表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/160

67:記憶。

 小学校の頃だったかなぁ。

 担任の先生に、


「甲斐闘くんは、どうしていつも一人で居るんだい?」


 っと聞かれたことがある。

 俺は確か、「みんながボクに話しかけてくれないから」と答えたと思う。

 先生は、「自分から話しかけないのかい?」とも尋ねたような。

 同じ事を、つい最近誰かからも言われた気がする。


 あれ?

 これって走馬灯か?

 前にもこんなのあったな。


 流れる記憶を辿っても、確かに俺は自分から他人に話しかける――なんてのは極稀だなと思う。

 バイトん時にはどうしても業務上伝えなきゃならない事とかは、なんとか自分から喋ってはいたけど。それは仕事だし、つまりはお金を貰ってやってることだからと、何も考えずに出来たんだけどな。


 なんで俺、自分から他人に話しかける事ができなくなってたんだろう?

 せっかくの走馬灯なんだ。なにかきっかけになるような記憶って、出てこないもんか?


 あちこちテレビモニターのようなのが流れ、その一つ一つに記憶が映し出されている。

 初めて柔道の試合で勝った日の事。大喜びしているのは両親だけで、じじいは「相手にポイントを取られた勝利など、価値が無い!」とか言って怖い顔してたっけ。

 初めてのお使いは絆創膏だったなぁ。ほぼ毎日じじいから殴られ、怪我しまくりだったせいで救急箱の買いおきが無くなり、自分で買いに行ったんだよな。

 初めてじじいに反抗した時は、竹刀で殴られ骨にヒビが……。あれのせいでじじいに歯向かうと、殺されるかもしれないって刷り込まれたんだよな。

 今なら声を大にして言える。

 なんで虐待で訴えなかったんだよ俺の両親は!


 ま、身内だし、事を荒立てたくも無かったってのも解るけどな。


 初めてのシリーズの記憶が流れる中、俺はあるモニターを見て背筋が凍った。

 そこに映っていたのは幼い女の子。

 五歳ぐらいの、割と可愛い子だ。

 もちろん、俺の記憶が移るモニターに登場しているのだから、覚えてるよ。

 いや、さっきまで忘れてた――が正解か。


 モニターには新たに一人の男の子が――俺だ。

 なんつーか、五歳児にして、目つき悪ぃなぁ。

 口をへの字にぎゅっと結び、上目使いで鋭い眼光を女の子に向けている。しかもその目は、やや血走ってるし。


「こ、こここここ、ここと、こととこと、ことこちゃん!」


 緊張のあまりか、ガキの頃の俺は激しくどもっていた。


「ここここここここことことことこちゃん。す、すすすす、すす――」


 あぁ、見ていられない。っというか、全力で逃げ出したい。

 これが俺の初恋――そして――


「甲斐闘くんの喋り方、気持ち悪い。顔も怖いし、私、嫌い」

「え……」


 初めての失恋だった。


 あぁ、そうか。

 この時「喋り方が気持ち悪い」って言われた事がトラウマんなって、自分から人に話せなくなってたのか。

 でも、どもるのは慣れれば解消されるってのは解った。

 だったら、もうトラウマにする必要もねーじゃん?


 俺、頑張ってぼっち脱却するぜ!


 ポジティブに考えられるようになったのも、成長の一つって事だろうか。

 っふふふ。

 俺は数日前までの俺じゃないんだぜ。


 そんな風に鼻で笑っていると、モニターから全ての記憶が消え、砂嵐の画面へと変わる。

 次に移ったのは、やたらと赤い映像だった。


 たった一つ、アニメーションのような物が映っているのが見える。

 あ、これ、ゲーム内映像か。

 えーっと、なになに?


 若い男が弓を持って森を歩いている。

 男は獲物を見つけたようで、弓を引き絞って矢を放った。

 その矢が1匹の子狐に突き刺さる。何故か俺の尻が痛くなるのは、狐に感情移入してしまうからだろうか。


 だが子狐は死んではいなかった。

 走って逃げ、森の奥へと向う。男もその後を追った。

 子狐は泉の所までやってきたが、追いかけてきた男の二射目によって深手を負い、泉に落ちた――


 え?

 泉?

 あれ? 俺って確か、泉に落ちてなかったか?


 そう意識した瞬間、テレビモニターが消え、代わりに気泡が浮かぶ冷たい水の中へと景色が変貌した。

 いや、現実に戻った?


