命に代えても……
カイン・ロックハート……何より大切な国を破壊した張本人だ。
あの惨状は、今も鮮明に脳裏に焼きついている。
「テンセイ様の怒りは私の怒り。私は貴方を許しません。ここで必ず仕留めます」
「何故、俺の通るルートが分かったかは知らないが、殺して通れば関係ないな!」
ハッシュは太ももに巻いたレッグホルスターからナイフを取り出す。
カインも同様に懐から鉄杭を取り出す。
一触即発、時が止まったかのようにどちらも眉ひとつ動かず静止する。
……
…………
………………
「ケケッ!最短で終わらす!」
その静寂を打ち破り先に動いたのはカインだった。
カインが動くとほぼ同時、ハッシュもスタートを切っていた。
「最短で終わらすっていっただろ!」
カインはハッシュが走り出したのを確認するとさっき取りだした鉄杭をハッシュの顔面に向けて投げつける。
それは常人では不可避の速さ、さらにハッシュはカインへ向けて走り出している、視認すら不可能だろう。
だがハッシュは止まらない、頬を軽く切られるもスピードは落ちることを知らない。
「そんな小細工は効きません」
「だったら斬り合いだな!」
カインは再度懐から鉄杭を抜きハッシュに突っ込む、そして次の刹那二人の間に火花が散る。
斬り合いは五分どちらも天才的な戦闘力だ。
「おいおい!以前とは違って面白いじゃないか!」
「あの時と同じだと思ってかかってきたら一瞬であの世ですよ」
「ケケッ……訳の分からんことを!」
(このメイドッ……当たったと錯覚するほどの凄まじい精度の引きつけ!……面白いなぁ!)
「これでは埒が明きませんね。一旦距離を取りますか」
そう言い、ハッシュはバックステップをすると同時にいつの間にか手に持っていた六角を放つ。
だがカインはその六角を鉄杭で軽くあしらいカウンターで鉄杭を投げつける。
ハッシュはその虚をついた鉄杭をさえも完全に見切る。
そして、再度二人は向かい合う。
「次は何を見せてくれるんだ!」
「貴方は見る間もなく死ぬ」
そしてハッシュはカインへ突っ込んでいく。
さっきとは違い直線ではなくジグザグに動くことでカインを翻弄する魂胆だ。
それに対しカインはあえて何もせずハッシュを迎え撃つ姿勢だ。
「さあもう一度斬り合うか!」
そしてハッシュのナイフとカインの鉄杭がぶつかり鈍い音を立て、再び斬り合いへとなだれ込む。
「やっぱり面白いなぁ!だがそれじゃさっきと同じだ!」
「そうですね、ではこんなのはどうでしょう」
「――チッ」
そう言った直後ハッシュの左脚がカインの脇腹めがけて飛ぶ。その蹴りに対しカインは少し反応が遅れるもギリギリのところで腕を入れ抑える。
しかしカインの顔に焦りの色が見える。
(この蹴り、あまりにも軽い!フェイクか!)
「かかりましたね」
ハッシュの左脚は限界まで伸ばし手を離したバネのように元の位置へ戻る。そして意識外となり、がら空きとなったカインの右足首へ向け再度左脚を振り抜く。
「がぁぁぁ!」
その蹴りによってカインの体軸が大きくズレる、そしてハッシュはカインの頸動脈めがけ右手に持ったナイフを振り落とす。
その刹那……焦りの表情を見せていたカインがうすら笑いをうかべる。
「――二秒前」
「なっ!?」
よろけ体軸がズレていたはずのカインは何事も無かったかのように元に戻っている。
ハッシュは見事に空振りし振り下ろしの体制、あまりに隙がありすぎる。
「面白かったぜ……じゃあなぁ!」
ハッシュのうなじを目掛けてカインの鉄杭が振り下ろされる。
これは……明らかに防げる角度では無い。
「ぐっ……」
「ほう……最高に面白い女だ!」
ハッシュの首元に鉄杭が刺さり貫通する……と思われたが実際に貫いたのは首ではなくハッシュの左手の甲だった。
ハッシュはうなじが危険だと瞬時に予測し左手を後ろに回して犠牲にしながら致命傷を防いだのだ。
そのままハッシュは刺さった鉄杭を絡め取りながら瞬時に距離をとる。
「リスタート、聞いた通りの厄介な能力ですね」
「お前の左手、もう使えないだろ。片手じゃもう勝ち目はゼロだな」
手に刺さった鉄杭を抜き、投げ捨てる。
「片手があれば十分です。何も問題ありません」
「ケケッ……その強がりもいつまで続くかな!」
手負いのハッシュにトドメを刺しにカインが飛び出す。
カインも先程のハッシュ同様ジグザグに動き撹乱を図る。
両者得物が届く範囲になり再再度斬り合いになる……はずだった。
なんと、ハッシュが放った一撃がカインの肩にいとも容易く突き刺さったのだ。
だがその事実にハッシュは疑問を抱く。
(おかしい……こんな軽い刺突が当たることなんてありえない……というかわざと刺されに来たような……まさか!)
