護衛依頼 到着
何とか年内にもう1話投稿する事が出来ました。
結構急ピッチで仕上げたのでもしかしたら誤字等あるかもしれません。
ウィル達を起こして朝食を食べようとしたら問題が発生した。
「うーん…やっぱ熱があるな」
驚いた事にウィルが熱を出してしまったのだ。そう言えばコイツ、昨日雨で濡れたまま着替えずに寝てたっけな。うん、その所為に違いない。
というか、魔族でも風邪は引くんだな。
魔族は人間より強靭な肉体と高い魔力、知性を持った存在って聞かされたから風邪なんか引くはずはないと思ってたがこいつだけが例外なのか?
まあこいつが何だろうと俺には関係ないから気にしない事にした。
「大丈夫だと思ってたんですけどねー…」
「雨で濡れたまま着替えずに寝てたからだろ、自業自得だ」
「大丈夫ですかウィルさん?」
「今日は休んでおいた方がいいんじゃない?」
「大丈夫ですよぉ…なんとか歩けますし私のせいで他のパーティーに迷惑をかけたく無いですしねー」
「そうは言っても途中で倒れたりしたら困るだろ?」
「一応薬は飲みましたし、そうならないように努力はしますから…行かせて下さいよぉ」
「どうするコータロー? 依頼主に相談してみようか? もしかしたら出発を伸ばしてくれるかもしれないし」
「ああ、そうしよう。断られたらしょうがないし、最悪の場合俺がおぶっていくよ」
「大丈夫ですってば、私は自分で歩きますから…」
「ダメだ。幾ら微熱とはいえ、病人を長時間長距離歩かせられるかっての」
「そうでございますよ、今回ばかりは甘えても良いのでは?」
「……。分かりましたー」
「決まりだね。取り敢えず朝ご飯を食べよう。ウィルちゃん、食事は食べられるかい?」
「お腹は空いてるのでなんとか食べられますよー」
「まあ無理はしないでいいからな」
そう言って俺達は朝食を食べに行った。
この宿の朝食は中々豪華で美味だったとだけ言っておく。
朝食を済ませた俺たちは集合場所へと向かっていた。
俺がウィルを背負ってアッシュが荷物を持っている。
「重くないかアッシュ?」
「重過ぎるよ! 一体何を詰め込んだらこんなに重くなるのさ!?」
俺の荷物を背負ってからアッシュの顔は険しいままだった。
「食料とかその他の道具とかだな」
「いや、幾ら何でも詰めすぎじゃない? こんなに積んだら動けないでしょ?」
「そうか? 俺はそこまで重くないから平気なんだが?」
「あー…うん、そっか、大丈夫ならいいよ(こんな重量物を平気な顔して背負ってたのかー…)」
げんなりとした感じでアッシュは言った。
時々奇異の目で見られながら集合場所へと辿り着いた俺逹。
既に殆んどのパーティーが来ていた。
「コータロー、僕が依頼主に話しててくるよ」
アッシュがそう言って荷物を降ろし、セルゲイさんのところへ行った。
そして数分話し込んだかと思ったらこちらを向いたアッシュが手招きしてきたのでそちらへ向かった。
「コータロー。話し合った結果、出発を伸ばす事は出来ないけど馬車に乗せてくれるってさ」
「そうか…」
「アッシュさんから話は聞きました。そちらの女性ですか?」
「そうです」
「そうですか…申し訳ありません、本当は治るまで休ませてあげたいのですが我々も予定が詰まってますので…それに…」
セルゲイさんはチラリと他の冒険者達を見た。
確かにこれだけ集まっていて今更出発は明日と言える訳がないだろう。
「構いません。俺らのせいで他のパーティーに迷惑かけたくないですし、こいつ自身が行きたいと言ってるので出発してください」
「分かりました。では彼女をこの馬車の中へ」
そう言われてウィルを馬車の中に入れると1人の女性が彼女を横に寝かせた。
「彼女は医者です。あとは彼女に任せておきましょう」
「分かりました。じゃあなウィル、ゆっくり休めよ」
そう言うとウィルは「ごめんなさ〜い」と言ったので俺は「気にするな」と言って彼女の頭を撫でた。
「では時間なので出発します」
「色々とすいません…」
「これくらいお安いご用ですよ」
そう言ってセルゲイさんは馬車の中に入っていった。
俺逹も護衛する馬車の側について商隊はマクベルに向けて再び歩み始めた。
カイナルを出て数時間、昨日の雨でぬかるんだ地面を歩き続けたせいで足元は泥だらけになっていた。
