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95:名前は、まだ、ない。

 あれよあれよという間に、受付嬢から40万Gを受け取り、同居も決定してしまった。

 い、いいのか?

 いいんだよな?

 そ、そうさ、俺たちは、友達っ、なんだもんなっ!


 ……異性の友達が同居って、それ、友達ですのん?


『あ、おかえりなさいませ、カイト様』

「ととぉおかえりぃ〜」

「はっはっは。いい子にしていたか?」

『お仕事お疲れ様です。食事になさいますか? それともお風呂になさいますか。それとも……』

「そ、それとも?」


 っごくり。

 頬を染めて上目使いで俺を見つめる受付嬢。

 エプロンの紐を解き、更にブラウスのボタンに手を掛ける。

 あああああああの、アアアアアオイが見てるじゃないか!

 え? あ、もう寝た? いつの間に……そうか、寝たのか。うんうん、早寝するとは、良い子だ。


 ……。

 …………。


「って、何を俺は妄想してんだあぁぁぁっ!?」


 北門近く、ギルド職員に聞いた場所で頭を抱えて叫ぶ俺。

 っは!

 周囲に目をやると、ほぼ全員の視線がこちらに向いていた。

 その目は「何を妄想していたんだ」と、無言で訴えているようにも見える。

 視線から逃げるように、俺は明後日の方角に目をやって口笛なんかを吹いてみた。


「何を妄想していたんデスかー? やらしいデスねー」


 っく。どこの誰だ、突っ込みやがって。こういう時はサラりと流すのが優しさってもんだろ?

 ん? この微妙にズレたイントネーションは……


「あ、変態エロ神官」

「Hi! って何故ヘンタイエロなのデスか!?」


 おっぱいばかり見てて、攻撃モロに受けるようなのを、変態エロと呼ばずして何と呼ぶんだ。こいつ、モンスターが女体タイプだとデスペナ受けまくりだろうな。

 しかし、こいつも北門に来てたのか。もしかして選択ミスしたかも? 他の所のほうが、人空いてたりして。


「カイトも家を買いに行くデスか」

「買うっつーか、土地な」

「oh! 建てるのですねっ。お金持ちデースね」


 ん? 建てるとお金持ち?

 

「クィント、お前は家を建てないのか?」

「ギルドで聞いたデスよ。マンションタイプもあって、1LDKで25万Gなのデース」


 マンションか。まぁ一人暮らしならそれで十分だな。

 家具とかは付いてるのか? っと尋ねると、 


「YES。最低限の家具は標準装備デース。しかも購入時に色や柄は選べるそうデス」

「へぇ、住むだけなら問題ないんだな」

「デスねぇ。オレはセレブじゃないですから、マンションでOKね」


 いや、俺もセレブじゃないんですけど。

 とはいえ、店舗を構える為には建てるしか無い。

 しばらくクィントと雑談交じりに住宅事情の話なんかをしていると、突然目の前にNPCが湧いて出た。


『お集まりの皆様、おはようございます。予定しておりますハウスシステムですが、実装前にも関わらず、既に大勢の方々が転移位置にお集まり頂いております』


 お、まさか実装前倒しとか?

 

 現れたのはメイド服を着た女のNPC。

 例によってクィントは目を輝かせて何かを叫んでいた。が、その声は聞こえず、口パクしているだけだ。

 ん? そういや、周囲の音が一切聞こえない?


『まず、皆様へ私の声が届くよう、周囲の音を全てシャットダウンさせて頂いております事をご了承ください』


 あ、なるほど。NPC権限で、音を消してるのか。まぁこうでもしねーと、人の声でNPCの話しが聞こえなくなるよな。

 何か言ってるプレイヤーもいるが、ほとんどは納得したように黙って彼女の声に耳を傾けている。

 クィントはジェスチャーも交えて何かやってるが、たぶん「oh、ビューティフォー」とかぬかしてるんだろう。


『大勢の方が一斉にタウンエリアへと移動されても、何をどうすればいいか解らず、混乱を招く事になるかと思います。

 早々にお集まり頂いた方々だけでも、住宅契約の流れをご説明させて頂くこととなりました』


 なんだ、実装前倒しじゃないのか。

 だが、スタダを決めるためにも、しっかり耳をかっぽじいて内容を理解しなくては。


『まず、プレイヤータウンへの移動ですが、本来は転移装置から行う事になります。本日は混雑を避ける為に、臨時の移動手段をご用意しております。

 時間になりましたら、門周辺ではタブレットに移動可能な選択画面が表示されるようになります。タウンはいくつかご用意しておりますので、そちらから選んで頂くことになります。

