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異国の戦士

 ピースの所属する冒険者ギルドからそう離れていない位置に、図書館があった。

 そこの図書館は、最近、新しく赴任してきた司書が目も覚めるほどのイケメンだと噂され、若い女を中心に図書館へと足を運ぶのがトレンドになっていた。

 すでに多くのうら若き女子が果敢にアタックするも、イケメン司書は軽く詫びた後にバッサリと断っていた。その数、ゆうに百を超え、多くの少女の失恋の涙で川が出来上がるほどではないか、と喩えられるほどだった。

 今では本命はいったい誰なのだろうか、とまこと密やかに噂されている始末だ。


 そんなかしましい噂の図書館に、もっとも似合わない老人・ピースが、リザードマンと猫獣人の女奴隷2人と冒険者ギルドの華と噂されるアイカ嬢を伴って、魔導士・ヴァッサゴのもとへと訪れた。


「どうしたの、おじいちゃん」

「うむ。昔話を語って聞かせたとき、お主と仲良くなったというくだりをどうにも信じてくれぬのでのぅ。じゃから、直接、ヴァッサゴを会わせてみようと思ってなぁ」

「なるほど。ボクが魔導士・ヴァッサゴです。よろしく」


 と、ピースの困り事に応じたイケメン司書は、アイカ嬢に対して軽く会釈してみせた。

 照れる少女に対し、奴隷たちは始終、大人しかった。

 容姿に容易く惑わされる鈍い人間と違い、本能の鋭い猫獣人とリザードマンは物言わせぬ実力が解き放つ威圧感から意識を保つだけで精一杯だったからだ。


「肩ロースさんやジェノさんには出会えないのですか?」

「うーん、残念な話だけど、ボクはそこまで肩ロースたちと仲が良いわけじゃないんだ。おじいちゃんが望めば向こうからやってくることがあるかもしれないけれど、確実じゃないよ」


 やや残念そうにうつむくアイカ。

 ヴァッサゴは図書館の利用者から声をかけられて、この場を立ち去る必要が出た。


「用件はそれだけかな? おじいちゃん」

「うむ。仕事、頑張れ」

「おじいちゃんもね」


 老人と青年は挨拶を交わして、別れた。

 ミーコとリャーリャーノが立ち去っていく危機に対し、全身の毛先&毛穴の底から安堵したその瞬間、別の影が複数さした。


「驚きましたわ。まさか、あのお転婆冒険者さんが私たちの王子様に興味をお持ちだなんて!」


 ピースから見て、ひときわ身分の高そうなドレスを着たお嬢ちゃんが、ややランクの落ちる取り巻きのお仲間を引き連れて、ピーチクパーチク騒いでいた。

 アイカは、この群れに対して関わりたくないことへの意思表示を示すため息を漏らすと、足早に立ち去ろうとしたが、偉そうなお嬢さんは見逃さなかった。


「お待ちなさい、アイカさん。私たちの王子様に、いったい何の用事だったのですの?」

「私の部下がヴァッサゴさんと知り合いだと云うから証明して貰った。ただそれだけよ」


 貴族令嬢たちの侮蔑の眼差しが、ピースたちに注がれる。

 貴族令嬢たちからは、みすぼらしい衣装の老人、表情の読めないトカゲ、アホ面をしている猫獣人のようにしか映らず、偉そうなお嬢さんから嘲笑が漏れた。続いて取り巻きの笑いが乗っかる。

 ピースはアイカの顔色を窺った。

 部下が恥をさらし、機嫌は悪かった。かといって、このお嬢さんたちのアイカへのさっきの対応を鑑みるに、アイカに対応を任せても、ピースの人生経験上、嘲笑の渦が更に拡大するだけの予感がした。


「リャーリャーノ!」


 ピースは賢いリザードマンに、この場の処し方を任せた。

 彼女は眼力を蓄えると、一気に放った。その威圧感は荒事と無縁な貴族令嬢に対して絶大な猛威を振るい、偉そうなお嬢さんを筆頭にドミノ倒しのように次から次へと彼女たちを昏倒させていった。

 それをミーコが素早くキャッチして、近くのベンチに座らせていた。と同時に懐から金子きんすをくすねていたが、ピースは黙認した。あとで口止め料として蜂蜜酒ぐらいはおごって貰おうという算段があった。


