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5章11話:立憲君主政友会

7話のラストの続きです。

 木葉が欲望に負けて百合えっちした日から数日、櫛引木葉はいよいよ女の子が恋愛対象だと本人も自覚した。

 元々木葉自体はレズではなくただのレズほいほいだったのだが、もう多分木葉は女の子しか愛せないだろう。というのはさておきだ。


「レイラ姫と連絡を取ろうと思う」


 尾花花蓮との出会いから既に1ヶ月ほど経過していたが、木葉もその間休暇を楽しんだし、【暴食】【色欲】という2つの感情の抑制に成功した。万全の体制で漸くレイラ姫と会談できる。


「どーやってとるつもりなのかしら?」

「テレジアにコンタクトを取って、そこから翠玉楼で密談をする。あそこならぴったりだしね」

「なるほど〜。それじゃあいよいよ神聖王国を倒す準備を進めるんだね〜」


 嬉しそうなロゼ。木葉も勿論そのつもりで大きく頷く。

 大陸最強の国家である神聖パルシア王国は当然魔王の力だけで落とすことは不可能だ。そこで木葉が目をつけたのはレイラ姫。彼女らの目的は神聖王国の内部からの打倒。既に王都にいた時からテレプシコーレを通じて彼女の動きの片鱗が伝わってきていた。


「内部からはレイラ姫、そして敵を倒すには外部からも力を加える必要がある」

「……何をするつもり?」


 訝しむ迷路に対して木葉は優しく微笑んだ。


「先ずはレイラ姫と会談してから、かな。子雀、テレジアに手紙を出すから届けてきてくれる?」

「がってんです的な!」


 こうしてテレジアに手紙が渡り、数日後にはテレジアと会談するに至る。その際木葉の恋人となった迷路はテレジアとテレプシコーレに食ってかかる羽目になったのだが、それは5章7話を参考にして頂けるとありがたい。

 

 さてそこから2週間後、漸くレイラ姫と会談するのだがその前に、


「先ずは尾花花蓮に会ってあげて欲しいって打診があったわ!ほら、ちゃんと過去に向き合ってきなさい、おーほっほっほ!」

「寝不足の頭に貴族擬きの笑いが響く……」







 てな事があったわけで、お話は4章7話のラストまで戻る。

 

「やっと、本当の貴方と話せるんだね」


 本気で嬉しそうにしている花蓮を見て、確かにやっと本音で話せるなと感じた。

 尾花花蓮とは高校の入学式に初めて出会い、そして親友のようになった。たった数ヶ月の付き合いだけど、それはまさしく本物だったといえる。しかし、


「うん、これが本当の私。今までが嘘だったとは言わないけど、アレは私であって私じゃなかったから」

 

 すくなによって感情をロックされた木葉は『欠けた木葉』であった。完全体な木葉で花蓮と話したのはシャトンティエリ決戦が初めてである。


「だから、よろしくね、尾花花蓮」

「花蓮」

「……?」

「花蓮でいいわ。それでやっと私達は対等になれる」

「そっか。花蓮」

「うん……」


 嬉しそうに微笑む花蓮。変わらないなぁ。


「さてと、それじゃ早速だけど。何が聞きたい?」

「木葉ちゃんの目的と今後。そしてその理由」

「素直に話すとでも?」

「………………」

「嘘嘘、そんな意地悪しないよ。えっと私の目的だよね?うん。


神聖王国とマクスカティス大寺院の撃破、フォルトナを殺す事。以上」

「ーーッ!?そ、それは」

「理由は……世界を救うためだって言ったら、信じてくれるかな?」


 花蓮は驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻した。


「それが世界を救うことになるの?というか世界を救うって、木葉ちゃんにとってはどういうことなの?」

「私にとっての世界の救済は、理不尽に苦しんだり死んでいく人が居ない世界。不条理がまかり通る事がない世界。そんな世界を作る事だね」

「それが、出来ると?」

「今の王都政府を正しく倒せば出来るよ。その過程で色んなゴミ屑には犠牲になって貰うけど」

「…………」

「船形荒野も必要な犠牲だよ?勿論人殺しを正当化するつもりは全くないけど、彼が死ななかったらアリエスを勇者に出来なかったから結果としてシャトンティエリ防衛戦が失敗してた可能性がある。そしたらもっと多くの犠牲が出てた。だから殺した」

