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閑話 天城 楓の憂鬱2 後編

3月の終わりから4月の頭くらいを目安にしていたのに遅くなってすいません。


理由はリアルが忙しすぎて書く時間が中々取れなかったという感じです。

訓練所を出た私はオリヴィエさんと共に自室へと向かっていた。


「カエデさん、午後からは魔法の講義がありますけどどうしますか?」


「少し休めば大丈夫なので講義には出ますよ」


「そうですか…それにしてもまさかカエデさんとユウガ様が決闘をするなんて思ってもいませんでした。一体何があったんですか?」


「…昨日、討伐依頼の帰りに盗賊達に遭遇しまして、全て私が殺したのですが…そこで光一さん達と諍いになってしまったのです」


「成る程、それが原因で先程の決闘に繋がると…」


「そうですね。決闘には勝利しましたが、光一さん達には完全に嫌われたかもしれませんね」


「そんな事はないと思いますが…」


「どちらにせよ今回の件でもう、仲のいい友人関係には戻れませんし、戻る気もありません」


「カエデさんは…それでいいのですか?」


「いいんですよ。元々彼等からは距離を取ろうと思ってましたから。後悔はしてません」


「……そうですか。カエデさんがそう決めたなら私は何も言いません……ここでお別れですね、カエデさん、ゆっくり休んでくださいね」


オリヴィエさんはそう言ってお辞儀をして去って行った。


「はい、また後で」


彼女が見えなくなると私は壁に寄りかかると頭を抑え込む。


「……っ!」


実は先程から頭痛がしていたのだ。それになんだか体も怠い……想像以上に負荷がかかってるのかもしれない。


重い足取りで漸く自室に辿り着いてドアをノックする。


「はい? ってカエデ様!?」


ドアが開かれ、メイドのエレナが出て来た。


幸太郎さんが城を去ってから数日後に私達には個人の部屋とメイドが与えられた


彼女は最近入ったばかり新人で、私より年下だ。


「ただいまエレナさん…」


「何かあったんですか? 顔色が悪いですよ?」


「大丈夫です。少し休めば大丈夫ですので…ちょっと訓練のしすぎだけですから…どうか心配しないでください」


そう言って自室に入ると、装備をその場に脱ぎ捨ててフラフラとベッドへ向かい横になった。


「そんなフラフラになるまで剣術の訓練をしてたのですか…」


「そんなところです…エレナさん、すみませんが昼過ぎくらいには起こして下さい…」


「わ、分かりました!」


(少し休めば大丈夫…少し休めば……)


