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この素晴らしい国に災厄を!


 俺の国がある赤口領はこの世界の最西端に位置する場所にあり、東に行くと大安領が見えてくる。

 どうやら、俺の国の位置から大安魔宴が開催される大安領の魔都までは休憩なしで1日と少しかかってしまうから今すぐ行くと言ったらしい。

 ちなみに今は、俺、イディオット、マイヤちゃんの三人で途中の町の宿で夜を越し、カリステア王国から用意された送迎用の馬車に揺られもうすぐ魔都に着くというところだ。


「おいテンセイあれを見てみろ!」

「えぇーー!何だこの長い道!?」

 

 目の前には白を基調とした一本の道がまっすぐ伸びており、視界の限界まで見渡しても、その終わりはどこにも見えない。

 そしてその道の両脇には広大な色とりどりの花が咲き誇る野原が広がっており、風に運ばれてくる花の香りと穏やかな光は、どこか現実離れした神聖さすら感じさせるものである。

 目の前の景色に興奮しているとイディオットが意気揚々に説明しだす。


「ここは天国への道(イデアロード)。大安領観光ランキング一位の名所だ!(参照:じゃ○ん)」


 あの女を褒めているようで癪だが……まぁ、一位も納得の風景だ。

 そんなことを考えていると俺たちを乗せた馬車は、そんな終わりの見えない華やかな道をゆっくりと走り出した。



◆◇◆◇



「長いようで短かったな」

「お花が沢山咲いてて楽しかった!」


 永遠と思われたあの道も終わり、馬車から降りた俺たちは今、魔都の正門前にいる。

 この国全てが白をベースに立てられているようだ、想像はしていたがそれを遥かに超える美しい正門だな。

 大安魔宴が開催されるのは今日の正午ぴったしらしい、まだ一時間近く余裕があるな。


「よし、お前ら!早速入るか!」

「そういや、前赤口領の魔都に行った時は魔都通行許可書なるものが必要だったんだが大丈夫なのか?」

「それなら問題ない。この祝宴の期間のみ、誰でも出入り自由だ!」

「セキュリティ的に大丈夫なのか……」

「大安の魔王は他の領に行っては自分の思うがままに滅茶苦茶してるからな、ある意味恐れられているし大丈夫なんだろ」


 俺の国、エリュシオンもあの女に見事にしてやられたもんな……恐ろしい女やで!

 俺がイディオットと話していると、甲高い声が門のほうから響いた。

 

「わーい!祭りだ祭りだ!」


 見るとマイヤちゃんが魔都へ入る寸前だった。

 するとイディオットも


「待て待て〜!俺も行く〜!」

 

 元々低かった精神年齢がさらに下がったのか、子供のようにはしゃぎながらマイヤちゃんの後を追って門の方へ走り出した。


「ちょ待てよ!」


 俺もそれに続いていき門を抜ける。

 そしてその奥に広がる光景に度肝を抜かれる。

 そこには、白を基調とした美しい街並みが広がっていた。高くそびえる尖塔、繊細な彫刻が施された石造りの建物、美しいアーチを描く橋。

 まるで絵画の世界に迷い込んでしまったかのようだった。


「す、すげぇ……」


 何度も言うようで申し訳ないが本当に美しい国だ。これ程の国は元の世界では見た事がない、というか無いだろうな。

 周りを見渡しこの美しさを堪能しているとイディオットが近づいて話しかける。


「想像以上だったろ!俺も前に一度だけ来たことあるがやっぱりすげぇーよな!」

「あぁ……この美しさを表すことが出来る言葉がないのが悔やまれるな……ってマイヤちゃんは?」

「彼女ならそこに……あれ」


 さっきまで目の前で大はしゃぎしていたはずなのにどこを見てもマイヤちゃんの姿がない。


「マイヤちゃーん!!おいおい……迷子かよ!!」


 大声で呼んでも全く反応がない。これは俗に言う迷子と言うやつか。

 大安魔宴の始まりが近い、人が多くなってきた。あの子を一人にするのはいくらなんでも危険だ!


「イディオット!二手に分かれて探すぞ!」

「あぁ!了解した!祭りが始まるまでには絶対に見つけてやるぜ!」


 イディオット……ちょっと楽しんでるようにも見えるがまぁいい!

 こうしてマイヤちゃんを見つけるためイディオットは東側の通りを、俺は反対の西側へと走り出したのだった。



◆◇◆◇



()()()()()()、開宴の時刻がまもなくとなりました。そろそろご準備をお願いいたします」

「言われなくても既に終わってますわ」

「お見逸れしました、クラリッサ様」


 薄いレースのカーテンが掛けられた窓から入る光がきらり輝く豪華絢爛な部屋。

 純白の壁にはところどころに金色の飾り模様が描かれていて壁と同じように金の模様が描かれた天井には中央から小さなガラスのシャンデリアが下がっている。

 そんな部屋の中でクラリッサは開宴まで待機していた。


「では、私はこれで……」


 クラリッサのメイドと思わしき人物が静かに一礼し、部屋を出ようとした……とその時


「少し待ちなさい」


 クラリッサは冷ややかで気品を帯びた澄んだ声でそのメイドを呼び止める。たがその声色とは裏腹にクラリッサの表情は余裕を感じさせる笑顔だった。


「はい、どうかなさいましたか?」

「今日は少しティータイムの時間を早めますわ。支度を整えておきなさいな」

「かしこまりました……差し支えなければ、理由をお聞かせいただいても?」


 メイドが恐る恐るそう聞くとクラリッサはくるりと背を向けどこか楽しげな声で


「気分が変わりましたの」


 と一言だけ告げた。

 振り返ることなく、それが全てと言わんばかりの、満ち足りた言葉であった。


「もう話すことはありませんわ。お下がりなさい」

「かしこまりました……」


 メイドは再度深く一礼し余計な言葉を残すことなく静かに部屋を後にした。

 扉が音もなく閉まるとクラリッサは窓から外を覗きボソッと何かを口にした。


「 ――大安魔宴……花容月貌たるこのワタクシにこそ相応しき、美と魔の舞踏となりそうですわ……」

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