「ぼぼぐばばぶぶべぼ(どこまで沈んでんだ?)」


 や、やべぇ。今のでだいぶ空気が抜けた!

 いや、そもそもゲームなのに、酸素呼吸とかって必要なのか?

 ……あ、苦しい。必要なのか。


 って、冷静に分析してる場合か!?

 ふ、浮上しねーとっ。

 光の射す方向に向ってクロールのように泳ぐ。きっとあの光が太陽の――ん? たしか夜だった、ような?

 月光でもこんなに明るいものなんだろうか……。

 いや、俺が進んでるのは上じゃなく、下だ!


 泉の底深くには、ギンギンに光る丸い球体。中には赤い血を滲ませた子狐が入っていた。

 生きてる、のか?

 近づいてみると、ほんのりと腹の部分が上下してて生きているのが解った。

 球体に噛り付いていると、子狐の意識が目覚める。僅かに開いた目は蒼く、周囲の赤い水とは対照的に見えた。


 弱っているみてぇだな。

 一瞬、俺を威嚇しようと身構えたが、直ぐに力なく崩れ、突き刺さった二本の矢の根元をしきりに舐めた。


 抜いてやるか。


 光る球体に手を突っ込み、子狐に刺さった矢を一本掴む。

 これには流石に子狐も怯え、キャインっと犬みたいな声を上げた。

 お、この球体の中は酸素があるのか?

 ならば――顔も突っ込んでみると、呼吸が出来るっ!


「やったぜっ、痛っ、おい、やめろ、噛むな、マジ痛ぇー。い、今助けてやるから、噛み付くなぁ」


 鼻先をがぶりとやられ、ちょっと涙目な俺。

 助けてやると説明しても言葉が解らないのか、一向に攻撃が止まない。

 狐のくせに……俺だって狐なのにっ!


「俺とお前は、仲間だぞっ。ほ、ほれ見ろ。俺にもお前と同じ耳と尻尾があるだろ?」


 そう言って水中の尻尾をなんとか動かして子狐に見せる。おぉ、意識して動かそうとすれば、ちゃんと動くんだな。

 尻尾を左右に振って見せ、仲間アピールをする。

 やった、噛み付き攻撃が止んだ。

 今の内に矢を抜くか。それから――


 一本目の矢を引き抜き、急いでポケットに手を伸ばし『ライフポーション』を取り出して子狐に投げるっ。

 投げてから気づいたが、これって動物相手にも効くのか?


 不安にはなったが、ポーション液で濡れた傷口はみるみる塞がるのと見て一安心。

 子狐も驚いたように飛び起き、同時にもう一本の矢傷の痛みに悶えた。

 うん、こいつもなかなかドジだな。


「もう一本も抜くからな。歯を食いしばれ」


 っと言って通じたのか、子狐は歯を剥き出しにして目をぎゅっと閉じた。

 なんか目を閉じて威嚇してるようにも見えるな。まぁいいや。


 ずぼっと矢を抜くと、同じように『ライフポーション』を投げる。

 完全に傷を治すために、もう一本投げとくか。


「そういや俺のHP、いくら残ってるんだ?」


 視界の隅にある簡易ステータスバーに目をやると、一気に血の気が引いて行った。

 それから慌ててポケットに手を伸ばし、ポーションをがぶ飲みする。


 やべぇ。

 HP1って、なんの冗談だよコレ。

 こんなギリで生き残ってるとか、奇跡だろ?


「あ、ウンディーネのヘイト……切れたんじゃねーの?」


 泉なんて場所に落ちて、戦場離脱扱いになってたら今まで抱えてたウンディーネが、次にヘイトを稼いでる誰かに跳ねるぞ。

 たぶん、みかんだな。


 慌てて簡易パーティー画面を見ると、死人は誰も出ていないのが解った。


「上に戻らねぇと。お前も来るか?」

『コン』


 狐らしい声で鳴くと、何故か俺の頭にしがみついて来た。

 片手で子狐が落ちないよう支え、何度か深呼吸をしてから息を止め球体を飛び出す。手触りからして、子狐も器用に息を止めたのが解った。

 頑張れよ。急いで泳ぐからな。

 

 息苦しくなってきた頃、月光の差し込む水面に人影が見えた。

 直ぐに差し出された手を掴み、俺と子狐は浮上した。


『カイト様! おかえりなさいませっ』

「ただいま。――っげほげほ」

ちょっと真面目なお話でした。

痒いですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