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37話 圧倒的な力

 ファフニールの城のすぐそば。そこには大きな闘技場のような物が設けられている。魔王候補たちは戦いを仕掛けられることが多々あるため、城のすぐ近くに大きな闘技場を作っておくのだとか。


「ふむ、しかしよく考えれば最初に戦った者が倒してしまえば、次の者がファフニールと戦えなくなってしまうな」


「いらねえ、心配だなぁ! お前達なんざ俺が一瞬で叩きのめしてやんだよ! なんせ俺はこの魔界で唯一()()()()()()()()()()男なんだからなぁ!」


 レベル上限を突破した? 俺が見た感じではレベルは1000だったのだがそれのどこが突破しているのだろうか? もしかして俺の見間違いか?


 ……いや、そんなことないな。今覗いてみてもレベルは1000のままだ。だとすれば何かの力で一時的にレベルの上限を突破するのかもしれないな。


「レベル上限突破じゃと。まさか貴様もそれほどの領域へと到達していたとはな」


「あぁ? 負け惜しみはよせ? お前が超えてる訳ねえだろ」


「ふむ、まあそんなことはどうでもよい。魔王とは実力で物を語るものだ。まずは妾から行かせてもらうぞ」


「どうぞ」


 もう抑えきれないといった表情で言ってくるアリスに俺は先手を譲る。正直、俺としては魔王になれようがなれまいがどうでもいいんだがな。ただ、この世界に転移した際のような迫害を受けたくはないので魔王になれたらなぁくらいには思い始めている。


「アルムの使用は?」


「当然ありだ! そうでなけりゃあ、真剣勝負とは言えねえからな! 安心しろ! 殺しはしねえからよ!」


「分かった! では早速」


 アリスに火が付いたため、俺は闘技場のステージの上から降りる。


鬼神(きじん)


 最初から飛ばすようでアリスの身体が強大な鬼の姿へと変貌する。その瞬間、心臓がスッとかすめ取られたような感覚に陥る。これほどまでの迫力。対するファフニールは一体どれほどの力を見せてくれるのだろう?


 戦闘狂であるアリスの性格が少し移ったのか、俺はファフニールがどのような力を見せてくれるのかを楽しみにする。しかし待てど暮らせどファフニールに動く気配はない。あれ? どうしたんだろう?


「ファフニール。何をしておる? 槍を構えぬか?」


「……」


 ファフニールはアリスの方を見ながら無言になる。そして何を思ったかカランと持っていた槍を地面へと落とす。てか待てよ。あれってもしかしてだけど……。


「気絶してないか?」


「む?」


 気が付けば周りに居たファフニールの側近たちの声も聞こえない。後ろを振り返ると、そこにはぶっ倒れている側近たちの姿があった。


「アリス。一回、その鬼神解け。多分それのせいで皆気絶してる」


「あ、ああ。分かった」


 自分でも何が起こったのか分からないのだろう。首をかしげながらアリスは鬼神を解く。


「さて、どうする? これじゃあ魔王の座を争えないぞ」


「ふむ。一度、ファフニールの奴をたたき起こすか」


 そう言って立ったまま気絶しているファフニールの頭をアリスが軽く叩く。


「は!? お、俺様に何をしやがった!?」


「何もしておらぬよ。ただ戦闘態勢に入っただけで勝手に気絶したのだ」


「臨戦態勢に入っただけで俺様が気絶した? 嘘だ! そんなの嘘に決まってる! 魔界最強の俺様が戦闘をすることもなく敗れるなど……」


「じゃあこのまま戦おうか」


 悪あがきを言うファフニールに対してなぜか闘争心を燃やし始めるアリス。


「おう!」


 今度は鬼神にならずに自身のアルムである金棒を持って槍のアルムを持つファフニールと向かい合う。


「仕切り直しだ! ゆくぞ! 龍槍(ドラゴンスピア)!」


「おりゃ!」


 激しいオーラを纏ったファフニールの特攻は空しくも軽く金棒を振るったアリスの一撃によって吹き飛ばされてしまう。まるで相手にならないとはまさにこのことであろう。


「ば、バケモン過ぎんだろ……。あんなので俺様が」


 吹き飛ばされたファフニールはあまりの衝撃にうまく立てなくなってしまったようだ。脳震盪でも起こしているようでフラフラと立ち上がろうとするもすぐに地面へと倒れ伏してしまう。


「う~む、これでは魔王の位をかけて戦う事が出来ぬな……そうだ!」


 何かを思いついたかのように大声を上げたアリスが突然俺に向けてビシッと指を差してくる。


「ライト! 妾達が魔王であることを示すために妾とライトで戦えばよいのじゃ! それを見れば魔族の皆も妾達が魔王であることを認めるであろう!」


「へ?」


 そうしてどういう訳か俺とアリスとで試合をすることになるのであった。

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