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番外編3 姫と使用人 後編

「……ぷ、あはははははは!!」

「……何が可笑しい?」


 奴は……大きな声で笑いだした。


「屈するつもりはないって! あははははは!!」

「……」


 奴は腹を抱えて笑っている。

 ……そこまでおかしな台詞だったか?


「笑うな!」

「いやいや、これは笑うって! あー本当に面白い!」

「……死にたいのか?」

「あははは、上半身裸でそんなこと言われても説得力がなさすぎるよ!」

「……」


 こいつは相変わらず笑っている。


「まぁでも……私も悪ふざけが過ぎたよ、すまないね」

「……それで謝っているつもりか?」

「まぁまぁ、そんな険しい顔しないでおくれよ、その綺麗な顔が台無しじゃないか」

「だから触るなと言っているだろ!」


 オレは顔に触れてきた奴の手を払い除けた。


「そろそろ着替え終わらないと姫様に怒られるんじゃないのかい?」

「誰のせいだと思っている!」

「ほらほら、さっさと着替えなって、手伝ってあげるから……」

「手伝いは不要だ!」


 オレは早急に上の服を着替え始めた。

 全く……この女、本当になんなんだ?



「ぶぅー、遅いよアブラム!」

「申し訳ございません、姫様」


 案の定、あの女のせいで姫様に怒られた。


「まぁでも……その格好、カッコいいから許す!」

「か、かっこいい……?」

「うん!」


 か、かっこいい……。

 そんなこと、あの人間にも言われたことが無い。

 あの人間……オヒュカス……。


「アブラム? どうしたの?」

「い、いえ。なんでも」

「そう? じゃあ早く行こうよ!」

「はい、かしこまりました」


 オレとしたことが、余計な事を思い出してしまった。



「ねぇねぇ! すごく綺麗だと思わない?」

「えぇ、そうですね」


 姫様は、見たいところがあると言ってオレを連れ出した。

 そこは、蛍が良く見える場所だった。

 姫様の言う通り、とても綺麗な場所だった。


「アブラム! 本当に綺麗だよね!」

「はい」


 姫様はいい笑顔を見せる。

 まるで……。

 ……ダメだ! あの女は未だに森へ来ていない!

 オレを裏切った女だ! ……早く忘れないと。


「ねぇねぇアブラムってば!」

「はい!?」

「……大丈夫?」

「えぇ、大丈夫ですよ。姫様」

「……」


 姫様はオレの事を真剣な表情で見ている。

 な、なんだ……?


「アブラム! これは命令だよ!」

「は、はい! なんでしょう?」

「私の前では隠し事禁止! 何があったか言ってみて!」


 ……オレはオヒュカスについて話した。

 そして、姫様がオヒュカスになんとなく似ていることも話した。

 すると、姫様は……笑い出した。


「な、何故笑うのですか!」

「いやいや……オヒュカスってあの人間の人でしょ? あの人が私に似てるだなんて、あははははは!!」

「……」


 姫様は笑っていらっしゃる……コキクのように。

 ……今度はあの女を連想してしまった。


「アブラム、貴方面白いね」

「お、面白い……ですか?」

「うん! 気に入った!」

「……」


 姫様は笑顔でオレを包み込んでくれる。

 まるで母親のような……そんな感じがした。

 母親……か、オレは実の母親には会ったことはないが……きっとこんな感じの人なのだろうか?

 確証はない、だが、姫様はそんな風に感じる、年下なのだが。


「ねぇねぇ、蛍の観察しようよ! どういう生態なのか確かめてみたいんだ!」

「お待ちください! 姫様!」


 そうだ、この人について行こう。

 ……もしかしたら、あの女のことも、忘れることができるかもしれない。


「ねぇねぇアブラム!」

「はい、姫様」

「今度狩猟について教えて! アブラムって詳しいんでしょ?」

「えぇ、父がその仕事をしていましたので……ですが、姫様の年齢では危険ですよ」

「大丈夫! アブラムが守ってくれるんでしょ? 専属使用人なんだし!」


 ……専属使用人、か。


「……そうですね」

「あれ? 笑った?」


 ……どうやら自然と笑みが出てしまったようだ。


『あれ!? 笑った!?』

『笑ってない』

『嘘! 笑ったでしょ!』

『笑ってない!!』


 ……嫌な記憶を思い出してしまった。

 謝罪しよう。


「……申し訳ございません」

「謝らなくていいよ! 素敵だよ!」

「あ、ありがとうございます」


 ……素敵。

 この人は、やはりオレの事を包み込んでくれている。

 ……なんだかこちらも楽しくなってきた、少し気になったことを聞いてみよう


「姫様、質問してもよろしいでしょうか」

「いいよ、何?」

「……なぜ狩猟の仕事を生業にしたいのですか?」

「うーん、やっぱり、里を守りたいからかな?」

「守りたい?」

「うん! やっぱり熊とかってかっこいいけど、相手はこちらに対して敵意を向けてくるでしょ? それで死んじゃう人とか、見たくないなーって」

「……」


 狩猟で死ぬ人……オレの親父のような人か。

 親父のような人を増やさないようにする……何と素敵な考えをお持ちなのだろうか。


「だからさ! アブラム! 一緒にやろうよ!」

「……」


 オレは姫様の専属使用人、姫様を傷つける奴は絶対に許さない。

 ……誰であろうと。


「……はい、一緒にやりましょう、姫様」

「うん!」


 オレと姫様はお互いに握手をした。


「そろそろ戻ろっか!」

「そうですね」


 オレたちは城へ戻った。

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