野生のゴブリンが現れた!
主人公の初戦闘
アッシュとかいう青年に言われてギルドを出た俺達。
いきなり会ったばかりの彼に任せてもいいのかと思ったが、まあ悪い奴ではなさそうだし、大丈夫だろ。
ホントは俺が直接言った方が良いのかもしれないけど、今は依頼が大事なので依頼主の所へ行く。
「お兄さん、さっきは本当にありがとうございました」
歩いている最中、ウィルがそう言った。
「気にすんなよ、俺とお前の仲だろ? 困った時はお互い様だ」
「そうですねー」
「ところでお前、水属性以外にも使える属性はあんの?」
「使える属性ですか? えーっと後は、火と風だけですねー」
「マジかよ、3つも使えるのかお前」
「お兄さんなんか基本属性全部使えるじゃないですかー、嫌味ですか?」
っと、ジト目で言うウィル。
「そ、そんなつもりで言ったんじゃないって…そ、そうだ、お前だって俺には出来ない闇属性があるじゃないか、闇属性ってどんな魔法が使えるんだ?」
「私が使えるのは姿を消したり、相手に幻覚を見せたり等の補助系の魔法がメインです。一応、攻撃的な魔法も使えるには使えますけどねー、あと死霊魔術も闇属性の部類に入ります」
「へー、機会があったら見せてくれよ」
「機会があったらですからねー」
「そういやまだ、自分の事は思い出せないのか?」
ウィルはコクリと首を縦に振る。
「そっか…まぁ、無理に思い出せとは言わないさ。思い出さない方が良い事もあるかもしれないしな」
「そうですねー」
「そういや、初めてお前に会った時、宙に浮かんでたし、大鎌を仕舞ったりしたけどあれって魔法なの?」
「鎌は私の意思で出したり、仕舞ったり出来ます。何故かは分かりませんけど、魔法じゃないと思いますねー」
分からないといった感じで言うウィル。
「じゃあ、宙に浮いてたのは風属性の魔法か?」
「違いますよー、アレはなんと言いますか…こう、魔力を体全体に纏って、ふわ〜っとなるような感じにすると出来ますねー」
「意味がわかんねえよ…」
なんだか頭が痛くなってきた。ふわ〜ってなんだよ? 魔力を体に纏ってそれを浮かすようなイメージすればいいのか?
全くもって訳が分からん。
そういえば小説では異世界転生とかトリップすると、本人の知らぬ間にチート能力とかが付いてるのがあるからその類か、或いは魔王からそういう力を与えられたかのどっちかだな。分からんけど。
そう思ってるうちに依頼主の家に辿り着いた。
「ここが依頼主の家か」
「そうみたいですねー。すいませーん、セフィルさーん? いらっしゃいますかー?」
ウィルがドアをノックすると、ガチャリと開いて中から杖を持った1人の老人が出てきた。
「なんじゃい朝から? ワシになんか用か?」
「おはようございます。私達、お爺さんの依頼を受けた冒険者なんですけどー、お爺さんがセフィルさんですかー?」
「如何にも、ワシがセフィルじゃ。お前さん達がワシの依頼を受けてくれた冒険者か、依頼書にも書いてあると思うが、庭の草刈りをしてほしいんじゃ」
「了解」
「すまんのぉ、本当は自分でやるつもりだったんじゃが、腰が痛くての、近所の若いモンにやってもらおうと声掛けたんじゃが誰もやりたがらなくてな、それでつい冒険者に依頼したというわけじゃよ」
「なるほど、んじゃあとっとと終わらせますか」
爺さんから鎌と手袋を借りて、草を刈って行く。
前と比べて庭が狭いのと、2人掛かりで刈って行ったので1時間程度で終わった。
「ご苦労だったな、助かったわい」
「金がもらえるならこれくらい御易い御用ですぜ。あ、依頼達成の証としてこの書類にサインを」
そう言って爺さんに依頼達成証明書を渡す。
「うむ…ほれ、これでいいんじゃろ?」
爺さんはそう言いながらサインした依頼達成証明書を俺に返した。
「ん、確かに。んじゃあ、俺達はこれで失礼する」
「待て、ついでに1つ頼みたい事があるんじゃがいいかの?」
「何ですかお爺さん?」
「この絵をアイザックというジジイの所まで持って行って欲しいのじゃよ」
依頼主の爺さんは1枚の額縁を見せながらそう言った。
「アイザック? アイザックってあの武具屋の爺さんのことか?」
