TIPs:体育祭っ!
学園編スタートです(嘘)
まぁ、昔の木葉のお話です。今見るともう違和感しかないですネ。まだスクナによって記憶をロックされ、感情をロックされてた時ってこんな不気味じみた明るさの女の子だったのです。
これは、満開百合高校1-5の元の世界でのお話。
「熱い、熱い、熱ーい!季節がやってきました!そう!体育祭です!」
唐突に朝のホームルームで笹ちゃん先生こと1-5担任のちみっこ教師:最上笹乃が大声を上げる。何故か肩には『大漁』と書かれたタスキがかけられていた。その様子にクラスのみんなはポカーンとしている。
「笹ちゃん先生なんか嫌なことでもあったの?お酒に逃げちゃ駄目だよ?」
「櫛引さん!私はおかしくなってません!」
「じゃあ、熱中症かな!私お水汲んでくるよ!」
「木葉ちゃん!なんて健気なの!」
「いや止めてよ花蓮!」
「わわわっ!」
走り出す木葉と、何故か涙を流すガチレズお嬢様:尾花花蓮。メガネのクールイケメン女子:鶴岡千鳥が木葉の腕を引っ張って引き戻す。数ヶ月後悲惨なことになる尾花花蓮と鶴岡千鳥だが、今は非常に仲のいい友達である。
「コホン、例年8つの組に分かれて競い合う満開百合体育祭ですが、もうじき応援練習も始まりかなり盛り上がってきます!このクラスには体力自慢が沢山いますので今年は総合優勝狙っちゃいましょう!」
1〜3年の8クラスを8つのチームに色分けして競う体育祭。そのコスチュームの可愛さから地域でもトップレベルの盛り上がりを誇るのが満開百合高校の伝統あるこの行事なわけだが、今年はその動員力は凄まじいだろう。何せ、最近ネットニュースデビューまで果たしてしまった櫛引木葉が1年生にいるのだから。
「笹ちゃん先生のくじ運にかかってますよ、今年のコスチューム」
「頼むから水色軍はやめてくれよー!あそこ女子はともかく男子は遊園地の清掃員みたいなコスプレになっちまうんだから」
「任せてください!」
…
………
………………
「……で、これか」
「うーん草」
「ねぇママ見てあれトイレのお掃除の人みたーい」
「しっ!なんてこというの!」
「わぁ、例年通りの反応……」
「うぅ、ずびばぜん……」
男子達は自分のコスチュームにどんよりとする。1-5のカラーは水色。コンセプトは不思議の国のアリスだった。男子はトランプの騎士ということだったが、結局マトモなデザインにならず、他のクラスからはトイレの清掃員だと笑われていた。お陰で船形荒野は欠席である。
「お待たせー!!!」
「「「「ぉ、ぉおおおおおおお!!!」」」」
だが、男子達はこの為に体育祭に来たと言っても過言ではない。木葉のアリス姿はそれはもう似合っていた。水色のフリフリスカートと白いエプロン、そして黒のカチューシャ。安物ながら美少女の木葉が着ればそれは最上級のドレスと化す。逆馬子にも衣装ってやつだ。
クラス団長と副団長は幹部衣装と呼ばれる特別な衣装を着ることができる。団長の白鷹語李と木葉だけ異常に豪華な仕立てとなっていた。
「む、むりぃいいい!」
「こずえ!?鼻血を止めなさい!ていうかはじまってもないのに倒れないで!」
「梢ちゃん!だいじょ」
「ちょ、木葉ちゃんは今きたら梢多分死ぬから近寄らないで!」
「えー……」
いつものように百合っ子少女:梢ちゃんがぶっ倒れ、友人である瓶子ちゃんとそれから体力自慢のバレー女子:鮭川樹咲が梢を抱き支える。必死の救急措置も虚しく、残念ながら保健室送りとなってしまった。なんでや……。
「なんかヤケに観客席に人が多くないかなあ??」
「あー、あれは木葉ちゃん目当ての野次馬ね。1人残らず屠ってくるわ」
「花蓮……世界観が違うよ……」
数ヶ月もすればその世界観に転移するけどな。そうとも知らずに千鳥は呆れ顔をしていた。
「にしても木葉ちゃん可愛いわ!えぇ!可愛すぎてお持ち帰りしたいわあ!hshs……ふぅ、良い匂い……」
「あ、暑いよ〜」
「こら花蓮、木葉が暑がってるだろ!」
「樹咲!邪魔をしないで、私は木葉ちゃんの匂いを堪能しているのよ!」
「だから止めてんだろうがあああ!」
いつものように喧嘩する花蓮と樹咲は置いといて、木葉は応援団席へと向かう。先輩方の間でもどよめきが起こる、そして剣道部の先輩に思いっきり抱きしめられた。
「可愛い!!!可愛いわ、ペロペロしたい!ああああ!!!もうそんな格好してたらペロリと食べられちゃうわよ!?」
「ちょ、先輩!くすぐったいよぉ」
「ツーショット撮りましょうツーショット!そして体育祭後は私の部屋にいらっしゃい!ぺろぺr……ごばっ!」
「このバカ!ごめんねぇ、木葉ちゃん……あー、これは理性飛ぶわ」
「……?というか、先輩!総団長なのに私に構ってていいんです?」