「ケケッ!気づいても遅いなぁ!頂いた!」
「ぐ……」
ハッシュはカインの肩からナイフを抜こうとするも遅かった、鉄杭がハッシュの脇腹に深々と突き刺さる。
そう、カインの狙いは相打ちだった、しかしただの相打ちでは無い……
「三秒前!」
能力を使い三秒前に戻ったカインの肩の刺傷は跡形もなく消えていた。
これはハッシュだけが一方的に傷ついていく相打ちだ。
「さぁ!もう一度刺し合おうか!」
「チッ……」
カインがハッシュに猛攻撃を開始する。
ハッシュは防戦一方で攻撃をせずバックステップで避けるしか無かった。
攻撃をした瞬間カインがわざと当たりにいきカウンターが飛んできてコチラがダメージを受けるだけだからである。
だがハッシュは至って冷静、かなりの怪我を負っているにも関わらず動きがまるで変わらない。
と、ここでカインが一歩前に踏み込みハッシュの懐を侵略する。
「ケケッ!一体いつまで避けてるつもりだぁ!」
「――いつまでですか……今この時までです」
ハッシュの鳩尾に鉄杭が突き刺さる寸前、使えなくなった左腕をあえて刺させてカインの首を切り落とさんとする横なぎを繰り出す……
「まだ耐えるか!二秒前!」
だか、またしても避けられてしまう。そして変わらず防戦一方の刺し合いが繰り返される……はずだった。
「戻る場所さえ覚えれば簡単ですね」
「なんだと!?」
カインの鳩尾に深々とナイフが突き刺さる。
なんとハッシュはカインの現れる場所に前もって刺突を繰り出していたのだ。
「ぐぅ!?三秒前!」
「無駄ですね」
(こいつ!あえてジグザグに動いたはずなのに今までの俺の立ち位置を秒単位で覚えてやがる!)
ハッシュはカインの今までの動きを全て覚え、カインの言った秒数に合わせて攻撃を繰り出す。
逆にカインは激しく動いたせいで戻った時の体制が足が伸びきっていたり、刺し終わりで肘が伸びきっていたりとバラバラで自分が追いつけていない。
「形勢逆転ですね。このまま押し切らせてもらいます」
「二秒前!三秒前!五秒前!」
いくら戻ろうとその懐にはハッシュがいて、致命傷を与えてくる。カインはもう自暴自棄になりかけている。
ここが狙い目だとハッシュは一歩前に出て心臓を刺しに行く。
「そろそろトドメを……」
「ケケッ……捕まえたァ!」
心臓に突き刺さるすんでのところでカインはハッシュの腕を掴む。
そしてカインが雄叫びのように叫ぶ……
「――五十七秒前!」
「何を……な、ここは!?」
何故かハッシュの左脚がカインの脇腹めがけ飛んでいっている。
そう、これは少し前にフェイクとして打った蹴りだ。
「俺のリスタートはな掴んだ相手も一緒に戻すんだよ!」
ハッシュの蹴りがカインの脇腹に刺さる。だが、あまりに軽い蹴りだ、カインは何事も無かったかのようにハッシュへ向け全速力で飛び出す。
――まずい!これでは後ろに飛べ……
「ケケッ……面白かったぜ」
「が……あぁ……」
カインの放った突きがハッシュの鳩尾に突き刺り鉄杭に全体重を乗せるように身体が浮く、その刺突は内蔵まで届くほどのものだった。
もう……ハッシュは限界だった、命の灯火が消えていく……ように見えた!
「――この状況を……今を狙ってたんですよ!」




