上位なる者、降臨
「ほっ!ほっ!危ねぇ!」
「避けてんじゃねぇ!」
イディオットとブレイズは攻防一体、両者の命をかけた戦いを繰り広げていた。
【これじゃ埒が明かん!一旦、引かんかい!】
「っ……!分かってるよ!」
イディオットは凄まじい勢いでバックステップ。後ろに大きく下がる。
そんなイディオットを煽るようにブレイズは口を開く。
「おいおい……怖気付いたか!」
そして、ブレイズも同様に距離をとる。
と、その瞬間……またもや鉄棒に燃え盛っていた炎が消え去る。
【またや……なんなんやさっきから。距離をとった途端に炎が消えとる……】
「うーん……分かんね」
イディオットが少し考える素振りを見せる。
だが、そんなことはお構い無しにブレイズが楽しそうに目を見開き、口を開く。
「俺の神能が気になってんのか?……教えるわけないがな!!」
瞬間、辺り一帯……超広範囲が炎に包まれる。
だが、何かを仕掛けるような予備動作もなかった。
そして、俺は二人の戦場を見下ろす崖の上にいた。
凄まじい熱気がこちらまで漂ってくる。
二人が戦っている隙に距離を取っていなければ、今の一撃で確実に灰になっていただろう。
それほどまでにブレイズの炎は桁違いなのだ……。
なんであいつは平気そうなんだよ……。
「趣向を変えようか!」
ブレイズがそう叫んだ瞬間、突然イディオットの身につけていた防具に火がつく。
「おっと……!」
イディオットは即座に防具を脱ぎ捨て、剣を構え直す。
「なんの前触れもなく、防具が燃えたな……」
【なぁ……森の中に走り込んでくれへんか?ほんで、あいつが追いかけてきたら小枝でもなんでもええから目に投げつけろ】
「理由は分からないが……信じるぞ!」
その瞬間、イディオットが全速力で逆方向へと駆け出し、炎が燃え盛る森の中へと姿を消していく。
「逃亡か……見損なったぞ!」
ブレイズが怒りの声をあげ、躊躇なくその後を追う。
まるで追いかけっこ……逃亡劇だ。
「いつまで逃げる気だ!」
痺れを切らしたのか、ブレイズは目を見開きながら怒鳴る。
【――今や!】
「おうよ!!」
イディオットは走りながら手にしていた尖った木の棒を、全力で投げ放つ。
狙いは――ブレイズの目
その木の棒はブレイズの目をめがけて真っ直ぐに飛んでいく。
「――なっ……!」
ブレイズはとっさに身を逸らし、棒をかわす……が、反射的に目を瞑った……その時だった。
森を焼いていた炎がまるで嘘のように跡形もなく消え去ったのだ。
【――やっぱりや!あいつの神能は視界に入っとるものを自由に燃やすことができ、目を閉じるとその炎が消えるんや!】
「なるほど……そういうことだったのか!」
ブレイズはゆっくり目を開けて、まるで褒め称えるかのように口を開く。
「はっは!俺様の神能を見破ったか。ただの馬鹿だと思っていたが……面白いじゃねーか」
「俺だって考えながら戦ってるからな!」
【おま!?……まじかよ】
ブレイズは口元に笑みを浮かべる。
そして、突如大地を踏みしめ、イディオットとの距離を詰めにいく。
「だからなんだ!どうせ死ぬんだから意味が無いな!」
再び鉄棒が燃え盛り、炎を纏った一撃がイディオットに襲いかかる。二人の刃が激しくぶつかり合った。
【……さっきから剣術が異様なほど高いな】
「……神能を使わなくともこの強さ。いいな!お前!」
イディオットの持つ剣は大きい分リーチは長い……だが、超至近距離にはいられてしまうと、攻撃が間に合わないのだ。
対してブレイズの持つ鉄棒は全てが焼けた刃のようなもの、あらゆる角度からの斬撃を可能とするトリッキーな武器。
