襲撃、そして帰還
大変お待たせしました。仕事が忙しくて執筆時間が中々取れなくて困ってますが、何とか年内に完結目指して頑張りたいです…
あれから4日経ち、盗賊とかに襲われることもなく俺達はアースガルドへ向けて馬車に乗っていた。
今は五日目の朝、朝食を済ませて他にする事が無く、もたれ掛かってボーッと幌の隙間から見える景色を眺めていた。
そして今日も天気は良く、気温もいい感じで隙間から入ってくる風のせいで徐々に眠気が襲ってくる。
このまま着くまで寝てしまおうと思った矢先、
「皆さん、うっすらとですがアースガルド皇国が見えてきましたよ」
御者の男性がそう言ったので体を起こす。
「お、やっとですか」
「これなら夕方までには着くでしょう」
「そうでございますか」
「このまま何も起こらなければいいんですけど…」
「そんなこと言うなよアレン」
「す、すいません…でもなんか…嫌な予感がして…」
確かに道中は何も無く進んでここまで来れたがまだ油断は出来ない。
「一応、着くまでは警戒しておこうか」
そう言うとアレン達は頷き、いつ来ても動けるようにしていた。
そして暫く進み、林を通り過ぎようと進んでいると、体育座りで顔を埋めていたナインが バッ っと急に顔を上げると体を起こして林がある方向を見た。
「どうしたナイン?」
「…あの林から複数の視線を感じる…」
目を閉じ、感覚を研ぎ澄ましてるであろう彼女はそう言った。
馬車から林まではほぼ目と鼻の先だ。
「魔物か? それとも盗賊か?」
「多分盗賊だ。声みたいなのが聞こえるし、魔物は森や林から出ることはあまりない」
「マジか。御者さん、悪いがもっとスピード上げられないか?」
「え、何でですか?」
「盗賊が襲って来るかもしれないからだ」
「本当ですか?」
「こんな嘘付いて誰が得すると思う?」
「……。分かりました、少し速度を上げます」
そう言って、御者は馬車の速度を上げた。
「おいウィル、ちょっと起きろ」
スヤスヤと寝ているウィルの体を激しく揺する。
「ん〜なんですかぁもう…」
「盗賊が襲って来るかもしれないから戦える準備しとけ」
そう言うとウィルは渋々と体を起こして魔法を放てるようにしている。
そして俺を含めて全員が臨戦態勢した時だった。
林から数十人の武装した男達が馬に乗ってこちらに向かってきた。
「来たぞ!アレン、ウィル、魔法で奴らを追い払うぞ!」
「分かりましたー」
「こ、殺すんですか?」
「いや、無理に倒す必要はない。馬をどうにかすれば追っては来れないだろうから馬を狙え」
「でも別に倒しちゃってもいいんですよねー?」
「出来るならな」
「じゃあサクッとやっちゃいますねー」
そう言ってウィルは馬車から身を乗り出して『風刃』を放った。
幾つか放たれた『風刃』は盗賊の首を斬ったり、馬の足を斬って転倒させたりしたがまだまだ数は残っている。
「(数が多いな…てか相手が盗賊とはいえ、よく考えると人を相手にするのはこれが初めてになるのか…)」
俺にやれるだろうか? いや、やれるかじゃないやるんだ。
これは生きる為の戦いなのだから。
そう自分に言い聞かせて俺は魔法を放つ…が、若干距離があるせいか、思うように当たらない。
しかしそれでも盗賊達の数は少しずつ減ってはいた。
「御者さんもっと飛ばせないのか!?」
「出来ますがかなり揺れます! 振り落とされないようにしっかり捕まっててください!」
御者がそう言うと馬車のスピードがグンと上がり、激しく上下に揺れ始める。
すると盗賊達も馬の速度を上げて追いかけて来ていた。
「ん?」
馬車の近くまで追いついた二人組の盗賊の片方が弓矢をこっちに向けた。
嫌な予感がした俺は覗くのをやめて馬車の床に伏せた。
「伏せろ! 弓矢だ!」