 いくつか、というのは、町の風景が異なるものをご用意しておりますので、お好みの風景でお選びいただける事になっております。

 海の見える風景、森林に囲まれた風景、常に紅葉をお楽しみいただける風景、目玉は天空の町です』


 っぷ。天空ですか。ここは絶対人が押し寄せてくるな。

 はい、却下。

 海が見えるのも良さそうではあるが、その分人が集中するだろう。

 立地条件のいい土地を探す為には、競争相手が少ない方が確実だ。

 ってことで海も却下。


 住みたい町の景色をまず選び、移動したら、今度はヨーイドンで土地探しになる。


『各土地には立て札がございますので、契約したい土地を見つけましたらタブレットを翳して頂ければ、契約内容等が表示されます。

 ご契約される際には、タブレットの操作指示に従って契約を行ってください。

 既にご契約者様が確定した土地には、立て札がございませんので、そちらを目安にご確認ください』


 クィントの言うマンションは既に建てられているようで、建物内で間取りの見学なんかが出来るらしい。

 世界観を壊さないよう、三階建てになっているとの事。

 マンションの隣はなんとなく嫌だが、道を挟んだお向かいとかだといいかもな。必然的に俺の店の前を通るプレイヤーが、多いって事になるし。


 その他、金に関しては頭金として総額の四割を払っておけば、残りは分割でもいいという話だ。金利手数料なんてのも無く、一ヶ月以内に全額を支払えばいいらしい。

 なんて良心的なんだ。これでちょっと良い店舗も用意できそうだ。

 

『それでは、これより音のシャットダウンを解除いたします。お時間まで今しばらくお待ちください』


 職員NPCがそう言うと、程なくして辺りに音が戻った。

 一斉に人の声が耳に飛び込んできたので、ちょっと五月蝿く聞こえる。

 が、聞こえてくる内容は一様にして、ハウスシステムへの期待を語るものばかりだ。


 その瞬間に間に合うよう、タブレットを用意して、タウン名が表示されるのを待った。

 時刻は9時を少し回ったあたり。まだまだ先だな。


 が、そのタブレット画面が突然切り替わる。


【湖の見える森林タウン4はΘΦびξηに=・~ください、カイト様】


 っというメッセージが浮かんだ――が、すぐさまそれも消えてしまう。

 受付嬢か?

 それとも、目の前にいる職員NPCか?

 そう思って直ぐに確認できるNPCに視線を向けると、じっと明後日の方角を見つめる彼女の姿が。

 うーん、なんだろうな?

 森林タウン4ってのに何かあるのだろうか。

 気になる。

 気になる。






 実装までカウント5……4……タブレット、オッケー!

 ……2……1……森林4、森林4……


「実装!」


 誰かがそう叫んだ。

 このとき既に、俺は移動選択画面をスライドさせ【森林タウン4】をタップするところだった。

 画面をタップした瞬間、視界が真っ白になって、再び景色が現れる。

 整然と並んだ建物も、大きくも無い煉瓦作りの門も消え去り、何も無いだだっ広いだけの土地と、ぽつーんと建った三階建てのマンション? と、遠くの森が見えるだけだ。


「おぉ、未開の土地って感じだな。オレが一番乗りか? 他に誰も居ないようだが」


 どうせ海だの天空だのの町に集中してるんだろう。

 これなら好きな土地選び放題だぜ。


『森林タウン4番地への最速入場、おめでとうございます。貴方様には最速入場の特典として、793.388平方メートルが贈られます』


 突然背後から女の声が聞こえてきた。

 振り向くと、そこにはサラッサラな銀髪を風に靡かせた、真っ赤なメイド服を着た職員NPCの姿があった。

 メイド服と同じ色の瞳が光り、俺を舐めるようにして観察する。


『っふふふ。よっぽど最速がお好きなようですわね、カイト様。しかも私が担当するエリアをお選びになるなんて、まるで……そう、運命ですわね』

「は? え……えぇ?」


 な、なんですか、運命って?


『私は『C-11111SA』。名前は――まだございませんわ』


 そう言って、Cナンチャラは妖艶に微笑んだ。

そのうちサポートAIスタッフの識別コード一覧でも作らねば。

今回登場の名前はまだない人のコードナンバーにピンと来た方がいたら素晴らしいです。


とはいえ、別に暗号でもなんでもありませんが。

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