表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/206

6章12話:人形の最期

ストックが結構溜まってるのでこのまま最終話まで駆け抜けてもいいんですけど、小話でも挟もうか少し迷ってます。

 奥羽に乗れる人数は60人が限度だ。それでいて魔女の宝箱で展開されるレイド戦の上限は26人。一応後詰めとして34人を奥羽に待機させ、木葉達はワーグナー大聖堂がある島へとたどり着く。

 たどり着くといっても、船を着眼したらそこはもうワーグナー大聖堂だ。海に浮かぶ聖堂、島が聖堂、聖堂が島。そう形容する他ない。


「モン・サン・ミシェルってこんな感じなんだろうなぁ」


 木葉がポツリと溢す。そんな木葉を不思議そうに見る異世界組と同意する日本人の光景は最近では結構よくみるものだ。

 さて、大聖堂攻略メンバーは以下の通り。


【月光条約同盟】

木葉、迷路、ロゼ、子雀、ユウ、柊


【天撃の鉾】

カデンツァ、コード、ハイランド、ヨヅル、語李


【教会】

コーネリア


【勇者パーティー】

勇者、聖女、レガート、騎士団員6名


【神聖王国】

花蓮、零児、ルーチェ、樹咲、梢



「勇者と聖女は入れたくなかったけど、まぁいい実戦経験にはなるかぁ……」


 教皇であるフィンベルを前線に持ってくるわけにもいかず、とはいえ回復魔法の術者が迷路しかいないといないというのは少々心もとないため、聖女はまだ許せる。が、勇者に関しては聖女を守る盾役くらいしか今のところ使い道がない。

 なわてとアカネは念のため王都に残ってもらっている。何かあった時に王都に人を残しておかないと対応できない。

 ちなみに他の連中は本当にお荷物なので奥羽で待機だ。これなら神聖王国の騎士を連れてきた方がまだマシである。


「しかしこいつ連れてきたのは何でじゃ? なわて嬢と共に残せばよかったではないか」

「ワタシ、罪滅ぼしシタイ、デス。悲しいこと言わないでクダサイ、ルーチェ」

「全裸大行進でもう禊は済んだじゃろ」


 コーネリア筆頭司祭。金髪三つ編みの美女が参戦してくれている事実は素直にありがたい。

 彼女はルーチェと旧友であり、連携が取れる。何より強い、とにかく強い。その強さは一度ヴェニスで戦ってるからよくわかる。


「まぁ、役に立ってもらうとするよ、コーネリア司祭」

「お任せ、アレ」


 さて大聖堂の地下は特にトラップもなく、魔獣の出現もない。使い魔もいない。


「俺たちがきたときは魔獣がたくさん出てきたのに……」


 勇者の言葉を聞いて更に警戒を強める。

 大聖堂攻略に先立ち、木葉はある程度最悪の結果を見越していた。


(ノルヴァード・ギャレクが仕掛けてくる可能性)


 そしてその疑念は奥に進むにつれて確信に変わる。


「……………魔女が、いない」


 緊張しつつも開けた最後の部屋。そこにはいつものように異形の存在が待ち構えているはずだった。それに、


「多分、これ……宝石があった場所」


 分霊があったかどうかは定かではないが、恐らく宝石はもうない。

 

「どう思う?」

「十中八九、先手を打たれたわね。恐らくだけど、魔女はもう……」


 迷路の予想は、事前に木葉もしていた予想だった。


「異端審問官は魔女の宝箱を攻略できないんじゃなかったの?」

「うん、だから花蓮達を使って攻略させようとしてたわけだけど……。魔女の宝箱は魔女が認めたものを入れてくれる性質があるからね」


 つまり、なんらか魔女の宝箱が認めた人物を利用して侵入することは出来る。しかし、それが可能なら500年間異端審問官が入れなかったなんてことにならないだろう。


「よっぽど魔女が信頼する人物が裏切ったのか?」

「思い当たる節は一つしかないわね」

「………………………ドナウ、か」


 連邦首都で木葉から2代目魔王の遺体を盗んだ水色の魔女。アレが何かの理由で魔女の宝箱を訪れたならば、或いは……。


「予想はしてたけど手を打つのが早すぎる。ドナウとの接触期間含めて」

「ともかく、一度戻って考えましょう」


 迷路の言葉に頷き、踵を返そうとしたその時、




 ーー強烈な怖気が襲ってきた。




「ぁ、こ、れ……」


 魔王の研ぎ澄まされた感覚で直感するこの後に起こること。そしてそれは、竜の力をもつロゼも同様に感じ取っていたらしい。


「こののん!!!」

「わかってる! みんな伏せて!」


 大聖堂地下全体を揺るがす大きな地震。崩落する天井。これ以上ここに留まるのは不味い。


「《重力結界》! みなさん集まってください!」


 白髪の竜人族:コードが結界を生成し、全員を包み込む。そのまま浮上し、大聖堂入り口へと向かう。

 暫く結界内で耐えていたが、収まった頃には周囲は瓦礫の山だ。というか崩れ過ぎて大聖堂でさえ吹きさらしになっていた。





「ようこそ、魔王。我が神の元へ」

「やっとお出ましか、ノルヴァード・ギャレク」


 