「図書館では、お静かに! じゃからのぅ」


 などと、うそぶきながら、ピースたちは図書館を後にした。


 ◆◇◆◇


 その日の正午過ぎ。

 相も変わらず寝息を立てるピースの姿があった。

 今日も担当窓口に人の気配はなく、ヒマな時間が生じた瞬間からこの老人は休息を取るのだった。

 そんな不真面目職員に対して、先輩が唐竹割りで起こすのが定番になっていた。


 しかし、その日は冒険者ギルドの出入り口から異変が起きた。

 まず、ギルドにたむろする熟練冒険者が初めて訪れた人物たちに対して緊張感を漲らせた。

 その人物は、ふたり。

 ピースの住む国ではあまり見かけない、極東の国の戦士たちが身に着ける鎧と刀を差した銀髪イケメンの若者二人がただならぬ緊張感を添えて、スナギモを訪れてきたのだった。


「マズいな」


 冒険者ギルドに併設されている酒場の奥でビールを味わっていた熟練冒険者のひとりがそうつぶやいた。


「そうですか? あっしには美味しく思えるんですがねぇ」


 熟練冒険者の隣にいた調子の良さそうな三枚目が、空になったジョッキに対して首を捻った。


「ギルドの対応次第では、血が流れるぞ」

「へぇ、あっしも好きですよ。血の流れる……じゃなかった血の滴るステーキ! お姉さん、注文!」


 熟練冒険者は三枚目のボケに対しノーリアクションで、的確な返しを期待していなかった三枚目は酒場のお姉さんと腹ごしらえになりそうなメニューの相談を始めるのだった。

 と、まぁ……こんな分かり易い事例はさておくとして、施設内にいた冒険者の大半は一触即発の危機をどうギルド側が処理するのかを遠目で見物するのだった。


 さて、そのギルド側は……というと、職員の、特に男性職員の視線の大半がピースの方へと向いていた。

 ちょっと前は元ランクA冒険者の受付嬢がたくさん居たこともあり、こういった荒事の対応は彼女たちが行っていた。だが、ほんの少し前に発生したゴブリンの巣の駆除にギルドマスターの要請で赴いた彼女たちは全て帰らぬ人となり、再スタートしたスナギモ冒険者ギルドの職員たちは「冒険者としての素質はなかったが、ギルド職員としては素質あり」と判断され、採用された面々である。

 つまり、こういった荒事の対応に不慣れであった。


 まぁ、一人だけ例外がいた。アイカだ。

 自他共に認める「貴族じゃなかったら絶対冒険者だった」彼女は、ギルド職員になる前に培っていた語学スキルを、初対面の東の国のイケメン戦士たちに用いてみた。


『(東の国の言葉で)始めまして、東の国の戦士さん。スナギモ冒険者ギルドのアイカです。何かお困りごとがありましたか?』


 アイカの呼びかけに、イケメン戦士たちは反応し、振り向いた。

 そこでアイカは気付いたのだが、彼等は頭から足の先までそっくりな似姿をしている双子だった。唯一の違いは、どちらとも片方の目の色が違った。左側が金と黒、右側が銀と黒だった。


「ほう。独力で語学スキルを得るか。異国の女よ」


 片金がこの国の言葉で対応してきた。だが、アイカの表情は晴れない。


『初めて出会った相手に、何処かで習った言葉で挨拶してきたんじゃ。ここはお前たちの言葉で挨拶を返すのが礼儀じゃろう?』

『なるほど。それは失礼しました。お出迎えありがとうございます。アイカさん。お言葉、上手ですよ』


 いつの間にかアイカのそばにいたピースに驚いた彼女は、ピースの助言を受け入れて挨拶してきた片銀の挨拶を聞きそびれた。


「無反応ではないか!」

「ああ、そりゃあ多分ワシが気配を消して嬢ちゃんのそばに寄ったのが原因じゃのぅ。スマンが、もう一度、挨拶してくれんかのぅ」


 とまぁ、こんなやりとりがあって、アイカは念願の東の国の言葉での挨拶を終えた。

 その頃には出入り口で発生した殺伐とした雰囲気も幾分か和らぎ、双子はピースに案内されるままに、奥の応接間へと誘われた。


 ギルドは落ち着きを取り戻し、やがていつもの騒々しさが復活した。

 根本的な原因は何一つ解決しないまま。

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