「なんじゃ知っとるんかお前さん。その鍛冶屋のジジイの所までこれを持って行ってくれんか? 無論、少ないが報酬は渡そう」
「んーまぁ、それくらいならいいか。分かったよ爺さん、引き受けるよ」
「おーそうか、ありがたい」
「ところでお爺さんは画家なんですかー?」
「うむ、これでも若い頃はそれなりに有名だったんじゃよ?」
「へーそうなんですかー。すごく上手に描けてますねぇ」
言われてみれば絵に書かれている人物は確かにアイザック爺さんだった。
「ある日、急にあのジジイに自画像を書いてくれと言われたのじゃよ」
絵の良さは分からないが、とても上手く描けてると思う。
「ワシ自ら届けようかと思ったが腰が痛いせいで満足に動けんのじゃ」
「分かった、必ず届けますぜ」
「頼んだぞ」
爺さんから絵を受け取り、俺達は武具屋へ向かった。
武具屋へ着き、中へ入ると。爺さんの姿はなく、サラが暇そうな顔でカウンターに頬杖をついていた。
「ようサラ、暇そうだな」
「あ、コータローさんとウィルちゃん。いらっしゃい、今日はどうしたの? 何か買いに来たの?」
「あー買い物に来たんじゃないんだ、爺さんいるか?」
「ワシならここにいるぞ」
店の奥から爺さんが出てきた
「よう爺さん」
「なんじゃコータロー、朝からワシになんか用か?」
「はい、お爺さんにこの絵を届けに来たんですよー」
そう言ってウィルが絵を見せる。
「あ、これってもしかしてお爺ちゃん?」
「そうじゃ、この前セフィルのジジイにワシの似顔絵を頼んだのを忘れてたわい」
そう言って爺さんは絵を受け取ると早速、すぐ目に入やすい壁に設置した。
「うんうん、カッコ良く描けとる。どうじゃコータロー? こう見るとワシも結構イケるじゃろ〜?」
「あ…ああ、良いと思います…よ?」
どうやらこの爺様は少しナルっぽいようだ。
「なんで疑問系なんじゃ? まあいい、あいつにありがとうと伝えておいてくれ」
「分かった、じゃあ」
「さようならー」
爺さんとサラに見送られて武具屋を出た。
「さ、あとは依頼主の爺さんに絵を届けた事を伝えておくか」
ウィルがコクリと頷き、俺達は依頼主の家に戻った。
「お爺さん、絵を届けて来ましたよー」
「おお、届けてくれたか。あいつは何か言ってたか?」
「ありがとう、って言ってましたよー」
「そうか…ほれ、少ないが報酬だ、取っておけ」
爺さんはそう言いながら650エルトを俺に差し出した。
「ん、どうも。じゃあ俺達はこれで失礼します」
「じゃあねお爺さん」
「うむ」
報酬を受け取り、爺さんに見送られながらギルドへ向かった。
ギルドへ戻ると、一部の奴を除いた冒険者達が一斉に俺達を見るが、直ぐに目を反らし、会話や食事とかに戻った。
「アンナちゃん、ただいま」
「おかえりなさいコータローさん。依頼達成証明書を見せてくれますか?」
「ほい」
「確認致します……はい、確かに確認致しました。こちらが報酬の960エルトです。お受け取りください」
アンナから報酬金を受け取り、確認する。
「うん、確かに」
依頼主からの追加依頼の報酬と合わせて1610エルトも稼げた。まぁ、それはウィルの所持金となる訳だが…。
「この後も依頼を受けるんですか?」
「ああ、出来るだけ早くランクを上げたいからな。それに新人のままだと面倒くさい奴に絡まれるしな」
「ま、まあ、新人の方はベテランに絡まれるのは通過儀礼みたいなものですから。過去にその所為で心を病んでしまった人もいました…」
やっぱどこの世界でも新人いびりなんて通過儀礼なんだな。
俺もバイトを始めたばかりの頃、嫌な先輩にかなり悪質な嫌がらせをされてきたな。
そいつは全く仕事をしないクセに新人に偉そうな態度で命令したり、勤務時間中に抜け出してパチンコをやったり、可愛い女性スタッフが入ると堂々とセクハラして、尚かつ、自分の格好いい所を見せたいと思うくだらない自己顕示欲が強いおかげで、 男性スタッフ達をバカにする傾向がある。
そんで女の子たちの前で男性スタッフたちの失敗談を語り、 自分がどれだけ優れている男なのか語りだす。
