5章12話:帝都ベルントで再会
木葉達の保有する軍艦:奥羽は一度行ったことがある場所に瞬間移動する事ができる。翠玉楼でレイラ姫や花蓮らと別れた木葉達は翌日奥羽に乗り込み、とある場所に向かった。
ーーミュンヘルン都市国
神聖パルシア王国とリルヴィーツェ帝国の中間に位置するミュンヘルン四州の中でも最も帝国に友好的な国家であるが、その実態は帝国が神聖王国の緩衝地帯として残してあるただの傀儡国である。
「ど、ドイツだ!街並みがドイツだよ!」
「木葉、何を興奮しているの?」
「凄い!街の至る所でソーセージ売ってる!」
「割とよく見る光景なんよ〜」
「いやあたしらにとっては結構感動的な光景なんだって!やっと国の違いが見えてきたというか、やっぱ宗教の差って大きいんだなぁって」
柊は数ヶ月前にストラスヴールに居たからいいとして、木葉はこの美しい街並みをまだ見ていない。故にヨーロッパ旅行の続きが出来た!と感動している。ヨーロッパじゃないけど。
「観光してる暇はないわよ。シュトゥットガルデン都市国が降伏、フランクフル都市国ももう持たない。そうなると次は此処よ。そうなる前に帝都:ベルントに急がないと」
「分かってるよ。兎に角急ぎたいけど、その前に食料調達しないと多分そろそろやばいよ?」
「そんなの帝都で」
「帝都で奥羽を展開するわけにはいかないもん。ね?ちょっとくらいいいじゃん」
「……ちょっとだけね。その代わり、ほら」
「……?」
迷路に手を差し出す木葉。
「デート、しよ?私も恋人と手を繋いで街を歩くのやってみたい!」
「〜〜〜〜!!!……貴方ほんとに、なんというか、もう……もう!」
迷路と手を繋いで街を歩く。そんな2人を見て、ロゼ達は複雑な表情をしていた。
「わ、我が主ぃぃぃ……」
「妹を取られた姉の気分だなこりゃぁ」
「う〜〜〜めーちゃんずるいんよ〜〜」
「や、我はどうでもいいからな?」
木葉が迷路とのデートを楽しむ中、他4人は食料調達をする羽目に。これぞ踏んだり蹴ったり。
「油断も隙もないのよね。てわけで強制的にさよならよ」
「よく分からないけど、クリーム、ついてるよ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?」
遠い目をする迷路のほっぺについたクリームを口で取る木葉。慌てる迷路を揶揄いながら、自分のクレープも差し出す。
「このワッフルぽいのついてる奴美味しいんだよ。ほら、一口一口」
「もう……。へぇ、ほんとに美味しい」
「ワッフル発祥の地が近いからね。……こんな所まで現実世界が再現されてるとは」
その後もミュンヘルンの観光地を堪能した木葉と迷路。だがロゼ達が相当スピーディーに買い物を終えたらしく、念話が入って戻る羽目になった。多分狙ってやってる。
という訳で最後に旧市庁舎がかなり大きくて見応えあるということから旧市庁舎にやってきた2人だったが、
「もうこの国はお終いだよ!!!テメェらを土産に俺は神聖王国に行く!!神もそうせよとの仰せだぁ!」
て訳でテロリスト30人くらいに占拠される。こんな超展開普通に予測してないので、思わず物陰に隠れてしまった2人。普通にぶちのめしてもいいのだが、こんな所で面倒ごとに巻き込まれたくはなかった。
「でも助けないと人質やられちゃうしなぁ……」
「地元の騎士団でも呼ぶ?」
「えーっとこの場合どうやって呼ぼうか。ていうかコンタクト取るのも嫌なんだけど」
「観光しといてなんだけど、無駄な時間は使いたくないものね」
「うんうん!わかるわかるヨ!!!」
………………。
「取り敢えず花火でも打ち上げる?」
「それ犯人を刺激しないかしら?」
「火遊び楽しそうネ!!!」
………………。
「あの」
「何ネ?」
「いや、誰……」
木葉と迷路に混じって元気よく相槌を打ってくる人物。
燃えるような真っ赤な髪とこれまた真っ赤な瞳。よく見ると瞳の中には炎のマークが灯っている。また髪には2つお団子が出来ており、それがおさげのように垂れ下がっていた。はてさて、迷路の対極にいるような存在だがその顔もまた同様に美少女、どこか自信たっぷりな表情は木葉似である。
身長も木葉以下な少女は、何事もなかったかのように肉まんのようなものを取り出して、
「食べるネ?」
と言った。
「いや、食べない」
「ほぁ?美味なのに」
「子供がこんな所でどしたの?迷子?」
「アカネのこと?子供じゃなくて19歳ヨ」
