっているのかもしれないわね。魔の森には同じように魔物召喚をするキマイラがいるわ。そして最深部には地獄の番人と呼ばれている魔獣もいる。さっき撤退したようにデーモンはかなり賢そうだからさすがにそこには手を出すことはなさそうだけど……」
「他の魔物が逃げ出す気持ちがわかるな。デーモンと対面するとどこか恐怖心が湧いてくる。あれは普通じゃない……」
アイクが手を顎に添えながら言った。確かに……何をしてくるか分からないという点では本当に恐怖でしかない。
「取り敢えずアイク班はみんな休んでください。僕たちマルス班で夜は警戒します。明日の昼にでも会議をしましょう」
カレンとミーシャ、イーストとユーリが街の南側に顔を出したのが確認できたので、アイク班には早く休んでもらった。
マルス班は俺とエリーが南側を重点的に警戒し、カレンとイースト、ミーシャとユーリのペアで街の周りを巡回してもらう事にした。
2031年5月21日
バーグットの街の警備は順調だった。尤も初日の深夜の戦い以降、デーモンが襲ってくることは無かった。
だがアサルトドッグを始め魔の森の外周部に生息しているであろう魔物が定期的に狂乱状態でこちらに向かってきている事を考えると、まだ魔の森にデーモンがいることは間違いないだろう。
明け方になるとようやくバーグットの住民が戻ってきた。一気に1000人近くを護衛するのが無理だから街の住民100人を冒険者10名で護衛して戻ってきているようだ。
街に戻ってきたヒュージにガナルの街の様子を聞いてみると、どうやらガナルの街の周辺に居たバーグットの住民の何割かは他の街を目指して歩いて行ってしまったようだ。
ガナルの街の周辺に居たのは幼い子供を連れた家族や高齢者ばかりだったという。
すぐにまたヒュージ達はガナルの街に向かうという事でバーグットの街を出て行った。
ちなみにガナルの街の冒険者たちはヒュージ達を手伝う事はしていないという。あそこの街には本当にいい印象がないな。
2031年5月28日
ようやくガナルの街にいたバーグットの住民たちがほぼ全員戻ってきた。中にはもうバーグットが怖いからガナルの街に残るという者も居たようだが、ガナルの街はガナルの街で怖いと思う。
またギルバーンからも戻ってきた人間が多数いた。これでかなりバーグットの街の活気が戻ってきた。
そして俺たちは4人で今後の事を宿で話し合っている。4人と言うのは俺、アイク、サーシャ、ヒュージの4人だ。
「まずはご苦労だった。サーシャさんの言う通りマルスたちに任せて正解だったようだ。地獄の蛇は現れなかったようだが、どうだった?」
ヒュージの言う「どうだった?」は恐らくどのような魔物が現れてどのくらい苦戦したかを聞きたいのであろう。
「はい。ヒュージ様が最初にこの街を発った深夜にデーモンが襲ってきました。デーモンはかなり強かったし、何より残虐でした。同族を殺して新たに召喚するという考えられない事をしてきました。まるで同族を物としか扱っていないようでした」
俺がヒュージに報告をするとヒュージが声を大きくして
「デーモンか! 戦ったのか!? どうだった!?」
「デーモンは遠距離型の魔物で火魔法、水魔法、土魔法を操ってきます。そしてレッサーデーモンという脅威度C+の魔物を召喚してそのレッサーデーモンも魔法で攻撃してきます。
このレッサーデーモンのMPが無くなると先ほど申し上げたようにデーモンがレッサーデーモンを殺し、新たなレッサーデーモンを召喚します。
今回は僕たちがデーモンを倒すことが出来ましたが、デーモンがオーガと同じように何十体もいたら撤退するしかないと思われます」
「デーモンを倒したのか! それに1つ聞きたいのだがマルスはオーガと戦ったことがあるのか? という事はリムルガルド城に入ったという事か?」
「いえ、オーガとは違う場所でたまたま遭遇いたしまして……ですが今度、スザク様とフレスバルド第2騎士団の烈火騎士団の団長のレッカ様、あとは獣人のビャッコ様と一緒に僕もリムルガルド城に行くことになりました」
「なんと! ビャッコとはあの獅子族のビャッコだな!? それにレッカも一緒なのか……そこにマルスが抜擢されるとは……やはりマルスはただ者ではないな……」
今後の方針を話し合うつもりだったのだが、どんどん話が違う方向にずれていく。
「この前も進言させて頂きましたが、魔の森の前に砦を作り、そこを拠点としたいのですが、ヒュージ様も協力して頂けませんか?」
俺が話を強引に戻すとヒュージが
「本当にこの前言ったように住民たちの協力も得ずに出来るのか? にわかに信じがたいが……まぁやるだけやってみよう。バーグットの街壁、街門がかなり頑丈になっている理由ももしかしたら分かるかもしれないしな。今日は1日休んで明日からでいいか?」
俺が「はい」と返事をすると今度はアイクがヒュージに向かって
「ヒュージ様。お願いがございます。ヒュージ様の手が空きましたら、僕に槍を教えて頂きたいのですが……僕も槍使いとして槍王のヒュージ様に訓練をつけて頂ければ自信につながるので、ぜひお願いします!」
アイクがしっかり腰を曲げて頭を下げると
「分かった。俺もリスター帝国学校最高の傑作と呼ばれたアイクの実力を見せてもらいたい。楽しみにしている」
ヒュージがアイクの手を取り握るとアイクはもう片方の手でガッツポーズをしていた。これほどまでの向上心、本当に頭が下がる。
今日はゆっくり休憩を取り明日に備えよう。