「このは、ちゃん……」

「そして、同じことを王都政府にやられたわけだから、アリエスは死んじゃったんだね……」


 目を伏せる木葉。そこには後悔の念が浮かんでいたと、花蓮もまた察する。

 故に花蓮は判断した。櫛引木葉の根っこの部分は何一つ変わっていなかった。それは、花蓮にとって救いであった。


「木葉ちゃんは、何のために戦ってるの?」

「大切なものを守るために。そして、もう2度と大切なものを犠牲にしない為に」


 旅の途中で見つけた大切なもの、失ってしまった大切なもの。それら全てを回顧して木葉は決意する。


「私は魔王だけど、人間でありたい。救える人は救いたい、困っていたら助けたい。大切なものは守りたいし、それが傷つけられるなら戦いたい。それが、これ迄の旅が私に与えてくれた答えなんだ。……花蓮、私は魔王に見える?」


 微笑む木葉。花蓮は迷わず答えた。


「いいえ。貴方は人間。普通の女の子。うん、安心した。私の好きな木葉ちゃんはちゃんと此処にいる」


 そう言って花蓮は木葉の元に歩いていき、その小さな体躯を抱きしめた。


「おかえり……逢いたかったわ、木葉ちゃん……。そして、ごめんなさい……ごめんなさい……」

「ただいま。私も逢いたかったよ、花蓮。だから、もう泣かないで」


 此処に漸く2人の少女は和解した。そして、本当の友達になれたのだった。



………


………………


 そこからは他愛もないことを話した。旅の途中で食べたご飯が美味しかったとか、こんな建物を見たとか、本当に他愛もない会話。それを話す木葉はとても楽しそうで、花蓮は木葉の旅がとても良いものだったのだと感じた。

 

「木葉ちゃん、やっぱり全然変わってない」

「む、それ語李くんにも言われたな。で、今更だけど後ろの人ってもしかして……」


 木葉が今更指を刺すと、そこには待っていましたとばかりに金髪の美少女姫が立っていた。


「自己紹介します!私はマリアージュ!神聖パルシア王国第一王女、マリアと呼んで!」

「え、あ、はい……」

「SAY!マリア!」

「ま、マリア」

「が、がわいい!!!私この子と結婚したい」

「は?」


 木葉の側で控えていた迷路の冷気が部屋を覆い、室内温度が急激に下がっていく。そんな迷路を手で制しつつ木葉はマリアに話しかける。


「マリア、私は魔王なわけだけど」

「怖くない!可愛い、最高!今すぐエッチしたいです!」

「なんだこいつ……」

「それに花蓮の友達です。それなら信頼出来ますから!」


 あまりにもお気楽なマリアにため息が出る。レイラ姫とは随分違う性質を持っているようだ。

 と、その時、レイラとテレプシコーレ、従者2人が入ってくる。


「お姉様はあまり馬鹿を晒さないでくださいまし。正直恥ずかしいですわ」

「あれ、もう終わったのレイラ?」

「議論の余地無く全ての条件を引き受けて貰いましたから。今度はわたくしが木葉様と会談する番ですわ」

「え〜!私も木葉ちゃんとおしゃべりしたいなー」

「この馬鹿姉、まさかまだここをガールズバーと勘違いしているのでは……?」


 呆れながらもレイラは花蓮の横に座る。その後ろにはフィンベルとカタリナ。花蓮の後ろには零児がおり、テレプシコーレとテレジアは更にその後ろで見守っていた。

 木葉側には木葉とその脇に迷路とロゼがいた。そして奥の部屋から、


「よっ、尾花と天童!あー、白鷹もいるんだっけ?」

「え!?ひ、柊さん!?」

「驚かせようと思ってな!おっとお初にお目にかかります王女殿下、アタシは真室柊!しがない錬金術師です」

「今更礼儀正しくなるでない」


 挨拶をする柊を小突くルーチェ。


「亜人族の統括委員会を担う烽のギルマス:ルーチェじゃ。今回は亜人族の代表としてこの密談に参加させていただく。宜しく頼む」


 因みに子雀もいつのまにかテレジアの隣にいたりする。これにて役者は揃った。


「じゃ、始めようか。ではレイラ姫、私に何を求めるの?」

「櫛引様の協力、王都政府打倒のお誘いです」

「いいね、乗ろう」

「そう言っていただけると思ってましたわ。では、現状について話させて頂きます」


 レイラはそう言って地図と羊皮紙数点を取り出す。そこに青く光る羽根ペンを当てると、地図がホログラムのように立体的に浮かび上がり、いくつか文字が書き込まれていった。


「おお、凄いですねこれ!」

「お姉様、これは軍議などで用いられる魔術アイテムです。さて現状、王都政府は再び人身御供を王都に集結させています。目的は未だ不明ですが……」

「フォルトナの復活。その為に私たちの世界から人間を連れてきて彼らに悪魔を召喚してもらう必要がある。そんな彼らの召喚にこの世界の人々の贄が必要。謂わば『贄の為の贄』だよ」

