マクベル滞在4
お久しぶりです。今年初の投稿ですが既に四ヶ月も経ってしまってて申し訳ありません。
そして今後の事について活動報告の方に記載してありますのでそちらも目を通して下さるようお願いします。
それから数日が経ち、俺たちはアンジェも含めて全員でラートバッツ装具店へ向かっていた。
今日で1週間経つので、ナインの服が完成した頃だと思いこの店へと来ていた。
「ナインさんの新しい服、どんなのか楽しみですねー」
「別に服なんて着れればなんでもいいだろ」
「ナインさんも女の子なんだからそう言うとこに気を付かなきゃダメですよー?」
「どうでもいいし興味も無い。面倒くさい」
「でも…」
「本人がいいって言ってるんだからいいじゃないかウィル」
そう言うとウィルは納得出来ない顔だったがナインに何言っても無駄と思ったのか、気にしなくなった。
「着いたぞ。ごめんください」
扉を開けると、ベルが鳴り響き奥から店主の女性が現れた。
「いらっしゃいませ。ラートバッツ装具店へようこそ」
「約束の物を取りに着たんですけど?」
「勿論、用意してありますよ。早速着てみますか?」
女性がそう言うとナインが頷いたので2人は奥へと入って行った。
「あ、このマントいいですねー」
ウィルがあのショーケースのマネキンにかけられたマントを見ていた。
「ウィル、それは売り物じゃないんだ」
「あ、そうなんですかー?」
「店主さんの旦那さんが亡くなる前に仕立てた物で側に置いておきたいって事で飾ってあるんだ」
「そうだったんですか。なら仕方ありませんねー」
そう言ってウィルは別の品物を眺めだした。
「お待たせしました」
丁度店主さんが戻って来た。
「お、着替え終わりましたか?」
「ええ。さあ、いらっしゃい」
店主さんが手招きするとナインが奥から出て来た。
そして同時に俺は目を見開いた。
上半身は黒地のノースリーブで、ジャケットのような形をしており、黒色のインナーが見えるが南半球とお腹全体を露出していた。
下はというと黒い革っぽい生地のホットパンツと太ももまである黒いニーソだろうか? 兎に角それっぽいのと同色のブーツを履いている。
そして二の腕まであるぴっちりとフィットしてる中指だけを通すタイプの黒い手袋をはめていた。
褐色の肌と黒い髪の所為もあるのか、どこか妖艶さを感じてくる。
「おーカッコイイですねー」
「動きを重視したようなデザインでございますね」
「でもちょっと露出が多い気が…」
「気にするな、そのうち慣れるだろアレン」
「要望通りに作りはしたけどどうかしら? 何処かおかしな所はない?」
「大丈夫だ、問題ない。…ありがとう」
「気に入ってくれたようでよかったわ。では代金ですが…4万6千エルトになります」
む…やはり特注品はそれくらいになるか…まあ予想してた事だし、その為に依頼をこなしてなんとか資金を作ったのだから代金を払った。
「確かに。何か問題があればいつでも言って頂戴」
「分かりました...あ、そうだ。ナイン、このマント羽織ってみろよ」
俺はふと目についたデザート色のフード付きマントを手に取り、ナインに渡した。
「耳や尻尾を見られたくない時はそのマントを羽織れば少しはマシになるだろ」
そう言うとナインは頷く。
「じゃあ俺達はこれで」
マントの代金も払い、俺達は店を出た。
スッポリとフードを被ったナインは最後に店主の方に一礼すると店主は微笑んだ。
「じゃあ次は市場へ行ってみるか」
「さらに奴隷を買うんですか?」
「買わないよ。奴隷なんてナインだけでもう充分だ」
それに何人も奴隷買ったら色々面倒くさいしな。
暫く歩くと目的の奴隷市場へと辿り着いた。
そこには奴隷が売られてると思われるテントが幾つも建っており、奴隷を買いに来た客を狙ってるのか様々な露店が周りに軒を連ねている。
「おー賑やかだなぁ」
「奴隷市場と言われてはいるようですが奴隷以外にも装備品や各国から取り寄せた食材などを販売しているようでございますね」