 黒髪からのぞかせるギラギラとした目で木葉達を見下ろすノルヴァード。崩れかけの大聖堂内のフォルトナ像、その手に立つ姿は神の遣わした天使のようだ。


「そこ不敬じゃね? 降りてきなよ」

「こんな偶像、紛い物に過ぎない。私は既に本物から告示を得ている。些細な問題だよ、魔王」


 本物から、という部分で更に警戒する。王都決戦のあの日、ノルヴァードは既にフォルトナが復活済みであることを匂わせていた。それならば今この瞬間もどこかで……。


「そいつ……か?」


 白い翼を広げるノルヴァードの影に隠れてわかりづらいが、黒のフードを被った人物が偶像の手の中に収まっている。


「さぁ、魔王。食材は食材らしく、大人しく調理されてくれると助かるよ」

「私はお前に用はない。そこのフードの奴、そいつを引き摺り出して殺す。諸悪の根源め」

「諸悪の根源、ね。我々が手を貸したとはいえ戦争と貧困を巻き起こしたのは人間自身の手によるものだ。君の世界だってそうだろう? だから『飛騨の民』は満月の世界を作り出した。自分達の怨念の原因であるヤマトの民への復讐を目的として」


 両面宿儺ーー飛騨の民の怨念集合体から始まった物語。彼らは己の無念からこんな世界を作り出し、代理戦争のようなものをさせている。人間を駒にして、亜人を駒にして、そして恐らくは……。


「魔族……あれずっと疑問に思ってたんだけどさ……人間と大して変わらないよね?」

「君も魔族だ。それが全ての答えだと思わないかい?」

「ただ一点、人間を食糧とする存在という点が人間と魔族を隔てる壁だ。まぁ自身を捕食する生物との共存は確かに出来ないけどさ……でも、私別に人間を食べなくても生きていけてるんだよね」


 ずっと疑問だった。木葉は魔族、それも代表格の魔王という存在でありながら、限りなく人に近しい生き方が出来ている。それ何故か。


「フォルトナの影響を受けなかったから。魔族に纏わりつく瘴気、そして人喰いの文化。それがフォルトナに植え付けられたものだって気付ける魔族がいるはずない。だって生まれた時から本能的にそう思い込まされちゃってるんだから」

「…………………」

「これは仮説だけど……本来、魔族は人なんて食べなくても生きられる。でも彼らはその瘴気をフォルトナから受けることで、人間への憎しみを増大させて戦争を引き起こす。それが1000年にわたる魔族と人間の戦争の原因。


 で、もう一度言うけど、なんか反論ある? 諸悪の根源」


 なんてことはない。魔族、亜人、それらは元の世界風に言えば『特徴』でしかない。亜人は動物的な見た目をした人間、魔族は血が黒くて見た目が少し特殊でちょっと人より強いだけの人間。それがこの世界のヒト型生命の差。


