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その2

 翌日。

 俺は、さっそくザヴィレッジ家に行った。


「んふふ、久しぶりやねえ」

 フランポワンは、満面の笑みで俺の胸に飛びこんできた。

 首に腕をからませ、ぶら下がるようにして顔を寄せた。

 そして言った。


「会いたかったンよ」

 屈託のない笑みのフランポワン。

 俺は思わずあごを引いた。

 するとフランポワンは、


「ソファーに連れていってえ」

 と、甘えた声で言った。

 俺は彼女を抱いてソファーに向かった。

 フランポワンは抱かれるというより、俺に(から)みついて家のなかを移動した。――



 ソファーに着くと、フランポワンは俺を押し倒した。

 馬乗りになって、にたあっとスケベな笑みをした。

 そして、全身全霊を浴びせるようにして、上体をかぶせてきた。

 バカみたいに大きなおっぱいで俺を圧迫した。

 俺はもがき、顔をあげた。

 フランポワンは、俺の首に腕をからませたまま、俺を真っ正面から見つめた。

 そして言った。


「んふふ。ちゃんと、熱く硬くなってる。嬉しい」

「………………」

「うちのこと嫌いになったンかと思ったけど、身体は正直やねえ?」

「………………」

「それとも嫌いなのに、身体が勝手に反応してるン?」

「っ!」

 (にら)みつけてやったら、フランポワンは瞳をうるませて、(よろこ)びを()らした。



「そうそう、そうやって(にら)まンと。そうでないと汚しがいがないやン?」

「はァ?」

「うち、潔癖(けっぺき)な魔法使いクンのことを『汚す』って言ったやン? たーっぷり、ゆーっくり時間をかけて、汚してあげるからねえ。ちゃんと抵抗するンよお?」

「………………」

「だから今日は、お仕事に来たこと()めてあげる。よしよしって頭をなでてあげる」

 そう言って、フランポワンは俺の頭を、まるでお母さんのようになでた。

 俺はそれを反射的に振り払った。

 するとフランポワンは、じわあっと(よろこ)びを顔に浮かべた。

 そして、ぎゅうっと俺に抱きついた。


「うふふ」

 巨大なおっぱいによって、俺は呼吸困難に(おちい)る。

 フランポワンは嬉々として、そんな俺を、もみくちゃにした。


「うち魔法使いクンのこと好きなン。汚したいン」

 そう言ってフランポワンは、(あぶら)ののったまっ白な手脚を俺に(から)みつかせた。

 必死に抵抗する俺を、彼女は喜んだ。


「かあいいねえ」

 俺には、彼女が何を言っているのか、何がしたいのか分からなかった。

 ただ不気味さだけが残った。――





 翌日の仕事は、馬車の騎手だった。

 俺は、フランポワンとアンジェリーチカを乗せて、ザヴィレッジ家の庭をゆっくり走った。

 この馬車は、馬一頭に、騎手席一つ、その後ろに二・三人乗りの車輛という、いわゆるカブリオレとキャリッジをミックスしたような、そんなかたちをしていた。


 俺は、屋根のない騎手席――公園のベンチのようだ――で馬をあやつっていた。

 フランポワンとアンジェリーチカは、そのすぐ後ろにある車輛に乗っていた。

 この車輛は、豪華でふわふわなソファーのようだった。

 そのソファーに車輪がついて、折りたたみ式の(ほろ)がついていた。

 この(ほろ)は、日よけのようにソファーを後ろからおおっている。

 オープンカーの(ほろ)をイメージすると分かりやすいと思う。



 フランポワンとアンジェリーチカは、豪華な移動式ソファーに横たわりながら、庭の景色を楽しんでいるといえた。

 そして、そのソファーを牽引(けんいん)するのが俺の仕事だった。


 ちなみに。

 騎手席とソファーは近いので、大声を出さなくとも聞こえる。

 だから俺はいつも、フランポワンとアンジェリーチカの他愛のない話を聞かされていた。

 彼女たちもそれを分かっていて、しゃべっているようだった。




 さて。

 今日は珍しく、後ろからフランポワンが声をかけてきた。

「ねえねえ、魔法使いクン?」

「……なんですか」

 俺は前を見たまま返事をした。

 これは馬をあやつっているからで、おかしな態度ではない。


「最近、メチャシコちゃんと仲良しなンねえ?」

「……はあ」


「夜もデートするようになったンねえ?」

「デートぉ?」


「魔法使いクン、たった独りの男魔法使いだから、そういうの分かるンよ。ねえ、お(ヒメ)チカ?」

「ええ。テンショウの生殖(せいしょく)活動は把握(はあく)しておくように――と、お父さまから厳しく言われているわ。というより、『促進(そくしん)しろ』と方々から突き上げをくらっているのよ」

