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陛下、心の声がだだ漏れです!  作者: シロヒ
第二部

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第三章 4(完)



(だ、大丈夫……私だって、ちゃんと……)


 しかしどれほど待っても、ガイゼルが近づいて来る気配はない。ちら、とだけ片目を開けてみる。するとガイゼルはツィツィーを眺めたまま、柔らかく微笑んだ。


「――安心しろ。抱くつもりはない」

「え、えっと、でも……」

「疲れただろう。今日はゆっくり休め」


 そう言うとガイゼルはツィツィーの覆いをやめ、隣にごろりと横たわった。

 ツィツィーはしばらくきょとんとしていたが、安堵した途端、蓄積していた疲れがどっと蘇ってくる。少しだけほっとしたのは内緒だ。


「あ、ありがとう、ございます」

「これからいくらでも機会はある」

「……は、はい」


 覚悟しておけというガイゼルの意図が、口にせずとも伝わって来て、ツィツィーはひええと背筋を凍らせた。本当であれば今日は『初夜』だ。ガイゼルが期待していることは、ツィツィーもよく理解していた。

 だが早朝から準備に挨拶にと慌ただしく、困憊しているツィツィーを気遣ってくれたのだろう。ツィツィーはガイゼルの優しさに改めて感謝した。


「おやすみなさい、ガイゼル様」

「ああ」


 すっかり恐怖心の抜けたツィツィーは、いつものようにガイゼルの隣に丸くなる。ガイゼルもまた慣例のように彼女を腕に抱こうとして――少しだけ奇妙な顔をした。


「そのガウンは着たまま寝るのか? 暑いだろう」

「あ、それが、その……」


 ガイゼルの指摘に、ツィツィーは体を起こしどうしたものかと眉尻を下げる。だがガイゼルの訝しむ表情を前に、おずおずと腰紐を解いた。

 途端にガイゼルの目が大きく見開かれる。




「……リジーに、今夜は絶対これが良いと勧められて……でも、今までこんなの着たことがないから、恥ずかしくて……」


 分厚いガウンの下から現れたのは、またしても純白のドレス――ただし、すべらかな絹の光沢を持つ、非常に薄手のナイトドレスだった。

 腕は肩まで露出しており、丈も膝ほどまでしかない。肌に吸い付くような柔らかな生地は、ツィツィーの女性らしい体つきを主張するのに十分すぎる役割を果たしていた。


「や、やっぱり、おかしいですよね⁉ なんだかひらひらして落ち着かないし、長さだって――あの、陛下?」

「――悪い。急な仕事を思い出した」


 額を手で押さえていたガイゼルは、突然ベッドから起き上がった。


「え⁉ でもさすがに今からは大変では……」

「いや、今すぐに片づけたい。すまないが先に寝ていてくれ」


 え、と瞬くツィツィーをよそに、ガイゼルはきっぱりと手で制した後、本当に自室へと戻っていく。

 だがドアが閉められる寸前、まるで呼吸を止めていたかのように、ガイゼルの心の声が堰を切ったように溢れ出した。


『あれは反則だろう⁉ どこかに俺の自制心を試したい奴がいるのか⁉ しかしこれは何というか……以前読んだ本に……そうだ、鴨がリーキを背負ってくる、だ。あーだめだ……気を紛らわさなければ……言った傍から約束を違えるわけにいかん……』

(ど、どういうことかしら?)


 よく分からない例えに、ツィツィーは一人首を傾げながら、毛布の中に潜り込む。

 ふわふわとした質感が心地よく、軽くお酒も入っていたツィツィーは、あっという間に眠りの世界に落ちて行った。






 皇帝陛下の結婚式から数日後。

 アスティル伯爵家の新ブランドが正式に発表された。デザイナーはエレナ・シュナイダー。

 最初は女性のデザイナーということに、皆が驚きを見せていた。だが今まで発表してきたドレスが彼女の考案であることが判明すると、手のひらを返したかのように歓迎、称賛された。


 また今回の皇妃殿下のドレスも彼女のデザインであると公表した結果、Ciel(シエル・) Etoile(エトワレ)にはぜひ自分の結婚衣装もと願い出る女性が殺到したそうだ。そのため予約が五年先まで埋まってしまい、急遽人を雇うはめになったという。

 そこでエレナは、自分と同じようにデザイナーを志望する女性も合わせて募集した。


 最初は現れなかった希望者も一年後に一人、二年後にもう一人、と立ち上がるものが現れた。彼女たちは一流の工房での修行を経て、名うてのデザイナーとして成長していく。

 それを見たエレナは、さらに身分や性別を問わない後進の育成に注力した。





 ――やがてヴェルシアは、素晴らしい婚礼衣装を生み出す『花嫁たちの聖地』として想望されるようになる。

 中でもCiel Etoileは最も格式高いウェディングドレスブランドとしての地位を確立し、いつしか世界中の女性にとって『シエルのドレスを着る』ということが一種のステータスとなるまでに成長する。

 また多くの著名なデザイナーの出身地であることから、各国の服飾デザイナーたちがこぞって修行に、また自らの力試しにとヴェルシアを訪れるようになるのだが――それはまだ、随分と先の話である。





(了)



だだ漏れ第二部、これにて完結いたしました。

お付き合いくださりありがとうございました~!


そして「陛下、心の声がだだ漏れです!」の【書籍化&コミカライズ化】が決定いたしました!

詳細はまたTwitterや活動報告にてお知らせいたします。


新連載「エイドーロンは恋をしてはならない。」も始めました!

アイドルを目指す女の子と成金男の両片思い・下剋上・シンデレラストーリーです。

下部にリンクを貼っていますので、またお付き合いいただけると嬉しいです~!

 

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だだ漏れ小説
― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 良い物語をありがとうございました。
[良い点] 王道です~!最高にかわいい! こんな結婚したい!となります!
[良い点] ガイゼル様、翌日は解禁されたんでしょうか? 最後まで微笑ましい2人でした! ツィツィー達だけでなく、エレナも幸せを掴めたようで読後感よかったです! ただ、ルカが結婚を許してくれたのかが気…
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