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9 ダンジョンを超えて

 ラザレスとしばらく話していて思ったのだが、以外と若いということがわかった。老けて見えるのは髪が白色で髭を生やしているからだろう。

 シーブと髪の色が似ていると言ったら嫌な顔をされた。俺の毛も灰色だから言えないんだけどな。それでも髪色についての話で特に何も言われないのはクマの特権だ。


「どこまで説明した? ギルドのランクと、レベル。スキルについて……後はギルドについてかな? ギルドについてって言ってもダンジョン内で獲得した全てのものはギルドに提出しなきゃ酷い目にあうってことだけかな?」

「酷い目って何?」

「投獄」

 そりゃ酷い目だな。間違いなく酷い。


「まっ、でも実際ダンジョンに潜ってみたほうがわかりやすいでしょ」

 食堂をでて、外にでる扉と反対側にそのダンジョンの入り口はあった。巨大な扉があり、その前にはギルドの職員っぽい人がいる。

 机に座って紙に何かを書いている。


「3人です。ここで何人で入るかを報告する」

「了解です。シーブさん、ラザレスさん、オオツジタクマさんいってらっしゃい」

「俺の名前もわかるのか」

「そういうクラスですから」

 にこやかなメガネのお兄さんに見送られて初ダンジョン。いや、ダンジョンには入ったことがあるな。ここのダンジョンは初めてだ。


 扉を抜けた先は石で作られたトンネルが広がっていた。壁には松明がくっついているが、だいぶ薄暗い。油が燃える匂いと土臭さが酷い場所だ。


「このメンバーなら5階ぐらいまでは余裕でしょ。じゃ、ダンジョンについて説明しようか」

 軽い感じでシーブは言っているが、ラザレスが剣を抜いてよくわからない二足歩行の生き物を切り捨てたところだ。ラザレスは片手剣。俺は何も持っておらず、シーブは腰に俺から見ると針みたいな短剣を持っているだけ。コンビニに行くかのような気軽さでダンジョンにきてしまって良いのだろうか。


「1〜5階はこんな暗いところがずっと続くだけ。ここの面倒なことは月1で構造が変わること。それだけ。ここにはモンスターが出てくるけど、基本的には2種類。さっき切ったゴブリン。それとウルフっていう狼に似た6本足の生き物。どれも魔導回路すらない雑魚。基本的に見つけたら正面からくるから、それに合わせて……こうっ!」

 暗くてよく見えなかったけど、暗闇にまぎれてやってきたゴブリンが壁に叩きつけられて絶命した。血の匂いがするからそれはわかるけど、何をやったのかはわからなかった。これが精霊使いの戦い方か……。


 歩いてみてわかったが、ここは迷路だ。どこまでも似たような道が続いており、薄暗い中でモンスターが襲ってくるのはストレスがかかる。中々ハードなダンジョンだとは思うが、2人は俺を守るように後ろと前に立って難なく撃退している。


「討伐証明の耳を持っていったらお金がもらえるけど、面倒だし。私はパス」

「儂もじゃな。普段、ここは剣を抜かなくてもいいぐらいじゃ。鎧をどうにかできるやつはおらん」

 確かにジジイの鎧は有用そうだな。鎧を着たまま長い間動き回る体力は必要そうだが。


「さっさとでちゃおう。私だけだったら走るんだけど。大体1時間もあれば5階までは超えられるかな?」

 え? 1時間もかかるの? とか言っちゃいけないな。1時間以上も代わり映えしない道を歩き続けるのは中々苦痛だ。


 初めての階段を見つけた。時間がどのぐらい経ったのかはわからない。暗いし、代わり映えしない道なためどのぐらい歩いたのかもわからない。身体の疲労で測ろうにもクマの身体は随分と丈夫で、全く疲れない。


「階段の近くは割とモンスターが少ないから。こうして休むこともできるって……シュリオさん、こんなところでどうしたんですか?」

「ああ、その声はシーブさん。新しいスキルを手に入れたのでこうして身体を慣らしているのです。そしてお久しぶりですね、死神さん。またお手合わせお願いしますよ。そして最後の貴方は今噂のクマさんですね」

 暗闇から姿を現したのは赤髪長身の男。腰には刀を身に着けている。声からして穏やかだということがわかる。腰につけているのは刀。サムライ……なのだろうが、服装は和服などではなく、普通の鎧だ。普通の鎧って言われてもわからないだろうが、俺がギルドで目にした中で最も一般的な急所だけを鎧で覆い、後は長袖長ズボンというやつだ。