「いやそうじゃなくて、え、年上!?」
顔は幼なげだが確かに肉付きも中々良く、何より表情が大人びている。なんとも掴み難い性格をしていて、その余裕ぶった感じは19歳と言われてもまぁ納得はできる。
炎髪お団子ツインテ美女は、ニコニコ笑いながら何かを頬張っていた。美味しそう。
「で、何しようとしてたの?」
「うーん、騎士団を呼ぼうかなぁって」
「貴方達で倒せるのに?」
「ーーッ!?な、何を……」
「あー、警戒しないデ!誰にだって事情はある。アカネにも勿論あるもノ!」
「は、はぁ」
「アカネはアカネ!よろしくネ!」
「……木葉。こっちは迷路」
何とも気の抜けた空間だ。
「お、おい!貴様ら!そこで何をしている!」
「うげっ、見つかった……アカネの声が大きいから」
「ナ!?酷いネ!アカネそんな大声じゃないネ!」
テレジア並みにデカイ。まぁそんなこと言ってる場合じゃなくて囲まれてるんだが……。
「貴様ら!両手をあげて跪け!」
「ああ、もういいや、私が……」
「事情があるなら此処はアカネにお任せあレッ!!!」
「へ?」
凄い速度で飛び出していった少女:アカネ。そして、
「ほっ、はっ、たぁ!」
「ぐげぇ!?」
「ぼごっ!」
「ごはっ!」
目にも止まらぬ速度でテロリストを蹂躙するアカネ。……素手で。なんというか戦闘スタイルは非常にエレノアそっくりだと思う。
異なるのはその速度。まるで猿のようなトリッキーな動きで敵に判断の余地を与えない。
30秒後、そこには地に伏した男達を尻目に炎髪の少女のみが立っていた。
「アカネの力はこんな感じ。そして、多分……」
目にも止まらぬ速度で距離を詰めるアカネ。しかしそれに反応できない程木葉は甘くない。抜刀して切先をアカネに突きつける。
「うん!思った通り!……アカネより強イ!」
「ーーッ!?何を言ってるの、お前」
「イイヨ、とても良イ!面白イ!アカネはアカネ!改めてよろしク!」
アカネはステータスプレートを見せて微笑む。そこには、
銅月級冒険者 アカネ
と書かれていた。
「銅月……お前、何者」
「貴方達も銅月だ。でも匂いで分かる、敵じゃない。一先ず安心ネ!」
「いや、え、うん?」
「取り敢えず此処を離れるヨ!書き置きだけしていくかラ!」
「か、書き置き?」
そう言ってアカネはテロリストの剣で壁に、
『アカネ騎士団参上ネ!』
と書いてムフーという満足げな顔をしていた。
「ださ……」
「さ、ぼぉーっとしてないで行くネ!あれさえ書いとけばこの国では罪に問われることはないかラ!」
「へ?」
「いいからいいかラ!」
迷路と木葉、2人の腕を引っ張って施設から脱出する。既に周囲を騎士団が囲んでいたが、アカネの顔を見るや否や、
「お、お疲れ様です!」
「後は頼んだヨー!」
全員頭を下げていく。もう正直木葉には何が何だかわからなかった。
でもって逃げた先は、なんと、
「へ?ロゼ?」
「こののん、とめーちゃん?あれ、その子は?」
「『糸』を辿ってきたら面白い人に会ったネ!……なるほど、それで……そゆことネ」
なんとロゼ達との集合場所であった。首を傾げるロゼだったが、見知らぬ少女への警戒を忘れない。
だが直後にアカネは今までのお気楽さを捨てて真顔になって言った。
「改めて、アカネはアカネ。リルヴィーツェ帝国陸軍第八師団、通称アカネ騎士団の師団長。階級は准将。帝国陸軍ミュンヘルン防衛軍団の総大将を務めているものね。……お願いがあります魔王。アカネを、貴方達の目的地の帝都まで船に乗せて欲しいネ」
ぽんぽんと明かされる事実を何も飲み込めないまま少女は頭を下げた。魔王、船、帝都、全部がバレている。……けど、その必死な表情、そして、
(帝国陸軍、准将……)
何も掴めない炎の揺らぎのような少女。でもその少女の芯は揺らぐことのない一本の柱になっているようで……。
「いいよ。その代わり、帝国で何が起きているのか教えて」
そう許可できてしまう何かが、アカネにはあるのだった。
……
…………
……………………
アカネ騎士団。帝国内で、その名を知らぬ者は居ない。200年前諸侯が乱立していたリルヴィーツェ一帯を平定し、皇帝を擁立したのがかの騎士団である。しかし国家の重役になる訳でもなく、只管にリルヴィーツェ帝国の防衛に努める傭兵団。その頭領は代々実力によって決定し、絶対的なカリスマであることが求められる。
