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自然を愛する者



 長い年月を経た屋敷は、苔とツタに覆われ今にも崩れそうな外壁をまといながらひっそりと森の奥に息づいていた。

 そして、その屋敷の門の前にライネルとアニカが現れる。


「ヒヤヒヤしたなぁー」


 そう言いながら、ライネルが片手で門を豪快に開く。

 開いた門の中には外壁とは正反対でまるで作りたてのように美しい屋敷が、堂々とそこにそびえていた。

 そして目の前にはメイドと思わしき女性が頭を垂れて、二人を待ち構えていた。


「お帰りなさいませ、アニカ様、ライネル様。食事の準備は済んでおります。如何なさいますか」

()()()()()!流石だな!ちょうど腹減ってたんだよなー」

「私はシャワー浴びてからにするわ。足から流れる血がうざったらしいわ……」


 そしてアニカは左に方向転換し足から血を流しながらシャワーへと向かった。

 アニカの姿が見えなくなるとハリエットと呼ばれたメイドがライネルと共に奥にある部屋へと歩いていく。

 そして両開きのドアをゆっくりと開く。


「やぁただいま!()()()()()()()!」


 そのドアの奥には白のテーブルクロスがかかり大量の料理が置かれた長いテーブルと貴族が座るようなでかい椅子が両サイド三つずつの計六つ置かれていた。

 そしてそこにはこの雰囲気に似つかない白のパンツ一丁で座るドロレスと呼ばれた巨漢の男とツユイと呼ばれた真っ黒のローブで全身を隠し、謎の生き物のようなお面をした人物が既に座っていた。

 ドロレスはライネルに気づくやいなや笑顔でねっとりとした声で話しかける。オネエという感じの喋り方だ。


「おかえりなさい、ライネルちゃん。あら、他の皆は?」

「アニカはシャワー浴びに行ったよ。カインは……」


 ライネルの表情を見て察したのか、巨漢の男は少し表情を暗くして


「あらあら。それは大変だったわね」


 とまるで同情するような口調でそう言った。だが、とても軽薄で上っ面だけの言葉にも見える。

 ライネルも同じように仲間の死があったなど全く感じられないような口ぶりだ。

 ライネルがツユイの隣の椅子に腰をかけるとドロレスは続けて質問する。


「それでテンマちゃんが命じてた目的は果たせたの?」

「もちろん。完璧さ!」


 ライネルは誇るかのように高らかと宣言する……とその時。


「――クソッ!化け物が!」


 そんな怒号とともに部屋の扉がバタンと大きな音を立て勢い蹴破られる。

 そこから出てきたのは顔を真っ赤にし殺意を露わにする少年だった。

 ライネルはその少年を見ると途端に笑い出しながら


「おっと、忘れてたよ。()()()()も僕たちと一緒に来てたんだった」

「確かブレイズちゃんはライネルちゃん達が動きやすいように魔王たちを誘き寄せる役だったわよね?」


 ブレイズはドンドンと床を強く踏みながらドロレスの横の椅子へ腰をかける。

 そして一旦深呼吸を挟み、口を開く。


「チッ……そうだよ」

「いやいや、こっち赤口と友引相手したんだけど。全然ダメじゃん」

「うるせぇな!俺様が裏門から入ろうと思ったら()()()と出くわしたんだよ!」

「あいつって?」


 ブレイズまたもや大声で吠え怒りを露わにする。

 そんなことはお構い無しにライネルは軽い嘲笑をして疑問をなげかける。


「特異存在のイディオット・ステューピットだ!俺様はあいつと戦ってたんだぞ!」

「あら、それは大変だったわね。で、どうだったの?」

「……あと少しで勝てるとこだったさ!!」


 感情を爆発させたブレイズはそう言いながら机を強く叩く。

 けれども少しの沈黙の後放たれたその言葉は誰がどう見ても虚言だ。


「少なくとも私たちはブレイズちゃんの強さを知っているわ。イディオット・ステューピット、よっぽどの化け物だったのね」


 ドロレスはブレイズに気を遣い優しい声色でそう一言言う。

 しかし、ライネルが笑い声を響かせながら


「ただの負け惜しみじゃん!」


 とドロレスの優しい言葉を台無しにする空気を読めない一言を放つ。

 そんな言葉を無視できるような性格では無いブレイズは怒髪天を衝く。


「何も知らねーゴミが喋んな!!」


 余程食らったのかそう言ってブレイズは席を立ちそそくさと部屋を出ていった。

 

「ブレイズちゃんは特異存在と戦ったの。生きて帰ってきただけ偉いことよ」


 その状況を見かねたドロレスがライネルを優しく諭す。

 その言葉にライネルは不貞腐れながらも小さく頷く。


「失礼します。お料理をお持ちしました」


 そんな会話をしているうちに部屋の元々ドアがあった入口から先程のメイド、ハリエットが大量の料理を運んできていた。

 その横にはシャワーを浴び終わったアニカもおり、一言も発さずライネルの隣の空いている席に座る。

 そしてハリエットはそのまま素早い手つきで運んできた料理をそれぞれ目の前に置いていく。

 置かれ終わると突然今まで黙ってたアニカがドロレスの目の前の料理を見ながら


「ドロレス……もう()()()()辞めてくれるかしら。何度見ても慣れないわ」


 と不機嫌そうな顔で言った。

 アニカが言ったその料理とは不可思議な異臭を放つ赤黒く凹凸があるなにかの生肉のようなものだ。

 それに対しドロレスは静かに俯きながら……


「アタシにはこの()()()しかないの。アタシはこの世の自然全てがね、尊くて、愛しくてたまらない。植物ちゃんや他の動物ちゃんたちを食べるなんて死んでもできないわ」


 と言い終わるとドロレスはゆっくりとアニカの方へ目線を向けていく。

 そしてドロレスの顔が鮮明に見えるとそこには今までの優しさは無く光が無理やり封じ込められたような、恐ろしい輝きが宿っていた。

 その目は、今にも全てを破壊し尽くすような、鋭い刃のように光っている。

 その目のままドロレスは今までの口調でこう言った。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その言葉によってドロレス以外の全員に緊張感が走る……とそれ打ち破ったのはまさかのハリエットだった。


「テンマ様より伝言がございます」


 ()()()という名前を聞き全員顔を上げハリエットを見つめる。


「次の目標は魔王の殺害……狙うは……」


 一呼吸を置きハリエットは言葉を続けた……


「――()()との事です」

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