第17話 自己治癒(小)の効果
朝の光がカーテン越しに差し込み、孝一はゆっくりと目を覚ました。
寝起きのぼんやりした頭で、昨夜の出来事を思い返す。あの“神っぽい存在”との会話――スキルを授かったということ――が夢だったのか現実だったのか、まだ判断がつかない。
(ゲームみたいにステータス画面があるわけでもないし……本当に“自己治癒(小)”なんて付いたのか?)
そう考えながら身体を起こした瞬間、前日の実施講習で痛めた手首が「痛くない」ことに気付く。
「……えっ?」
手を握ったり開いたりしてみる。
昨日は確実に捻ったはずだ。ズキッと来て、まともに力も入らなかった。
だが今は――違和感こそ少し残っているものの、痛みはほぼゼロだ。
さらに足首。
ハグレを蹴った反動で、地味にダメージがあったはずの部分も、何ともない。
「すご……ほんとに治ってる……」
驚愕と、ほんの少しの興奮が胸を走る。
これが“スキル”というやつなのか。
昨夜聞かされた「魔石を献上すればもっと強化される」という話がリアルに思えて、急にやる気が湧いてくる。
ただ、献上ってどうするんだ?と疑問も残る。
その時、一階から母親の声が聞こえた。
「孝一ー? 朝ごはんできてるよ〜! 今日も講習行くんでしょ〜?」
「はーい! 今行く!」
階段を下り、台所に行くと、母親が味噌汁をよそい、父親は新聞アプリを見ながらトーストをかじっている。
このなんでもない光景が、なぜか胸にぐっときた。
前の人生。
もっと前の人生。
どちらも忙しさや疲労で家族との時間なんて碌に無かった。何時の間にか1人だった。
(……ああ、やっぱり俺、ちゃんと“生きて”るんだな……)
そう思った瞬間、こみあげてくるものがあった。
ポロッ……。
「えっ? 孝一!? ちょ、なに泣いてるの!?」
「どこか痛いのか?」
父親まで心配してきて、余計に涙が止まらなくなる。
「う、ううん……ちょっと……なんか……いろいろあって……」
誤魔化しながら味噌汁をすすり、落ち着こうとする。
涙はしばらく止まらなかったが、
それでも朝ごはんを食べ終える頃には、気持ちはだいぶ前向きになっていた。
靴を履き、玄関に立つ。
「いってきます」
「いってらっしゃい、気を付けてね」
「怪我だけはするなよ」
両親の声を背に、孝一は2日目の講習へと向かって歩き出した。
手首は軽く、足取りも軽い。
昨日とは、何もかもが違う。
今日から――少しは、自分を変えられるかもしれない。




