5章24話:アブノーマル
今回は描写R15です。コメントにもあったんですけど、私、主従逆転好きなのです…。苦手な方は飛ばしてくだされ。
饕餮、胴体は牛、牙は虎の如く、そして顔はふやけているが人間のそれである。目が4つありその全てがぎょろりと此方を向く。
その性質は全てを喰らい尽くす狼の性質と言われており、『貪欲』の象徴だ。遊牧民族にとって貪欲に羊を狩り続ける狼はさぞ恐ろしく写ったであろう。
そんなトウテツは背中から真っ黒な影を出現させ、周辺の土や城壁を貪り喰らった。後には何も残らない。
「グルルルルルル」
「うるせぇなカスゴミ、俺様の前に立つんじゃねぇ」
ユウの一言と同時に、巨大な羊の胴体はひっくり返って動かなくなる。
初代勇者は魔法による巧みな戦術が得意であったが、逆に2代目勇者が最も得意としたのは力によるヒラ押し……と見せかけた卑怯と愚劣を混ぜ合わせたなんでもありの戦術だ。
ユウは決して正面切って戦わない。いつだって最低な手を使って道を切り開いてきた。だから今回も、
「《錯乱術式》、おら、てめぇの尻尾が俺様に見えてくるだろ?さっさと食いやがれ」
その瞬間、トウテツは自身の尻尾に向けて黒い影を飛ばして貪り始める。自分を食べている自覚はない、トウテツはただ食べることだけしか脳が無いのだから。
やがて自身の全てを喰らい尽くし、そこには何も残っていなかった。
「はん、攻略法は頭に染み付いてるからなぁ。俺様ってば最強!!!」
そしてもう一体に向き合う。
窮奇、巨大な黄金色の虎に白い翼が生えた化物。
人を惑わせ戦争を起こさせることを好むこの化け物は、言葉を話すことが出来る。
だが、
「争え、にんげ」
「聞かねぇよお前の言葉」
笹乃の身体では巨大な武器な持てない。だからユウは敵を混乱させる遊撃手のような戦い方をする。
軽い身のこなしで短剣を振り回してキュウキの体を引き裂いていく。
「喉ォッ!!」
キュウキの喉元に短剣をぶっ刺し、言葉が喋れなくなった。そこを、
「掃射ッ!!!みんな撃てェェ!!」
待機していた柊以下6名の少年少女が銃火器をぶっ放し、キュウキの体に穴を開けていく。
キュウキはその能力を1割も出せぬまま沈められた。
「耳栓はもう外していいぜ」
「えっと、これしてなかったら……」
「速攻で洗脳魔法にかかってた。コイツは本来仲間割れを起こさせる化物だからなぁ」
「種が割れてるとこうもアッサリ倒せるんだなぁ」
感心する樹咲。
「さぁて、向こうも終わりそうじゃねぇか」
ユウの視線の先、そこには迷路と子雀がいた。
範囲が被らないように広く空間を取って戦う2人。子雀は歌を歌い、迷路の攻撃力を上昇させる。
「残る敵の性質はわかってるよなぁぁ!?」
ユウが叫ぶが返答はない。だが迷路は氷のように冷たい瞳でユウを睨むと、そのまま駆け出した。
檮杌、真っ黒な人間の顔、豚の口をもち、胴体は薄汚いこちらもやはり豚のような体躯をしている。
混沌、赤ん坊のような肉の塊から青色の翼が生えている謎の生物。彼が通る道は草木が枯れていく。
迷路は子雀の強化によって無尽蔵の魔力を有しており、氷を術式を使って2体を足止めする。
「トウコツは頑固者、防御力が固く一才の攻撃を通さない。そしてコントンは無。触れればその者は脳を奪われ、ただの肉の塊と化す。だったかしら?
