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マクベル滞在2 後編

お待たせしました。後編を投稿します。諸事情によってサブタイトルを観光から滞在へと変えさせて頂きました。


そして訂正なのですが、前編でナインの容姿にオッドアイと書いてありましたがそれは誤りです。彼女の目は両方とも金色です。そんなつもりはなかったのに何故かオッドアイしてましたので訂正しました。


今回はナインの過去が出てきますがそれっぽく書けてるかどうか分からないので悪しからず。

目を覚ますと目の前にメラメラと燃え盛る小屋があった。


(あれ? ここ何処だ? 俺ソファーで寝てなかったっけ? 夢…なのか?)


夢にしては感覚がちょっとリアルな気がする。


小屋の出入り口の前にはココ族と思われる獣人たちの男がそれぞれ武器や松明を持って立っていた。


(なんだアイツ等は? 一体何がどうなってるんだ…)


男達に近付くと、俺の存在が見えてないかのように皆無反応だった。


(うーん…今の俺は意識だけの存在みたいなもんなのか?)


疑問に思っているとやがて小屋の中から1人の女性が出てきた。


彼女の腕の中には猫耳と尻尾を生やした小さな女の子が抱き抱かえられていた。


(あの女の子は…ナインか?)


女の子は体系は幼いが、俺の知ってるナインと容姿がそっくりだった。


「出て来たぞ! 捕えろ!!」


そのまま逃げようとした彼女を武装した男たちが囲み母親と思われる女性は捕えられた。


そして少女も無理矢理引き離されると顔に剣先を向けられる。


「ひっ!?」


「やめて!! ナインから離れて!!」


「母さん!!」


(ナイン!? やっぱりあの子はナインか! となるとあの女性は母親か)


母親がそう叫ぶが周りの男達はそれを無視する。


「長老、奴らを捕えました」


「ご苦労」


男達の中からココ族の老人が杖をつきながら出て来た。


「長老! 何故こんな事をするのですか!?」


「それはお前が一番分かっている筈だ」


「ッ....」


図星なのか、女性は目を逸らした。


「お前は禁忌を破った。人間の男と契りを交わし、あまつさえ子を生した。それがどういう事か分かっている筈じゃ」


「確かに私は掟を破りました! ですがそれの何がいけないのですか!?」


「忘れたのか!? 我らココ族は遥か昔から人間に虐げられてきた!故に憎むべき人間と血が交わった子など以ての外なのだ! それをワシ等に隠しおって…バレないとでも思うたか愚か者め」


「それはもう大昔の事ではないですか!! 全ての人間がそうであるとは限りません!!」


「黙れ!! 問題はそれだけではない! その娘の髪の色を見よ! 黒色だ! 古来より黒い毛を持って産まれた子は我らに災いをもたらす存在と伝えられて来た! 故に生かしてはおけんのだ!! 例えそれが人間との間に出来た子であってもな!!!」


「ま、待って下さい!! ナインはまだ子供なんですよ!? 掟とは言え殺すだなんて!」


「ええいうるさい奴め! もういい、その娘を殺せ!!」


「よろしいのですか長?」


「構わん! 彼奴は成長すればいずれ災いを招く!」


「分かりました…」


「ッ!? 長老! どうかお願いです。私の命を捧げますのでどうか…どうかナインだけは殺さないで下さい……お願いします……ッ」


母親は涙しながら深く頭を下げた。


「言い伝えでは災いをもたらすとは言え、この子は私にとって血の繋がった娘なんです!たった一つの宝なんです! 私からこの子を奪わないで…くださいッ…!」


「……」


『……』


母親の言葉に長老を含め男達は静かになる。


「…長、私からもお願いします。掟とは言え、こんな小さな子を殺すのはあまりに酷かと」


「私も同意見です」


「俺もです」


長老を除く殆どの男達がそう言った。


「お前達…」


「お願いします長」


「……フゥ……子は宝、か…分かった。その娘は生かそう。だがその代わり村からは出てってもらうぞ」


皺だらけの顔に眉間に皺を寄せて暫く考え込んだ後、諦めたかのように溜め息を吐きながら長老はそう言った。


「…分かりました」


「三日間やろう。それまでに村を出るのじゃ。それ以降は許さん」


そう言って長老は男達を引き連れて去って行った。


「母さん!」


「ナイン!」


解放された2人は抱き締め合ってるところで俺の視界は変わった。





視界が変わったと思ったら今度は何処かの人里に俺は立っていた。


前方には幼い頃のナインが鼻の辺りを抑えてトボトボと歩いてきた。


彼女の手には少量の血が漏れていた。転んで怪我でもしたのだろうか? よく見ると服も土だらけで汚れてボロボロだ。


「おい、大丈夫か?」


と、声をかけてみるがナインには聞こえてないようで俺には目もくれずにそのまますり抜けて行った。


(やっぱ見えてないか。てことは夢か。俺は今ナインの過去の夢を見ているのか…)