「結構降ったみたいだな、靴が泥だらけだし歩きにくいな」
「それももう少しの辛抱さ。3人共マクベルに着いたら何するのかな?」
「ボクは美味しいものを食べたいですね」
「俺は取り敢えず観光かな。奴隷市場を見て回りたいし、カジノにも行こうかと思ってる」
「私はコータロー様に付いてくだけでございます」
「そっかー。僕はしばらくマクベルでゆっくり羽を伸ばすよ」
アッシュは少し気怠そうにそう言った。
「そうか。それにしても歩き辛いな」
「こんな時に限って襲撃されたら溜まったもんじゃないね」
「このまま何も起こらないことを願おう」
そう言ってる内に腹が減ったので時計を見ると12時前になっていた。
しかし地面がぬかるんでる所為かなのか昼飯は歩きながら済ませて歩き続ける事となった。
アッシュによればこの盆地を抜ければマクベルはすぐらしい。
それを聞いた俺は期待に胸を膨らませながら歩んでいった。
そして更に数時間後、魔物や敵の襲撃に遭遇せずに無事にマクベルに辿り着いた。
無事に辿り着いたのはいいけど、少し拍子抜けだった。
護衛依頼というから襲撃があるつもりで覚悟していたというのに、こうなると何か物足りないと思ってしまう。
……馬鹿か俺は、一体何を考えてるんだ。今回は偶々運が良かったから何の損害も出ずに済んだんだ。
次はこうなるとは思えないのに危険を求めてどうするのか? 今は無事に辿り着いた事を喜ぶべきだ。
初めて見るマクベルは都市全体を壁で囲っていて街の中は分からないが、中央らしき所には巨大な時計塔が建ててあった。
そして現在俺達は正門の前に居て、セルゲイさんが警備兵に入国手続きをしているところだ。
「やっと着いたなー。ここまで来るのに地味に長かった気がするな」
「そうでございますね。私もマクベルに来たのは2年ぶりくらいでございます」
「そうなのか。じゃあ道案内とかお願い出来るか?」
「勿論でございますよコータロー様。さぁ行きましょう、手続きが終わったようなので」
「ああ」
アンジェに言われてみると、正門が開いて馬車と冒険者達が徐々に入って行くのが見えたので俺たちもそれに続いて市内へと入った。
「おぉーここがマクベルか〜」
マクベルの街中は大勢の市民や冒険者、そして露店を開いて客引きしてる人達とかで兎に角賑やかで活気に満ちていた。
「賑やかですね、なんだかワクワクしてきました」
「ああ、俺もだ」
そう言って周りを見ながら歩いているといつの間にか大きな時計塔のある広場に出ていた。
時計塔の近くには冒険者ギルドの建物がある他、武具屋とかがある。
どうやらこの中央広場は時計塔を中心にしてギルドや役所関係とかの建物を集中して建ててあるようだ。
人だかりが多いのもその所為だろう。
そしてギルドの前で馬車が止まり、セルゲイさんと代表格の冒険者の男が俺たちの前に出てきた。
「冒険者の皆様、貴方方のお陰で無事にマクベルに到着しました。我々と貴方方に何の損害が出なかったことを大変嬉しく思ってます。本当にありがとうございました」
セルゲイさんが礼を言った後、単独の冒険者とパーティーの代表者は彼から依頼達成証明書を貰うことになった。
各冒険者達が証明書を貰って行き、最後は俺達だけとなった。
「コータローさん、アッシュさん。今回は協力ありがとうございました」
セルゲイさんはそう言って証明書を渡してきた。
この証明書をギルドに見せる事によって何処で何時どんな依頼を受けたか分かるらしい。
つまりこの紙を無くしちゃったら依頼を達成してても達成報告は出来ないとのことだ。
書類には依頼の詳細と俺達の名前とセルゲイさんのサインが書かれている。
あ、そういえばアッシュとはパーティーを組んでないから単独扱いなのか。
「僕たちは何もしてませんよ、マクベルには用があったんで近いうちに行くつもりでしたしね」
「俺もマクベルには来た事がなかったんで丁度いい機会でした」
「そうでしたか、何はともあれ本当にありがとうございました。また護衛依頼をするかもしれないので機会があればまたよろしく御願いします。おや? コータローさんの連れの方が馬車から降りてきましたよ?」
セルゲイさんにそう言われて馬車の方を見ると、ローブを腕に掛けたウィルが歩いて来た。