「そうみたいだな」
客達を見ると一般市民や冒険者、貴族風の格好をした人達がちらほらいる他、今日の食料を買いに来たのか、籠を手に持った女性も多い。
そして問題が起きない為か衛兵達が見回りをしていた。
「お兄さん、私とアレン君でお店見て回っていいですかー?」
「ああ、いいぞ。二時間くらいしたらここに集合しよう。その間何をしてもいいけど面倒事は起こすなよ? あと絶対に1人で行動しないでくれ。何かあったら逃げろ」
「はいはい分かってますよぉ。じゃ、行きましょうアレン君」
「あ、ちょっとウィルさんそんなに引っ張らないでください!」
ウィルはアレンの腕を引っ張りながらこの場を去った。
「なんか不安だな……ナイン、悪いがアイツ等に付いてってくれ」
「マスター達2人で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ないからお前も楽しんでこい」
そう言ってナインに適当に金を手渡した。
金を受け取ったナインは「分かった」とだけ言ってウィル達の後を追った。
「よろしいのですか?」
「構わないよ。今日くらいは自由にしてやるさ」
「フフフ…では私達はどうなさいますか?」
「取り敢えず適当に見て回ろうか」
そう言って俺とアンジェは露店を見て回る。
露店に出されている物は冒険者用の道具だったり、服だったり、宝石やアクセサリー等色々売られていた。
中でも気になったのはアクセサリーだ。
「誰かにプレゼントでも?」
「ん、いや、ちょっと気になっただけだ」
そう言ってアクセサリーの露店に足を運ぶ。
「いらっしゃい! うちのアクセサリーを見てってくれ!」
と、人の良さそうな30代くらいの男性が言った。
布の上に丁寧に置かれたアクセサリーは指輪やイヤリング、腕輪にネックレスやペンダントと様々な物が置かれているがどれも使ってる金属や宝石は鈍い光沢を放ってて、なんというか安物ぽかった。
「ちょっと手に取って見ても?」
「勿論! どうぞご自由に!」
そう言われて適当に目についた指輪を手に取ってみる。
作りは丁寧だが材質はやはりそんな良さそうではなかった。
貴族がつけるというよりどちらかと言うと冒険者や市民が付けるような感じだ。
多分この露店はそれが目的で出してるのかもしれない。
「(お土産として渡すくらいなら買ってもいいか…)」
考えた結果、幾つか買うことにした。
「毎度あり! ついでに梱包してくかい?」
「あぁ頼むよ」
代金を払い、店主にアクセサリーを1個ずつ包んでもらうと鞄にしまった。
「結局買ったのですね」
「個人的に気に入ったデザインの奴があったからな」
「そうでございますか」
露店を後にした俺たちは暫く他の露店を見て回ったが特に欲しいものは無く、アンジェは食器や調理器具等を買っていた。
「あ、そうだ。折角市場に来たからマチルダさんのとこに行ってみるか」
「確か…ナインさんを買った所の奴隷商でしたか?」
「ああ。ちょっと顔だけ出しておこうと思って」
「成る程」
そう言って俺達はマチルダさんがいる奴隷商のテントへ向かう事にした。
「ここか」
マチルダさんの奴隷商の看板が建てられたテントに入ると周りには1人ずつ小さな檻に入れられた奴隷達が何人もいた。
「…っ」
「どうかなさいましたか?」
「いや、大丈夫だ。ちょっと驚いただけだ」
知識としては知ってたが同じ人間がモノ扱いされて売られてる光景は少々衝撃的だった。
元いた世界では禁止されている事がこっちでは当たり前のように行われているに俺は複雑な気持ちを抱いていた。
「いらっしゃいませ。…おや、コータローさんではないですか」
「やあマチルダさん、偶々市場に来たからちょっと顔見せにきたよ」
「そうですか。…そちらの方は?」
「申し遅れました。私はコータロー様のメイドをしておりますアンジェリーナと申します。以後お見知り置きをマチルダ様」