それだけの問題行動を起こしてるのにクビにならなかったのは、それなりのコネがあるからで、国会議員の息子だとか、その親戚筋だとかで、色んな権力者にコネを持っているらしい。
だから、店長もオーナーもクビにしたくても出来なくて手を焼いていた。
クビにしたら自分たちがクビにされるかもしれないからだ。
アイツは今でもコネや権力とか使ってやりたい放題してるんだろうか? まぁ、今となってはもう、どうでもいいんだけどね。
「そういや、あの後どうなったんだ? アッシュっていう奴が俺の代わりにギルドマスターに報告してくれたみたいだが、ああゆうのって本人が報告しなくてもいいのか?」
「基本的には当事者本人が報告するんですが、別に目撃者の人でもOKなんですよ」
「へーそーなのかー」
「あの後、ギルドマスターが出て来て、アッシュさんの報告や周りの冒険者達や私達職員の証言を聞いて、コータローさんに絡んで来た冒険者数名は降格処分とされました」
「自業自得だな」
「そうそう、ギルドマスターからコータローさんに伝言を預かっています」
「げっ、マジか、ギルドマスターは俺の事なんて言ってた?」
「『今回は正当防衛なので不問にするが、次からはギルド内で問題は起こすな』っと言っていました」
「そうかい…あ〜あ、まだ冒険者になったばっかりなのになー」
「す、すいません」
「アンナちゃんは謝らなくていいよ、次からは気をつけるさ。んじゃあ、また後で来るわ」
そう言って掲示板で依頼書を眺めてるウィルの所へ行く。あ、アッシュって奴に会ったら礼を言っておこう。
「待たせたな。なんかいい依頼はあったか?」
「ん〜もう、雑用依頼はないですねー、討伐と採集しかないですねー」
「マジか…じゃあ思い切って討伐受けるか。あんまりやりたくねえけど」
「あ、討伐受けちゃうんですかー? じゃあどれにしますー? 簡単なゴブリンからにしましょうかー」
ゴブリンかー、定番っちゃ定番だな。
討伐依頼はまだ早い気がするけど何事も挑戦だし、丁度いい機会なのかもしれない。
「俺に出来るかな?」
「大丈夫ですよー、お兄さんならちゃんと倒せますよー」
「いやいや、俺ぶっちゃけあんまり自信が無いんだけど? 多分心の何処かでビビってるかも」
「ヤバくなったらちゃんと助けますから、頑張りましょうよー」
「…マジでヤバくなったら助けてくれよ? 絶対だぞ?」
そう言うとウィルは頷き、俺は依頼書を取り、受け付けの所まで持って行く。
ついでに採集依頼の内容を何件かメモする。
討伐しに行ったついでに採集依頼の内容にある物を集めた後、ギルドに戻り採集依頼を受注し、すぐに見せれば採集しに行かずに依頼達成出来る…と思う。
「アンナちゃーん、この依頼を受けたいんだけど」
「見せて下さい……討伐依頼ですか…内容はゴブリン3体の討伐、場所は此処から南にある森で報酬は800エルトです。また、追加報酬として1体につき、200エルトが加算されます」
「つまりゴブリンを倒せば倒す程、報酬が多くなるって事か?」
「そうなります。だからといって、無茶はしないでくださいね。過去に何度もこういう依頼を受けて、報酬欲しさに無理をして死んだ方もいますから…私はコータローさんにそうなって欲しくはありません…」
アンナが心配そうな顔で言う。
「大丈夫だから心配すんなって、金欲しさにそこまで頑張る気はないさ」
「それにDランクの私がいますし、危なくなったら逃げますから大丈夫ですよー」
「…そう…ですか。まあ、お二人なら大丈夫でしょう。では、ゴブリン討伐の証として牙を剥ぎ取ることをお忘れなく。あれ、よく見たらコータローさん道具袋を持っていませんね?」
「それがなきゃダメなのか?」
「証明部位や薬草、その他の道具の持ち運びが大変なので、冒険者の人達は最低でも1つは持ってますよ?」
「そうなのか、じゃあ、後で買っとくか」
「それでしたらギルドの2階に道具屋がありますので是非ご利用下さい」
「わかった。他に気をつける事ってあるか?」
「そうですね、討伐証明部位や採取した薬草等は別々の道具袋に入れておいた方がいいですよ。血で植物が血生臭くなってしまい、使い物にならなくなる事がよくありますので」