相性ゆえイディオットが少しだけ押され、後退する。
「――馬鹿め!」
その瞬間、イディオットの後ろの地面が燃え上がり、炎は天まで届く勢いで上がっていく。
まるでそれは炎の壁……
「おっとと……!」
イディオットは炎の壁にぶつかる前にギリギリ踏みとどまった。
だが、相手はその隙をみすみす見逃すほど甘いものではない。
「おらよ!!」
高速の刺突がイディオットの胸に突き刺さる……はずだった。……いや、突き刺さったのだ。
「んー……慣れたな」
なんとその刺突を食らってもイディオットの身体は微動だにしない。
まるで痛覚が存在しないかのように、イディオットは平然と仁王立ちのまま呟いた。
異様な光景に困惑の色を見せるブレイズをそのままイディオットは剣を振り抜き、逆袈裟で捕える。
「っ……!?」
炎の壁が消失すると同時にブレイズは急いで後方に飛ぶ。だがその胸はザックリと斜めに切られていた。
「ゴフッ……なんなんだ、お前は……」
ブレイズは血を吐きながらも、怒りを乗せた言葉をイディオットにぶつける。
「俺の力は……まだ秘密だな!!」
【……ちと気に食わん表現やけど……まあええ!このまま攻めてくで!】
イディオットは剣を片手にブレイズへと突進する。
ブレイズは目を見開き、構えをとった。
「また燃やして――な!?」
だがその瞬間、ブレイズが神能を使うより先、視界を遮るように、イディオットが何かを放った。
その正体は大きな布。
「俺が剣を拭く時のハンカチだ!」
ブレイズに動揺が走り、動きが鈍る。
(まずい!視界が塞がれてあいつを燃やせない!!)
【やるやんけ!!】
イディオットは布越しに容赦なく剣を振り抜いた。
鋭い刃がハンカチの裏にいるブレイズの腹を正確に捉え、深く斬り裂く。
「ガッ――」
血飛沫とともに、ブレイズの体が大きくのけ反った。
イディオットはそのままの勢いで肩を使い、ブレイズに体当たりをかます。
ぶつかる衝撃音とともに、その体当たりがブレイズを吹き飛ばす。
ブレイズの体は宙を舞い、大木に激突した。
だが、しぶとい。
腹を押さえながらも、ブレイズはすぐさま立ち上がる。
その目にはまだ炎のような闘志と怒りが宿っていた。
「さぁ……勝負はここか――」
その瞬間だった――
――バシュ……
何かがブレイズを横切る。
「は……。俺様の……腕が!?」
どこからともなく高速で飛んできた光の刃のようなものがブレイズの左腕を切り飛ばしたのだ。
腕は宙を舞い、無残にも地に落ちる。
無論、イディオットにも動揺が走る。
「一体……何が起きて――」
その瞬間、先程と同じ光の刃がイディオットめがけ飛んでくる。
イディオットは凄まじい反射神経でそれに反応。
イディオットはとっさに剣を構え、その軌道に割り込ませ、威力を相殺しにかかる。
「お……重すぎ――」
だが、剣ごと弾き飛ばされるほどの威力だった。
イディオットの体は吹き飛び、木々を薙ぎ倒しながら地面を転がる。
「ぐっ……誰だ――!?」
【なんや……あの……バケモンは!】
イディオットの視線の先、空中にふわりと浮かぶ謎の人影。
煙のような神々しい光を纏いながら、ゆっくりとその姿を露わにしていく。
「頭が……ない……!?なにかの怪物か――」
そこに浮いているのは、首から上が存在しない謎の存在だった。
しかし、それはただの異形ではなく、人間。
だが、それもただの人間では無い。
【いや……違う……違うで……あれは――テンセイや!】
人という領域を超えているその正体は……そう――
――この「俺」。テンセイだったのだ。