ナインの後を追うと、人里からちょっと離れた位置にあるオンボロな小屋に着いた。


「ただいま…」


「お帰りナイン…ッ!? その傷はどうしたの!? それにその格好…」


母親がナインの姿を見るなり駆け寄った。


「人里の子供達にやられた…私を見るなりいきなり石を投げたり、暴力を振られて最後に刃物で切られた…私を化け物だって…」


「そんな…あぁ…神よ、どうしてこの子にこんな残酷な運命を背負わせるのですか…どうして…」


「心配しないで母さん。私は大丈夫だから…」


「そう…強い子なのねナインは…さぁ、傷の手当をしなきゃね」


「うん」


そこでまた俺の視界は変わった。




今度はさっきと同じ人里で少し時が経ったのか、ナインは成長していた。


見た感じ小学校5、6年くらいの大きさだ。その割には少々発育が良い方で顔の傷は残ってしまっているようだが女の子らしい体になっている。


そんな彼女は今、人間の少年達と喧嘩をしていた。


「ぐあっ!」


「ハァ…ハァ…アタシの勝ちだ。もうアタシに関わるなよ…」


「クソっ…化け物め! 覚えてろよっ!!」


少年達はよろよろと歩きながら捨て台詞を吐いて去って行った。


「化け物…か…アタシはどっちなんだろう…」


悲しそうな目でそう静かに呟き、近くにあった麻袋を持ってトボトボと帰路を歩くナインに別の少年達が石を投げる。


「おい化け物! さっさと俺達の町から出て行け!!」


「そーだ! そーだ!」


「二度と来るな!!」


「ッ…やめてくれよ…」


投げた石がこめかみに当たったようで、そこから血が流れる。


そんな彼女を大人達が見てはヒソヒソと話している。


(ねえあの子…2年前まではこんな小さかったのにちょっと成長が早いと思わない?)


(それ私も思った。ちょっと早すぎるわよねぇ)


(見た目もなんか違うし、不気味だわ)


「……ッ」


聞くに堪えないのか、ナインは両手で耳を塞いでしまった。


「どうしてアタシがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ…アタシが何をしたって言うんだ…ッ」


そう呟く彼女の目からはポタポタと涙が流れていた。


「ただいま…」


「おかえりなさいナイン…また喧嘩したのね…」


「うん…アイツ等が許せなかった。アタシは兎も角、母さんにまで悪口を言ったから…」


「そう…ウ、ゴホッ! ゴホッ!」


ベッドに横たわる母親は激しく咳き込んだ。病にかかってるのか、顔は見るからにやつれて今にも死にそうな表情をしている。


「母さん!?」


「ゲフッ! ゲフッ!」


咳き込む母親の口からは血が吐き出された。


「早く薬を!」


「ウゥ…薬はもうないわ…」


「じゃあ今すぐ買ってくる!」


そう言って小屋を出ようとするナインを母親は震える手で掴んで引き止めた。


「ダメよナイン…もう薬を買うお金もないし、買った所でもうお母さんは助からないわ…」


「そんな事言わないでよ! 薬を飲めばきっと治るよ!!」


「もういいのよナイン…自分の体の事は自分がよく分かっているから…」


「母さん…」


「ごめんねナイン…あなたには母親らしい事はあまり出来なかったけど、あなたは私の宝よ…」


「母さん…ッ!」


2人の目から涙が流れる。


「ナイン…これからあなたにはまだまだ残酷な運命が待ってるかもしれない。でも、どんなことがあっても強く生きなさい…決してこの世の理不尽に屈しないで幸せを見つけるのよ…これがお母さんからのお願いよ…」


「うん…分かった…」


「さよならナイン…あなたの事を愛しています。そしていつでも側にいるわ…」


そう言って母親はそっと目を閉じて、握っていたナインの手をだらりと垂らした。


「母さん…ッ! 母さーーーーーんッ!!」


母親の死にナインは号泣した。


「う…うぅ…く…うああああああああああ!!!」


泣き叫んでいる中、ずっと母親の手をナインは握っていた。


それから泣き止んだ彼女は母親を埋葬し、墓石がわりに木の棒で作った十字架を地面に刺した。


「さよなら母さん、今までありがとう…」


身支度を整えたナインは最後にそう言って小屋を去って行ったところで俺の視界は消えた。





「んあ……?」


意識が覚醒した。最初に目にしたのは知らない天井、というわけではなく宿の自室の天井だった。


「あ、目が覚めました?」


横を見るとアレンがいた。ベッドの方を見るとナインはまだ眠っていた。


「アレンか」


「お帰りなさい。ボクが寝ちゃってる間に帰ってたんですね」


「まあな。アンジェ達はまだ帰ってないのか?」


起き上がると毛布が掛けられていた。アレンがかけてくれたのだろう。


「みたいですね、もう夕食の時間になりますけど」


「まあアンジェ達なら大丈夫だろ」


そう言って起き上がって背伸びをする。


それにしても何故ナインの過去の夢を見たんだろう?