「タクマ、この方はB級冒険者のシュリオさん。そしてこっちはタクマです。まだ決まったわけじゃないのですが、パーティーを組むつもりになってます」

 B級っていうとかなり強い人なんじゃないだろうか。いや、でもあの忍者とか初代ギルドマスターよりは強いなんてことにはないだろうな。あんな化物がホイホイいたら俺も困る。


「なかなか面白いパーティーになりそうですね。3人でもB級ぐらいなら行けそうな気がします。何より、クマの身体、人間とは大きく違いますからね。いくらスキルで鍛えても人間ではクマに純粋な力勝負では勝つことはできないでしょう」

 確かに、クセが強くて下にとどまってたソロ2人と人間より明らかに強いクマの俺。後3人を強い人で集めればA級だなんてもしかしたら楽勝かもしれない。


「ありがとうございます。では私達は先を急ぐので」



 歩いている間にこの世界についての講義をされていた。


 わかりやすく140字以内でまとめると、この世界には強い意思というのが何よりも強い力などだという。精霊はそのような強い意思から生まれるのだという。だから俺も精霊になりたい! って強く願ってそのまま死ねば精霊になれることもあるんだとか。どんな世界だ、ここは。

 


 だから悪霊とかもいるそうだ。この世界の葬儀とは本当に悪霊が出てこないように、やるための物らしい。もしも故人の意思が強くて未練が残って霊として存在していたとしても葬儀をすることによって悪霊とならず満足する人が多いんだとか。


「私はハーフだからエルフについてはあまり詳しくないけど、エルフが精霊と仲が良いってのも、元々精霊はエルフから生まれたからってことも最近では研究されているみたい」

「研究って……」

「エルフで外に出てる人は少ないから。私みたいなハーフでもエルフ研究者とのパイプがあるのよ。里から出てるエルフは口縛りの呪いを受けてるし」

 この世界はいまいちわからんな。研究者がいる。そして魔法がある。呪いだとかそういうのも存在している。やはり、差というものが大きいんだろうな。よくあることだ。上の方は何でも知ってるけど、下の方は何も知らないってのは。


 てかわからないことが多すぎる。口縛りの呪いって何だよ。とかそもそもエルフって何? とか、精霊についてはちょっとわかったけど、説明されればされるほどわからない語句が増えていく。

 これもしばらくいればわかってくることなんだろうけど。シーブはまだ16歳なんだからそんな難しいことは話さないだろうし、俺でも頑張れば理解できることだろう。とりあえずこいつが人に教えるたびにドヤ顔してくるやつじゃなくてよかった。



 昔はもっと魔法が一般的で人が強い意思だけで空を飛べたり、炎が出せたり、傷が治ったりとかしていたらしいが、今ではそんな簡単に魔法も使えなくなり精神的に厳しい修行を積んだ人が何人もいてようやく一つの魔法が発動するぐらいのものらしい。


 俺、結構魔法見てきたけどな?


 今、魔法みたいなものを発動させるには魔力と呼ばれるものを魔導回路に流し込むことで決められた魔法が発動するそう。これを魔法と区別して魔術って言うらしい。


 魔法に必要なのは強い意思と空気中の魔力。意思が弱ければ弱いほど大量の魔力を消費して意思が強ければ強いほど必要な魔力が少なくなるらしい。


「別に今でも1人で何でもない人が魔法を使えるって事はあるみたいだけど、実用的じゃないの」


 そして魔術に必要なのは体内の魔力とそれを流し込む回路。俺はこれは知っているし、発動できるからな。感覚としては自分の一部を削って流し込むって感じだ。ちょっと疲れはたまるけど、魔法みたいに強い意思はいらない。



 俺が精霊と契約しているってどういうことなのか。と聞こうとした時、最後の階段についた。


「この次は6階。ここからは今までとはガラッと変わって、広大な森が広がってる。その中から階段を見つけ出さなきゃいけないんだけど……タクマはE級だからこれ以上行くには試験が必要ってことで戻ろう」

 え? ここまできたのに? ここまできて、引き返すだけ?


「戻るのは楽よ。階段の近くに扉があるからそれを探せば一瞬で地上1階に戻れる」

「それは魔法?」

「魔術じゃまだこの段階には行ってないなぁ。ダンジョンそのものが魔法の産物ってだから」

「へー」

 ちょっとテンション下がったな。


「大丈夫大丈夫。試験っていっても簡単なのだから。ちょっと紙に色々書くだけで終わるって」

 そうだよな。冒険者ギルドなんだからクマの俺には余裕な試験……ん? なんでペーパー試験?


次回投稿は明日です。近々登場人物でもまとめたいと思います。

もうちょっと頭が良い主人公だったら熱くなるんでしょうか。

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