「成る程、よく分かった。そうそう、依頼について質問が」
「何でしょうか?」
「採集依頼を受ける時、既に採集する物を持ってて見せればすぐに達成出来るの?」
「事後受注ですか? 出来ますよ。採集依頼だけではなく、討伐依頼でも討伐対象を既に狩っていて、証明部位を見せて下されば受注した直後に達成出来ます」
「分かった。サンキュー、じゃあ行ってくるぜ」
「頑張って下さい、健闘をお祈りしてますね」
アンナにそう言われた後、2階の道具屋で道具袋(1つ300エルト)を2つ、ついでにウィルにも革製の肩掛け鞄(745エルト)を買ってギルドを出た。
「んじゃあ、先ずは装備を取りに宿へ戻るか」
そう言うとウィルは頷き、俺達は宿へ戻った。
「お帰りなさいませコータロー様、ウィルさん。今日はもう仕事は終わりなのですか?」
部屋に戻るとアンジェが出迎える。
「いや、今からゴブリンの討伐依頼をしに行くんだ。ここに戻ったのは装備を取りに来たからだ」
「そうでございますか。ご存知かもしれませんがゴブリンは下級の魔物で、必ず複数で襲って来ますが、動きが遅いので冷静に対処すれば大丈夫でございますが、くれぐれも油断なさらぬよう」
「そうか、分かった。じゃあ行ってくる。昼過ぎには多分戻ると思う」
「畏まりました。お気を付けて」
「ああ」
防具を着けて剣を帯剣し、先程買った道具袋をフィールドバッグのベルトに括り着けて装着する。必要ない物は全てアンジェに預けておいた。
別に道具袋を買わなくても、フィールドバッグに付いてるポーチを使えばいいと思うかもしれないけど、汚したくないし、回復薬とか道具を入れる為に使いたいからな。
「よし、準備は整った。ウィルはどうだ?」
「いつでもOKですよー」
と、ウィルが言ったので宿を出て、彼女の案内で討伐対象がいる森へと向かった。
そんで現在、ウィルを先頭に森の中を散策中だ。国から南の森へは歩いて40分くらいの距離だった。
森の中には道が出来てるので迷う事はないハズ。ちなみにこの森は魔物が多く潜んでいる事から別名、魔の森とも呼ばれているそうだ。
「お兄さんはゴブリンがどんな魔物か知ってます?」
突然ウィルがそんな事を聞いてきた。
「知ってるぞ、確か人間より身長が低くて、肌が緑色で、醜い顔で左右対称に牙が生えてるな。あとは…頭が悪く、性欲が半端なく盛んなことか。彼らは女性を見ると、拉致って犯して妊娠させて、子供を大量生産させるというエロいのが好きな魔物だ。その為、魔物の中で一番繁殖力が高く、数が多い。なんでそんな事を聞くんだよ?」
「いや、なんとなく知ってるのか聞きたくなって」
「教官から教えられたからな」
「教官にですかー。あ、そう言えばお兄さんは討伐依頼は初めてでしたっけ」
「ああ、なんだか不安になってきた…」
「私がいるから大丈夫ですよお兄さん」
そう言って俺とウィルは森の中を歩いて行く。
暫く進むと、何やら周囲から幾つもの気配を感じて来た。
「お兄さん、彼らのお出ましですよー?」
「遂に来たのか…」
俺は静かそう呟いて剣を抜き、周囲を警戒する。
すると草影や、木の陰から何かが飛び出て来た。
『ギャギャギャッ!!!』
という変な声と共に現れたのはゴブリンだった。
低い身長、緑色の肌、醜い顔に牙、腹だけメタボみたいにポッコリとして、あとはガリガリの体系、腰に巻いたボロ布、手に持った棍棒と俺のイメージ通りの姿だった。
「ウィル、ちょっと自分がどこまで出来るか試したいから1人でやらせてくれないか?」
「わかりましたー」
「いつでもフォロー出来るようにしてくれよ?」
「了解です。下級の魔物とはいえ、用心して下さい。ヤバくなったら呼んで下さいねー」
「ああ」
そう言ってウィルは俺の後ろへ下がり、俺は改めて目の前の敵を見て、剣を構える。
現れたのは5匹、奴らは俺達、特にウィルを見て何やら会話みたいな事をしている。
しかもその後を考えているのか股間に巻かれてるボロ布の一部が盛り上がっている。
敵の前で会話しながら股間膨らませやがって、それだけ俺が弱く見えるという事か? 舐めやがって…直ぐに後悔させてやるぜ!