咄嗟にそう叫ぶと全員が床に伏せた。
するとさっき俺が覗いていた付近の幌に一本の矢が貫通した。
「アブねっ!?」
「このままではマズイですね…御者さん、もっと速度を上げることは出来ないのですか?」
「これ以上は無理ですよ!」
「ダメか…」
「どうするのですかコータロー様? 距離もどんどん縮まってきています。このままでは追いつかれてしまいます」
床に伏せながらアンジェがそう言った。
「お前この状況でよく落ち着いていられるな…」
「この程度で怖じ気付いていたらメイドなど務まりませんよ」
「……このままじゃラチがあかない。兎に角、奴らを倒すしかないな」
こうしている間にも次々と矢が放たれてくる。
「コータローさん! 早くなんとかーーーガッ!?」
御者が何かを言いかけた時、彼の首を矢が貫通し、馬車から落ちた。
「御者さん! クソッ!!」
『グエーーーーッ!!』
突然、ラッシュバードの鳴き声がしたと思うと馬車が傾きはじめた。
「傾いてる!? マズイ!? 何かに掴まれ!」
咄嗟にそう言うが時すでに遅し。
馬車はやがて転倒して俺たちは馬車から放り出されはしなかったものの、その強い衝撃が体を襲った。
「ぐっ…う…いってぇ…大丈夫かみんな?」
「私は平気です」
「アタシもだ」
アンジェとナインはピンピンしているがウィルとアレンからは返事がなかった。
2人の方を見ると2人とも横たわっていた。
「ウィル? おいウィル! しっかりしろ!」
「……う、うぅ…ん…お兄さん?」
「大丈夫か?」
「ちょっとだけ頭痛いですけどまあ大丈夫ですよー」
「戦えそうか?」
ウィルは頭を摩りながら首を縦に振った。
「マスター、こっちは気を失ってるだけだ」
「そうか…ならよかった…」
最悪の事態でないことに思わずホッとする。
「コータロー様、彼らが近づいてきてますよ」
アンジェがそう言ったので幌から外を覗くと残った盗賊達が馬車に近づいていた。
「おい! 中にいるのは分かってんだ! 大人しく武器を捨てて出てくれば命だけは助けてやるぜ? ヒヒヒ…」
銀色に鈍く光る金属製の重装の防具を付けたリーダーらしき髭面の体格のいい中年男がそう言って来るが、明らかに嘘をついてるのが分かった。
「返事なしか。よぉ〜し馬車の中を調べろ。生きてるなら男は殺せ、ガキや女は捕らえろよ」
リーダー格の男がそう言うと手下の盗賊達が馬から降りるとそれぞれ剣を抜き、弓矢を構えてゆっくり近づいてきた。
「数は…30人くらい。そのうち弓矢を持ってる奴が3人だ。どうするマスター?」
「どうするってやるしかないだろ…アンジェ、アレンを頼む…ウィルは…お前もここで近づいて来た奴を倒せ」
「はーい」
「畏まりました。お気を付けて…」
そう言ってアンジェはクナイを持ち、アレンを守るように構えた。
「やるぞナイン。なんとしてでもここを乗り切るぞ」
「分かった。マスターは弓矢を持ってる奴を片付けて欲しい。他はアタシがやる」
「大丈夫なのか?」
「ああ。アタシを信じて欲しい」
「分かった…行くぞ!」
剣を抜いた俺がそう言うとナインは馬車から勢い良く飛び出して、そのままの勢いで盗賊の1人に回し蹴りをお見舞いした。
強烈な回し蹴りを食らった盗賊は何が起こったのかわからない表情のまま、頭が首と別れた。
その間にナインは既に次の獲物に手を掛けていた。
「クソッ! 何だこいつ! はや…ギャア!?」
盗賊達は応戦するが、ナインは余裕のある表情で攻撃を躱し、ククリや格闘で次々と倒して行く。
とんでもない怪力を持つナインの拳や蹴りは盗賊達が付けてる防具をいとも簡単に破壊していく。
「お前ら! たった1人に何手こずってやがる!?」
リーダーらしき男がそう叫ぶ。
「頭! こいつ、バケモンだ! ギャァアアッ!!」
