魔合議②
俺は一呼吸おき、必死に言葉を紡ぐ。
「……ようやく気づきました。この世界の残酷さと、それを前にしてなお、俺がどれほど未熟だったかを……」
異世界に来てからの俺は浮かれていた。
未知の力、未知の文化、未知の景色――
すべてが新鮮で、まるで夢の続きのように思えていた。
だが、ハッシュは違った。
この世界の現実を知った上で、それでも俺を王として信じ、支え続けてくれていた。
それなのに――俺は守れなかった。
ただ立ち尽くし、選択を迷い、その結果として、取り返しのつかない犠牲を出してしまった。
その事実は、今も胸に重く残っている。
だが同時に、もう二度と同じ過ちを繰り返さないと誓う理由にもなった。
俺は国王だ。
そして、国王である以上――逃げずに、選び続けなければならない。
ハッシュ……君が信じてくれた俺を、今度は俺自身が最後まで信じ抜く。
――覚悟は、もう揺らがない。
「俺は……俺は――元の世界に戻ります!」
その言葉を口にした瞬間、自然と涙が零れる。
だが、もう顔を伏せたりはせずにただ……ただひたすらに前だけを見据えていた。
「戻ると決めたのは、楽だからじゃない。
俺が王として犯した過ちを、王として清算するためです」
「――逃げるってことか」
カルマが唸るような低い声で俺に言い放った。
……そうなのかもしれない。心のどこかではこの世界で起きたことを忘れようとしているのかもしれない。
夢だったことにして、終わらせようとしているのかもしれない。
でも……これは決して、逃げでは無い!
「それは――」
俺がカルマの言葉に返そうとした瞬間……
「――カルマッ!!」
横から空気を裂くような声が飛んだ。
その声の主はカイトだった。
怒りとも、哀しみともつかない、だが確かな熱を帯びたその叫びに、周囲の空気が一瞬で張りつめる。
そのままカイトは一歩前に出ると、まっすぐにカルマを睨みつける。
「こいつが言ったんだ、元の世界に戻ると。だけどそれが逃げだなんて少しでも思ってるならお前は何もわかっていない」
カルマは何も答えず、ただ沈黙を守る。
それに対しカイトはさらに一歩踏み込んだ。
「こいつが帰ろうとしている理由はただひとつだ。……逃げるためじゃない。ここで失ったものを背負って、再び立つためだ!」
魂の籠った言葉だった。それはまるで自分事のようなほど……
カイトは冷静を取り戻し、言葉を続ける。
「もしお前が理解できていないなら俺は何も言わない。ただ、こいつの覚悟を少しでも疑うようなことがあれば俺が許さない」
自分が言いたかったこと。伝えたかったこと。でも、上手く言葉で表せられないこの気持ち。
それをカイトは、まるで自分のことのように叫んでくれた。あの一言一言に、俺の覚悟が確かにあった気がした。
「けっ……気色悪いぜ」
吐き捨てるように言い残し、カルマはこの場を後にした。
カルマが出ていったのを確認してフレンさんが口を開く。
「カルマが失礼なことを言ってしまったね……すまない」
「逃げと捉えられてもおかしくないですから、仕方ないですよ」
本来フレンさんが謝ることでは無いのに……まぁ俺の言い方にも悪い部分があったからな。
「テンセイ君、君の思いはよく伝わったよ。でもこの世界から向こう側に戻るにはあの指輪が必須だ。結局のところは災禍六魔将、そしてテンマ君との争いは避けられないね」
その通りだ。結局危険を犯さなければ何も手に入れることは出来ない。
俺は静かに顔を上げた。
瞳の奥に、揺るぎない光を宿して。
「分かっています……最初からそうなるって覚悟して言いましたから」
敵が誰であろうと、俺は引かない。もう、迷う理由なんてどこにもないのだから。
「今のテンセイには覚悟がある。その覚悟がある限り俺たちは全力で手助けしてやるさ」
俺の肩を軽く叩きながらカイトが言った言葉はとても頼もしく感じた。
そしてその手のひらの温もりと、まっすぐな眼差しが、言葉以上に強く胸に響いた。
「ありがとう、カイト」
「あぁ……いいってことよ!」
とここで一段落ついたところでフレンさんが咳払いをしてから話し出す。
「この後用事があってねそろそろ失礼するよ」
「分かりました、話聞いてくれてありがとうございました!」
「いいんだ、僕の話も聞いてくれたしね。そうだ、クラリッサ君とそこで寝ているヴェロニカ君には後でこのことを伝えておくよ」
そして、フレンさんは部屋の薄暗い隅の壁へと歩き出す。
そういえばこのヴェロニカとかいう奴ずっと寝てたな……これで本当に魔王なのか……?
なんて考えていると向こうに歩いていったフレンさんが何かを思い出したのか俺たちの方を振り向いて、口を開く。
「――そういえば……君は――」
だが、その言葉は途中で途切れ、これ以上を話すのをためらった。
そして、フレンさんは小さく首を振り、答えを決めた。
「……いや、やめておこう」
残されたのは答えの代わりに生まれた違和感と、後味の悪い未解決の気配だけだった。
「テンセイ。俺達もそれぞれの国へ帰ろうか」
フレンさんの言葉の真意を考えているとカイトがこんなことを言った。
まぁ色々気になることはあったけど……疲れたし帰るか!
「よし!帰宅だー!」
こうして魔合議は多少のいざこざはあったものの無事終わりを迎え俺らはヴェロニカをそこに残してそれぞれの国へと帰った。
「――ぐぅ……ぐぅ……んぁ……あれ、カルマ達まだ来てないのか。もう1回寝よ……ぐぅ……ぐぅ……」
「カリステア王国編」これにて終了です!
いかがだったでしょうか?
余裕があればカインの過去を番外編として出してもいいのかなーなんて考えています。