「メイド…? コータローさんは何処かの貴族なんですか?」
「俺は貴族じゃないんだ、アンジェとは色々あって一緒にいるだけで、その辺は出来ればあまり詮索しないでくれると助かる」
「…ふむ、何やら複雑な事情があるようで興味がありますが、問題事に巻き込まれたく無いのでそう言う事にしておきますね。ところで、あの奴隷は?」
「あぁ、ナインか。アイツは他の連れと一緒に行動させてるよ。折角の市場だ、今日くらいは羽を伸ばさせてやるさ」
「そうでしたか、優しいのですね」
「明日からはまたコキ使うけどな」
「ふふ…では私は仕事に戻りますね。どうぞご自由に見てってください」
そう言ってマチルダさんは奥へと去って行った。
「取り敢えず適当に見て行くか」
そう言うとアンジェが頷いたので牢屋にいる奴隷達を見る。
人間の方は小学生くらいだったり、三十路過ぎくらいだったりバラバラだが男はいなく、やや露出がある服を着ている。
恐らく買いに来た客に好印象持たせる為かもしれない。
獣人の方はいうと、男ばかりで鍛え上げた逞しい肉体を見せる為か下着だけしか着けていない。
ジロッ
獣人の1人が敵意剥き出しの目で睨んでるのを流しながら歩き回る。
粗方見て回ってそろそろウィル達と合同しようと出口へ向かおうした時だった。
入り口から貴族風の格好した男達が2人入って来た。
貴族風の2人の男の1人は小柄ででっぷりと肥えたニキビ面の醜い男でもう1人は背が高いがヒョロヒョロで顔もまた、女子が見れば悲鳴をあげて逃げ出すんじゃないかと思うくらいのキモさの男だ。
(バルディだ…)
(ドルトンもいるぜ…)
(彼奴らが来たんじゃ帰ろうぜ)
(ああ、どうせここの女奴隷達を買い占めるだろうしな)
と、周りの客達はそう呟きながらテントを出て行った。
俺達も出ようとしたが入り口からやや離れた所にいるので出るタイミングを失ってしまった。
そう言う訳で奴隷を見てる振りをしながら奴らをチラ見しつつ会話を聞く事にした。
「へへへ。今回もいい奴ばかりいるじゃねえか」
「そうだね兄ちゃん。僕、楽しみだよフヒヒ…マチルダちゃーん? いるかなー?」
ヒョロイ方の男が周りの目を気にせずにデカイ声でそう言うと奥からマチルダがやってきた。
「これはこれはバルディ様、ドルトン様。よくぞおいでなさいました」
「ようマチルダ。今回も来てやったぜ」
「ええ、お待ちしておりましたよ。しかし4日前にも大量に買っていった筈ですが…」
「あぁ彼奴らなら使いモンにならなくなったから処分しちまったよ」
「っ…そう、ですか…」
それを聞いたマチルダは顔には出してないが、ワナワナと握りこぶしを震わせていることから彼らに怒りを抱いていることがわかった。
「じゃ、この店の女の奴隷全部買ってくぜ」
「…畏まりました。暫しお待ちください」
そう言ってマチルダは部下達に何やら話し込むと部下達は一斉に檻にいた女の奴隷達が首輪を嵌められて行き一列に整列させられた。
その数は大体20人以上はいるだろう。
「バルディ様。こちらが今回買われる奴隷達の合計金額になります」
マチルダさんが羊皮紙をバルディという男に渡した。
「ああ金は後で送るからな」
「分かりました…では奴隷契約の方を…」
「そんなもん屋敷で済ませるから必要ねえよ。おい、お前等!コイツ等をさっさと連れてけ!」
そう言うと外から防具を身に付けた男達が何人も入って来て奴隷達を連れ出した。
あの男達の護衛かなんかだろうか。
「相変わらず良い品揃えだなマチルダよぉ」
そう言って、ポン、とバルディはマチルダの肩に手を置くと下心が見え見えの目で彼女を見上げた。
「一体何処から仕入れてくるのかな? ん?」
ドルトンはいつの間にかマチルダの隣に立って肩を組み、耳元で囁くように顔を近づけながら言った。
「それにはお答え出来ませんね。秘密ですので」
