異世界の王様は妹キャラ好きらしい
カインによって国が襲撃されてから、三日が経った。
俺の国は城門周辺がほぼ壊滅状態となったものの、ハッシュが機転を利かせ、周辺に住む国民達を救助してくれていたおかげで死者は出なかった。
だが、今回の一件で国民からの信頼は地に落ちてしまっただろう。
ハッシュは命こそ助かったものの、まだ意識が戻らず、療養中で動けない。カイトも同じく意識を失ったままだ。どうやら、彼自身には回復魔法を使えないらしく、最後にフレンさんを瞬間移動で呼んだあと、力尽きてしまったのだ。
あの事件の後、ひとまず国の混乱が落ち着いたタイミングで、俺はフレンさんにこの国で起こったことをすべて伝えた。
フレンさんの話によると、カインロックハートは有名な奴らしい。人殺しを目的に様々な国を渡り歩いているそうで、その力ゆえ、いくら捕まえてもすぐに逃げられてしまい今、指名手配犯の中で一番懸賞金のかけられた男だそうだ。
だが、意外なことに災禍六魔将という言葉については、フレンさんも知らない様子だった。
「テンセイ、着いたぞ!ここが俺の生まれ故郷、カリステア王国だ!」
そして今、俺は旅客運送用の馬車に乗りイディオットと共にある国を訪れていた。
その国の名はカリステア王国。それはこの世界でも屈指の発展を誇る大国で、特に第三次産業が中心の経済を支えているという。街道沿いには宿泊施設や商業施設が立ち並び、観光を目的に訪れる旅人も多いらしい。
「早速、王の元へ向かおうか」
石畳の広い街道に馬車の車輪が音を立てる中、遠くに見えていた城壁が徐々に近づいてくる。
そこの君!なんでイディオットとこんなに仲良くなっているか気になっていることだろう。
その理由は簡単だ。イディオットは見た目こそバカっぽいが、怪我人の救護にも手を貸してくれるような根は優しい奴だ。それに、どうやら最初は俺のことをカイトを殺しに来た敵だと勘違いしていたらしい。
でも、誤解が解けた今では自然と打ち解けることができたんだ。
「あそこにある建物が王宮だ!」
イディオットが指を指しながらそう言った。
「うわぁ……まじでけぇ」
俺の城よりも一回りも二回りもデカイ。
「俺の国なんか比にならないな!」
「そうだろ、そうだろ!一緒にしてもろたら困る、格が違うわ!」
調子に乗りやがって……でも俺の国だって、もっと大きくなる予定なんだからな!
そんなこんなで、俺たちは王宮の前の門にたどり着いた。
「これはこれは!イディオット様!どうぞお入りください!」
門番と思しき男がそう声をかける。
「イディオットって、そんなにすごい奴なのか?」
「当然だ!俺は勇者だぞ」
これまで自称勇者の痛いやつだと思っていたが、あの強さを目の当たりにして、もしかすると本物かもしれないと思い始めた自分がいる……
俺たちは案内係に導かれ、王のもとへと向かった。
「イディオット、ただいま戻りました!」
イディオットは片膝をつき、頭を深く下げた。
俺もその動作を真似るように頭を下げる。
「ご苦労であった」
玉座に座る王へと目を向ける。
年の頃は四十代から五十代といったところ。
がっしりとした体格で、いかにも威厳を持った国王って感じの人物だ。
「イディオットよ、そっちの男は何だ」
「例の国の王、テンセイでございます!」
――例の国。俺の国もそこまで有名になったのか……
だとすれば、あの惨状も知られているはず。
それにしてもこの王、放つ気配が異常だ。
尋常な相手じゃない……。
「今日はお話があって参りました」
「ほう、話してみろ」
「今日は私の国に支援をお願いしたく……」
この提案を進めたのはイディオットだった。
カリステア王国であれば、支援を受けられる可能性があると考えたのだ。
正真イディオットがこの提案を持ちかけてきた時は別の人物が考えたのではと疑ってしまった。
「三日前、私の国はカイン・ロックハートと名乗る男による襲撃を受けました。その被害により国は半壊状態となり、いまだ復興の目処も立っておりません。つきましては、カリステア王国と国交を結んだ上で、復興に必要な資源をご支援いただけないでしょうか……」
一度深く頭を下げ息を整えてから、必死に言葉を続けた。
「もちろん、貿易の内容についてはそちらのご希望に従います!どうか……どうかお力を――」
俺の言葉を遮るように、王が唐突に立ち上がった。重々しい足取りで玉座を降り、そのまま俺の目の前まで歩いてくる。
次の瞬間、耳を疑う驚きの発言が飛んできた。
「――お前……妹キャラは好きか?」
「……は?」
一瞬、時が止まった。
妹キャラ? いや、違う。俺の聞き間違いだ。そんなわけがない。今この人が言ったのはきっときのこの山だ。うん、きのこの山に違いない。
「もちろん、きのこの山も好きですが……やっぱりたけのこの里の口の中でとろけるような優しいクラッカーも捨て難いかと……」
「きのこの山ではない!妹キャラだ!」
……あ、マジで妹キャラって言ってたんだ。
「好きか嫌いかで言えば……まぁ、好きな部類かと。実際、私にもいますしね。誰の記憶にも残ってないような妹が……」
勘違いしないで欲しい。ヒキヤンは嫌いだ。ムカつくからな。
でも妹という存在は好きだ。あれは尊い、本来ならばもっと神聖な概念なんだ。
「……よし。お前の国と国交を結んでやろう」
……えっ!?こんなんでいいのかよ。
「ただし、条件がある。お前の妹をここに連れてこい。そうすれば国交を結び、いくらでも資源を分けてやろう」
妹をここにつれて来るだけでいいのか……!
そんなの容易い御用だ!ヒキヤンがどうなるかは知らんがあいつと国民全員の命だったら、若干国民側に傾く……そんなことは無いな。
「了解しました。必ずやここに妹を連れて参ります!」
こうして、俺はこの条件を飲み王宮を後にした。
――だがこの時のテンセイは忘れていた、妹が引きこもりだということを……




