表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/206

6章21話:飛騨上空戦

因みに最終回まで描き切りました。最後まで楽しんで頂けると嬉しいです。

翌日、木葉らは日本人帰還組の第一陣を送るために王宮の庭園に集まっていた。 

 5組は32名、4組は40名、15期生が1人。木葉、迷路、なわてを除く日本人は帰還の準備完璧である。

 

「帰りたくないなぁ」

「そーだよウチらもうちょっと異世界楽しみてえ、ウチのサバサバエピソード増やすためにも残りてーんだけどぉ?」

「はいはいさっさと帰れ帰れ」


 ぼやく上田おとめ、千曲ともえ両名をあしらう木葉。何事もなく帰れることを喜んで欲しいくらいである。

 さて、ロゼが呼んでいたので儀式台の方へと向かう木葉。儀式台には色とりどりの宝石が並んでいる。言わずと知れた魔女の宝石だった。


「コードが解読出来たからあとは使うだけだね〜」

「了解。それじゃあ、いくよ」


 8つの宝石、それらのコードを用いて、浮かんできた言葉を唱える。


「《月を創り給え、創り給え。空を超え、時を超え、世界を超える嘆きの月。繋ぐ、いつか来た道を、繋ぐ、これから歩む道を》」


 祝詞を唱え終えると、木葉は頭の中のイメージを広げて、そのまま前に手を伸ばす。

 光の粒がイメージに沿って物体を創造していく。わかりやすいイメージをすることが魔法のコツだ。

 木葉が想像し、創造したのは障子が貼られた襖だった。更に襖の前には真っ赤な鳥居が出現する。


「これ、神社の……」

「木葉の中では神社の出入り口が1番印象に残っているのでしょうね。開けてみましょうか」


 恐る恐る木葉と迷路が襖を開く。すると、


「あ……」


 見覚えのある建物が建っていた。


「神社……。お爺ちゃんの、神社」


 古びた社、古ぼけた石灯籠、朽ちたしめ縄。それは昔懐かしい光景だった。すくなと迷路と3人で遊んだあの神社。


「ここに出るのかぁ」

「懐かしいわね」

「お、アタシがよく遊んでた場所じゃん!」

「そうよ、あんたがよく蝉の抜け殻敷き詰めてた場所よ」


 柊もよく遊んでいた神社。みんなは知らない場所だとは思うが、間違いなく日本だった。


「時間とかはどうかな〜?」


 ロゼが心配していたのは時間軸。果たして召喚した時と同じ時間に帰れてるのかという問題だ。その辺は実際に時計などで確認するしかないだろう。


「とりあえず確認だけはしてみるか。この扉、どれくらい保つかな」

「木葉がいる限り何度でも使える訳だしそこは心配しなくていいとは思うけれど、念のため今から48時間は出しておきましょう」


 変に魔力を食うから長いこと出しておきたくはないが、万が一ということもあるのでね。

 と言うことで一行は久しぶりに日本の地を踏むため、鳥居に向かって足を踏み出し……。








「待ってたよこのは、あお」








「……………………え」


 社の天井に穴が空いた。そして、中から黒いモノが飛び出してくる。その姿を確認した時、木葉はある程度予想していたとは言え動揺を隠せずにいた。


「すく、な……」


 そうだ、すくなは昔こんなだった。真っ黒、ただ真っ黒い人。顔はない。全て塗りつぶされた黒の存在。

 顔はわからない。ただ、すくなは笑っているように見えた。


「久しぶりだね、このは。ようやく、ようやくここまで辿り着いたんだ。それに、あお。よかった、救い出せたんだね」

「なんで、貴方がここに……」

「私が日本に潜伏してたから、かな。フォルトナが死んだのは分かったよ、彼の保有していた悪魔の何割かは日本に逃れちゃったから全部食べてあげました、えっへん!」


 すくなが可愛らしい仕草で胸を張る。だが迷路も木葉も彼女への警戒は解かなかった。


「ようやくこれで、1000年以上かかった物語に幕を下ろせる。ああよかった、よかった」

「すくな……なんで最終決戦も居ないで日本に居たのか、聞いてもいい?」

「簡単な話だよ? 色んな準備をするため。もうこのはが勝つのはすくなの中では確定事項だったからね。見たところ、残る悪魔保持者はこのは含めて3人、かな?」


 いつのまにか日本の地を踏んでいた一行を、すくなは観察する。ロゼ、なわては臨戦体勢を取っていた。


「蠍の悪魔、ロゼの方は明確な名前はないけど上級悪魔くらいにはなってるのかな? 『桜の悪魔』とでも名付けようか。そして、7つの大罪を宿したこのは。3人いればすくなを殺せるね、うん、うん」

