第30話 面倒な相棒の登場
斑鳩孝一は、寝起き特有の頭のぼんやり感とともに、昨日見た“白い空間”の出来事を思い出しながら上半身を起こした。
と、同時に。
ケージの中から、元気よく念話が飛んできた。
『おはよっ!』
「……うわ、朝からテンション高ぇ」
『さっき主に夢の中で会ってきた!僕の使命がわかったよ!君を成長させることが僕の使命なんだ!今日からビシビシいくよ!』
妙な威厳をまとった声だったが、ケージの中ではハムスターが頬袋をぷくっと膨らませて仁王立ちしている。
まったく威厳はなかった。
「お前、昨日まで“魔石食わせろ”しか言ってなかっただろ……」
ハムスターは咳払いをして、胸を張る。
『むほんっ……我に魔石を献上せよ!』
「チェンジで」
即答。
『ちょっと待って待って!そうじゃなかった!』
ハムスターは慌ててケージにしがみつき、小さな手をブンブン振った。
『聞いた話によるとね!僕と君は見えない糸みたいなもので繋がっているんだって!どちらかが成長すれば、もう片方も成長するんだって!』
「……はぁ」
『でも僕が戦うわけにはいかないでしょ?というか、僕が戦って勝てる相手がいない!』
「そりゃそうだ」
『な・の・で!魔石を食べます!』
力強く宣言するハムスター。
最後は決めポーズまでつけてくる。
『今日からよろしくね!』
「……よろしくしたくねぇんだけどなぁ」
斑鳩は頭をかきながら大きくため息をついた。
今日から、本当に大丈夫なのだろうか。
少なくとも、朝一からケージに向かって話しかける生活になるとは思わなかった。
『我は朝ご飯を所望する。我に朝ご飯を献上せよ!』
「チェンジで!」
『ちょっと待って待って間違えたの、昨日晩御飯を食べていません!魔石ではお腹は膨れません。お腹がすきました。朝ご飯お願いします。大き目の梅干し位のサイズのオニギリが良いです!具はお任せします。普通のハムスターじゃないので何でも食べます。』
「しょうがないな、朝ご飯下で食べてくるからちょっと待ってろ、食べ終わったら持ってくるから、昼とかはいるのか?」
『カリカリがあれば助かります。』
「カリカリ?」
『解んないかな〜?あれだよあれ、ハムスター用のご飯だよペットショップにも売ってるから忘れないで買っといてよ』
「なんか偉そうだな〜」
『そんな事ないよ?っと可愛いポーズをハムスターが取りながら
無かったらフルーツなら何でも大丈夫です。お願いします。』
「解ったじゃあ又後で」
斑鳩は、ため息をひとつつきながら階段を降りた。
キッチンからは味噌汁の湯気と、ほんのり焼き魚の匂いが漂ってくる。
「おはよう、孝一。昨日のホーンラビットの肉、下味つけといたから夜に唐揚げにするわね」
母親がエプロン姿で振り向く。
「あ、うん。ありがと……」
頭の中では、さっきのハムスターの念話がリフレインしていた。
《大きめの梅干しサイズのオニギリを所望する!》
《チェンジで!》
《お腹すいたの、お願いします〜!》
……やっぱり朝からカロリー高すぎる。
自分の分の朝食をさっと食べ終え、台所の端に置いてあった残りご飯でミニおにぎりをにぎる。サイズは――ハムスター基準では“大きめの梅干しサイズ”らしい。梅干し知ってるんだ...
味は、おかかにした。無難だろう。
「何してるの?」
母親が不思議そうに尋ねる。
「……いや、ちょっと、小腹すいた時用の……」
自分でも苦しい言い訳だとわかっていたが、母は特に疑うことなく頷いた。
小皿におにぎりを乗せ、そっと部屋に戻る。
ドアを開けると、ケージの中で例のハムスターがケージの壁をよじ登ろうとしていた。
登れるわけがないのに、やたら頑張っている。
「おい、何してんだ?」
ハムスターは振り返り、ぱぁっと顔を輝かせて念話を飛ばしてきた。
『あっ!朝ご飯!我に献上』
「チェンジで」
『ま、待った!……昨日のクセが抜けないだけだから!はい、いただきますっ!』
斑鳩は小皿をケージの前に置き、扉を開けて中にそっとおにぎりを置いた。
ハムスターは両手でそれを抱え込み、もしゃもしゃと食べ始める。
想像以上の勢いで減っていく。
『……ふぁぁ、うま……おかか……最高……』
「ハムスターが“おかか最高”て言うかね……」
『普通のハムスターじゃないもん!それより……カリカリも忘れずにね』
「はいはい。ペットショップ行ってくるよ」
『ありがと!斑鳩くん、良い人〜。じゃあ食べ終わったら少し寝るね……』
食べながらすでに瞼が重くなってきているのか、ハムスターの頭がゆらゆらしていた。
「寝るんかい……」
小さなケージの前で斑鳩は肩を落としつつ、昼用のリンゴを一切れ入れておいた。
ハムスターって昼ごはんいるのか?夜行性だし寝てるんじゃ?まあいいや、普通のハムスターじゃないみたいだし。
今日から、本当に面倒くさい相棒を背負ったのかもしれないな……
と、ぼんやり思った。




