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自由の国


「今回こそは何も無いといいな……」

「もし、何かあったらあたしが全部倒す!」

「もしもの時は俺だって活躍するぞ!」


 俺はマイヤちゃんと二人だけで来たるリューゲ王国との会合に向け、馬車を走らせていた。

 余談だが、イディオットは今カリステア王国の実家に帰ってもらっている。

 激闘の後だ、無理に連れていく訳にも行かない。

 だから、休んでもらっているのだ。

 マイヤちゃんと会話していると、前方にドデカい建築物が見えてきた。


「あれが……リューゲ王国……」


 その大きさはカリステア王国を凌駕するほど。

 リューゲ王国は何百年に渡って一切経済に介入しない方針をとっているらしい。小さな政府と言うやつだ。

 それぞれの市場の自由競争によって、リューゲ王国の経済は瞬く間に成長。

 そして、世界有数の大国へと成り上がったリューゲ王国はいつしかこう呼ばれるようになった……


――()()()()……と。


 そんなことを考えていると、俺たちを乗せる馬車はリューゲ王国の大通りに入っていた。

 大量の馬車とすれ違う。

 今回の会合は秘密裏に行われるものであり、俺たちの乗る馬車も一般的に使われるものになっている。


「すごいすごい!大きい建物がいっぱい!!」


 大通りの両サイドには所狭しと商業施設が建ち並び、リューゲ王国を大国言わしめる理由(わけ)をひしひしと感じる。

 そこから数十分……馬車に揺られ着いたのはこれまた巨大で荘厳的な王城。

 馬車を止め、降りたところには純白の鎧を身にまとい、緑の宝石のネックレスをかけた、白百合のように美しい銀髪の一人の女性と独特な落ち着きのある雰囲気を放つ細目で白髪(はくはつ)の男性がいた。

 そして、二人横並びでこちらに近づき、一礼。

 銀髪の女性が口を開く。

 

「初めまして、テンセイ国王様。リューゲ王の名により案内役を努めさせていただく三翼傑(トリニティ)の一人、一翼の聖(ファースト)、クラリス・シュトルツ・ヴァンホルトでございます」


 そして、白髪の男性も静かに口を開く。


「同じく三翼傑、三翼の聖(サード)、カイ・フェアラート。以後お見知り置きを……」


 三翼傑(トリニティ)――カイトからその話も少しだが聞いている。

 リューゲ王国で最も強い三人にのみ与えられる称号とのことだ。

 魔王であるカイトは全力で否定していたが、世間ではその強さは魔王と同等だとか言われているらしい。

 この人たちが……


「どうかいたしましたか?」

「あ!いや、なんでもない……」


 思わずまじまじと見つめてしまった。

 まぁ、気を取り直して王としての仕事を全うするか。


「俺はテンセイ・イセカイ・シュタイン。知っているとは思うがエリュシオンの国王をやらせてもらっている」


 次に俺は隣のマイヤちゃんの方へと手を向ける。


「こっちにいるのが国王の専属メイドのマイヤ・アヴェリーヌ・メイドリル。幼い姿をしているが一応俺よりは年上だ」

「お姉ちゃんとお兄ちゃん、よろしく!」


 そんなマイヤちゃんを目の前の二人は不思議そうに見つめる。


「これはこれは……興味深いですね」


 その時、カイと名乗る男性が手をマイヤちゃんの髪向けて近づけた。

 その手はゆっくりと確実にマイヤちゃんへと近づいていく。


「――やめろ。カイ」


 瞬間、カイの手を横から誰かが掴む。

 その掴んだ人物はクラリスと名乗る女性。


「おっと……失礼、失礼」


 カイはクラリスの手から強引に抜き取るように手を振り抜き、やれやれと言わんばかりに頭を横に振った。

 ……そんな状況下で俺は底知れぬ恐怖を感じていた。

 この二人に恐怖心を抱いている訳では無い。

 その恐怖の正体……それは――()()()()()()だ。

 カイの手がマイヤちゃんに触れようとした瞬間、感じたのは純粋無垢な()()

 今まで経験してきた数々の殺気とは一線を画した全くの別物のだった。

 もし、クラリスが止めていなかったらどうなっていたかは……正直想像もしたくない。

 そんな中、クラリスは最初と変わらない表情で話を続けた。


「申し訳ございませんでした。では、早速会場へと向かいましょう。リューゲ王がお待ちしております」

「……分かった」


 ビビりながらも俺は軽く返事をする。

 マイヤちゃんの方を見てもいつも通りのほほんとしている……大丈夫だろう!

 こうして、俺たちは二人の案内の元、会場となる部屋へと向かっていった。



◆◇◆◇



「この部屋でございます」


 目の前にあるのは重厚感満載のデカイ両開きの扉。

 見るからに重そうな扉をクラリスは軽々と片手で開けていく。

 その扉の先に現れたのはこのデカイ扉にそぐわない小さな部屋。


「カイは城の警備をしていて。さぁ、テンセイ国王様それではお入りください」


 俺は軽くお辞儀をし、部屋に入る。

 そして、クラリスの指示に従い、俺とマイヤちゃんは二人がけの長椅子に座る。


「あの……あそこのベッドにいる人は?」


 俺が部屋を見た時からずっと気になっていたベッド。

 それはカーテンに囲まれていて中が見えないようになっている。

 そして、その中にふくよかな体をした男性のシルエットが浮かび上がっているのだ。


「あのお方がリューゲ王でございます」

「あ、あれが……。何か姿が見せられない理由でも……?」


 俺がそう聞くと、クラリスはなに食わぬ表情で語った。


「リューゲ王はココ最近、正体不明だな大きな病にかかってしまい、大きな声も出せない状態でして……。

 今回はリューゲ王の要望でカーテンを閉めさせていただいています」

「大きな病か……。心中お察しします」


 だが、声が出せないのだったら会合はどうするのだ?

 そんな疑問が頭に浮かんだその時、クラリスは俺の向かいの椅子へと腰をかけた。


「私がリューゲ王の代わりにテンセイ国王様との会合を進めさせて頂きます」


 なるほど……。前代未聞だが、こればっかりは仕方が無いから気にするのはやめておこう。

 そして、クラリスが口をゆっくりと開いていく――


「では早速、語り合いましょう。国の未来について――」



◆◇◆◇



 こじんまりとした薄暗い部屋……そこに二つの人影があった。


「テンマ様。テンセイ・イセカイ・シュタインがリューゲ王国に再度向かったそうです。」


  報告するのはテンマに仕えるメイド、ハリエット。

 それを静かに聞くのは裏切りの魔王……アマガミテンマ。


「……そうか」


 短く返す声には、動揺の欠片もない。


「……どういたしましょうか。災禍六魔将の誰かしらを向かわせることも――」

「いや、今回は何もするな」


 テンマはハリエットの言葉を遮るように言葉を返した。


「リューゲ王国との干渉を()()()()と一度は阻止したが、()()()が接触したのなら話は別だ」


 ゆっくりと立ち上がるテンマ。その口には、不敵な笑みが浮かんでいた。


「――面白いものが、見られそうだ」

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