表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/59

まだ見ぬ道へとただ進む


 レイヴェナと会ってから数日が経った。

 自分の部屋のベッドに寝転がりながらも、俺はいまだに状況を整理しきれずにいる。

 ちなみに、イディオットとブレイズの戦いは「俺」が乱入によって一時的に共闘。その後は結局、ブレイズは帰っていったらしい。

 それ以来、イディオットは毎日毎時間のように「大丈夫か!?」と聞いてくる。

 心配してくれるのはありがたいけど、そこまでされると逆にこっちが不安になる。

 まぁ……それは今は置いておこう。

 やはり気になるのは、レイヴェナが語ったあの昔話だ。


 簡単にまとめると――


 この世界の住人は全て、転生者である「不老」のイベルナと「不死」のアルダムの末裔。


 「神能」は死を経験した転生者にのみ発現する力である。


 「神能」という力は子孫に受け継がれるものも、死を経験することが出来ないこの世界の住人は進化を遂げ、「魔法」を確立した。


 イベルナは「転石」と呼ばれる、異世界を行き来する宝石を作り出した。


 転生前の世界では神能の定着が不安定になり、魂から剥がして他者に譲渡することが可能となる。

 その結果、「不死」は一人の少年に、「不老」は一人の少女に譲り渡された。



 そんなところだろうか――

  だが、あの話を聞いたとき、ふと胸にひっかかったことがある。


――魔能……ましてや、魔王という存在が一度も語られなかったことだ。


 魔王は今やこの世界で最も影響力を持つ存在だ。

 研究の過程で無視するはずがない……それなのに、何故。


 語る必要がなかったのか――

 それとも、イベルナが研究していた時代には、魔王そのものが存在しなかったのか――


 理由なんていくらでも考えられる。

 けれども、真実は分からない。

 それに、どうしても拭えない矛盾がある。

 神能は死を経験した転生者に発現すると言っていた、だが、俺は一度も死んでいない……それなのに、何故、神能を得られた?

 ……結局、俺が気にしすぎているだけなのかもしれないな。

 堂々巡りを繰り返したところで、答えが転がってくるわけでもない。

 だったら今は……信じるしかない。

 俺は人差し指を立て、意識を集中させる。

 すると、指先に一筋の光が生まれた。


――この神能を使って、今度は俺が皆をそして国民達を守る


 そう心に誓った、その時だった。

 コンコンというノックの後に部屋の扉がゆっくりと開かれた。

 そこに立っていたのは、城で働く一人のメイドだ。


「どうかしたのか?」


 ベッドから体を起こすと、メイドは一礼し、静かな声で告げる。


「国王様。応接間にて客人がいらっしゃっております」


 客人……?

 思わず胸の奥に小さな警戒心が芽生える。


「分かった。すぐ向かう」


 軽く息を整え、俺はベッドから立ち上がった。

 こうして、俺は応接間へと足を向けたのだった。



◆◇◆◇



 俺は応接間の扉をゆっくり開けていった。

 その扉はいつもよりもずっと重たく感じられた。

 その扉を開けた先に座っていたのは見慣れた人物だった。


「……テンセイ。来たか」

「カイト……」


 そう名を呼んだ瞬間、俺は違和感に気づいた。

 表情はひどく硬く、目の奥には黒い影がある。

 肩は僅かに震えていて、それを隠すように拳を膝の上で強く握りしめていた。

 まるで、何か重大なことを抱え込み、押し潰されそうになっているかのように。

 俺の知るカイトとはまるで別人のようなその姿に、思わず後ずさりしてしまった。

 だが、怯んでいては何も始まらない。

 俺は勇気を振り絞り、一歩前へ踏み出して向かいの席に座った。


「……どうしたんだ?だいたい瞬間移動で直接来るのにわざわざ応接間に来るなんて珍しいな」


 そう聞くと、カイトは両指を絡めたまま顎につける。

 そして、衝撃の言葉を発した――


「――先勝の魔王、カルマ・スカーレットが殺された」


 言葉が出なかった。

 その言葉は重く、首に刃物を突き立てられたかのように冷や汗が流れた。

 カルマが……死んだ?