営業スマイルを崩さない彼女だが、眉がピクッ ピクッと動いてくる事からかなり嫌がっている事が分かる。
「そうかそうか。まぁいいや」
そう言うとバルディはニタァと気色悪い笑みを浮かべると、突然奴の視線が下にーーつまりマチルダの胸へと移る。
そして今まで肩にあてられていた手が、滑るようにして緩やかに移動しーー
「――ッ!」
--マチルダののその豊満な胸を、掴みあげたのだ。
「あ、兄ちゃんズルいなー。じゃあ僕は…フヒヒ…」
ドルトンはいきなりマチルダの顎を手でクイッと自分の顔の方に向けるとーー
「んぅ…!?」
ーーキスをした。
「!? (アイツら…!)」
彼奴らの行動に驚いたが、次の瞬間には彼女はいつの間にか一歩後ろへと後退していた。
早くていまいち確認できなかったが、どうやら見事なぐらいの体裁きで奴らの手を振り払い、そのままステップを踏むようにして後退したようだ。
「なんだよ、このぐらいのスキンシップは嫌だったか?」
「ええ、勿論。ホント、くだらないご冗談はよしてください。もう用は済んだのでしょう? 我々も暇ではありませんのでお引き取り下さい」
と、服の袖で口を吹き、静かな怒りを感じさせながらマチルダはそう言った。
「へへ、じゃあなマチルダ。次もよろしく頼むぜ」
そう言ってバルディとドルトンは去って行った。
「……うぅ…」
「大丈夫ですかマチルダさん?」
「ええ、大丈夫です」
と、困ったような笑顔で彼女はそう言った。
「すまない、何とかしてあげたかったんが…」
「その気持ちだけで充分ですよコータローさん」
「そうか…あの2人は?」
「はい。彼らはバルディ・ジルドルフ・ザクトール、そして弟のドルトン。この前言ったお得意様ですよ」
「貴族だったのか」
「ご存知ないのですか? 彼等はザクトール公爵の息子達です」
「……?」
ダメだ、全然分からん。公爵というから偉いんだろうがピンとこない。
「コータロー様、ザクトール公爵はマクベルの中ではかなり有力な三大貴族の一つでございます」
「そうなのか、田舎から来たから全く知らないな」
「そう言えばそうでしたね。兎に角、彼等はその権力でやりたい放題、言う通りにしないで機嫌を損ねれば私のような奴隷商は潰すことなんて容易いですよ…」
「だから…アイツ等の成すがままにされるしかないと?」
「……」
マチルダは困ったような笑みをしただけで何も言わなかった。
「少し長話が過ぎましたね、そろそろ店を閉めますので今日はもうお引き取り下さいな」
「…分かった。まぁ、その、頑張れよ」
そう言うとマチルダはクスリと笑った。
テントを出て集合場所へと向かうとウィル達が待っていた。
「あ、コータローさん。アンジェさん」
「遅かったですねー」
「悪い。ちょっと知り合いと話し込んでたら遅くなった」
アレンの手には小さな麻袋が抱かえられてて、ウィルとナインの手には屋台で買ったであろう食べ物が握られてて2人はそれをモグモグと食べていた。
「何か欲しいものは買えたか?」
「はい! 流石市場だけあって色んな調合の素材がありましたよ!」
「そっか、そりゃ良かったな」
そう言ってアレンの頭にポンと手を置く。
「お兄さん、私達も欲しいの一杯買えましたよー。ねーナインちゃん」
「……(コクリ)」
モシャモシャと食べながらマントで体を覆い、フードを深く被ったナインが頷いた。
「うん、その手に持ってる物と足下を見れば分かるよ」
2人の足下には買い込んだ食べ物が詰まれた籠が置かれていた。
その量はとても1人で食べられる量ではない。
「まさかこれ全部今日食べるんじゃないよな?」
「え、勿論そのつもりですけど?」
何をそんな当たり前の事を?的な感じでウィルは言ってきた。
「そうか。まぁ程々にしとけよ」
ウィルもそうだがナインの食欲が凄まじいの知ったのはつい最近だ。
特に戦闘した後はかなり腹が減るらしい。
一体その身体のどこにそんなに入るのだろうか?