という木葉の一言で正気を取り戻した剣道部の先輩はキリリっと表情を元に戻すと全体に今日の指示を出し始めた。ぼけーっとしていた木葉はなんだか退屈なので隣の白鷹語李に話しかける。
「ねーねー、語李くん。その衣装かっこいいね!」
「な、ぁあ、ああ。木葉は………本当に可愛い。正直言って直視できない……」
「ほんと!?やったー!」
「見えそうなんだよなあ……無自覚、だよな?」
顔が真っ赤な語李を見て木葉は首を傾げる。胸元チラッチラだった。
応援が始まると、大漁旗を掲げた笹ちゃん先生が大張り切りしていた。世界観にそぐわなすぎて語李によって退場させられ、生徒たちは爆笑していたが。
「木葉!ぶっちぎりの一位じゃんか!」
「何あの子速い!てか可愛い!」
「うわ、カメラマンの数やべぇな…あれ後で全員花蓮に消されるんかな……」
「零児、怖いこと言うなよ……」
金髪チャラ男風オタクの天童零児がポツリと呟く。彼は前から花蓮のことが好きなのだが、それならばこそ、尾花家の力を舐めてはいけない。
「右のカメラマン、恐らく木葉ちゃんの揺れたスカートの中を撮ったわ。コードαは対象を速やかに排除して」
「あ、あの……花蓮?さっきから何をブツブツ言ってるんだ……?」
「なんでもないわ!樹咲ちゃん。さぁ、私たちも行きましょう。リレーの次は私たちが走る短距離走よ!あ、コードδは視界から4番目のカメラマンを消しなさい」
「お、おーい……花蓮ー」
木葉のぶっちぎり一位でリレーは幕を閉じ、水色軍は圧倒的優位に躍り出た。
「はぁ、はぁ。ちかれたよぉ……」
「木葉ちゃん!はい、お水!」
「あ、ありがとう!あれ、なんかピンク色なんだけど……」
「ちょっと媚薬……ゲフンゲフン、元気の出るお薬が入ってるけど気にしないでね!あ、飲んだペットボトルは是非私に!」
「花蓮、自重しろ」
ポカっと花蓮を叩く樹咲は未開封のペットボトルを木葉に差し出す。千鳥は花蓮を羽交い締めにして短距離走のスタート地点に引きずっていった。
「にしても木葉……お前、スカートの下スパッツ履かなかったのか……?」
「え、うん?だって暑いんだもん!」
「あ、うん……そか……」
何故かリレーのあと、保健室には鼻血を出して救急搬送された患者が押し寄せて梢がオロオロしていたというがそれはまた別のお話。
…
…………
………………………
「総合優勝、水色軍!」
「「「「「うおぉおおおお!!!」」」」」
グラウンドに咆哮が響き渡る。無論木葉も旗を振って喜んでいた。後ろの方では縮小版の大漁旗をパタパタと掲げた笹乃が満面の笑みで飛び跳ねている。
「やったね!花蓮ちゃん!」
「ええ!あぁ、木葉ちゃんが腕の中に……幸せ……」
「うーし、あたしも!木葉!」
「僕も!」
「2人には譲らない……むぎゅっ!」
「みんなでぎゅーっだよ!」
「て、天使かな!?」
キマシタワーを眺めて梢は保健室のベッドから親指をグッとたてていたし、天童零児やサッカー部の戸沢菅都も拝んでいた。反応がエレノアと同じで草。
「あんた何してんの?」
「あれ、真室さん?なんで保健室に?」
手を振ってくる木葉に手を振り返す梢は後ろでジト目している金髪不良ガール:真室柊に話しかけられていた。1章25話以降出てなかった可哀想な女の子、真室柊はクラス内で船形荒野とはまた違う一匹狼のような存在だった。
「あぁ、櫛引木葉か。あいつ大人気だな」
「はい!本当に可愛いですよねー!アイドルデビューしてくれたら生涯年収注ぎ込んで推します!」
「いや、人生かけちゃだめだろ……」
「真室さんは体調悪いんですか?」
「サボり。最初からあたしや船形荒野、その彼女の高畠三草あたりは戦力カウントされてないだろ。あと、あんたとか」
「ひ、ひどいですぅ!まぁ否定はしないですけど…」
柊ははしゃぐ木葉を眺めていた。昔とは随分と性格の変わった彼女をどこか心配そうに眺めている。
「真室さんって………木葉ちゃんのこと大好きですよね」
「は、はぁあああ!?あたしが!?あいつを!?いやいやいや…」
「だっていっつも木葉ちゃんのこと見てますもん!私知ってるんですから!」
「……お前ストーカー気質だろ」
「私は永遠の木葉ちゃん推しですからね!一緒に推しを極めていきましょう!say!yes!木葉ちゃん!いえー!!!」
「い、いえー…」
保健室ではしゃぐ2人。柊は、内心やべーなこいつって目で梢を見ていた。
また、体育祭後の打ち上げでは尾花家の力で大規模パーティーが行われてしまったり、総団長を務めた剣道部の先輩が木葉の可愛さに暴走し出したりしたのだが、それはまた別の機会に語るとしよう。
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