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俺に天使が舞い降りた!


 無事、魔合議が終わり数日後、俺は一人で自分の部屋のベッドで寝転がっていた。

 そんな静かな空間で一人、天井をぼんやりと見上げながら過去となってしまった日々を思い出す……


「俺は……ハッシュに依存してしまっていたんだな……」


 色々と思い出しているうちについ言葉が漏れ出てしまった。

 ただハッシュが隣にいてくれるだけで、心が救われていた。

 そんな存在を、当たり前だと思っていた……その重さに今更気づいた自分自身がとても憎らしい。


――コンコン


「国王様、お時間よろしいでしょうか」


 静まり返った部屋にドアをノックする音と誰かの声が響いた。

 俺はゆっくり起き上がりドアの方を見ながら


「あぁ……いいぞ」


 と一言だけ返した。

 俺は今一瞬期待した……しかし、一言目ですぐに分かってしまった。

 そしてドアが開かれ入ってきたのは見たことの無いメイドだった。

 この王城には数多ものメイドが働いているし、それに加えて俺にはハッシュという専属メイドがついていたから見たことの無いメイドも沢山いるのだ。


「今回、国王様の専属メイド、ハッシュ・ラッシュ・メイドリル様が殉職されたということで()()()()()()()()()()()()()()から最も高い成績を収めた者を新たな専属メイドとして連れてまいりました」


 ハイリヒ・メイド・アカデミー……この国の北部に位置する王族直属のメイド養成学校だ。

 この国の決まりで代々国王に仕えるメイドが殉職または引退をした場合、その学校で最も成績の高いものを次の専属メイドとして採用しなければならない。

 もちろんハッシュもこの学校出身だが少し特殊で、詳しくは知らないが元々俺につくはずだったメイドが突如姿を消したということで成績二位だったハッシュがくり上げになり専属メイドとして雇われたらしい。

 正直俺はこの制度が嫌いだ、まるでメイド達を使い捨ての雑巾のような扱いをしているように感じてしまうのだ。

 まぁ……いくら国王でも国ができた当時からある決まりはそう簡単には変えられないのだからどうしようもないのだが。


「では、こちらへどうぞ」


 メイドが部屋の外の廊下の方に視線を向け、柔らかくそう告げる。そして小さな足音が聞こえると同時、新たな専属メイドの姿が露になる。


「――失礼しますっ!」


 俺はそのメイドの姿に思わず自分の目を疑った。

 それもそのはず高めの声とともに姿を見せたのは、あまりにも幼いハッシュと同じ青髪の少女だった。背丈は腰ほどしかなく、着ているのは大人と同じメイド服だが、明らかにサイズを詰めて仕立てられている。

 俺は思わず、言葉を失った。

 冗談だろ……とそう思いつつもう一度目を凝らす。

 けれど、何度見ても目の前にいる女の子は間違いなく十にも満たないかと思えるほどのあどけない外見だった。


「え……ガチ?」


 思わず国王らしからぬ言葉使いが出てしまったがそんなことも気にせずこの少女は自己紹介を始める。


「あたしマイヤ!マイヤ・アヴェリーヌ・メイドリル!」

「彼女はこう見えて国王様より一歳ほど年上でございます。なのでなんの問題もございません」

「ええ!?と゛し゛う゛え゛!?」


 俺より年上だと!?この子が!?

 衝撃の事実に俺は口を開けっぱにして呆然とする。


「えぇこの子は少し特殊な病気を患っていて10歳から体の成長が止まっているらしいのです。しかし、成績を見る限りは実力は申し分ないかと」

「そ、そう……なのか?」

「こんなんでもお役に立たせて頂きます!フンッ!」


 マイヤは小枝のような細い両腕を曲げて、ほぼ無いに等しい上腕二頭筋を強調する。

 正直……ぐふっ……かわよいなぁ……おっと!いけないいけない……

 俺は深く息を吸って一旦冷静になり、俺の新しい専属メイド?に色々聞いてみる。


「なんて呼べばいいかな……マイヤ……ちゃん?」

「それがいい!可愛い!」


 一応俺の方が年下なんだよな……


「マイヤちゃん本当に俺のメイドになんかなっていいの?」

「あたしメイドさんが夢だったの!!だからやりたいの!」


 マイヤちゃんは無邪気な笑顔でそんなことを言ってきた。

 だけど……ハッシュのこともあったんだ、マイヤちゃんには悪いけど……


「厳しいことを言うが正直俺は辞めた方がいいと思う」「え……うぅ」


 潤んだ瞳を上目遣いでのぞかせる。

 小さく首を傾げて、まるで叱られたあとの子犬みたいに。

 こんなの……俺の心が耐えられるわけが無いじゃないか!!