「……成る程。合点が行きました。彼らは常に貴方達のような存在を召喚しなくてはいけない、と」


 レイラは漸く敵の目的を知ったことで目を伏せる。何やら考え事をしているらしいが、すぐに木葉の方へと視線を戻した。


「兎に角、王都政府の現状を皆に知ってもらう必要があります。既にわたくしの元には数多くの貴族が賛同してくれて、集結しています。彼らの議席数、そしてその領地をこの図に当てはめると」


 五華氏族の旧領以外に青色が塗られる。五華氏族の旧領は五華氏族滅亡後に王都政府が配置した功績者達である為、その殆どは王都に対して忠誠的だ。東都ストラスヴールを治めるミランダ・カスカティス将軍がいい例である。

 

「既にわたくし達は議会にて多数派を握れる程に勢力を伸ばしました。非常に民主的な方法で勝負を挑む事が出来ます。【立憲君主政友会】、わたくし達はそう名乗っています。ですが、それでも力は足りない」

「国王、それに付随する直轄組織、そして満月教会だね」

「えぇ。彼らがいる限り民主的な方法での王都政府打倒は不可能です。故に魔王の力が必要です」


 魔王と書かれた丸印が王都の上に表示される。

 

「既にヴィラフィリア兄妹の白磁の星々、イスパニラの【防人(さきもり)】という組織、そして今回烽のリーダーであるルーチェ様と縁を持てました。神聖王国各地の有力者、そして天撃の鉾と月光条約同盟が協力し、最小限の騒ぎで王都政府を鎮圧します」

「でも、それじゃ足りないね」

「はい。ですから櫛引様には足りない部分を補って欲しいんです」


 レイラが地図をタップすると3箇所にマークが表示される。


「ブルテーン連合王国、リルヴィーツェ帝国、スロヴィー連邦。以上の3カ国をこの戦争に巻き込みます。その為の手助けを、櫛引様にお願いしたい」

「……なるほどね。私の目的地を分かった上でそのお願いをするんだ」

「えぇ。未来予知で櫛引様の動向の1つにシュトラウス氷河がありました。そこに魔女の宝箱があるのでしょう?」


 つまり、そこに行くならついでにお使いしてきてくれってことだ。幸いシュトラウス氷河は帝国と連邦の中間地点くらいにある。


「でもさ、良いの?そんなに参戦させたら神聖王国ほんとに滅びちゃうかもよ?」

「連合王国は陸軍が貧弱ですし、帝国は瀕死状態、連邦との間には大公国という緩衝地帯があり神聖王国には届かない。いずれも『丁度いい圧力』が期待できる国力です」

「……君、悪女だね」

「自覚していますよ」


 まぁ、国境部と大公国には犠牲になって貰おうという事だ。自分の国を切り売りして目的を果たそうとする彼女の思考は、売国奴通り越して悪の権化のようである。

 しかしレイラ姫の思考はそのまま木葉も考えていたことなので、


「いいよ。お使い、行ってきてあげる。まずは帝国かな。ついでにそっちに向かっただろう笹ちゃん先生も連れ戻してあげるよ」


 こうして、木葉の帝国行きが確定した。


「あー、それとさ」

「はい?」

「多分次は協力する羽目になるんだろうけど、その前に一発ぶん殴るってカデンツァ・シルフォルフィルに言っといて」

「…………………わかりました。それで貴方様の気が済むのであれば、ご随意に」


 ちなみにこの発言でフィンベルがガッツポーズをしたのは言うまでもない。











 翠玉楼からの帰り道、零児は問いかける。


「花蓮は、ついていかなくてよかったのか?」

「なに、零児は私は此処にいない方がいいって?」

「いや、言ってねぇよ?」

「ふふ。でもね、別れ際に木葉ちゃんが言ってくれたことが、私が今此処にいることの答えだから」


「花蓮は王都をお願い。17期生に、同じ過ちを繰り返させないように。私だって、できれば彼らを殺したくない」


 そう、別れ際に木葉は言っていた。


「17期生に何もさせない。それが私達に出来ること。私が木葉ちゃんに出来ることはそばにいることじゃない。裏から支えること」


 花蓮は決意する。木葉を助ける。木葉と協力してみんなで日本に帰るんだ。それでやっと、漸く、


「私もちゃんと、木葉ちゃんが好きって伝えたいから」


 木葉には旅の途中で大切な人が出来ていた。あの青髪の少女はきっと、木葉とそういう仲だ。雰囲気でわかる。

 先を越されたことの悔しさはあれど、自分にその資格がないこともわかる。自分は木葉に辛い思いをさせてしまった。きっとあの少女はそんな木葉を救ってくれた。

 けど、花蓮とてまだ木葉のことが好きだ。大好きだ。だから、


「ちゃんと伝えて、ちゃんと終わらせないと」


 どこか寂しげに花蓮はつぶやいた。

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[一言] 果たして、その想い、終われるのか···WWW
[一言] 面白くなってまいりましたー
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