私はそう思い、瞳を閉じた。




「…デ様…カエデ様、起きて下さい」


エレナに起こされて目を覚ますと先程までの頭痛や倦怠感が嘘のように消えていた。


「ご気分はどうですかカエデ様?」


心配そうな表情で彼女が聞いてくる。


「もう大丈夫ですよエレナさん」


「そ、そうですか、良かったぁ!」


そう聞くと彼女はにっこりと笑った。


「そろそろ時間ですね。私はオリヴィエさんのところへ行ってきます」


「分かりました、行ってらっしゃいませ」


エレナに見送られながら私は服を整えて部屋を出た。


正直言うと私にメイドは要らないと思っていたが、彼女はそれなりに良く働いてくれるし歳も近いせいもあって話しやすいので側にいてもらうことにした。


偶にドジなところがあるが、大したことばかりではない。


むしろ妹のように思えてきたりしている。


オリヴィエさんの部屋に辿り着くと、既に光一さん達が座っていた。


目が合うと光一さんは目を逸らし、勇牙さんは小さく舌打ちし、春香さんは見向きもしなかった。


やはり私は嫌われたようだ。しかし後悔はしていない…。


「遅れて申し訳ありません」


「大丈夫ですよ、まだちょっと時間がありますから。さ、席に座ってください。そしたら始めますね」


オリヴィエさんにそう言われ、彼らの後ろの席へ座った。


講義の内容は魔法の理論を教わり、訓練所で魔法の練習をするだけだった。


「それでは今日はここまでとします」


講義が終わったので筆記用具等を片付けて部屋に戻ろうと席を立った。


「あ…楓、ちょっといいかな?」


「ん? 何ですか光一さん?」


「その…俺たちと楓には見解の相違があってギクシャクした関係にあるけど勇者として一緒に戦ってくれるよな?」


光一さんがそう聞いてきたので私は首を縦に振った。


「光一、そいつに関わんなよ」


「そうよそんな奴放っておきなさいよ」


「っ!? どうしてそんな事を言うんだ二人とも!? 俺たちは勇者である上に友達でもあるだろ!? だったら協力し合わないとダメじゃないか!」


「あぁ? 人を殺しておいて平気な顔してる奴なんかと協力なんかできるかよ」


「そうね…勇牙の言う通りだわ。正直言って今の楓は正気とは思えないわ」


「では私が狂っていると? そう言いたいのですか?」


「ああ、そうだな! お前は狂ってるよ!! 罪悪感でも感じてると思ったらちっともそんな感じはしねえ。どうかしてると思うぜ」


「……そうですね、罪悪感は感じませんでした。あなた達がどう言おうと構いません、私は私が正しいと思った事をしたまでです」


「ああそうかよ、もうテメェなんざ恋人でも友達でもねえ」


「生憎ですがいつ私があなたの恋人になりました? 妄想も大概にしないと気色悪いですよ?」


「テメェ…ッ!」


「勇牙もう行きましょ。楓、私もアンタとは絶交よ。もう気安く話しかけないで…さよなら」


そう言って春香さんは去って行った。


「楓、テメェはいつか痛い目に合わすから覚悟しておけよ!」


勇牙さんは乱暴にドアを開けて出て行った。


「おい! ちょっと待てよ2人とも!!」


「いいんですよ光一さん、私の事は放っておいてください。その方がお互いの為でしょうし、私自身気が楽ですから」


「楓…」


「光一、さっさと行くわよ!」


扉越しに春香さんの声が聞こえてきた。


「ほら、勇牙さん達が待ってますよ?」


「っ…」


そう言うと光一さんは困ったような顔で私を見た後、2人を追いかけていった。


「カエデさん…本当に良かったのですか?」


「ええ、こうなる事を望んだのですから」」


「そんな…あんなに親しげでしたのに何故…」


「前から彼らの身勝手さにはうんざりしていたのです。この世界に来る前はそんな事は思っていませんでしたが、今は彼らから距離を取ることばかり考えてます…だからこれで良かったんですよ…これで…」


そう、これは私自身が望んだ事…その筈なのに…。


「あれ…可笑しいですね…どうして涙が溢れてくるのでしょう…っ」


頬に生暖かい液体が伝ってるのを感じた。


「うっ…うぅ……っ」


私はへたり込みすすり泣いてしまった。


するとギュッっと抱きしめられた。


「何があっても私は貴女の味方です。だから、全て自分1人で背負い込もうとしないでください」


「オリヴィエさん…」


私はそのまましばらく彼女の胸の中で涙を流した。




「もう平気ですか?」


「えぇ、ご迷惑をおかけしました…」


「迷惑だなんて思ってませんよ? また悩みがあるなら聞かせてください、相談に乗りますから」


「はい、ありがとうございました。では私も戻りますね」


そう言って私はオリヴィエさんの元を去った。




「ただいま戻りました」


「お帰りなさいませカエデ様!」


部屋に戻るとエレナが笑顔で迎えてくれた。


中に入るとサーベルをベッドに立てかけ、ケープと上着を脱いで畳んでテーブルの上に置いた。


「ふぅ…今日は疲れました…」


椅子に座り込み、ため息混じりにそう呟いた。


「そんなに大変だったんですか?」


「今日は色々ありましたから…それより食事を用意して欲しいのですが…」


「あっ! しょ、食事ですね!? すぐに用意致します!」


昼を食べなかった為かやけに腹が減っていた。


「ええ、お願いします」


エレナが慌てて部屋を出た後、私はぼんやりと窓越しに外を見つめていた。


既に辺りは暗く、月の光が夜空を照らしていた。


「…………」


……最近、彼の事を考えると胸がドキドキするようになり、体が火照るようになる。


あの人と話している時が一番楽しかった。


彼と過ごした時間は学校や家よりも楽しく、毎日がこうだったらいいと思っていたくらいだ。


まるで兄のように私に優しくしてくれた。


……あの人が私の兄だったら良かったのに……。


私には一回り年の離れた兄がいる。


いや、兄と呼ぶ価値もない親の脛をかじっているドラ息子だ。


父はなんとか更生させようとしているが、本人は全くその気はなく女と遊び歩いてる。


更には私が高校生になる頃には性的な目付きでジロジロ見てくる事が多くなった。


母はそんなドラ息子の味方をしているので父と母の関係は不仲だ。


そして父は跡取りを探す為に私を政略結婚の駒にした。


相手は二十も離れたとある大企業の社長の息子だ。


ふざけるな…望まぬ相手との結婚などしてたまるものか、相手くらい自分で決めたい。


私の人生だ、決められたレールの上を歩くのはもう沢山だと思っていた。


育ててくれた両親とずっと側にいてくれた執事の黒森にもう会えないのは悲しいが私はこの世界で自分の人生を歩んで行きたい。


私はそう志を決めるとエレナが持ってきた食事を口にした。

次回は幸太郎達の話に戻ります。

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