つまり、こいつらはあんまり暴れさせないで沈めればいいのよね」
のっそり向かってくる2体。
「《背理の盾》」
迷路の特殊スキルが発動し、透明の壁が出現する。迷路目掛けて歩いてきていた2体はそれに触れた途端、完全に動きを止めた。
「これは……え、まさか時間停止?」
驚く木葉。一度時間系の魔法をカデンツァとの戦いで見ているが、その際も時間遅延でありそれはある種の速度低下であった。が、今回迷路が使った術式はそれとは訳が違う。
時間の停止はかつて南の魔王が、固有結界を発動することで対象周辺の空間における時間の停止を行うという術を使っていた。しかし迷路のそれは固有結界を必要としない。
「決して追いつくことの出来ない時の壁、矛盾の壁。対象から時間の法則を奪うこの壁は、私が守るべきものを守るための盾よ。《凍えるメロディー》、眠りなさい、永遠に」
動きを完全に封じられた2体は更に氷漬けにされることで一歳の動きを封じられ、そして、
「人間が触れるのはヤバそうだからね。うん、《酒呑童子》。悪魔達、こいつ食べていいよ」
酒呑童子モードの木葉が悪魔を出現させ、2体を捕食することでこの戦いは完全に終結した。
……
…………
……………………
石像から手渡された紫の宝石ーー【ミケーネの紫水晶玉】を受け取る。因みに今回スキルを獲得出来たのは木葉と迷路だけであった。
「《落陽》、ね。効果はおいおい試すとして……あら、貴方」
「お、レアスキルドロップしたな。《中国の不思議な役人》か、けけけっ、俺様ついてらぁ」
時たまドロップする魔女の名を冠するスキル。今回は笹乃の能力が増える結果となった。
今回最短で宝箱を攻略できたのはユウのお陰ではあるので文句はないだろう。
アテナイに戻るとまだ誰も戻ってきてなかったので今までの宝石の確認をすることにした。
獲得した魔女の宝石は6つ。
・ローマの光玉 (ローマの祭り)
・韃靼人の紅玉 (ダッタン人の踊り)
・シチリアの碧玉 (カヴァレリア)
・グランテストの緑玉 (ジョスランの子守唄)
・バルトの真珠玉(美しき青きドナウ)
・ミケーネの紫水晶玉 (中国の不思議な役人)
残るは1つ。7つ目については既にドナウから聞いてある。
ワーグナー大聖堂、潜む魔女は『エルサの大聖堂への行進』である。
(集める目的は3つ。1つは大魔法創造の魔法を取得すること。2つ目は霊脈の流れを正常にし、魔力を安定供給できるようにすること。そして、3つ目は勇者にこの力を使わせないこと)
大魔法創造の魔法は木葉にとってそこまで重要じゃない。これは、花蓮達を元ある世界へ帰すべきための魔法だ。
「私は、もう決めてるからね」
すくなに言ったつもりなのだが、すくなは出てこない。最近はすくなの気配が全くしなくなっていた。シュトラウス氷河でも精神安定剤たるすくなは出てきてくれなかったので、本当に何かあったんじゃないかと心配している。
「ただいまなんよ〜!!!」
ロゼが帰ってきたのは天空要塞攻略から20日が経った秋の日のこと。良い表情をしていたので恐らく戦果はあったのだろう。
レイラやアカネ、ルーチェらも会談が上手くいったらしく、連日作戦会議をしていた。木葉はというと、難しい話はあまり得意ではないのでその辺の出席は迷路に任せてある。
方舟で移動して再び拠点は帝都:ベルントに。
ロゼは戻ってきて早速やることがあるらしく、忙しなく何処かへ飛んだいった。
笹乃&ユウや他のクラスメイト達は千鳥の見舞いに行っており、最近は柊も彼女らとよく行動を共にしている。
まぁ、つまるところ、
「うーーーーーーー!寂しい寂しい寂しいよぉぉぉぉぉお!!!」
「うわっ、どうしたんですか我が主!?」
なんかの本を読んでいた子雀がビクっと跳ね上がる。
木葉はジタバタしながらソファの上でぐでーんとなっていた。
「すくなも酒呑童子も出てきてくれないし、他のみんなも会議会議で全然いないんだもん!!!」
「我が主も会議に参加すればいいのでは……」
「私行ったら萎縮する人たくさん居るからあんま行っちゃいけないんだってさぁ……はぁ」
「こゆとこ見てると我が主ってまだまだ結構子供ですよね的な」
心理的な寂しさもある。だが木葉としてはそれよりも、なによりも、身体の寂しさがあった。
「……最近シてないんだもん」
木葉は色欲の開花以降、愛されたい欲が強い。故に結構な頻度でそういった行為をせがむ。帝都滞在時の不安定な時期は毎日だったくらいだ。
一見ドSでサイコパスな木葉だが、その実かなり妹気質で甘えたがり屋なのは月光条約同盟なら周知の事実である。まぁ生い立ちが生い立ちなだけに仕方ないのかもしれない。