「やっぱ嘘!!許可!!」

「ほ……本当?」

「もちろん本当だよ!!これからよろしくねマイヤちゃん!」


 震え今にも泣き出しそうだったマイヤちゃんの顔がどの万物の輝きをも凌ぐ、眩い笑顔へと変わっていった。

 こんな愛くるしい生物がこの世に存在するなんてっ!!

 抱きしめてあげたかったが何かと問題が起こりそうなのでしっかりと抑える。

 そうこうしているとマイヤちゃんを連れてきたメイドが

口を開く。


「それともうひとつ、国王様に来客でございます」

「来客?」

「はい。ではこちらへどうぞ」

「マイヤちゃんも行くか?」

「行きたい!行きたい!」


 俺に来客……カイトか?いやあいつはこの部屋に直接ワープしてくるもんな……てことは他の誰かか。

 俺たちは、メイドの後ろに従って廊下を歩き始める。

 マイヤちゃんは弾むようなステップを踏んでとても楽しそうだ。

 少し歩くとある部屋の前でメイドが立ち止まりこちらを振り向く。


「こちらでお待ちいただいております」


 ある部屋とはこちらの世界に来てからというもの全く使用してなかった応接間だった。

 メイドが扉を開け、俺とマイヤちゃんは中に入っていく。

 部屋の中央には、木製のローテーブル、その周囲を囲むように落ち着いた緋色のソファが並んでいる。

 久しぶりに入ったな……で、俺に用だなんて一体誰だ……


「あぁ!!お、お前は!!」

「――ふっ……」


 既に座っていた男は実戦を見据えて鍛え上げられたハーフプレートアーマーに身を包んでいる。

 そしてその横にあるのは見る者の息を呑ませるほどの威圧を宿した巨剣。

 その姿はまるで戦場の空気を支配する、孤高の戦士そのものであるが……前述したことを全て台無しにするバカ!


「この紅茶本当にうまいな!この国で取れたやつか!?」

「それは麦茶です!!」


 マイヤちゃんが俺の代わりにツッコんでくれた。

 そこに居たのはまじもんのバカ、勇者イディオット・ステューピッドだった。

 はぁ……一体誰かと身構えていたが全く無駄だったな。

 そして俺たちはイディオットと相向かいにあるソファに腰をかける。


「で、わざわざ何の用だ?」

「今日は遊びのお誘いをしに来たんだ」

「お誘い?」


 遊びのお誘い?そんなものいちいちここに来なくても手紙やらなんやらで送れるだろ。

 イディオットは話を続ける。


「そうだ。大安魔宴(たいあんまえん)って知ってるか?」

「いいや、知らないな。マイヤちゃんは聞いたことある?」

「知らないです!」

「まぁだろうな!」


 じゃあ聞くなよ……


「説明しよう!大安魔宴とは大安の魔王クラリッサが毎年開催している祭りのことである!」

「名前通りって感じだな。わざわざ説明したってことは祭りに一緒に行かないかってことか?」

「その通り!たまには俺も休息が欲しくてな……最近なかなか強いやつと()()戦いを繰り広げたんだよ」


 なかなか強いやつ……まさかそれって!!


「それって災禍六魔将か!?」

「あー!それそれ災禍六魔将の……フリスクだったかな……いや、フレーク……」

「赫怒のブレイズ・アイアンフレアじゃないか?」

「多分それだ!しっくりきた!」


 他の全ての情報を犠牲にして覚えた名前なのにもう忘れてたのかよ……頭に脳みそが詰まってないのか??

 よし、これ以上ブレイズの話を聞いても無駄そうだな。

 そう考えた俺は脱線した話を元に戻す。


「それで大安魔宴の話に戻るんだが俺は暇だし一緒に行っても構わないぞ」

「本当か!ありがとうな!」

「それで一体いつから始まるんだその大安魔宴ってやつは」

「明日だ」

「明日!?」


 普通そういうのはもっと早く言うだろ!……でも俺は常に暇だから全く構わないんだがな。

 一旦咳払いでお茶を濁し、俺はイディオットに問う。


「……明日のいつだ?朝イチか?」

「何言ってんだ今すぐ行くに決まってるだろ」

「は?」

「今すぐ!行くに!決まってるだろ!」


 ――こうして俺達は混沌の渦巻く新たな舞台へと足を進めることになる。

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