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剣(つるぎ)が喋っちゃダメですか?


「ごめんよ、今日はマイヤちゃんはお留守番ね」

「……分かった」


 マイヤちゃんはしょぼんとしながら城の方へととぼとぼと帰っていった。

 今日これから近隣国の国王との会合という大事な予定がある。

 その名も、リューゲ・ヘルメス王国。通称リューゲ王国と呼ばれるカリステア王国とも方を並べる大国中の大国だ。

 色々遊んでばっかりの俺だが、意外と国王らしいことはしてるんだぞ!!


「そろそろ行くか……」


 そして、もちろん隣には……


「この俺、イディオット様が全てを弾き返してやるぜ!」


 最近護衛として一緒に暮らしてるイディオットがいる。

 でも、正直不安要素しかない……

 俺とイディオットは早速馬車に乗り込み、会合の地へと向かって出発した。



◆◇◆◇



 俺とイディオットを乗せた馬車は、静かな森道へと差しかかっていた。

 車輪の音がカラカラと響き、木漏れ日がゆらゆらと揺れ俺らを照らす。のどかな風景の中、馬車の中では少しのんびりした空気が流れていた。


「よく晴れてるなぁ」

「だなぁ」


 俺は背もたれに体を預け、思わずため息をついた。

 国王として会合に向かっているわけだがイディオットとこうやってのんびりしていると旅行のような気がしてくる。


「こんなにも平和だと、護衛って感じしないな」


 そんな軽口を叩きながら、イディオットは窓の外に視線をやる。


「おいおい、そんなこと言ってると何かが起きちまうぞ」


 俺は笑いながら冗談交じりにそう言う。

 そしてイディオットはニヤリと笑い返してきた。


「何か起きてもこの俺――」


 とイディオットが言葉を続けようとした……その刹那。


「――獲物がのこのこやってきたぜ!」


 と森中に響き渡る程の怒鳴り声を発しながら木の影から無数の男たちが現れる。

 顔には布を巻き、手には剣や斧、弓を構えた連中。数は十、いや二十を越えているかもしれない。

 おいおい……お約束の展開かよ。


「なぁ、倒し――」


 俺が倒してくれとお願いしようと横を向くとそこにはもう誰もおらず、既にイディオットは馬車を飛び降りてその男たちの前に立っていた。


「おいおい、死ににきたのか。オレらは魔狩だぞ!」


 と、男たちはイディオットを嘲笑うかのように大きな声を上げた。

 魔狩……久しぶりにその名を聞いた。魔王の首を狙う連中だ。

 こいつら、今は金銭目当てって感じだな……

 

「テンセイ!よく見ておけ!イディオット・ステューピッドの勇姿を……」


 イディオットが俺の方を見ながら誇らしげにそう言った。そして後ろに手を回し、背負った剣を抜く!……はずだった。


「――俺の剣がねぇ!!」


 いつもなら常に背中に大剣を背負って居るはずだが、なぜか今日は背負っていない。

 それに今、イディオットは気づいたようだ。

 おいおい……嘘だろ!?


「何やってんだ!!避けろ!!」


 俺の叫びに反応して、イディオットはとっさに身をひねる。

 敵の一人がイディオット向けて突撃してきていたのだ。

 今のを見てわかった……こいつらただのモブじゃない!


「あっぶねぇ!……まずいな」


 鋭い突きがイディオットの頬を掠めたことによって表情が強ばる。

 流石にこちらは素手で、獲物を持った男を何十人も相手にするのはキツすぎる。

 俺も参戦するか……いや、俺が出ていってどうなる、イディオットは俺の護衛だ。護衛対象が敵の前に出ていくなんてイディオットの足でまといにしかならない……が……

 馬車から身を乗り出しながら、俺は葛藤する。

 だが、その葛藤を断ち切ったのはイディオットだった。


「テンセイ!頼む、俺の剣を取ってきてくれ!ここは足止めする!」


 初めて見るイディオットの気迫に全身が震える。

 俺にもできることがある。役立たずのままじゃいられないのだ!


「ああ!任された!」


 俺はイディオットに背を向け、俺は即座に馬車の馬を一頭だけ外し、鞍にまたがる。

 そして俺は国へとあいつの剣を取りに全速力で駆け出した。

 こんなとき無力な俺には何ができる?剣もない。魔法もない。

 できるのは、あいつのために走ることだけだ!