「お、もう体は大丈夫なのか?」
「ええ、お医者さんの薬を飲んで寝ていたら治りましたー」
「それは良かったですね」
「ウチの連れが迷惑を掛けました。何とお礼を言ったら良いか…」
そう言って俺とウィルは頭を下げた。
「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ。お礼でしたら私の店で何か買ってって下さい」
「分かりました」
「では私はこれで失礼します」
セルゲイさんはそう言って去って行った。
「じゃあ僕たちも行こうか。コータロー、アレン君達を呼んで来なよ」
「ああ、分かった」
俺はアレンとアンジェを呼んで、アッシュと共にギルドの中へ入って行った。
こっちのギルドの内装はアースガルドとはあまり変わってなかった。これだと何処に行っても似た感じなんだろうか。
「冒険者ギルドマクベル支部へようこそ」
「すんません、依頼達成の報告をしたいんですが」
そう言いながら俺とアッシュは眼鏡を掛けたキャリアウーマンのような受付嬢に証明書を差し出した。
「畏まりました。では本人確認のため、ギルドカードを見せてくれますか?」
「…それってパーティー組んでる場合は全員見せなきゃいけないんですか?」
「勿論です。規約書にも書いてあった筈ですが?」
そんな事も知らないの? といった感じで言ってくる受付嬢。俺の苦手なタイプの1人だ。
「ア、ハイ」
そう言ってアンジェを除いて全員ギルドカードを差し出した。
「……はい、確認出来ました。コータローさんのパーティーとアッシュさんは依頼達成が証明されました。こちらが報酬金の1万エルトです。御確かめ下さい」
そう言って受付嬢は報酬金の入った袋を差し出して来たので受け取った。
中身を確認するとちゃんと1万エルトは入っていた。
「じゃあ僕はここでお別れかな」
「そうみたいだな。ありがとうアッシュ、アンタのお陰で良い依頼が出来たぜ」
「礼なんていいよ、偶々目についただけだしね」
「そうか…じゃあ俺達は行くよ。またな」
そう言ってウィル達とともにギルドを去ろうとしたその時、
「あ、待ってコータロー。最後に先輩から1つだけアドバイスしてあげるよ」
「ん? なんだ?」
「ここじゃアレだからちょっと場所を変えようか」
「…分かった」
そう言って俺達はアッシュに着いて行き、人目の少ない路地裏に来た。
「で、アドバイスってなんだ? 人に聞かれたりしちゃマズい事なのか?」
「そう言う訳じゃないよ。唯、人に見られると面倒事になりそうだから此処に来たんだ」
「そうか…で?」
「君たちはアンジェさんを除いてパーティーを組んるんだよね?」
アッシュと出会ってから恐らく初めて見るであろう、余りにも真剣な表情で彼は言った。
「ああ、それがどうした?」
「その2人は絶対に信用出来る? 君を裏切らないと自信を持って言えるのかな?」
「…何が言いたい?」
「パーティーを組む時は絶対に信用出来る人と組んだ方がいいってことさ。そうしないと…」
アッシュはそう言うと突然消え、気付いた時には後ろに回り込まれて俺を拘束して首にナイフを突き付けてきた。
『ッ!?』
「アッシュさん! 何をするんですか!?」
アレンがそう言うとアンジェはクナイを持って何時でも投げられる状態にし、ウィルは魔法を放つ体勢になっている。
「よせ、2人共! どういうつもりだ……アッシュ!」
「……」
問いかけてもアッシュは何も言わなかった。
奴が今どんな顔してるのかは分からないが、純粋に殺気を放って首筋にナイフを突き付けている。
お前なんざ何時でも殺せるぞってオーラがビシビシ伝わって来た。
「…フフ、フフフッ、アハハハハ!」
行きなり笑い出したと思ったら殺気はなくなり、突き付けていたナイフを引っ込めると俺を解放した。
解放された俺は直ぐにアッシュから距離を取って、剣を抜いた。
「何を笑っている!一体どういうつもりだ!? 何故あんな事をした! 」
「アハハ、ゴメンゴメン。ちょっとアドバイスをしただけだよ」
「俺を拘束して、殺気放って、首にナイフ突き付けるのどこがアドバイスなんだ?」
「分かんないかなー? パーティーを組んでると報酬金の分け前を減らす為に今みたいに後ろからグサっとする奴もいるってことさ」
