第五十六話
「な、なんですかアブラム様! いきなり部屋に……」
「黙れ」
アブラム様は私の口を抑えた。
大声を出そうとするも、力が強くて出せない。
「言ったはずだぞ、姫様を傷つけたらどうなるか……」
「んんん!?」
ま、まさか……私、カグラ様を傷つけてた!?
嘘ですよね!? まさか……私がいない間に何か!? もしくはいた時から!?
わ、私殺されるんですか!? こんなに呆気なく!?
「覚悟はできているだろうな……」
い、嫌! 助けて!
私は涙が止まらなかった、暴れようにもアブラム様に抑えつけられてどうにもできない。
か、カグラ様……。
「んんんん!?」
「……」
カグラ様は私を見つめている。
もう……どうしようもないですよね……。
ここはもう……カグラ様の為にも、殺された方がいいですよね……。
私は、カグラ様を傷つけてしまったのですから……。
私は暴れるのを止め、目を閉じた。
「……」
「……お前が死ぬと姫様が余計に悲しむ、今は許しておいてやる」
カグラ様は抑えつけていた手を退け、私から離れて行った。
「はぁはぁ……」
私は過呼吸になり、立ち上がることができなかった。
アブラム様……力が強すぎます……。
「……すまなかった、謝る」
「い、一体何なのですか……」
怒ったと思ったら謝罪をして……城の時もそのような感じでしたけど……。
「お前が消えてから姫様の様子がおかしいんだ、ため息をついたり、ぼーっとしてたり」
「……え?」
それって……今の私と同じじゃないですか?
まさか……カグラ様も?
「そこでだ、お前……もう一度里まで来い」
「え、えぇ!?」
な、なんですか急に!?
「そんな! いきなりすぎますよ!」
「姫様があんな感じなのはお前のせいだ、落とし前付けてもらうぞ……」
「ま、待ってくださいよ! 行くならまずお母様に……」
「……」
あ、あれ……? アブラム様……表情が険しく……。
「お前の……母親?」
「あ、あの……アブラム様?」
い、一体どうされたのでしょう……?




