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第18話 エスケンgame1

 

「育! いい加減にしろ!」

 っ!

 ……何で私が公太に怒られなきゃならないの?

 確かに鈴原は可愛いかもしれないけど、私には勝てないよね?

 私の方がずっと美しいよね!


「育、鈴原に失礼なこと言ってないか? 確かに育は美人だけど、俺は顔だけで付き合う相手を選んだりしない」

「嘘つけ! 鈴原と付き合ってる時点で嘘だよね!」

 公太が言葉に詰まる。


「ねえ、鈴原って子、美人なの?」たまちゃんが由紀に小声で尋ねた。

「え?……うん。……育ちゃんほどじゃ無いけどね」

 そうだよ! 私の方が美人だよ!


「性格だって私の方が良いよね!? 明るくて社交的。みんなに好かれる人気者!」

「うん。いい性格してるのは確かだな」何か嫌味っぽい言い方?

「鈴原なんか、陰気で根暗で良いとこなんて無いよね!」

「育、もうやめろ」

「何より!」私が一番我慢できないことは、「公太に守られてばかりで、自分で何もできない!」


 公太は苦虫でも噛んだような表情を浮かべた。

「育。誰もが戦えるわけじゃない。誰もが強いわけじゃない」子供に言い聞かせるように言ってくる。


「戦えない奴らを守ってやるのが育だろ? 俺たちはそうやって今までやってきた。それを育が否定するのか?」

 公太は穏やかに言った。怒ってはいない。でも、どこかやるせなさそうだった。


 私はみんなを見渡す。みんなの反応が気になったから。


 ミンナニキラワレタクナイ


 けいくんもたまちゃんも不安そうに私を見ている。

 かずくんは、しょうがないよねって言うように肩をすくめた。そして、「いくちゃんが悪いわけじゃないよ。誰もが変わるし、変わる必要もある。ただ僕たちが変われなかっただけだよ」そう言って温かくも冷たくもない温度で微笑んだ。




 俺たちは子供のころから何も成長しなかった。

 そして7年ぶりに会った育も成長していないと思っていた。


 育はガキ大将だった。ケンカは弱いくせに気が強かった。

 いつも育がケンカを始める。俺たちは育に加勢する。ケンカの是非を問うことはなかった。

 育がケンカを始めるのなら、非は相手にあるに決まっている。


 けいくんとたまちゃんは単純だった。親分が始めたケンカに乗るだけ。自分で善悪を考えない単純な正義の味方ごっこ。

 かずくんは少し複雑だったかもしれない。頭も良くてスポーツもできるかずくんは理性的であり、その分鬱屈を溜め込んでいた。かずくんにとって育は、破壊衝動に理由をつけてくれる存在だったのだと思う。


 育に対する感情が一番複雑なのは俺だろう。

 育の始めたヒーローごっこだが、俺はヒーローになりたかったわけではないと思う。

 みんなのヒーローになりたいんじゃない。俺は育のヒーローになりたかったのだ。


「……ごめん。公太。嫌わないで」育がおとなしく謝罪を口にした。

「いや……。俺もごめん。嫌いにならないよ」育を嫌いになるわけがない。

「ごめんね、公太。7年は長かったよね」

 そうだな。

「でも、もう待たなくていいから。私が帰ってきたから」

「……はい?」

「7年間寂しい思いさせてごめん、公太。もう、ずっといるから。鈴原を私の変わりにしなくてもいいよ」

 堂々巡りかよ?!


「私が公太も鈴原も面倒見てあげるから!」

 違った。ぶっ飛んでいた……。


 幼馴染三人が吹き出す。

「流石いくちゃん、男前だな!」かずくんが笑って言った。


 笑い事じゃないよ、お前ら。


 飯島由紀が理解できないといった顔で俺たちを見ていた。




「で、飯島をつれてきた理由は何だよ?」さんざんワイワイしたあと、俺は最初の疑問を育に尋ねた。

「え?」育があれっ? って顔をする。

 忘れてたな。

「お礼言うだけなら、俺たちに合わす必要ないよな」


「あ、うん。由紀ちゃんに公太は怖くないよって教えてあげようと思って」

「余計なお世話だな」

「むー、友達に彼氏紹介しただけだよ」

「彼氏じゃない」


「公太は照れ屋さんだけど、怖くないからね」育が由紀に微笑みかける。

「えぇ……」由紀が困惑する。


「せっかくお友達になったんだから、遊ぼ。由紀ちゃん!」たまちゃんが屈託無い笑顔を飯島に向ける。

「え?」


「何する?」かずくんがたまちゃんに賛同する。

「エスケン!」

「偶数だからちょうどいいね」けいくんも乗り気だ。


「じゃあ、三人づつね」たまちゃんが育を見る。

 育に仕切らそうとしている。ま、親分だからな。


「グッとパーで、別れんねんで!」

 育の発声でグーかパーをだす。


「何その合図?」聞いたこと無い掛け声だった。

「転校先は、こうだったの」

「いくちゃんがヨソの子になって帰って来た!」かずくんも面白そうに言う。気に入ったようだ。


 公園の土に靴の爪先でS字を書く。

 細いS字の隙間から外に出て相手の陣地の宝をとるだけの簡単なルールだ。


 最初のポイントは出口から出さないこと。相手の陣地の境目に出口があるから、攻防のポイントになる。

 捕まえて陣地に引きずり込むか、倒せば「死体」になる。

 俺とけいくんと飯島が同じチームになった。


「いくよー!」たまちゃんがいきなり出口に向かう。

 俺は出口から出さない係なので、たまちゃんを止めようとラリアットで迎え撃つ。引き込むより倒す方が早いから。

 たまちゃんはあっさりと体を沈めたまま、俺のうでの下をくぐり抜けた。

「ごめん! 抜かれた!」

 たまちゃんはすばしっこすぎる。


「俺が出る!」けいくんが出ようとするがかずくんに捕まり引きずり込み合いになる。

「飯島、加勢して!」俺は出口を離れられない。育がフリーだから。

 飯島がけいくんの加勢に近づいたところを育に捕まえられて引きずり込まれそうになる。飯島は育に全く対抗できていない。

 俺は飯島の腰を抱き締めて、育から離した。


「むぅ!」育がふくれっ面でにらんでくる。

 いや、ゲームだから。慌てて飯島を離す。


「ごめん!死んだ!」けいくんが叫んだ。かずくんに倒されていた。

 かずくんは強すぎる。


 出口のかずくんを攻略できずに、たまちゃんと育に攻め込まれた。

 俺は育を捕まえる事ができたが、その隙にたまちゃんにお宝を取られて負けた。飯島ではたまちゃんを捕まえることができなかった。


「私たちの勝ちね!」俺に抱き締められたまま、育が俺を見上げて笑いかけた。

 育はわざと俺に捕まったな。

 まあ、たまちゃんをフリーにする為なんだろうけど。




読んでくれてありがとうございます。


エスケン、S字ケンケン、格闘、とか呼ばれるレクリエーションです。しましたよね? しない?

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