「ええい! 俺が仕留めてやる!」
そしてちょっと離れた位置にいる盗賊がナインに向けて弓矢を構えた。
「そうはさせるか!」
俺は弓矢を放とうとする盗賊に『風弾』を放った。
魔法が当たった盗賊が崩れ落ちてる間に近づき、剣を横に振って首を切断した。
そしてすぐさま、別の盗賊に近付く。
「この野郎!」
俺に気付いた盗賊がこっちに矢を放とうとする。が、咄嗟に『火撃』を奴の腕に向けて放つ。
「グアッ!? チクショウ!!」
片腕が使えなくなって、弓矢を落とした盗賊が怒りの表情で剣を抜いて応戦してくる。
しかし片手では限界があるのか、全力で何度か剣を振ると簡単に相手の剣を弾き飛ばした。
「うおおおっ!!」
そしてそのまま盗賊の胸に剣を突き刺し、絶命したのを確認すると剣を引き抜く。
「ダラス!? この野郎よくも殺しやがって!!」
仲間を殺された怒りで最後の1人が弓矢を投げ捨てて剣で襲いかかってくる。
「黙れよ」
そう言って『火炎矢』を放った。
「ガッ!?」
『火炎矢』を眉間に食らった盗賊は後ろに仰け反り、そのまま倒れた。
「お前らが言うなよ…」
と、静かに呟いた。
兎に角、これで弓矢を使う奴はいなくなった。ナインの加勢に向かおう。
そうしようとした瞬間、背後から殺気がしたので振り返るとリーダー格の男が両手斧を振り下ろそうとしていた。
「死ねぇ!!」
咄嗟に振り下ろされた斧を剣で防ぐ。
しかし奴の方がパワーがある所為かその衝撃は重かった。
「ぐっ!?(重いな…! これは避けた方がよさそうだ!)」
「この野郎!! よくも俺の大事な手下を!! ぶっ殺してやる!!」
「あぁ!? お前等が襲って来たのが悪いんだろうが!!!」
そう言いながら剣で斧を押し返してステップで距離を取る。
「うおりゃああ!!」
リーダーが斧を振りかぶると、こちらへダッシュしながら振り下ろして来た。
横に転がって回避すると、重い金属音と共に地面が抉れた。
「(クソッ! なんてパワーだよ…こんなの食らったら…ッ!)」
そう思ってると男は今度は横に斧を振ってきた。
後ろに下がりながら『火撃』で反撃すると、奴の胴体に当たったはいいが余りダメージを与えてるようには見えない。
「魔法が効いてない!?」
「へっへっへ…魔法も使えるのも驚きだがこの鎧には魔法耐性の符呪があるんだよ!」
ニタァ、と勝ち誇ってるかのような笑みを浮かべながら男はそう言った。
なんで奴がそんな物を持ってるのか分からないが、大方どこかの商人を襲って奪ったのだろう。
今度はさっきより多く魔力を込めて『火撃』を撃つがまだダメージを与えてるようには見えない。
「ちっ…ダメか…」
「無駄だって言ってるだろ!諦めて死にやがれッ!!」
男はそう叫んで斧を連続で振ってきた。
俺は必死で避けながら反撃のチャンスを狙っていた。
「どうした? 避けてばっかりじゃねえか!」
そう言うと男は斧を振りかぶった。
「チッ! 舐めるなよ!」
俺は男が斧を振りかぶったのを見計らって奴の懐へ接近し、剣を持ってない右手で顎に強烈なアッパーを放った。
「ぶげらっ!」
もろにアッパーを食らった男は変な声を出しながら後ろに仰け反る。
そしてすかさずに剣を喉に突き刺した。
「ガハッ…!」
防御する間も無く喉に剣を突き刺された男は「コヒュ…コヒュ」っと空気の漏れるような声を出しながら地に膝をついた。
男が持ってる両手斧を奪い、そのまま振り上げる。
「うおおおおおッ!」
それなりに重量もあってズシリとくる斧を男の頭めがけて振り下ろした。
グシャ! という音ともに斧が男の脳天を深くカチ割った。
男は白目を剥き、脳天の割れ目から血が吹き出た。
斧から手を離し、喉に突き刺さった剣を男を蹴りながら引き抜くと息絶えた男は後ろへ倒れ込んだ。