だが言葉には責任が伴う。
先程のセリフを聞いた時、子雀は理性が飛んだ。
「え、ちょ、力つよっ!?」
「はぁ、はぁ、我が主、我が主が良くないんですからね!!!」
木葉の部屋、ベッドに木葉を押し倒して腕を掴む子雀。その目はマジだった。
「や、それ迷路にボコボコにされるって!」
今更になって自分の軽率な言動を反省する木葉だったが、子雀の勢いは止まらない。
「我が主、我が主はいつも王様って感じじゃないですか」
「え、あ、うん……まぁ一応魔王で、しかもお前の主人だし」
子雀はその発言に少しキュンとときめいていたが、直ぐに表情を変えて木葉に向き直る。
「偶には何もかも忘れて『か弱い女の子』になりませんか。いつもいつも上に立って苦労して辛い思いをして……敵役になって……そんなの16歳の女の子が背負うには重すぎるんです」
「……………………………私がか弱い、ねぇ」
「ここに1つの媚薬があります的な」
「なんで持ってるのかは聞かないどくわ」
ドヤ顔で薬を取り出す子雀。用意周到すぎる。
「ちゅんは我が主が大好きです。でもまぁ、身分とか立場とか色々あるので結ばれないのは分かってます」
「………………」
「あの娼館から救い出されて、友達も出来て、今ほんとに幸せなのです。だからこそ、我が主には幸せになってほしいです」
「幸せ、か……」
「我が主は一度プライドとか全て取っ払って普通の女の子を覚えるべきなんですよ。まぁ迷路さんやロゼさんとシてる時どうかは知りませんけど」
ロゼや迷路は恋人として完全に対等なので、あんまり気兼ねはしてない。つまり結構常識的なお付き合いをしている。
子雀的に何が言いたいのかと言うと、
「ちょっと背徳的なことがしたいのです的な」
「なんかもう、台無しだわぁ……」
「ビバ、アブノーマル!や、だって我が主ってば、絶対普通の性癖って感じでお2人と過ごしてますよね!?でもちゅんは、ふふふふ」
「きしょい笑い方すんな……。まぁその、娼館に居たから性の知識狂ってるのは分かるけどさ……私本当に女の子が好きなだけの普通の性癖だと思うけど」
ジト目の木葉。子雀は手をわきわきしながら目を輝かせている。
「ちゅんはですね、我が主の可愛いところみたいのです。いつも王子様って感じの我が主のか弱いところみたいのです」
「……えー」
「自分より弱い従者に組み伏せられてるの、興奮しません?」
「しない」
「ええい!つべこべ言わずちゅんにもチャンス下さい的なぁぁぁ!!」
「はぁ…………怒られるの子雀だけにしてね」
「はい、勿論!!!」
(まぁ、ヘタレ子雀のことだし、少し戯れたら満足するよね、うん。こういうノリに付き合ってあげるのも偶には悪くないかもしれない)
木葉は数十分後、この考えが甘かったことを悟る。
30分後。
木葉は困惑していた。
媚薬とか同人とかで出てくる架空の薬だと思ってた。だが実際、木葉は暑さに悶え、身体中が色欲に支配されていた。
実際色欲モードにチェンジしてしまい、火照った体が曝け出される。そのフェロモンが更に子雀を狂わせた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「こ、すずめぇ」
(おかしい、制御できない、むり……)
ぼんやりする頭で木葉はどうにか現状を把握しようとするが、凄まじい性の欲求に襲われて涎が垂れてしまう。
最早水着ですら暑い。いそいそと脱ぎだし、生まれたままの姿になる。
「あつぃ、よぉ。こすずめ、やめよぉ、おみず、おみずぅ……んむむむうぅぅ!!」
口づけを交わす。子雀は木葉の唇を奪ってそして、
「水分補給です的な。ああ、かわいいなぁ、虐めたいですぅ」
「……はぁ、はぁ、はぁ。おまぇ、じゅうしゃのくせにぃ……きゃああっ」
「従者?いいえ、違いますよ的な。今日今この瞬間だけは、ちゅんが主人です。ね、木葉」
「ぁ、ぁぅぅ」
頭を撫でられると、媚薬の効果で凄まじい多幸感に包まれる。今や木葉の目には子雀しか映っていない。
「やっぱり妹が1番向いてますよ的な。今日は魔王であることを忘れて、ちゅんの従者としていっぱいご奉仕してくださいね、こ・の・は」
「あっ」
ニコっと笑う子雀。
その瞬間、ゾクゾクゾクと木葉の心を何かが支配した。そしてハートマークの目で幸せそうに子雀の胸の中で鳴く木葉。そして、
「はい、我が主……子雀さま♡」
「あ、ああああ、凄い背徳感です、ゾクゾクするです的な!!」
完全に堕ちた。快楽に溺れ、プライドを完全に捨て去ったドM木葉の完成だった。
