番外編3 姫と使用人 後編
「……ぷ、あはははははは!!」
「……何が可笑しい?」
奴は……大きな声で笑いだした。
「屈するつもりはないって! あははははは!!」
「……」
奴は腹を抱えて笑っている。
……そこまでおかしな台詞だったか?
「笑うな!」
「いやいや、これは笑うって! あー本当に面白い!」
「……死にたいのか?」
「あははは、上半身裸でそんなこと言われても説得力がなさすぎるよ!」
「……」
こいつは相変わらず笑っている。
「まぁでも……私も悪ふざけが過ぎたよ、すまないね」
「……それで謝っているつもりか?」
「まぁまぁ、そんな険しい顔しないでおくれよ、その綺麗な顔が台無しじゃないか」
「だから触るなと言っているだろ!」
オレは顔に触れてきた奴の手を払い除けた。
「そろそろ着替え終わらないと姫様に怒られるんじゃないのかい?」
「誰のせいだと思っている!」
「ほらほら、さっさと着替えなって、手伝ってあげるから……」
「手伝いは不要だ!」
オレは早急に上の服を着替え始めた。
全く……この女、本当になんなんだ?
◇
「ぶぅー、遅いよアブラム!」
「申し訳ございません、姫様」
案の定、あの女のせいで姫様に怒られた。
「まぁでも……その格好、カッコいいから許す!」
「か、かっこいい……?」
「うん!」
か、かっこいい……。
そんなこと、あの人間にも言われたことが無い。
あの人間……オヒュカス……。
「アブラム? どうしたの?」
「い、いえ。なんでも」
「そう? じゃあ早く行こうよ!」
「はい、かしこまりました」
オレとしたことが、余計な事を思い出してしまった。
◇
「ねぇねぇ! すごく綺麗だと思わない?」
「えぇ、そうですね」
姫様は、見たいところがあると言ってオレを連れ出した。
そこは、蛍が良く見える場所だった。
姫様の言う通り、とても綺麗な場所だった。
「アブラム! 本当に綺麗だよね!」
「はい」
姫様はいい笑顔を見せる。
まるで……。
……ダメだ! あの女は未だに森へ来ていない!
オレを裏切った女だ! ……早く忘れないと。
「ねぇねぇアブラムってば!」
「はい!?」
「……大丈夫?」
「えぇ、大丈夫ですよ。姫様」
「……」
姫様はオレの事を真剣な表情で見ている。
な、なんだ……?
「アブラム! これは命令だよ!」
「は、はい! なんでしょう?」
「私の前では隠し事禁止! 何があったか言ってみて!」
……オレはオヒュカスについて話した。
そして、姫様がオヒュカスになんとなく似ていることも話した。
すると、姫様は……笑い出した。
「な、何故笑うのですか!」
「いやいや……オヒュカスってあの人間の人でしょ? あの人が私に似てるだなんて、あははははは!!」
「……」
姫様は笑っていらっしゃる……コキクのように。
……今度はあの女を連想してしまった。
「アブラム、貴方面白いね」
「お、面白い……ですか?」
「うん! 気に入った!」
「……」
姫様は笑顔でオレを包み込んでくれる。
まるで母親のような……そんな感じがした。
母親……か、オレは実の母親には会ったことはないが……きっとこんな感じの人なのだろうか?
確証はない、だが、姫様はそんな風に感じる、年下なのだが。
「ねぇねぇ、蛍の観察しようよ! どういう生態なのか確かめてみたいんだ!」
「お待ちください! 姫様!」
そうだ、この人について行こう。
……もしかしたら、あの女のことも、忘れることができるかもしれない。
「ねぇねぇアブラム!」
「はい、姫様」
「今度狩猟について教えて! アブラムって詳しいんでしょ?」
「えぇ、父がその仕事をしていましたので……ですが、姫様の年齢では危険ですよ」
「大丈夫! アブラムが守ってくれるんでしょ? 専属使用人なんだし!」
……専属使用人、か。
「……そうですね」
「あれ? 笑った?」
……どうやら自然と笑みが出てしまったようだ。
『あれ!? 笑った!?』
『笑ってない』
『嘘! 笑ったでしょ!』
『笑ってない!!』
……嫌な記憶を思い出してしまった。
謝罪しよう。
「……申し訳ございません」
「謝らなくていいよ! 素敵だよ!」
「あ、ありがとうございます」
……素敵。
この人は、やはりオレの事を包み込んでくれている。
……なんだかこちらも楽しくなってきた、少し気になったことを聞いてみよう
「姫様、質問してもよろしいでしょうか」
「いいよ、何?」
「……なぜ狩猟の仕事を生業にしたいのですか?」
「うーん、やっぱり、里を守りたいからかな?」
「守りたい?」
「うん! やっぱり熊とかってかっこいいけど、相手はこちらに対して敵意を向けてくるでしょ? それで死んじゃう人とか、見たくないなーって」
「……」
狩猟で死ぬ人……オレの親父のような人か。
親父のような人を増やさないようにする……何と素敵な考えをお持ちなのだろうか。
「だからさ! アブラム! 一緒にやろうよ!」
「……」
オレは姫様の専属使用人、姫様を傷つける奴は絶対に許さない。
……誰であろうと。
「……はい、一緒にやりましょう、姫様」
「うん!」
オレと姫様はお互いに握手をした。
「そろそろ戻ろっか!」
「そうですね」
オレたちは城へ戻った。




