2巻発売お礼SS:子犬のツィツィー
王宮と本邸の間にある中庭で、ツィツィーは目をキラキラさせていた。
「か、可愛い……!」
そこにいたのは白くてふわふわとした毛玉――ではなく、生後一か月ほどの子犬たちだった。全部で六匹おり、兄弟で戯れるものから一人でよちよちと歩くものまで、目が離せない愛らしさである。
たまらずしゃがみ込んだツィツィーの横で、ガイゼルがヴァンに向かって尋ねた。
「これは一体なんだ?」
「正門の隅に捨てられていたのを、騎士団で保護したんです。引き取り手が来るまで預かっているんですが、騎士団棟に置いていたら大変なことになりまして。掃除が終わるまでの間、一時的に避難させているようです」
その回答に微妙な表情を浮かべるガイゼルをよそに、ツィツィーはおいでおいでと手招きする。するとすぐに気づいた子犬たちが、我先にともつれ合うようにしてツィツィーの膝へと駆け寄ってきた。
「陛下、可愛いですね!」
「……ああ」
『俺はお前が一番可愛いと思うがな』
思わず、といった心の声を聞いてしまい、ツィツィーは一瞬だけ頬を赤くする。だがもふもふとした温かさに取り囲まれ、すぐにえへへと相好を崩した。一匹ずつ丁寧に撫でたあと、ガイゼルに声をかける。
「あの、よければ陛下も抱っこしてみませんか?」
「……まあ、そうだな」
満面の笑みを浮かべるツィツィーに呼ばれてまんざらではなかったのか、ガイゼルはふっと苦笑したあと、子犬たちの元へと足を向けた。
だがガイゼルの隠しきれない威圧に恐れをなしたのか――ツィツィーの周りで遊んでいた子犬たちが、ささっと一斉に背中側に隠れてしまう。
「あ、あれ? みんな、どうしたの?」
「……」
ガイゼルはそのまましばし鋭い眼光を放っており、おろおろするツィツィーの後ろで子犬たちはきゅーんと耳を垂れていた。やがてガイゼルは短く舌打ちすると、ツィツィーから距離を取って座り込む。
「あ、あの、ガイゼル様、もう少しこちらに来ては……」
「ここでいい」
どこか不満げなガイゼルに対し、子犬たちは「怖い奴は来なさそうだ」とばかりに、よちよちとツィツィーの眼前に戻ってきた。
自分だけが子犬を独占するような形になってしまい、おろおろとうろたえるツィツィーだったが――そのうちの一匹が、とことこと勇敢にガイゼルの傍に向かって行く。そのままガイゼルの膝に前足を置くと「ひゃん!」と元気に鳴いた。
「……なんだお前は」
「陛下のことがお好きみたいですね」
「……」
ツィツィーがそう言うと、ガイゼルはじっとその子犬を睨みつけた。しかし子犬は一向に逃げ出そうとせず、よじよじとガイゼルの足を登っていく。その終始をガイゼルは無言で見つめていたがよほど嬉しかったのか、ひそかに心の声が滲み出してきた。
『お前は俺が怖くないのか……。なんだか、ツィツィーみたいだな』
(わ、私ですか?)
『……よく見ればつぶらで愛らしい目をしている。面立ちも利発そうだ。よし決めた、お前のことは、これからツィツィーと呼ぶことにしよう』
(へ、陛下⁉)
ガイゼルはすっかり慣れた様子の子犬を持ち上げ、その大きな手で優しく撫で始めた。おまけにそのたび、心の中でツィツィーを呼ぶものだからたまらない。
『ツィツィー、お前は本当に可愛いな。こんな俺の傍にも嫌な顔一つせずに来てくれて……』
(わ、私ではない、ないのです……)
『柔らかくてか弱くて……少し力を込めるだけで、すぐに押しつぶしてしまいそうだ。ツィツィー……このままずっと俺の腕の中で守ってやりたい……』
(う、うう……)
いつの間にかツィツィーの頬は熱く火照っており、何とか意識をそらそうとこちらも無言で子犬たちを撫で続ける。
やがて騎士団の若手が何人か現れ、すみませんと謝罪しながら子犬たちを抱えて帰っていった。ぬいぐるみのような子犬たちを見送り、ツィツィーはほうと息をつく。
「はあ……可愛かったですね」
「そうだな」
するとガイゼルは背後にいるヴァンから見えない位置で、そっとツィツィーを抱き寄せた。突然の抱擁に驚いていると、どこか確かめるような心の安堵が聞こえてくる。
『……あのツィツィーも可愛かったが、やはり本物のツィツィーが一番だな……』
(へ、陛下……)
先ほど、ガイゼルの手で可愛がられていた子犬の『ツィツィー』を思い出し、こちらのツィツィーもまたはにかむように顔を赤らめるのだった。
2巻発売のお礼ssでした!
私はコーギーとポメラニアンが好きです。