「なに、を……」


 1人納得した様に頷くすくなを見て、木葉は嫌な予感を覚える。


「何って、このははこの物語を終わらせるんでしょ? それなら最後に殺しとかないといけない存在がいるじゃない。満月の世界からはフォルトナが消え、そしてこのはは両面宿儺になる。その為には『すくな』を食べなきゃ!」

「ーーーーッ!? はじめから、そのつもりで……」


 満月の世界を構築した両面宿儺のうち、フォルトナは消滅した。だがすくなは言い放つ。すくなを殺さないと両面宿儺を構築する悪魔を全て食べたとは言えない。それ即ち、


「最初から、私に殺される為に私を魔王にしたのッ!?」


 木葉の激昂を上空から見下ろすすくなは、口を歪ませて言った。




「そうだよ。このはを壊してフォルトナを倒させ、あおを救出させる。そうして名実ともに最強となったこのはに、すくなは食べられる。やっと長い長い呪いのような物語から解放される!!!」




 歪んだ執念。だが木葉もそこは譲れない。もう1人の自分であるすくなを傷つけることは出来ない。


「私は食べないよ、すくなを傷つけるくらいなら、私は……」

「そうだろうね、だからロゼも食べてないんでしょ? でもねこのは、残念ながらこのはに選択してる時間はないんだよ」

「な、なにを……」


 嫌な予感。だめだ、早くすくなを止めないと、本当にだめだ、良くないことが起きてしまう。


「さあこのは、すくなを殺して食べて! 私の罪を一緒に背負ってよ!!!」


 すくなが両腕を広げると、彼女の姿は更に悍ましいものへと変化した。真っ黒い体は膨張し、その体躯からは腕や口、目など人間の部位が剥き出してケタケタと不気味な笑い声をあげている。

 完全に化け物と化したすくなはそのまま飛び立ち、そして、




「悪役を演じるのは楽しいよねぇ!!! すくなが日本を滅ぼすのを、黙ってみていられるのかなぁ!?」




 森に向かって黒い炎を吹き始めた。



………


……………………


 飛騨の山奥から飛び立った真っ黒い悪魔:大悪魔すくな。彼女は両面宿儺のうち、6割を占めていた。木葉に悪魔を譲ったものの、一方で逃げてきたフォルトナの残滓を沢山食べており、その脅威度は木葉と同等である。

 そんな彼女が本気で街を破壊しようとしたらどうなるか、そんなことは目に見えていた。


「ご覧ください! 森が、街が燃えています! 真っ黒な存在が、街を! これは一体!?」

「既に街は燃え、山の方でも大規模な火災が発生しています。住民の皆様は急いで避難を!」

「自衛隊が出動して対処に当たっていますが、依然としてあの黒い生物には有効打を与えられず」

「黒い生物は街を焼きながら西を目指して……」



 

 ニュースが流れ、人々が逃げ惑う。そんな状況、テレビを見なくても大方想像がつく。木葉はそんな現状を直視しつつ、必死になってすくなを追う方法を考えていた。


(早すぎる!!! そもそもこっちの世界には霊脈がないから魔法が使えない! そうなると、魔法に頼らない悪魔の力を使うしか……)