「……。言われてみるとちょっと納得するが、あそこまでやる必要はなかったと思うが?」
「驚かしちゃった事は謝るよ。でも、ああでもしないと肝に銘じておかないでしょ? 僕は君たちにそんな下らない理由で死んで欲しく無いんだよ…ごめんね」
アッシュはそう言って申し訳なさそうに頭を下げた。
「………一理あるな。いいよ、許す」
そう言って俺は剣を納刀し、アンジェもクナイを仕舞った。
「いいんですかお兄さん、嘘かもしれませんよー?」
「構わない。それともお前が代わりにやるか?」
「う…そんな怖い顔しないで下さいよぉ…冗談ですってばぁ」
ウィルはちょっと涙目になってアンジェの後ろに隠れた。
「ホントにごめんねコータロー」
「だからもう良いって。アンタ自身何度かそうゆう目に会ってるんだろ?」
「まあ、ね…」
「ならいいさ。良いことを教えてくれてありがとう肝に銘じておくよ」
「これも先輩の務めだよ、まあ君達なら大丈夫だろうけどね。じゃあ僕はもう行くよ」
「ああ。アースガルドには戻るんだろ?」
「うん、ここには一週間くらい滞在したら戻るつもりだよ」
「そうか。じゃあまたな」
俺がそう言うとアッシュはその場を去って行った。
「俺たちも宿を探すか」
「そうでございますね。日も暮れてきましたし、早めに探さなくては」
「ああ、町の人に聞いて探そう」
気が付けば空は夕焼けで赤く染まっていた。
それから町の人に聞きながら街中を探し回って数十分、漸く1つ見つけ出す事ができた。
今いる場所は中央から離れた人通りの少なそうな通りにある寂れた宿の前だ。
「ここか…」
「流石マクベル、大きいというだけあって色んな人が来ますから宿なんて直ぐに埋まっちゃいますねー。残ってるのはこういうギルドや大通りから離れた所にある宿くらいしかないですねー」
ウィルの言う通り、あちこち探し回ったが何処も冒険者やら吟遊詩人やら色んな人が泊まってて段々中央から離れて行って今に当たるという訳だ。
「それにしてもなんだか小さい宿ですね」
「そう言うなよ、宿が見つかっただけマシだろ。取り敢えず中に入ろう」
そう言って中に入ると掃除が行き届いてるのか、内装は清潔感があった。
しかし建物自体が小さい所為か、食事をするテーブルが3台しかなかった。
「おやおや、こんな寂れた宿にお客さんとは珍しい」
横から男性の声がすると、カウンターにはエプロンを着けた白髪のナイスミドルな男性が居た。
「いらっしゃいませ、『夕焼けの食事亭』へようこそ。お食事ですか、お泊まりですか?」
「4日間くらい泊まりたいんですが?」
「畏まりました。当宿は食事付きで2000エルトです。部屋は4部屋空いてますがどうしますか?」
「あー…どうする? 偶には個人だけにするか?」
「そうですね。4部屋空いてるなら1人1部屋にしちゃいましょうよー」
「分かった。じゃあそれでお願いします」
「分かりました。こちらが部屋の鍵になります。食事の時間になったら呼びますのでそれまで部屋で寛いでいてください」
そう言いながら宿主さんが部屋の鍵を渡して来たので受け取り、お金を払った。
「んじゃ荷物置いたら俺の部屋に集まってくれ」
俺がそう言うと各自部屋に入って行った。
部屋の中もそれなりに清潔感があって少し殺風景な感じがしたが、あの一泊の値段からするとこんな感じなんだろう。
重たい荷物をベッドの上に下ろして剣帯も外してテーブルの上に置いた。
「ふぅ…歩き疲れたな。取り敢えず暫く冒険者の仕事はせずに4日間観光するか」
そう呟くとドアがノックされ、アンジェ達が入って来た。
「来たか。んじゃ今からこの1万エルトを分割するぞ、余ったら今後の為の資金にしよう」
「はーい」
「分かりました」
「んじゃ分けるぞー」
そう言って俺達は1万エルトを3分割して残った分はアンジェに管理してもらう事にした。
一応彼女は金銭管理もしてもらっている。
「みんなお疲れ。4日間好きな事をして羽を伸ばしてくれ」
「はいはーい」
「分かりました」
その後は各自部屋で過ごしてると、食事の時間になったのか宿主さんに呼び出されたので一階に降りて夕食を済ませた。
今回が今年最後(もう終わりだが)の投稿になります。
皆様、来年もよろしくお願いします。
では良いお年を。




