閑話 不安
「ふぅ~、今日も大量だね」
「はい、姫様」
そろそろ陽が沈もうとしていた時間、カグラとアブラムは、里から出て、山菜取りと狩りをしていた。
カグラがリブラに会った時も、そんな時だった。
カグラはつい、リブラの事を考えてしまい、その場に立ち止まってしまった。
「姫様?」
「……」
アブラムが声を掛けるも、カグラは応答しなかった。
カグラはこう考えていた。
リブラは今、何をしているのであろうか? さようならを言ってからまだ数時間しか経っていないが、落ち込んでたりはしないのだろうか? そもそも、時が過ぎれば、自分の事を忘れてしまうのだろうか?
そんな不安が彼女を支配していた。
「姫様!」
「え!? あ、ごめん……」
アブラムはカグラの肩を揺さぶった。
カグラはその衝撃で、我に返った。
「さぁ、そろそろ戻りましょう」
「あ、うん……」
アブラムは、こう思った。
姫様はあの人間ことを考えているのだろうか? そうであれば、あの人間に落とし前を付けるべきでは? しかしそういう事をしては姫様が悲しんでしまう……。
「姫様、無礼を承知で、よろしいでしょうか?」
「え、なに?」
アブラムは仕えている姫を元気づけようと考えた。
「リブラ様はきっと大丈夫です、別れ際に約束したのではありませんか? 一生忘れないと」
「え? あ、うん……」
「姫様はリブラ様の事、忘れませんよね?」
「そりゃもちろん!」
「なら、それでいいじゃありませんか」
「……」
珍しくものを言うアブラムに、カグラは黙ってしまった。
「さ、行きましょう、里の皆さんが待っています」
「うん……」
2人はそれぞれ考え事をしながら、里へと戻った。
共通しているのは、リブラについての事だった。
「ねぇ、アブラム!」
「はい、姫様」
戻り際、カグラはアブラムに声を掛けた。
「ありがとう、少し気分が晴れたよ」
「……お役に立てたようで、嬉しいですよ」
アブラムは、笑顔を見せた。
アブラムが笑顔を見せる相手は限られているが、そのうちの一人はカグラだった。
そう、アブラムが笑顔を見せた相手はまだいる、アブラムはその者に因縁があった。
(人間……あの女は、元気なのであろうか?)
アブラムは、リブラと顔が似ている、ある人間の事で頭がいっぱいになってしまった。
(……オヒュカス)