「アカネは『糸』で全て分かるネ!人間には糸がついててその人の関係は全部誰かに繋がってる。その人と繋がりがある人物を見つけるのは容易い。……そして、竜王:ロゼ・フルガウドと一緒にいる銀の髪の少女は、1人しかいないネ!」
「……ロゼから私の正体を逆算で推理したってこと?」
「アカネにしか出来ないことだから安心するといいヨ!ロゼ・フルガウドと巨大な船の事は既にヴェニスの一件で1部の人間には知られてる。そして、竜王と魔王が手を結んでる事は帝国内の竜から聞いたネ!」
「竜と話せるの〜!?」
竜使いとしては聞き捨てならない言葉だろう。ロゼが反応した。
「万物は自然ネ。アカネは動物に好かれるから、魔獣だって竜だって会話できるネ!……さて話が逸れたよ。改めて、船に乗せてくれて感謝するヨ」
「いい。それより状況が知りたい。なんで船に乗りたかったのか、なんで魔王である私に助けを求めたのか」
木葉の前に座るアカネという少女は炎のマークが灯る瞳をギョロリと動かして木葉を見た。まるで決意の表れがそのまま具現化したような瞳だ。
「帝国は今、瀕死だヨ」
「ーーッ!?それは、どういう」
「リルヴィーツェ帝国は西を神聖王国、東をスロヴィー連邦、南をオストリア・ブダレスト大公国という大国に囲まれてる。そして、その三すくみはグルだヨ」
「……よく知ってるわ。大公国は神聖王国の傀儡国だし、神聖王国と連邦は近年協定を結んで準同盟関係にあるもの」
状況を見ればフランス、オーストリア、ロシアに囲まれたプロイセン王国という、さながら7年戦争のような構図と言える。
「それでも数十年はウチの皇帝陛下が優秀故になんとかなってた……。でももう限界ネ。東方将軍ミランダ・カスカティスはミュンヘルン四州を落としてそのまま帝国に宣戦布告するつもりだヨ」
「それは、決まった事なの?」
「さっきミュンヘルン都市国に宣戦布告の文が届いたネ。同じく更に後方のニュルンブルク都市国にも同様の文が」
「それなら尚更、アカネは戦わないとなんじゃ?」
首を振るアカネ。悔しくて堪らないと言ったふうに顔を歪ませ、手をきゅっと握りしめている。
「文を受け取ったと同時にニュルンブルク都市国、ミュンヘルン都市国の両首脳部は無血開城宣言したんだヨ。彼らを守るために帝国軍はアカネを派遣したというのニ!」
「……戦わずに負けちゃったってことか」
「彼らが降伏を宣言した以上、アカネが此処に留まる理由はないネ。嫌な予感がしてたから部隊の大部分は既に引き揚げさせてたし、残存戦力も帝国国境まで撤退させたから問題はないけど。……北の方ではまだフランクフル都市国が戦ってるのニ!!」
ミュンヘルン四州は4つの都市国で構成されている。うちシュトゥットガルデン都市国は降伏済み、加えてミュンヘルン、ニュルンブルクが降伏したとなると、帝国は南部の拠点を全て喪失したことになる。
「アカネは、直ぐに帝都に戻って陛下に謁見しないとなんだ。陛下の命令さえなければ、ミュンヘルン・ニュルンブルク両首脳部を制圧してでも戦ったのニ!」
事情は大方わかった。守るべき国家の降伏で大義名分を失ったアカネ騎士団は、首脳部を制圧しようとしたが皇帝に止められ已むなく撤退せざるを得なくなった、ということだ。その理由を問い質しに出来るだけ早く帝都に帰還したいというのがアカネの思いなのだろう。
とまぁ一応目的地は一緒だし帝国に恩を売っておく面もあるのでアカネを乗せたわけだが、ミュンヘルンから帝都:ベルントまで人目を気にせず奥羽で突っ切っても最低10日は掛かってしまう。
「ま、焦っても仕方ないから取り敢えず寛いでよ。船の速度は常に全速力、それでも10日かかるんだ。お互いに信用出来る様になるには充分な時間だと思わない?」
「……それもそうだネ。本当に感謝する、ありがとう」
「いいって。それより帝国の話聞かせてよ、本で読んだくらいしか知識がなくてさ」
それからアカネは帝国のことを素直に語ってくれた。【ランガーフ3世】という本当に素晴らしい皇帝がいる事、実力主義の気風、国民皆兵という軍事国家らしい制度。一方で美しい景色や美味しい食べ物、存外人々も優しい人が多いという話もしてくれた。なにより、
「亜人族への扱いが酷いって噂があるけど、あれは神聖王国が流したデマだヨ。たしかに奴隷制度はあるけど、それでも法に則って充分な対価を支払って成り立ってる。陛下の治世が始まってからはその動きが顕著で、そろそろ奴隷制度の撤廃が決定しそうな勢いだヨ」