 ーー人種と置き換えてもいい。


「本来ただの人種でしかなかった問題に、色んなオプションを追加して戦争へと進化させた。そうして虐殺を観劇し、自身の鬱憤を晴らす。……ダサ過ぎない?」

「……流石はスクナの子よ。賢く、強い」


 フードの人物が声を発する。まだ幼い、少女のような声だ。そしてこの声を聴くと、妙に心がザワザワする。頭が痛い。木葉は思わず頭を押さえてうずくまる。


「このは!?」

「だい、じょ、うぶ。お前を殺せば私の勝ちだ……フォルトナッ!」


 フォルトナめがけて斬りかかる木葉。それをノルヴァードの翼が迎撃し、フードの人物を抱いて像から飛び降りる。


「逃すか!」


 追撃。ノルヴァードが降りた時点で、そこにはカデンツァも斬り込んでいた。


「前回の借りを返させてもらおうじゃあないか!」

「くっ!?」


 守るものがなくなったフォルトナの心臓に鋒を向け、木葉はそのまま、





「私を殺すの? 木葉」

「…………………………………………ぁ、え、なん、で……」





 フードの下からあらわになる顔。その顔は、木葉がよく知る人物の顔。サファイアの瞳に青みがかった黒の髪、不思議な雰囲気の女の子。


「め、いろ?」

「心は、弱いようだ。安心したぞよ。櫛引木葉」


 二の句を紡ぐことなく、静止した状態の木葉の背中から刀が生える。一瞬何が起こったかわからなかったが、脳みそが追いつく前に口からその答えが吐き出された。


「げぼっ!」


 血の塊。下を見ると、木葉の腹に日本刀が突き刺さっていた。これは、見覚えがある。毎日のように見ていた刀。桜柄の鞘、美しい鋼の色、夢と寸分違わぬフォルム。


「おま、え………………がっ!」


 迷路の顔をした女の子が木葉を蹴り飛ばす。


「木葉!」


 本物の迷路が木葉に駆け寄る。

 その瞬間、目の前の少女が刀で空を斬った。

 切られた部分が変化して、そこから黒い生物が姿を表す。


「あく、ま……」


 揺らぐ意識の中、木葉が呟く。真っ黒な空間から黒い存在がどんどん溢れ出してくる。それは何度も目にした、木葉の酒呑童子モードの際にも目する、あいつら。


「これは……まずいな」


 黒い化け物たちは、真っ直ぐに木葉に向かって突き進む。


「はぁああっ!」


 ロゼが間に割って槍を振るい、それらを撃退しようとするが、ロゼでさえ彼らを仕留めきれない。


「これ……暗闇さんと同じ!? ってことは」

「下級悪魔! 下手な魔族なんかよりよっぽど強いぞ!」


 カデンツァが叫ぶ。その間にも悪魔はどんどん現世に出現し、そしてレイドパーティーを取り囲んで行った。


「めーちゃん! 撤退するよ! はやくこののんを!」

「このは! このはあああ!!!」


 回復魔法をかけ続ける迷路。ロゼの声が入ってこないほど動揺している。

 血は止まり、意識が回復しつつある中、下手に治療を止めるとまた危険な状態になるかもしれないという恐怖から、迷路は一心不乱に魔法を使い続ける。


「めい、ろ……」


 目が開けられるようになった木葉は、迷路の頬に手を伸ばしてさらりと撫でた。


「大丈夫、だから。一度引こう、ね?」

「木葉! 分かった、掴まって!」


 まだ腹は痛むけど、内臓に問題はなさそうだ。これなら、






「驚嘆。人形をつくっておったか、だが……」


 背後に立つ存在に気付き、咄嗟に《障壁》を展開する。


「貴方、何故私の顔をしているの!」

「貴様が偽物で、こっちが本物だからだとも、『勇者の人形』よ」


 障壁を削るような剣撃に、口の中を噛むほど力を振り絞って耐えようとする。


「どういう、意味ッ!」

「なんだ、記憶までは引き継いでいないのか。愚かよのぅ。それではなんの意味もないだろうに」

「なに、を……」

「わからんか? 貴様は人間ではない。





 人形(ホムンクルス)だ」





「……………………………え?」


 驚愕に打ち震える木葉。そして、迷路もまた、


「う、そ……」


 掠れる声。障壁も徐々に破壊されていく。


「傑作なりや。まさか気づいてなかったとでも? 血が通ってない感覚は? 体が動かなくなる感覚、そして何かの使命に突き動かされる感覚。ないわけがないだろう?」


 迷路の使命。それは、『木葉を守ること』。それは、迷路の使命ではあるけど、元々は……。


「貴様は、朕が使っているこの体、『初代勇者:サファイア』の人形(ホムンクルス)、魂を入れたただの人形に過ぎない」

「ゆう、しゃ……!?」

「道理で魂がないと思ったぞよ。こんなところにあったか。魔王よりそちらをまず貰い受けねばなぁ!」


 障壁が破られ、刀がついに迷路の体に届く。しかしそれを木葉が瑪瑙で防いだ。


「くっ!」

「弾け飛び給え」


 フォルトナの一振りにより、木葉は後方へ大きく弾かれ、壁に激突する。


「木葉!」


 再び障壁を展開し、木葉の下へと急ぐ迷路。あと少しで木葉の元へと辿り着くというところで、現実はやはり無情にやってくる。


「初代勇者サファイアの残した人形。奴の願いを貴様の願いと勘違いし、生きてきたその気持ちは如何に?」

「…………………」


 刀を一閃。


 何が起こったかわからないという顔の迷路が、ゆっくりと崩れ落ちる。

 木葉の目の前で、また、愛する人の命の灯火が消されようとしていた。






「だいすき、よ。このは」






 地面に倒れ込み、動かなくなる迷路。そんな迷路を見て、木葉は、




「あ、あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! よくも、よくもよくもよくもよくも!!!」


 酒呑童子を降霊させ、即座にフォルトナに斬りかかる。しかしその動きは歴戦の戦士のように軽やかで、刀を受け止めて尚且つそこに反撃を加えてくる。


「これが勇者の力ぞ、魔王」

「がはっ!!!」


 初代勇者、サファイアの体を操るフォルトナは、最も容易く木葉を追い詰めていく。


「武甕雷ッ!!!」

「む」


 既に悪魔と人間との混戦になっている中、怒りに満ちた顔でフォルトナに攻撃を浴びせるロゼ。


「こののん! 早くめーちゃんを!」

「わか、って、る……迷路、ねぇ、迷路!」


 



 どれだけ呼びかけても迷路は反応しない。糸を失った人形のように、そこには少女の骸があるだけだ。


「うそ、だよね?」


 冷たくなった体にそっと触れる。もう迷路の灯火は消えてしまった。





「め、いろ……やだ、やだ、やだやだやだやだ嫌だぁ! 迷路! 迷路! あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

迷路……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