「ハァ…ハァ…終わった…ナイン、そっちは」
そう言いながらナインの方を見ると彼女を中心に盗賊達の死体が転がっていた。
「丁度終わった所だ」
涼しげな顔でククリナイフを仕舞いながら彼女はそう言った。
「そうか…」
刃に付着した血を払って鞘に収めると、戦闘による興奮が治まってきた。
そして同時に自分が初めて人を殺したことに気付いてしまった。
「あ、あぁ…俺は遂に…人を殺したのか…」
先程の戦闘の光景を思い出し、手が震えだす。
俺はこの手で何人の人を殺したのだ。
「うっ…おえぇ…」
急に吐き気がして胃の中の物を吐き出してしまった。
「大丈夫かマスター?」
ナインがそう言いながら背中を擦ってくれる。
「あぁ、大丈夫だ…ありがとう…」
「人を殺したのは初めてなのか?」
「初めてだ。この世界に来てからな」
「そうか…いいかマスター、こいつらは敵だ。敵である以上容赦なんて必要ない。だから決してためらうな、いざって時は迷わず行動しないと死ぬのは自分だ」
「ああ、肝に銘じておくよ」
「さあ、アンジェ達の所に戻ろう」
ナインにそう言われて倦怠感を感じながらアンジェ達のいる横転した馬車へと足を運んだ。
「コータロー様、大丈夫ですか?」
「なんとかな…」
横転した馬車の中に入るとアンジェ達が迎え入れてくれた。
「お疲れ様お兄さん。見てましたよー」
まだ頭が痛むのかウィルは気怠そうに言った。
「2人とも格好良かったです!」
「起きたのかアレン。そっちは大丈夫だったか?」
「はい、ナインさんが全て片付けてくれましたからね。ボクたちの方には来ませんでした」
「そうか…よくやったナイン。ありがとう」
「気にするな…ラッシュバードはもうダメだ。盗賊達が乗ってた馬を使おう、奴らにはもう必要ないしな。マスター達は休んでてくれ」
そう言ってナインは馬車を出て行った。ホント、すごく頼りになる奴隷だな…。
「では言われた通り。少し休んでから再出発しましょう」
「いや、俺は大丈夫だから…」
「いいえ今のコータロー様には休息が必要です。先程の戦闘で心身共に疲れている筈です。まだ手の震えが納まらないのでしょう?」
アンジェの言う通りだ。体に倦怠感は残ってるし、さっきほどじゃないがまだ手は震えている。
「じゃあそうするよ。ごめんアンジェ」
「お気になさらず。私は貴方のメイドですので…さぁ、少々散らかっておりますが体を休めて下さいませ」
アンジェにそう言われると戦闘の疲れが出てたのか、あっさりと眠ることができた。
それから暫く休むと俺たちは御者の遺体を埋めて木の枝で墓標を作って黙祷した。
数日間とはいえ共に過ごした人だ。せめてこれだけはしておかなければと思った。
「じゃ、行こうか」
そう言ってナインが連れて来た馬に乗るとアンジェの腰に手を回す。
俺は馬に乗ったことがないのでアンジェが手綱を掴んでいる。
「アレン、息苦しく無いか?」
「ちょっとですけどまあ大丈夫です」
体格の小さいアレンは俺とアンジェの間に挟まれるような形で乗っている。
もう一頭にはナインが手綱を掴み、その後ろにウィルが乗っている。
「では出発します。振り落とされないようお気をつけくださいませ」
そう言われて頷くと馬が走り出し、その後ろをナイン達が追いかけ始めた。
そして無事にアースガルドの入り口まで辿り着き、門を警備してる兵士に事情を説明すると難無く通してもらえた。
「やっと帰って来れたな…」
「盗賊の襲撃が無ければもっと早く帰還出来たのですが…」
「こればかりは仕方ない。取り敢えず日が暮れて来たから宿を取ろうか」
「ジョセフさんの宿空いてますかねー」
「空いてなかったら仕方ないから違う所を探そう」
そう言って俺達はジョセフさんの宿に向かった。