その後1日中、2人は主従の立場を入れ替えて愛し合うこととなる。
「あのー……もう降ろしてもらえませんか的な……流石に1日この体勢はきつ、あたぁぁ!?」
「反省が足りないようね。煉瓦、もう1つ追加」
「そ、そんなあああああ!!!」
翌日、そこにはお仕置き部屋にて全裸で正座し、膝の上に沢山の煉瓦を乗せた子雀の姿があった。迷路は無表情で子雀の膝に更に煉瓦を積み上げる。
「木葉になんてもの教えてくれてんのよアンタ。帰ってきて早々、「お帰りなさいませ迷路様」は私の心臓が止まるかと思ったわよ」
「へへっ、ナイスアイデアだったでぐえええっ!?」
「その減らず口二度ときけなくしてやるわ!」
ちゅんー、ちゅーん、と悲鳴をあげる子雀を置いてお仕置き部屋から出てくる迷路。そして木葉の部屋を訪れた。
「木葉、調子はどう?」
「ん、すこぶる良いよ。なんかごめん……」
「良いのよ。それでその……ああいうのが好きなの?」
「好きではない……と思ってたけど、予想以上に興が乗ったというか、なんというか……
ハマっちゃったかも♡」
パジャマの下、木葉の首には犬用の首輪がつけられており、そこには「迷路のペット」と書かれていた。
迷路はそんな木葉にゾクゾクして首輪についてる鎖を引っ張り、ベッドに誘導する。
「どんな木葉でも私は大好きよ。さ、命令。服を脱ぎなさい、私の木葉」
「はい、ご主人様。えへへ」
(変な性癖を植え付けた子雀はボコボコにしておくけど、こればかりは私が得をしたわね、ふふ。M風総受け美少女化計画は順調ね)
迷路も大概ヤバい奴だった。こうして元々普通だった木葉は、まわりのやべー美少女たちによって百合+アルファでアブノーマルな性癖を植え付けられ、どんどん変な方向に進んでいくのであった。
……
…………
……………………
木葉が変な性癖に目覚めていた頃、ロゼは各地に飛び着実に味方を増やしていた。その1つにリヒテンがある。
五華氏族は所謂『公爵家』にあたり、王家を凌ぐだけの領地を有していた。リヒテンもまた、フルガウド家の統治下であった地域でありリヒテン周辺にはフルガウド信者が多い。
「お久しぶり〜。元気してた〜?」
「……ロゼ・フルガウド様」
「あれ、前呼び捨てじゃなかったっけ?アンソン」
リヒテンのギルド管理者:アンソン。その配下のティザとライカらにも唐突な大物の登場で緊張が走る。
何度も言うがロゼは神聖王国においてある種神格化されている。リヒテン戦の際にはみなロゼを賊徒として追っていたが、潮流が変わりつつある現在は真逆の評価と化していた。
「南部パルシア司令部からの言伝だよ〜。来る決戦の日、リヒテンは此方の指揮下に入ってもらう」
「……鉄血防壁:ファティマ上級主幹の書状、か」
ヴェニス戦に駆り出された将軍はその大半が南方パルシア軍管区の将軍で、しかもその首脳部はヴェニスで壊滅した。故に現在南部を取り仕切るのは生き残った黒人将校ファティマである。
「シャールメルン侯爵家が当主の死で混乱してたから謀略は進めやすかったよ〜。ヴェニス戦でぶっ殺しといてくれたこののんに感謝だね〜」
「そのお陰でリヒテンは難しい舵取りを強いられてますけどね」
「難しくないんよ、だって僕に従ってくれればいいんだから。拒否権はないんよ」
「……………」
「カンナ、アヴィニヨン、グルナーヴィー、ラクルゼーロ……全部僕の手中だよ。あとはリヒテン市だけ。1日あげるよ、沢山ディベートしてね〜」
リヒテンのギルド会館を去るロゼ。外では白髪の美青年:コードが待機していた。
「旧北リタリー領に飛ぶよ。あそこにもオストリア総督府を抑えるって役目があるからね」
「解答期限、1日で良かったのですか、ロゼさま……さん」
「うん♪どの道アンソンに選択肢はないよ。断ったらリヒテン市内の僕の協力者が彼らを殺す。でも僕平和主義者だから穏便にやりたいんよ〜」
「貴方は……やはり王に向いてますよ」
「あはは〜、王にはならないんよ〜。でもそれに近いところまでは昇りつめるつもり〜」
コードは竜を呼び、竜の背中に乗る。そしてロゼに手を差し出し、
「お手を、我らが王」
「気障だな〜、割とこういうの好きだけどね〜」
と笑いながら手をとった。
神聖王国全土を揺るがすとてつもない戦いが始まろうとしていた。
木葉は総受けノンケってイメージで最初描いていたのです。
レズ達に変な性癖植え付けられてドMレズになりました。
シャールメルン侯爵家はヴェニス戦で木葉に殺されたシャールメルン侯爵のおうちですね。南方パルシアの有力貴族だったので、彼が死んだことで南部は政治的混乱状態にあるのです。