 馬の手綱を握りしめ、俺はとにかく前だけを見て森道を全力で駆ける。

 幸い、この森から国まではそんなに遠くは無い。


「――待ってろよ!イディオット!」



 ◆◇◆◇



「ぐっ……やはり、()()()がないときついな!」


 何とか耐えてはいるもののイディオットの体には何ヶ所か切り傷が刻まれていた。

 一瞬の油断が命取りとなる。だがその現状に立たされてもなおイディオットの顔には笑みがあった。

 相手の振り終わりに合わせ、正確にカウンターを叩き込む。

 拳が顎にめり込み、男がくの字に折れ地面に沈む。

 その隙を狙って別の男が斧を振り下ろしてきたが、イディオットは紙一重でそれをかわし、肘打ちを叩き込む。

 だが、次から次へと相手の攻撃は続く。

 無情ながらこれが数の暴力とやらだ。


(こいつらの武器を拾っている暇は無いな……)


 避けて、避けて、避けまくる。

 だが、長引けば不利になるのは確実だった。


「まあ、時間稼ぎぐらいは余裕だな」


 自分に言い聞かせるように呟き、次の敵に向き直る。


「あいつが戻ってくるまで、ここは一歩も通さない!」



◆◇◆◇



 丘を越えると城門が見えた。見張りが俺に気づいて叫び声を上げるが、俺は止まらずに叫び返す。


「すまない、通せッ!緊急だ!」


 そして城門を通り、馬から降りてそのまま城の中へと駆け込んだ。


「あの大きさの剣だ……すぐに見つかるはず!」


 走りながら城内を必死に見渡す。だが、静まり返った廊下がただ無情に俺を追い詰めてくる。

 時間がない……今この瞬間にもイディオットは戦っているんだ。

 俺はイディオットが使っている部屋の扉を勢いよく開け、部屋の中を隈なく探す。

 だが、部屋には生活用品が雑多に置かれているだけで肝心の剣は見当たらない。部屋中をひっくり返すように探してもどこにもない。


「くそっ……ここには無いのか……」


 俺は諦めて違う部屋を探しに行こうとした……その時。


――ドンッ


 俺が剣を探していると突然隣の部屋から何かが落ちる音がこちらの部屋まで響いてきた。

 音的にかなり大きくて重たいものだろう……まさか!?

 俺は慌てて廊下に飛び出でて音の鳴った部屋のドアを開けた。

 そこは俺も見た事がない部屋で壁際には盾や槍、刀、あらゆる武器がずらりと並んでいる。武器庫のようだ。

 そして視線を下にそらした俺は息を飲んだ。


――あった……


 床には見つけてくださいと言わんばかりの位置に転がっている一本の大剣。

 まるで誰かが意図的にそこに置いてあるかのようだ。


「……そんなのはどうでもいい!今は早く――」


 俺はイディオットの大剣の柄を持つ……その刹那。


【――見つけるんが遅いんじゃボケ!】


 「えぇ!?」


 突如脳内に声が響く。

 この感覚つい最近にもあったやつだ!!

 俺は驚きと混乱を抑えながらも、しっかりと剣の柄を握る。

 も……もしかして……


「あの……きょ、今日天気良いですね〜……」

【ホンマやね〜って、ご近所の叔母はんか!】

「やっぱり喋った!!しかもツッコミ早っ!!」


 俺の予想通り、この剣が喋りかけているんだ!

 いったい何なんだこの剣は!?

 ……って、今は驚いている場合じゃないな。

 俺がイディオットの危機を伝えようとしたそのとき、剣の方から先に声をかけてきた。


【 さ、無駄話してるヒマあらへんで。あのアホ、まだがんばっとるやろ?】

「……あぁ!」


 状況は何も分からないが、こいつがなかなか頼れる奴だってことは理解した。……剣だけど。

 俺は喋る剣をしっかりと抱え直し、俺のために戦い続けてくれているイディオットのもとへ再び全力で駆け出したのだった。


――この戦いがまさかあんな結末を迎えるなど、誰も知る由はなかった。

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