 ――何故。――いつ。――どこで。――誰に。


 無数の疑問が、脳内で渦を巻いて俺を襲う。

 カイトは深く息を吐き、苦悶の表情を滲ませながら言葉を続けた。


「俺たちは秘密裏に仏滅領への総攻撃を仕掛けた。だが……アマガミテンマ、奴の方が何枚も上手(うわて)だったようだ」


 カイトは眉間に皺を寄せて続きを語る。


「貪愛のドロレス・モラトリームと名乗る災禍六魔将の一人だ……。奴がカルマを……」


 言葉を連ねるカイトの手は震えていた。

 怒りか哀しみか……いや、その両方に駆られているのだろう。

 カルマは嫌な奴だった。短気で、喧嘩っ早くて、どうしようもなく扱いづらい存在だった。

 だが……その奥には、上手く表すことの出来ない人間らしい優しさに似たものを俺は確かに感じていた。


「しかも……奴はヴェロニカを同時に相手にしていた状態でだ」


 カイトは奥歯を強く噛み締め、湧き上がる怒り……そして、恐怖を堪える。


「……あれはもう、人間じゃない。生物ですらない。

――災厄そのものだ」

「ちょっと待て……ドロレスは魔王三人を持ってしても、抑えられなかったのか……」

「俺は途中で吹き飛ばされて、戦闘を離れていたが、三人で戦ったとて、勝ち目は……微塵も見えなかった」


 カイトの言葉には誇張などなかった。

 本気でドロレスを()()()()()として見ている声音だった。

 ……ドロレス・モラトリーム……どれ程の化け物なんだ。


「奴は胴が二つに分かれても、再生し元に戻った。ヴェロニカの話によれば首を切り落とし、頭を潰してもだ。神能だとは思うが……今のところはなんとも言えない」


 即死級の傷を負っても死ななかった、あのときの俺のような現象か……。

 だが、奴の場合は生き延びるどころか再生するという上乗せがある。


「……分かった。そのドロレスとかいう奴には気をつけておくよ。特徴はどんな感じだ?」


 俺は机に置かれた紅茶をひと口含む。

 カイトはわずかにためらう素振りを見せながらも、口を開いた。


「――パンツ一丁で筋肉質の……言うならオカマだ」


 その空気に似つかわしくない単語の羅列に、俺は盛大に紅茶を吹き出した。


「ゴホッゴホッ……は、はぁ?」

「俺が見たのをそのまま伝えただけだ」


 ……まぁ、世の中には色々な奴がいる。

 逆に言えば、そんな男が戦場にいたら目立って分かりやすい。

 とここで、頭の片隅に小さな疑問がふと顔を出した。

 カルマが死んだというなら、その魔能は今どこにあるのか……?


「なぁカイト。ひとつ気になることがあるんだが、いいか?」

「あぁ、なんでも言ってくれ」

「カルマが殺された……ということは、先勝の魔能はドロレスに継承されてしまったのか……?」


 カイトは以前、魔王になるには魔王を殺すしかないと言っていた。それはつまり、魔能が殺した本人に継承されるということでは無いかと俺は考えていた。

 だか、俺の予想とは裏腹にカイトは首を横に振った。


「いや、それはない。魔能は本人が殺された時に譲渡する意志を示さなければ受け継がれない。

 だから先勝の魔能は拠り所を失って、今は漂っているはずだ。

 ……()()()()()()()()()()()()()

「魔能にはそんな性質があるのか……」


 神能、そして魔法のことはある程度はレイヴェナの話で理解しているつもりだ。

 だが魔能となると話は別だ。まだ知らぬことばかりで、掴みどころがない。

 釈然としない思いが胸に残る。

 そんなことを考えていると、カイトは俯き口を開いた。


「アマガミテンマ……。奴の目的が分からず動きが読めない以上、俺らは魔王は一方的に狩られるばっかりだ。

 まずは奴の狙いを暴き出す、それが最優先だろうな」


 そう言い終えると、カイトは用意されていた紅茶を一口で飲み干した。


「ずっと居ても悪いしな。そろそろ、帰るとする」

「あ!ちょっと待って!」


 俺はそこで、ひとつ大事なことを思い出した。


「リューゲ王国の国王から手紙をもらっていてな。本当は会合の予定があったんだが……ブレイズに襲われて行けなかったんだ。だから、今度改めて向かわないといけない」


 そう言って俺はズボンのポケットから封筒を取り出す。

 それはレイヴェナの部屋を出た直後、マイヤちゃんから手渡されたものだった。

 その差出人は()()()()()()()()()()()

 主催者であり、リューゲ王国の王様だ。

 内容は、俺が会合をすっぽかしたことへの苦言と、後日の再調整の連絡だった。

 ()()()()()()という言葉を聞いた瞬間、カイトの顔が分かりやすく曇る。


「リューゲ王国か……。テンセイ、そこは少し気をつけた方がいいかもな」

「それはどうしてだ?」

「俺は魔王の目(まおうのめ)という国が反旗を翻さないように見張るスパイをどの国にも派遣させている。

 その者からの情報だ。……元々世界有数の自由主義国家だったリューゲ王国がここ最近になって、急激に政策を変え続けているらしい。

 国の舵を誰が握っているのかも怪しいほどにな」


 その声音には、明らかな警戒と不信が混じっていた。

 そんなカイトを見て、俺は少し考えてから口を開いた。


「だけど、リューゲ王国程の大国の会合を無視するわけにはいかないよな……」


 こうした会合は国の信用を築く場。

 信用ができないからと、断り続けていたら待っているのは頼れる味方がいない……いわゆる、孤立状態となってしまう。


「それを決めるのはテンセイの自由だ。止める理由もない」

「俺は行くよ」

「なら、気をつけてな」


 また、災禍六魔将が現れるかもしれない。

 だが、もう怯えて立ち止まるつもりはない。


――強くなって、皆を守るのだから


 俺は次なる舞台、リューゲ王国へと向かうのだった……

「断罪の魔王編」、これにて終了となります!

これまで扱いの難しかった主人公もようやく本格的に活躍できるようになって、書いている自分自身もとても嬉しく感じています。


そして、自分事で恐縮ですが、物語のストックが少なくなってしまったため、ここで二週間ほどの休載をいただきたく思います。


次の章では、これまでとは少し違った展開をご用意しております。

神能を手に入れた主人公らしいテンセイの戦闘が見れるかも……?

楽しみにお待ちいただけましたら幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