あ、もしかして契約した際に俺の血を混ぜた刻印の液体を飲ませたから意識というか、精神みたいなのが繋がってるような感じになったのかもしれない。


そう思うと納得し、廊下から声が聞こえてきた。


それに反応したのか、さっきまで寝ていたナインが起き上がった。


「ただいま戻りましたー」


開いたままのドアからウィルとアンジェが入って来た。


「お帰りアンジェ、ウィル」


「遅くなって申し訳ありません」


「大丈夫、俺もさっき帰って来たばかりだから」


「そうでございますか。で、そちらは?」


アンジェはナインを見ながらそう言った。


「ああ、紹介するよ。此奴は今日買った奴隷のナインだ」


「奴隷を買ったのですか」


「そうだけど決して変な事をするために買ったわけじゃないぞ? 単純に戦闘用に買っただけだ」


「成る程、そうでございますか。私はコータロー様のメイドのアンジェリーナと申します。気軽にアンジェとお呼びくださいませ」


「ボクはアレン・ウェーバーといいます」


「私はウィルでーす。よろしくお願いしまーす」


「ナインだ。よろしく……」


「以上が俺の仲間だ。みんな悪い奴じゃないから仲良く出来るだろ」


「頑張る…」


「あの…コータローさん、ナインさんはもしかして獣人との混血ですか?」


アレンが恐る恐るとした様子でそう聞いてきた。


「あぁ、コイツはココ族と人間の混血らしいけど、邪険に扱わないでやってくれ」


「あ、やっぱ混血なんですかー」


「混血とはこれはまた珍しいですね。初めて見ました」


「そうなのか?」


「噂程度に聞いておりましたので実際に目にするのは初めてでございます」


「なるほど」


逆にそんなにいたら珍しくもないもんな。


「マスター、約束は?」


「ああ、分かってるよ。紹介はこれくらいにしてナインには俺達の事を全て話そう」


「あら? もう言っちゃうんですかー?」


「まあな。いずれ話さなきゃならんし、そういう約束をしちゃったからさ」


「なるほどー。じゃあ私もノリで正体バラしちゃいましょうかねー」


「…いやそれはノリで教えるものじゃないと思うんだけど?」


「いいじゃないですかー。遅かれ早かれ何時かバレるんですからこの際全部知ってもらいましょうよー」


「……。まぁナインなら教えても命令で口止め出来るから大丈夫か。しょうがないな、いいかナイン。今から言う事は絶対に他言無用だ」


そう言うとナインはコクコクと首を振った。


「よし、異世界から勇者が召喚された事は知ってるか?」


「…小耳に挟んだくらい」


「そうか。実を言うと俺はな……その異世界から勇者達と一緒に巻き込まれて召喚されたんだ」


「………は?」


予想もしなかった事にナインは唖然としていた。


「ど、どういうことなんだ?」


「だからそのまんまの意味だよ。俺は勇者達の召喚に巻き込まれてこの世界に来たの。で、俺は勇者じゃないからこうして冒険者としてアンジェ達と一緒に冒険者稼業してる」


「…マスターが異世界から来たのは分かった。でもそれじゃアタシを選んだ理由にならない」


「それはちょっと長くなるから夕食食べたら話さないか?」


「あ、もうそんな時間なんですか」


「そうだよ。だからとっとと食べちゃおう」


そう言って俺達は夕食を食べに下へ降りて行った。





夕食を終えた俺達は部屋に戻ってナインを選んだ理由を説明した。


ナインはなんとなく理解したようだがウィルが魔族である事を伝えると「あ、そうなんだー」程度にしか思ってないようだった。


ナインにとって魔族なんてどうでもいいことのようだ。


「取り敢えずマスターが異世界から来たという事だけは理解した」


「それだけ分かっていればいい。後の事は追々知っておいてくれ」


「分かった」


「あー、あとウィル達には普通に接していいぞ。その方がいいだろ? お前敬語苦手そうだしね。アンジェ達もそれでいいよな?」


そう言うとアンジェ達は頷いた。


「ああ。ありがとうマスター。こんなアタシだが改めてこれからよろしく頼む」


そう言うとナインはほんの少しだけ頬笑んだ気がした。


「あ、お兄さんお兄さん。見せたい物が」


「なんだ?」


そう言うとウィルは鞄から大きく膨らんだ袋を机の上に置いた。


ドカッっと置かれた衝撃で袋が開かれてジャラジャラと大量の金貨と金板がこぼれ落ちた。