「木葉!!! さっさと飛ぶわよ!」

「へ!? でも、魔法が」


 迷路は懐からノートを取り出す。王都決戦の前、ラクルゼーロに送ったオリバード家の技術:スペルノートだった。


「スペルノートがあるわ! これで霊脈を通さなくても魔法を発動できる! 他の連中は救助活動急いで!」

「は、はい!」

「私と木葉、ロゼ、なわてはアイツを追う! 日本人組は救助活動! スペルノートを配っておくからそれで各々魔法を使いなさい!」


 狼狽えていた日本人組だったが、笹乃が意を決して前に躍り出る。笹乃の判断は迅速だった。


「街を、私たちの街をみんなで救いましょう! こういう時のために、私たちは努力してきた筈です!」

「そうよ! 私たちなら大丈夫。街のみんなを助けよう!」


 花蓮を筆頭に語李、零児、梢、樹咲も決意を固めた。


「フィンベルさん、お手伝いお願いできませんか!?」

「任されました! って大丈夫でしょうか、レイラ姫」


 不安そうにレイラを見るフィンベル。レイラも深刻そうな顔つきだった。

 理由はもちろん、日本への過干渉にある。


「私たち異世界組は数名のみこちらの世界に来るべきでしょうね、下手に影響を残してもまずいでしょうし。回復魔法使いを派遣します、それが限度です」

「ありがとうございます!」


 各自が各自でやるべきことを決めた。そんなみんなを見て木葉も覚悟を決める。


「すくなを倒す。ロゼ、お願い」

「承知したんよ、方舟!」


 黒い軍艦:奥羽が空に浮かび上がる。最大船速で追いかければ、破壊活動に時間を割かれているすくなに追いつけるはずだ。


「しゅっぱーつ!」


 奥羽の最大船速。現代において飛行機を見慣れた人間も、流石に空飛ぶ軍艦はお目にかかれない。


「凄いスマホをむけられてる……」


 SNSでのお祭りは最早避けられないが、背に腹はかえられない。というかお前ら逃げろや。


「すくなはどうするつもりなんだろう」

「このまま山を焼いていくのも困るから出来れば山で仕留めたいわね。覚悟はいいかしら?」

「……わかってる。すくなは私が倒す」


 すくなの居場所は分かり易い。彼女が街を破壊して回っている以上、そして彼女が木葉の手による死を望んでいる以上、見つけにくい場所にいるはずが無い。

 

「追いついたッ!」

「あははは、来たね。ロゼとなわても」


 悍ましい形の口(?)から漏れ出る黒い炎が、森を焼き尽くしていく。途中の道路も全て燃え盛り、このままでは山火事によって甚大な被害が出ることは明白だ。


「迷路、消火お願い。それにロゼ、ロゼは援護で」

「なんでかな?」

「竜化、進んでるんでしょ?」

「ーーーーッ!? 気づいてたんだ」


 ロゼは《竜化》スキルによって木葉と同等クラスの力を発揮できるが、それは自身を人間から遠い存在にしていくという諸刃の剣だった。


「でもいいの。僕はこののんと過ごせればどんな姿になったって」

「私は……やだよ、ロゼが自分を犠牲にするのを見るのは」

「じゃあ僕だって嫌だよ、こののんとめーちゃんが犠牲になるのは」

「ーーーーッ!」


 そのカウンターは図星でしかない。この期に及んで木葉とロゼの考えには溝があった。


「さ、やるよ。なわなわも構えて」

「こんな時に揉めてる場合じゃ無いでしょうが。あたしが切り込んで叩き落とすから、落としたところをロゼが追撃して木葉が食べる。それでいいわね?」


 無言で頷く。なわては宜しい、と言わんばかりに目で合図した。


「いくわよ」


 魔剣アンタレスを縦に一線する。青い炎が黒の体躯を切り裂かんと迫る、が体から黒い炎を出して迎撃するすくな。しかしそれによって視界が悪くなり、その隙をついてなわてはすくなの身体に登っていた。


「おちろ」


 アンタレスを深々と突き刺し、すくなを撃墜しようと試みる。しかし鈍い音によってアンタレスは阻まれていた。


「くっ! 硬い!」

「だめだよ、そんなんじゃぁ」


 すくなの体から無数の手が伸び、剣を抜こうと必死ななわてに襲いかかる。


「なわなわ!」


 それらをロゼが火雷槌で切り裂いていく。だがその硬さはフォルトナのソレを遥かに凌いでいた。


「ぐううああああっ!」


 ロゼは《竜化》して再度撃墜を試みる。大きく広げられた体躯全体に負荷をかけるべく、なわてとロゼは同時に叫んだ。


「《布都御魂(ふつのみたま)》ッ!!!」

「《幸いを見つけた蠍の心臓》ッ!!!」


 青い炎、桜色の雷が空を覆う。恐るべき魔力量によって空は曇り、雨が降り始めた。

 2人の攻撃によってすくなの体躯は大きく傾き、徐々に高度を下げていく。

 それでも決定打にはなり得ない。2人に襲い来る無数の腕を切り落とすべく、木葉もまたすくなの体に飛び移る。


「はぁあああっ!!!」


 瑪瑙を抜き放ち、すくなの表面を切り裂いていく。そのまま柔そうな部分を見つけて斬り込みかかり、





「逃げてッ!!!」





 迷路の叫びで咄嗟に受け身を取る。だがロゼとなわては対応が遅れ、すくなの放つ黒いエネルギーに飲み込まれていった。


「ゴオォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 地獄の奥底から鳴り響くような地鳴りが、森を覆う。木は薙ぎ倒され、地面は剥離し、近くの湖の波は大きくなっていく。


「あああああああああアッ!!!」


 なわてとロゼは炎を防ぎ切ったものの、暴風によって弾き飛ばされ、木々の間に落とされた。


「木葉ッ!」


 木葉は韃靼人の踊りを発動させ、足場を作ってなんとか持ち堪える。心配そうに奥羽から覗き込む迷路に合図を出し、そのまま下降していくすくなを見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