「これまた神聖王国の言い分とは随分食い違ってやがるね……」
「アイツら直ぐ嘘つくからキライだヨ!自分たちを棚に上げて『民族解放戦争』だなんて謳って国民を煽ってるから余計にタチが悪いヨ」
「あー、よくあるやつ……」
亜人族への扱いがわかったところで子雀はかなりホッとしていた。亜人族迫害によって両親を失った彼女からしたらかなりネックな問題だったから一先ず安心だ。
それ以外にもアカネは結構色々喋ってくれた。なぜ此処まで信用してくれるのか疑問に思って尋ねたが、彼女はただ一言、
「木葉はアカネより強いネ。なのにアカネを斬らなかった。その心意気感服したヨ!」
「いや斬るメリットないし……」
「感謝感謝ヨ!」
「木葉、コイツらは生まれた時から完全実力主義の世界で生きてるから自分より強い&自分に危害を加えないと分かったら相手を敬う傾向があるらしいわ……」
「めんどくせぇ……」
その後も、
「アイェェェェェ!?温泉あル!?温泉あるの何デ!?」
「あー、うん、湯船ね」
「パルシア料理美味ネ!故郷の味には負けるけド」
「む、なんか悔しいなその言い方〜」
「布団!ふかふか、ふっかふかヨ!」
「埃が経つからやめなさい!!!」
奥羽内の色んなことに興奮して騒ぐアカネ。この10日間はそんなアカネのお守りをしながら過ごしていた。見る者全てが新鮮らしく、アカネのテンションは尽きない。こっちもそんなアカネを見て思わず頬が緩んでしまう。
「全く、騒がしい奴じゃのう」
「ほんとほんと。てかルーチェはミュンヘルンで降りなくて良かったの?」
「馬鹿言え、烽の残党はみんな帝都に退避させてあるわい!さすればもののついでで我も帝都まで赴き、うぬを助けてやる。感謝せい木葉」
「ん、感謝してる。ありがと」
「ふん!我はうぬのハーレムには入らんからな!」
「ツンデレ乙」
さてそんな長旅も漸く終わりだ。朝日が差す甲板に皆が登ってくる。そこには、王都に勝るとも劣らない巨大都市が広がっていた。
「此処が、リルヴィーツェ帝国の帝都:ベルント……」
「そうヨ、世界最大の軍事都市だヨ!」
王都の城壁【ムール・ド・シャトー】には国立天文台の観測所と8つの騎士団詰所、無数の砲台が設置されていた。アレでも充分堅固なのだが、帝都はそれを遥かに超えている。
街の至る所に対空砲が設置され、空からの攻撃を防ぐための『擬似竜騎兵』と言ったバルーンが街を埋め尽くしている。街にはちょくちょく要塞が置かれ、市街地戦でも充分対応可能だ。シャトンティエリとは訳が違う。ここは、国民一人一人が戦う意志を持った軍事国家なのであると誇示しているようだった。
「さ、アカネに付いてくるといいヨ」
幾重にも施される検問。しかしそれら全てを、
「おかえりなさいませ准将閣下!」
「どうぞお通りください!」
「准将閣下に敬礼!」
「……その年で准将ってのは、まぁ嘘じゃなくて安心した」
「疑ってたノ?心外ネ。ま、アカネはちょっと特殊な事情があるから地位が高いのも無理ないヨ」
「…………?」
「いずれ話すヨ!さ、まずは陛下に謁見するネ!」
魔笛を使って氷馬車を出現させ、帝都の街を走らせる。のんびり観光もしてみたいが、そんな暇はないだろう。
木葉は今回お面を使わず素顔で皇帝と接するつもりだ。アカネの謁見と木葉の謁見は別目的である。
ま、とはいえ無闇矢鱈に顔を晒すのも変なので取り敢えず謁見の瞬間まではお面を被っておくことにした。顔隠しと魔王感の演出という点においてこのお面は最強だと思っている。
「此処が、ランガーフ帝室が誇るヴェニトアイト皇宮ネ!」
これまた華美なものでなく機能美を重視した宮殿が出てきた。まさか皇帝の住むところに対空砲や砲台が設置されているとは驚きである。宮殿はその国の国民性が表れているのでみていると結構面白い。
アカネについて行くようにズンズンと進んでいく。途中奇異なものを見る目で見られたが、アカネが先頭ということで誰も何も言わない。神聖王国の民度とはえらい違いである。
「帝国陸軍参謀本部所属、アカネ騎士団長アカネ、ただいま帰りました。皇帝陛下へ至急謁見をお願い申し上げル!」
「アカネ閣下!ただいま陛下は別のものも謁見中でして……」
「構わぬ通せ急ぎの用事である」
「え、ちょっ!?」
強引だなぁ……。
なんて笑ってられたのも束の間、謁見の間の奥には何やら厳かな雰囲気の男性が座しており、その面前には数人の人影が……あれ?