「!? おい、どうしたんだよこんな大金!?」


「今日の収穫ですよー」


「お前まさか…だ、大丈夫だ、ちゃんと謝れば許してくれるから…俺も一緒に謝ってやるから…返しに行こう? な? な?」


「違いますよー。このお金はカジノで稼いだお金ですー」


「へっ? カジノ? あそこ行ったのお前?」


金持ってそうな商人とかを見つけては露地裏に引きずり込んで脅して分捕った訳ではないようだ。


「最初はすぐに帰るつもりだったんですけど、楽しくて楽しくて気が付いたらこんな大金になってましたねー」


「お前どんだけ勝ってるんだよ!? アンジェも一緒だっただろ!?」


「申し訳ありません。ウィルさんがどうしてもというので…止められませんでした」


「アンジェさんだって、なんだかんだ楽しんでたじゃないですかー。こっちはアンジェさんが稼いだ分ですよー?」


ウィルはもう一つの袋を鞄から取り出すとテーブルの上に置いた。


その中にも大量の金貨と金板が入っていた。


「……」


「アンジェ、お前もかー……」


「少しだけのつもりだったのですが…勝ってばかりでお金が増えていく一方で止めるタイミングを見失ってしまいました」


「お前らそんな勝って大丈夫?イカサマしてないよね? あとで怖いおじさん達とか来ない?」


「あぁその辺は大丈夫ですよー」


「あ、そう。ならいいんだけど。でもそんな大金手に入れてどうするんだ? 俺にくれるの?」


「何言ってるんですかそんな訳無いじゃないですかー。これは私とアンジェさんの物です」


と、お前なんかに絶対に渡さないぞと言わんばかりに袋を抱き締めながらジト目で睨んでくるウィル。


「そんな睨むなよ。聞いてみただけじゃん…」


「コータロー様、もしよろしければ…」


そう言ってアンジェは袋を差し出して来た。


「いや、理由はどうあれそれはアンジェが稼いだ金だ。俺が受け取る訳にはいかないよ」


と俺は断固拒否した。幾ら俺とアンジェが主従関係にあるとはいえ、彼女が稼いだ金を巻上げる気なんかこれっぽっちもない。


「では半分ほど私達の生活費として納めさせて下さい」


「俺は構わないけどアンジェはそれでいいのか?」


「構いません。こんな大金を持っていても私にはあまり必要ではありませんので」


「そうか…あ、そうそう忘れないうちに言っておくけどこの国にはまだあと1週間くらいいることになったから」


「それはまた何故ですか?」


「ナインの服を買おうとしたらいいのが無くて特注したんだけどそれが1週間くらいかかるみたいだから、止むを得ず滞在期間を延長したんだ」


そう言いながらナインを見るとばつの悪そうな顔で目を逸らした。


「あ、そうなんですかー? それは丁度良かったです」


ウィルもどうやら滞在期間を伸ばそうと思っていたようだ。


「なんだ、何か予定でもあるのか?」


「ん、実は1週間後に奴隷市場が行われるみたいなのでそこで気に入った子がいたら買っちゃおうかなーと思いまして」


「あー…その為にカジノで荒稼ぎして来たのか?」


「YES! 思わぬ臨時収入が入りましたよぉ。1週間後が楽しみですねぇ!」


余程楽しみのようだ。まぁ、ウィルの事だから可愛い幼女とかを買ってくるに違いない。


「そうか。止めはしないけど問題は起こすなよ?」


「分かってますよぉ。それじゃあ私は自室に戻りますねー」


そう言ってウィルは軽い足取りで自室へ戻って行き、アレンやアンジェも自室へ戻って行った。


「ふぅ…あー疲れたな。明日から依頼を受けて少しでも金を稼がなきゃな。ナイン、お前にはみっちり働いてもらうぞ?」


分かっていると言わんばかりにナインは首を縦に振ったのを見ると俺はベッドに横になる。


「ナインも一緒に寝るか?」


「…ソファーでいい」


「分かった。ほら、毛布だ。その格好で寝たら寒いだろ」


「ありがとう。マスター」


毛布を受け取ったナインは早速体を包み込んでスポッと頭まで毛布を被った。


俺も寝間着に着替え、明日に備えて眠りについた。


次回も上手くいけば今月末か来月の頭くらいには投稿出来るかもです。上手くいけばの話ですがね…感想、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。

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