「『火撃』ッ!!」
奴らが会話をしている間に、火の玉をぶっ放して、会話している1匹に当てる。
「ピギーーーッ!!!」
高威力の火の玉が当たったゴブリンは悲鳴をあげながら吹っ飛び、火達磨になって地面を転がった後、動かなくなった。
すると仲間をやられて怒ったのか、『ピギャーッ!』という声と共に1匹目が襲い掛かって来た。
が、アンジェが言った通り動きが遅いので冷静に対処が出来そうだ。
「(落ち着け俺…教官との訓練を思い出せ…)」
そう思った俺は剣を構える。
接近してきたゴブリンが棍棒を振り下ろして来た。
『相手の動きをよく見ろ、武器がどこから向かってくるか見極めるんだ』
頭の中で教官の言葉が浮かんでくる。
俺は振り下ろされた棍棒を躱して、思いっきり剣を横薙ぎに振った。
「おらぁッ!」
振った剣はゴブリンの胴体を切り裂き、体が上下に真っ二つになって緑色の体液が流れる。これがコイツ等の血なのだろうか?
「グギャアアアアアアッ!」
断末魔と共に2匹目のゴブリンは死んだ。
すると残った3匹が叫び声をあげながら、一斉に襲い掛かって来た。
「『地針』ッ!!」
地面から針が出て、3匹の内、1匹が串刺しにされる。
「グ…ギ…」
串刺しにされたゴブリンが死んだ事を確認した後、残る2匹に向かって行く。
「(見える…見えるぞ! 奴らの動きがよく見える!)」
戦闘による興奮でアドレナリンが分泌されてるのか、元々遅かったゴブリン達の動きが更に遅く見える。
ゴブリンが棍棒を振り下ろす前に、顎目掛けて思いっきり蹴り上げて、ゴブリンは「グペ!」という声と共に吹っ飛ばされる。
そして残った方の胸に剣を突き刺し、足でゴブリンの体を押して剣を引き抜き、胸を抑えて膝立ちになるゴブリンの首目掛けて剣を振る。
刃はゴブリンの首を刎ねて、ブシャアアッ! と緑色の体液が噴出し、首を失った胴体はドサリと倒れた。
まだ戦闘は終わっていない。先程蹴飛ばしたゴブリンの方へ行くと、丁度立ち上がろうとしてたので、今度は顔目掛けてヤクザ蹴りをお見舞いする。
「プギャッ!」
変な声を出してまた後ろに倒れたゴブリンの胸に剣を突き刺す。
「ギ…ギ…」
という声と共にゴブリンは力尽きたが念には念を入れてもう一度剣を顔に突き刺す。
「終わった…」
と小さく呟き、剣に付いた血を払って鞘に納めた後、その場に座り込んで胡座をかく。
「お疲れ様ですお兄さん。初めての戦闘はどうでしたか?」
隣にしゃがんだウィルが俺の肩に手を置き、俺の顔を覗き込んで言う。
「なんつーか、自分がどれだけ平和ボケしていたか、思い知らされた…」
そう言って切り裂かれたゴブリン達を見る。切り口から溢れる内臓を見て一瞬吐き気がした。
正直言って怖かった。相手が弱い魔物とはいえ、命の危険を感じた。やっぱりまだ覚悟が出来ていないようだ。
「これが冒険者では当たり前の事なんですよ。この世界では命の扱いなんて軽いんです。生きるか死ぬか、殺るか殺られるかのどっちかなんですよー、だからお兄さん…これを機に覚悟を決めて下さいな」
ウィルは俺に抱き付いて、耳元でそう言った。
そうだ、覚悟を決めろ。これから先、多くの敵を倒すんだ。その中にはもしかしたら人も含まれるだろう、だから罪悪感なんて物は捨てろ、この世界は弱肉強食、強い者が生きて、弱者は死ぬ。俺が居た世界と違って命なんて軽く見られてるんだ。
「…ああ、覚悟を決めたよウィル。俺はこの世界で、冒険者として生きる」
「そうですか」
そう言ってウィルは立ち上がる。
「じゃあ改めて、友達として、冒険者として、これからもよろしくお願いしますねお兄さん」
そう言ってウィルは俺に手を差し出した。
「ああ、よろしくウィル」
俺はそう言って差し出された彼女の手を取り、立ち上がった。
意見、感想お待ちしてます。