 と、アンジェリーチカは、ため息をついて言った。



「んふふ。じゃあ、お(ヒメ)チカ。メチャシコちゃんとの仲を忠告しなくてええン?」

「えっ? でも、彼女とは友達関係だって報告があるわ」

「報告ゥ!?」

 俺は思わず声をあげてしまった。

 するとフランポワンは、くすりと笑った。

 そして、甘ったるい(とろ)けるような声で、アンジェリーチカを()めた。


「ねえ、お(ヒメ)チカ。たしかに魔法使いクンとメチャシコちゃんは、お友だちの関係かもしれンけどお? それに、魔法使いクンに襲う度胸はないンやけれどお」

「メチャシコだって拒絶するわよ」

「んふふ、まあ無理かなあ……」

 と、フランポワンのとても嬉しそうな声がした。



「でも、お(ヒメ)チカ。メチャシコちゃんは可愛いンよ。お(ヒメ)チカには負けるけど、ちゃんとした格好をすれば、貴族のなかにいても見劣りしない、可愛い子なンよ?」

「ええ、それは間違いないわね」


「魔法使いクンの住んでるところ、街では一番可愛いンよ?」

「ええ、飛び抜けて可愛いわ」

 俺もそう思う。



「だから、お姫チカ。このままでは、ほかの魔法使い……女の子たちが萎縮(いしゅく)しちゃうンよ。魔法使いクンがメチャシコちゃんと一緒にいると、ほかの魔法使いは声をかけづらいンよ。そんなだから、魔法使いクン、ずっと彼女ができないン」

「なるほど、それは困ったわね……」


「ねえねえ、魔法使いクン? お姉さんたちからの忠告だよう。メチャシコちゃん以外の娘を好きになりなよお」

「……はあ」


「んふふ。魔法使いクン、十七歳でしょう? うちと、お姫チカは十八歳だからお姉さんなンよ。ちゃんと言うこと聞かないと駄目なンよ?」

「ふふっ。まあ、メチャシコは十七歳だから同じ歳で、気が合うのは分かるけど」

 と、アンジェリーチカは笑いながら言ってから。

 困ったものね――と、冷淡につけ加えた。



「まあ、うちは独り占めできるから、(うれ)しいンやけど」

「ダメよ。テンショウには、きちんと生殖(せいしょく)行為をしてもらわないと」


「じゃあ、うちがしようかなあ? 生殖(せいしょく)活動」

 と、フランポワンが甘えた声で言った。

 すると、後ろのソファーは沈黙した。

 嫌な無言の時間が続いた。

 すばらくすると、フランポワンが必死の()びた声をあげた。



「お姫チカ、許して、許してえ。冗談だったン」

 そしてバサリと、ふたりが倒れ込むような音がした。

 ごそごそと布をまさぐるような音がした。

 その間、フランポワンは、とろけるような声でアンジェリーチカの名前を呼び続けた。

 しかし、アンジェリーチカの声はまったく聞こえなかった。


 しばらくすると後ろから異様な声がした。

 吐息とも(あえ)ぎともつかない、しかし明らかに女の声であった。

 俺は、その声に思考力を奪われた。

 顔をあからめずにはいられない声だった。

 やがて、はっきりと(みだ)らな言葉すらきこえてきた。


「………………」

 俺は黙々と馬車をあやつった。

 そして数分にも数時間にも感じる時がすぎて、アンジェリーチカが帰った。

 彼女が視界から消え去ると、フランポワンは、俺の胸に飛びこんだ。

 そして、ひどく可愛らしい顔をして(ささや)いた。





「今日は、心が少し汚れたかなあ?」

 フランポワンは、俺の(ほほ)をさすった。

 真っ正面から俺を見て、そして、にたあっとスケベな笑みをした。

 俺は、カッとなって、痛烈な魔法の刺激を与えた。

 するとフランポワンは、腕を俺の首にまきつけ腰をくねらせた。

 そして言った。


「うち、魔法使いクンのこと好きなン。好きで、好きで、怒られたいン。好きで、好きで、めちゃくちゃに壊したくなるン」

 そのフランポワンの夢見るような瞳を見て、俺はこれは駄目だと思った。

 狂っている。

 いや、壊れている。

 頭がおかしくなっている。


 俺は、フランポワンを侮蔑(ぶべつ)に満ちた目で見た。

 フランポワンは快感に身をよじった。


 俺は、かつてアンジェリーチカに向けられたような――まるで汚物でも見るような――目で、フランポワンを見た。

 フランポワンには、明らかに性的な快感が走っていた。


「こいつっ」

 俺は怒りを抑えきれず、つい、必殺技とも言うべき魔法をぶつけてしまった。


「いやあ」

 フランポワンの全身から、どっと汗が噴きだした。

 失神寸前となって倒れ込んだ。

 俺が魔法で、彼女の体温を2℃ほど上げたからだ。

(厳密に言うと、体の一部だけしか上げていない。脳に誤情報が送られたのだと思う)


 ちなみに言う。

 人間は、体温が38.5℃を上まわると、立っていることや歩行が困難となる。

 また、体温が急上昇すると、強い寒気に襲われる。

 つまり、人間を無力化させるには、体温をたった2℃上げるだけでいい。



「こんなとこで使うもんじゃない……」

 俺は、フランポワンをお姫さまダッコして、屋敷に連れ帰った。

 やっつけてやったという気持ちよりも、切り札を使わされたという気持ちが勝った。



――・――・――・――・――・――・――

■チートな魔法使いである俺の復讐の記録■


 フランポワンの倒錯(とうさく)した愛をいっしんに受けた。

 →体温を2℃上昇させ、高熱状態にしてやった。


 ……この魔法は俺の切り札である。俺はこの魔法がバレて、そして対策されることを警戒していた。今回のことでバレはしなかったが、以後、激発しないよう俺は深く反省した。




■まだ仕返しをしていない屈辱的な出来事■


 城塞都市からの使者・アンジェリーチカ第一王女に、まるで汚物でも見るような目で見られた。


 屈辱的な姿勢で、後ろから指をつっこまれた。


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