「……あー、此処で来るか」
「へ!?え、え!?なんでこんなところに!?」
慌てふためく小さな影。見た目は小さな少女だが、実年齢はアラサーの女教師がかっと目を見開いて驚いていた。木葉もびっくりである。
「ひ、ヒカリさん!?」
「……面白いとこで再会しちゃったな」
最上笹乃のその御一行、帝都ベルントのヴェニトアイト皇宮にて再会。これまた結構面倒なタイミングでの再会であった。
……
…………
……………………
《東都:ストラスヴール》
東都を治めるミランダ・カスカティス将軍の前に跪く者たち。1人は異端審問官の紺色のローブに身を包み、もう1人は勇者パーティーのみに着用を許された上質な赤いローブを身に纏っていた。
「其方が鶴岡千鳥というものか」
「はい」
「この度は帝国を滅亡させる為の作戦に一役買ってくれるのだとか?」
「えぇ、はい」
眼鏡知的な僕っ子少女:鶴岡千鳥は前に出て演説を始める。
「帝国は亜人族を奴隷のように扱き使い、その命をゴミのように扱っている!僕は、日本から来た人間としてそんな蛮行を見逃すわけにはいかない!!!差別には自由を!悪には正義の鉄槌を!僕たちが神の正義を悪の帝国に叩きつけるのです!」
紺色ローブの異端審問官がニヤリと笑う。勇者パーティーの少女の矛盾した発言に笑わずにはいられない。亜人族の命を奪う人間もまた等しく命ある者だというのに、彼女はそんな帝国人をまるで人間でないように、神の正義を下すと宣言しているのだ。
(くくくっ、神聖王国の洗脳は本当に本当に恐ろしいねぇ!あははははははははっ!!!)
洗脳を受けてまともに思考することができない鶴岡千鳥は、本気で亜人族の為に帝国を滅亡させようとしていた。そして、彼女には『その手段』を与えてある。
「神の、フォルトナ神の正義を果たす時!僕にはその力がある!カスカティス将軍の力を借りなくても、僕が亜人族を救ってみせる!」
「ほう。して、その方法とは?」
白髪の老婆、カスカティスは興味深そうに口角を釣り上げた。
「僕には魔獣を操るスキルがある。逆賊から取り上げたスキルだ、それを使って【ライン魔族国家群】の魔獣とゴダール山から逃走した魔獣を全部帝都にけしかける!!!これで亜人族は、解放される!!僕は英雄になるんだ!!!」
「く、くふ、くふふふ、だめ、面白すぎ!くふふ……」
異端審問官は堪えきれず笑ってしまう。鶴岡千鳥は気付いていない、その方法では救うべき亜人族さえ皆殺しにしてしまうことを。
王都政府がアリエス・ピラーエッジから奪い取った《魔獣操作》の能力を、そのまま帝国にぶつけて自軍の損害を出さずに帝国を滅ぼす作戦。悪魔的な発想である。
「亜人族を救うんだ!君ならこうするよね!?木葉ちゃん!!!」
狂ったように天を仰ぐ鶴岡千鳥。木葉のかつての友人である彼女は、知らず知らずに木葉と対峙する宿命を背負わされたのであった。
変なところで再開しちゃった。