「じゃ、そろそろ帰るか。明日にはもうマクベルを出なきゃならんしな」
「そうですね」
そう言って俺達は宿へと戻った。
翌日
宿で最後の朝食を済ませた俺たちはアースガルドに戻るため、荷造りをしていた。
「よし、こんなもんか。ナインも大丈夫か?」
「ああ」
フードを被り、マントで体を隠したナインは短くそう答えた。
彼女は特に持ち物がないので服とマントとガントレットとククリだけだ。
市場でウィルが色々勧めたそうだが拒んだらしい。
俺もあれこれこうしろ、ああしろと言うつもりもないのでこのままにしておく。
「よいしょっと」
俺は防具をつけてポーチの付いたフィールドバッグを腰にベルトのようにし、リュックサックを背負う。
「マスター、重くないのか?」
「初めは重かったけどもう慣れた」
「そうか…アタシが持たなくていいのか?」
「いいよ別に、寧ろ道中で何かあったら頼むぞ」
そう言って、ナインの肩に手を置いた。
「そろそろアンジェ達も終わっただろうし行くか」
そう言って部屋を出ると廊下でアンジェ達が立っていた。
「すまん、待ったか?」
「いいえ私達も丁度終わったところでございます」
アンジェの足元には馬鹿でかいトランクが置かれていた。
この街に来てからも色々買い込んでた筈だがパンパンにすらなってない。
まあ気にしたら負けだろう。
「私は元々持ち物が少ないから荷造りする必要もないですねー」
そう言ってウィルはちょっと膨らんだ肩掛け鞄をポンポンと叩いた。
あの中にはどうせ食べ物しか入ってないだろう。
「じゃあ行きましょうか」
アレンがそう言ったので階段を降りてカウンターへ向かうと宿主が立っていた。
「もう行くんですか?」
「ええ」
「そうですか。また暇になりますね」
マクベルにいる間、俺たち以外の客は来なかった。
場所のせいもあるだろうが…料理の味がなぁ、不味くはないんだがなんとも言えない。
「まあ気が向いたらまた来ますよ」
そう言いながら部屋の鍵を返した。
「ではその時はもう少し料理の腕を上げておきますよ」
自覚はあったようだ。
「じゃあ俺達はこれで」
「またのお越しをお待ちしています」
宿主に見送られながら宿を出て中央広場に向かった。
そして広場のギルドの前まで来た俺たち。
数日前にギルドの方で戻るために乗る馬車を予約しておいたので、歩いて帰るってことはない。
「さて、俺達が乗る馬車はどこだ…お、あれかな」
ギルドから少し離れたところに一台の馬車があった。
荷台は木で作られ、白い布で取り付けられた幌とよく見るデザインの馬車だ。
しかしそれを引っ張るのは馬ではなく、以前見たラッシュバード2頭だ。
普通の馬の馬車もあったが、なんとなく早く戻りたかったのでちょっと高いラッシュバードの方を選んだ。
何故か馬よりこの鳥の方が早いらしい。
「あそこだ、行こう」
そう言って馬車の近くに足を運ぶ。
「すんません、馬車を頼んだコータローですけど」
「コータローさんですね。お待ちしてました。アースガルドまででいいんですよね?」
「はい」
「ではすぐ出発しますんで乗ってください」
御者と思われる若い男性に言われて荷台に乗り込む。
「全員乗りましたね。出発します」
御者の男性がそう言うと馬車は動き出した。
「1週間、楽しかったですねー」
「ボクもです。また来たいですね」
「そうだな。俺もなんだかんだ楽しかった」
「私も市場で良い茶葉が手に入って満足しております」
「気が向いたらまた来てみるか」
まぁその為には金を貯めなければならないけど。
ガタゴトと揺れているのと、暑くなければ寒くもない丁度良い天候と心地よい風が吹いてるせいか、段々眠くなってきたので横になる。
「悪い、ちょっと寝る。何かあったら起こしてくれ」
「私も眠くなってきたので寝ますねー」
「分かりました。お休みくださいませ」
そう言うアンジェの声を聞き、ローブを毛布がわりにして眠ってるウィルを最後に見て俺は目を閉じた。




